閃光のリベリオン   作:塩焼きイワシ

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アリア「アリアちゃんの!『よく分かる拷問講座』! 第二弾よ」
イエヤス「まさかの続編かよ…」
アリア「前回のアイアンメイデンは正確には拷問器具ではないわ。だから今回も拷問器具ではなく、拷問の方法をみんなに解説するわね♥」
アリア「そうね~、嫌いなやつを全部が緑色に塗られた部屋に放り込んでみなさい」
イエヤス「……訊くのが怖いけど、どうなるんですか?」
アリア「発狂するわ。ふふ、私、精神的に責める方が好きなのよね」
イエヤス「え、と、じゃあ、アレを、全部の壁に魚が描かれた部屋に放り込むとどうなるんだろうな」

タカアキ「魚、そう…それは宇宙の神秘。そして真理!」

アリア「うん。発狂するんじゃないかしら」
イエヤス「最初から狂ってると言えなくもないけどな…」


2

 艦内へ戻ったタカアキたちは、乗組員への挨拶がてら艦内を見回った。

 意外にも小綺麗にされており、手入れが施されていた。まるで新造艦だ。大切に扱われている証拠だろう。

 ブリッジや居住区など主要な場所を回った後、三人は食堂の休憩スペースで腰を落ち着かせることにした。

 飲み物を貰いあおりつつも、話をする。

 内容はすでに艦のことではなく、ドクのことだった。

「まっさかドクが帝具使いとはなぁ」

 イエヤスはギシリと背もたれに体重をかけた。

 ドクは帝具使いだった。それはついこの間……タカアキがシェーレを助けた時に判明したことだ。

「確か生物型の中の人間型帝具……疾風迅雷マスラオ、だったかしら」

「そう言ってたな。とんでもない強さだった」

 タカアキは同じく生物型帝具であるコロを、いとも簡単に蹴り飛ばしたマスラオのことを思い出した。いかにもやる気がなさそうな人相だったが、実力はある。

「生物型は普通と違って消耗少ねぇからな。ジジイでも使える」

「そのジジイが何で帝具なんか持っていたのか気になるけどね……」

 ドクを問い詰めてもその辺りは教えてくれなかった。

「ま、それもそうだけど、俺はなんでお嬢様のお前が、スラムのジジイなんかと知り合いになったのか知りてぇなぁ」

 イエヤスが恐る恐るといった体でアリアを流し見る。アリアは方眉を上げる。

「あら、言ってなかったかしら?」

「おう、聞いてねぇ」

 タカアキが頷いたのを見て、アリアはコップをあおった。

「そうね……私が産まれたばかりの時の話よ。お父さんとお母さんの話だと、私は産まれたばかりだというのに、ろくにミルクを飲まなかったらしいわ」

「まあ、そういう赤ん坊もいるかもな」

 イエヤスは頷いてみせる。

「そう。別にこれは珍しいことじゃないけれど、ここからよ」

 アリアは机の上で手を組みその上にあごを乗せた。その瞳が怪しげな光を発し出したのを認めたタカアキとイエヤス。

 無意識に唾を飲み込む。

「そのまま本当に何も口にせず、一週間二週間は平気な顔でいたらしいわ」

(ぎょっ)!? こ、こえぇ」

「おい、やっぱ悪魔だってこの女。マジやべえって!」

 お互い抱き合って震え出した男二人を無視して、アリアは続ける。もはや怪談をしている雰囲気だ。

「さすがに医者に連れていったみたいだけど、異常はなし。健康そのものだったそうだわ」

 アリアは続ける。

「当時まだ貴族ではなかったお父さんは、スラムにいるある医者の話を聞きつけ、彼にかけることにした」

「ドク……か?」

 タカアキの言葉に頷くアリア。ドクは性格はいい加減だが腕は確かだ。十五年近く前から医者をやっていたとしても不思議ではない。

「ドクのところに連れていかれた私は治療を受け、普通にミルクを飲む様になりました……と」

「あや、案外あっさりと」

「お父さんから聴かされた話だし、はっきり言うと信憑性にかけるわ。ドクも何も言わないし。まあ、ドクとの交流が始まったのはお父さん伝いだし、あながち嘘じゃないかもね」

