イエヤス「こんなに分かりたくないコーナー初めてだ!」
アリア「今日はぁ~みんな大好きアイアンメイデンについて解説しまぁ~す!」
イエヤス「何かテンションが高すぎて、壊れてるんだけど…」
アリア「鋼鉄の処女はその名のとおり…処女よ!!」
アリア「だから、ナカに入れると血が出るの!」
イエヤス「そんなアメリカ超えるブラックジョークは止めて!」
アリア「早速試してみたいけど…どっかにいいカモいないかしら」
タカアキ「うなぎの勇気元気根気~」
アリア「もし、そこの殿方~」
イエヤス「アキ逃げて! 超逃げて!!」
タカアキは必死に夜のスラムを駆けていた。背中に背負っているシェーレの息が浅い。セリューの放った弾は、恐らくシェーレの急所を貫いている。
さらに出血も酷く、タカアキの背を赤く染めていく。生暖かい感触が徐々に大きくなっていくほど、焦りも大きくなる。
早くドクに見てもらわなければならない。
感覚的には小一時間にも思える間走っていたが、ようやくドクの家に辿り着いた。タカアキは扉を蹴破り中に飛び込んだ。
いつもの玄関部屋にはドクに加えアリアとイエヤスもいた。もう夜更けだというのに起きていたようだ。
「ドクっ!」
驚きの表情を見せるアリアとイエヤスに構っている暇も惜しく、タカアキは叫ぶ。
「分かってる。その娘を寄越しな」
頷くドクにシェーレの身を任せる。ドクは足早に治療室へとシェーレを運んで行こうとした。しかしそれはアリアによって止められた。
今まで何度かアリアは氷の様に冷たい瞳を見せていたが、今回は特に冷たい瞳だった。
「ナイトレイドのシェーレでしょ。殺すわ。寄越しなさい」
「約束が違うだろ! まず拷問してアジトを吐かせるんじゃないのか!?」
タカアキが間に割り込みつつ食ってかかるが、アリアはそれを鼻で笑い飛ばした。
「そんなの建前だって分かってるでしょ? 私はナイトレイドをこの手で殺したいのよ!」
アリアは仇を前に興奮しており、治まる様子はない。タカアキは力ずくで抑えるしかないと判断。傷の癒えない身体を押して刀を引き抜く。
「アリアちゃん」今にも激突しそうな二人を止めたのはドクだ。「俺は仮にも医者だ。命を救う義務━━いや、救いたい意志がある。邪魔するなら相手になるぜ」
それに同意するかの様にイエヤスもタカアキの横に並んだ。
構図は三対一。アリアがかざした四針を力なく下げるのも、時間の問題だった。
「……何よ、何で……」
俯いたアリアはポツリとそう漏らした。アリアにしては珍しく蚊の鳴く様な声。それも今までに聞いたことのないくらい震えていた。
怒りか、悲しみか。タカアキから表情は見えなかったが、歯を食いしばっているのがよく分かった。
アリアは弾かれた様に身を翻し、夜のスラムへと飛び出して行ってしまった。
「あっ、アリア!」
タカアキが止め様とするが、
「止めろ、今はそっとしといてやれ」
それをドクが止めた。駆け出しそうになったタカアキは一旦足を止める。しかし再び走り出し、扉を出た辺りで振り返った。
「シェーレを頼む。アリアは任せてくれ」
強い意志のこもった声は、言外に止めるなと語っていた。
「男の子だなぁ」
飛び出して行ったタカアキの背を見届けドクが感慨深そうに呟く。「あんな女ほっときゃいいのによ」とイエヤスはボヤいていたが。
それでも一つ、心配事があった。
「アキのやつ……フラグ建ててきそうだぜ」
「ああ……それについては大丈夫だろ」
「え、何で」
イエヤスが不思議そうに訊ねるとドクはいたずらっ子の様に笑ってみせた。
「アリアちゃんは女の子にしか興味ないからな」
「……マジで?」
昼間騒がしいスラムでも、帝都と同じく夜は静かだ。時間は十一時を切った頃。人気などないに等しい。
明かりがない分、星がよく見えるいい夜だ。
アリアは丘の上で、その星も見上げずに膝を抱えていた。
「…………何しに来たのよ」
タカアキが近付いた気配を察し、顔をうずくめたままアリアは言った。その声は弱くか細い。タカアキはふっと笑うとアリアの隣に腰を下ろした。
そして別段何かを言う訳でもなく、ただ星を見上げた。星と星を繋げて星座を描きながら。
━━あれ、前にも誰かと星座について話したな。そんなことを一瞬思ったが、それが嘘であったかの様に消えていった。
今大事なのはそれではない。
ただ、隣にいることが重要だと。
誰かがいてくれることが嬉しいのだと。
アリアに教えるためにも。
タカアキは星を見上げていた。
「……うちの家系は……代々拷問官の家系だった」
そうして数十分を過ごしていた。その内、アリアがポツリポツリと口を開き出した。