 ふっと顔を綻ばせて、アリアは手を離した。

「私の話はこんなところよ。大して面白くもないでしょ?」

「いや? お嬢さんの過去なんかそうそう聞けねぇからな。俺には有意義だったぜ」

「あ、ホリマカ」

 いつの間にかアリアの背後にはホリマカが立っていた。ホリマカはおどけてウインクをかましてみせる。

「艦内見学はもういいのかよ?」

「ああ、サンキュ! 最高に有意義だったぜ!」

 好奇心の強いイエヤスにとっては、この艦はおもちゃ箱も同然だろう。彼は顔を子供の様に綻ばせた。

「面白い話と言や、ホリマカ。最初に会った時、俺斬られた気がしたんだけど」

 確かにタカアキはあの時、ホリマカの持つ鎌で斬られた感覚を味わった。刃が身体をすり抜けた感覚は本物だったし、死を覚悟するほどだったのだが、実際生きている。斬られた痕もない。

「ああ、あいつは帝具だ」ホリマカは事も無げに言った。「奇奇怪怪アダユスっつって、鎌を振るとその軌道上の好きな場所、角度に斬撃を発生させられんだよ」

「ほえ?」

 目を丸くするタカアキ。理解出来ていない。

「つまり縦に鎌を振っても、縦に斬撃が発生するとは限らないってことだよな?」

「よく分かったな。見た目より頭いいな?」

「失礼じゃね? それ」

 イエヤスは一回の説明で理解出来た様だが、タカアキはまだ頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。

「そうね……例えば鎌を縦に振る。普通なら鎌が通った場所が斬れるわよね」

「まあ……当然だよな」

 アリアの身振りにタカアキは頷いてみせる。

「ところがアダユスは帝具。斬った場所が斬れるとは限らないの。使い手の意思で、斬り裂いた方向とは別方向に斬り裂ける……って感じよね?」

「んー? 刀を振るのは縦だけど、斬れるのは横って感じか?」

「任意でな。ちなみに威力、範囲は実際に振ったものと同じな上、何回でも複製出来っからアダユスを一周させりゃ、全方位に攻撃出来る」

 アリアがかみ砕いて説明すると、微妙な顔付きながらもタカアキは納得した。

「一筋縄じゃいかない帝具ね。使いにくそうだわ」

「俺様くらいになれば、チョチョイのチョイだがなぁ」

 自慢気に胸を張る。ホリマカ。だが全員がスルー。ガックリとホリマカは肩を落とした。

「そ、そういや」それを見たタカアキが不憫に思ったか、ホリマカに問いかける。「この艦どこに向かってるんだ? ずいぶん飛んでるけど」

「ああ、言ってなかったか……極東の島国、ジパングだよ」

 そこでしばらく修行してもらう、とホリマカは言った。

「ジパング? そこって確か鎖国中だったよな?」

「他国と貿易はしないってやつね。そんな話も聞いたことあるわ」

 ジパングとは、帝国を東にずっと行った場所にある国だ。島国であるため、船を使わなければ辿り着くことは不可能。

 それを利用してか、数百年前から鎖国をしている。

「そいつはそうなんだが、セントビーチェなら関係ねぇんだな、これが」

「まあ……空飛べるしな」

 空を飛べるのは大きな利点だ。制空権を取れば戦闘のみならず、あらゆる方面で優位に立てる。

「向こうに知り合いもいる。ちょくちょく行ってっからな。メシも美味いしいい国だぜ?」

 不敵に笑ってみせるホリマカ。ジパングの食事に余程自信がある様だ。だがそれよりも、タカアキはジパングに行けることそれ自体に胸を躍らせていた。

 ジパングは一閃流開祖ダンテの故郷だ。そこの産まれだと伝えられている。

 一閃流を扱う者としてジパングに足を運ぶことになるのは、これ以上ないほど嬉しいことだったりする。

「どんな国なんだろうな……」

 タカアキはジパングに想いを馳せていた。

 

 

 セントビーチェ号の速度は素晴らしく、ニ時間足らずでジパングに辿り着いていた。船で帝国から行くと五、六時間はかかるらしい。

 ホリマカはしばらく滞在することになる村の近くの森に、セントビーチェ号を降ろした。曰く、「知り合いの方が多い村だが、さすがに住民が驚く」だそうだ。

「また歩くのね……」

 村まで少し距離がある旨をホリマカが説明すると、アリアはゲンナリした。

「戦闘に体力は必須だぜ。これから嫌ってほど鍛えるんだ。これくらいでガタガタ言うなよ」

 まさにホリマカの言う通りで、それはアリアも理解していた。一行はホリマカの仲間にセントビーチェ号を任せ、村へと向かった。

 セントビーチェ号は村から数キロの場所に停泊してあり、徒歩でもすぐに村に着くことが出来た。

 森を抜け、しばらくのどかな平原を歩く。すると段々と民家が見え始めてきた。

 のどかな場所だ。

 帝国とは違い木製の建造物が点々と建っており、全体的に雰囲気が落ち着いている。森が近くにあるためその温かさもあるのだろうが、どことなく平和そうだ。

 争いごとなどとは無縁で、呑気に畑を耕している人や、花畑で蝶々を追いかけている子供までいる。

「……何か……平和そう、だな」

 イエヤスが知らずに呟いた。帝国ならこんな感想は抱けないだろう。地方であっても、大臣の圧政のせいで貧困に苦しんでいる。

 ここは帝国とは対照的だった。

「ま、村は後でゆっくり見れるさ。……時間なのに来てねぇな」

 ホリマカが懐中時計に目をやる。そして苛立たしげに眉を上げた。こちらはしっかりと定刻通りに村に着いたというのに、出迎えるべき人間が来ていないのだ。

「誰か来るのか?」

「おお、俺たちが泊まる旅館の案内人に、この時間に来る様に頼んだんだがよ……」

 いない。辺りを見回しても畑と花畑と青空が広がるだけだ。ホリマカはため息をついた。

 と、その時遠くから駆け寄ってくる影があった。

「あ、転んだ」

 遠目で分かりにくいが、その影が地面にキスをしていた。思わず全員で呟くほど豪快だった。

 影は起き上がり、再びタカアキたちの元に駆けてきた。

 近付くことで影が女性だと判断出来た。服装はこの村の人たちと同じ和服。走りにくいこの服のせいで転んだのだろう。

 セミロングの髪は寝起きの様にボサボサで、整えられている様子が微塵もない。と言うより、表情からして寝起きだろう。まだ視点が定まっていない。

 その女性の髪の色は━━柔らかいクリーム色だった。タカアキの表情が徐々に強張りだす。

 ようやくタカアキたちの目の前まで来ると、女性は膝の上に手を置いて息を整える。

「おせーぞ、オイ」

「すみません〜。昨日は天体観測がはかどってしまいまして……」

「あー、分かった。分かってた。そうだったな、うん。お前はそういうやつだ」

 ホリマカと会話する女性の顔を見て、タカアキは完全に絶句した。何故なら、

「ザ、ザンクの幻影に出てきた……女の子……!」

 その人だったからである。

「え? 彼女が?」

 アリアは女性をまじまじと見つめる。タカアキが以前言った様に特徴的なクリーム色の髪をしているし、和服も着ている。

「……私の顔に何か付いてます? ━━ハッ!? 寝起きだし、よだれ!?」

「……は付いてない、けど」

 ずいぶん利発な人だ。見かけはどちらかと言えば清楚な佇まいなのに。

「落ち着け」ホリマカは女性の頭を乱暴に掴んだ。「こいつはユセ。これから村の案内や色々と世話してくれるやつだが……知り合い……じゃねぇよな?」

 タカアキとアリアの反応があまりに不自然だったので、ホリマカも困惑気味だ。

「初めましてのはずだけど……どっかで会ってないよな?」

 間抜けにもタカアキはそんなことを訊いてしまった。タカアキは帝国から出たことはなく、ジパングも鎖国中だ。ユセという女性が帝国に来ていた訳もない。

「貴方と会うのは初めてですけれど……」ユセは上品に顔を傾げると、にっこりと笑ってみせた。「初めて会った気がしませんわ。運命を感じてしまいますわね」

「いっ!? さ、さすがに初対面の人間に……それは重いぜ……」

「これは失礼しましたわ」

 ユセは屈託なくころころと笑った。

「からかうのはそんくらいにしとけ」

 ホリマカは一つ嘆息して頭をかいた。ユセは誰にでもこうだ。特に気に入った相手は、からかいの対象となる場合が多い。ホリマカも一時期よく遊ばれた。

 ユセは佇まいを直してタカアキたちに向き直った。

「ようこそいらっしゃいました。ここはジパングの晴州(せいしゅう)、明け丘村ですわ。どうぞごゆっくり」

 そして深々と頭を下げた。

 接客態度としては十分なのだが、

「アタマ何とかしろよ、アタマ」

 寝癖が強く付いたクリーム色の髪が、ホリマカのつっこみと共に、揺れた。

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