タカアキは黙ってそれに耳を傾けることにした。
「特にお父さんが優秀で……オネストに目をかけられて、あいつの特別拷問官として働くことになったの」
その時に莫大な富を与えられ貴族となった、とアリアは語った。要するにヘッドハンギングだ。大臣は自分の手駒として動く秘密の拷問官が欲しかったのだ。拷問官の大半はエスデス将軍の指揮下にある。
しかしエスデスの耳に入れずに、自らに流したい情報も多々あったのだろう。大臣は、エスデスにいぶかしがられながらも、アリアの父親を手に入れることに成功した。要は情報を自分だけ、自分だけが知っている情報を手に入れたかった。
「たぶん、それが貴方。……ダンテよ。確か私が十歳くらいにお父さんはオネストの専属拷問官になっていたから……」
「七年前、か」
タカアキは黙っていようと思っていたが、ついボソリと口を開いてしまった。アリアは十七歳、タカアキは十九歳。七年前ならばタカアキが力を初めて使った二年後。大臣の耳にその情報が入っていてもおかしくない。
タカアキについて調べるために、帝都に来たイエヤスやサヨを捕まえて……。タカアキは自己嫌悪に顔をしかめた。今思えばあの夜盗も、大臣がけしかけたものの可能性が高い。
あの時夜盗を倒していれば、こうはならなかっただろう。
「パパは……色んなことを教えてくれたわ。仕事の拷問はもちろん……東洋のおりがみってやつとか、ママにも料理の仕方を教えてもらった。ガウリたちもたくさん遊んでくれたわ……」
アリアの中では彼らとの思い出が渦巻いていることだろう。
タカアキにとってのイエヤス、タツミ、サヨの様にかけがえのない、大切な人々だ。
サヨを失ったタカアキなら、上っ面だけではなく真にアリアに共感出来る。
「大切な人たちを失うのは辛い。よく、分かるよな?」
優しく語りかけたタカアキに、アリアは答えない。それでも独り言の様にタカアキは続けた。
「大切な何かを失うのは自分の一部を失うのと同じだと思う。関係が深くなればなるほど、大切になればなるほど、相手は自分の一部になっていくんだと思ってる」
見知らぬ通りすがりならばともかく、両親や友人ならば同じ時を過ごす機会は圧倒的に多い。つまりそれは彼らが、自らの生活の一部になっているということでもある。
「自分の腕や足を失ったら痛くて辛いだろ? 俺だったら泣いちまうな。……だから、な。我慢しなくていいんだよ」
アリアがあの日から一度も泣いていないのは知っていた。気丈な彼女だが、物陰で隠れて泣くこともしていなかった。
溜め込んでいる。
悲しみを、痛みを、辛さを。それが募ってしまったら、人は壊れてしまう。
「痛かったら、辛かったら、悲しくなったら苦しくなったら……泣いていい。貴族だとかは関係ない。お前は……一人の人間だ。そして」
そして。それが一番大切なことだ。
「━━俺の大切な仲間だ。胸を貸すくらいしてやれるよ」
その言葉に、アリアはようやく顔を上げた。今にも爆発しそうな、何かが壊れそうな、そんな辛そうな顔だった。
「貴方って、どうして……」
お節介でお人好しなのかしら。続けようとした言葉も、喉の奥で消えた。代わりに出てきたのは短い嗚咽。
もう限界だった。
アリアはタカアキの服を弱々しく掴む。
「今だけ、許可するわ……。私の頭を撫でていいから……顔を見ないで」
「ああ」
言うのが早いか、アリアはタカアキの胸に飛び込んだ。顔をうずくめ小さくか弱い女の子の様に、腕の中で泣き続けた。
その間タカアキは星を見上げつつ、アリアを慰める様に頭を優しく撫で続けた。
ただ、そばにいるよ、と。伝えたくて。
「……もういいわ」
しばらくするとアリアは顔を上げた。顔を見られたくないだろうなと察したタカアキは、顔を逸らしつつハンカチを寄越した。
「ハンカチくらい……持ってるわ。それより」
アリアは突如としてタカアキの頭をひっつかみ、自分の方を向かせた。
「今日のことは他言無用。誰かに言うんじゃないわよ」
それが何だかイタズラを咎められた子供の様で。
タカアキは吹き出していた。
「な、何よ……」
「いや、はは、悪い。分かった、言わねぇ。二人だけの秘密だ」
「破ったら……」
「分かってるって。分かってるから四針を仕舞え」
それから調子を取り戻してきたアリアと帰路に着いた。そのアリアは、今までの張り積めた雰囲気がなくなり若干ながら柔らかくなっていた。
これをきっかけに復讐なんか止めてくれと言いたかったが、それは他人が口出し出来ることではない。
だが、お互い少し、ほんの少しだが近付けた気がした。
拷問は調べるとほんと胸糞です。
目の前でやられたイエヤスはトラウマだろーなー(他人事