閃光のリベリオン   作:塩焼きイワシ

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注意!流血表現があります。けっこうザックリと。



しかし、警告タグ付けた方がいいのかしらん。
何気にセリューも腕飛んでるし。


3

 一行はまずユセの案内で、泊まる予定の旅館へと向かった。

 どこまでも田園風景が広がり、時には森も見受けられたその道中。ユセは先頭に立って一行を先導し、それだけでなく村のガイドまで始めた。

 ユセが指差したのは、小さいながらも存在感のある一つの山。頂上には見慣れない建物が建っていた。やはり木造である。

「右手に見えますのはこの村の由来にもなりました、明けの山。山頂には神社もあります」

「神社?」

 聞き慣れない単語にアリアがおうむ返しに訊いた。

「はい。神を祀る……いわゆる祠ですわ」

 そこは村人の集いの場でもあり、時には避難する場所にもなる。

「千年前……帝国である一つの化け物が暴れ回りました。黒き翼を持つ災厄━━悪魔大王ですわ」

 有名な話だ。絵本にもなっている。

 大まかなストーリーはこうだ。ある日悪魔大王と呼ばれる、とてつもない力を秘めた危険種が現れた。当時まだ帝国とは言えないものの、武力や兵力のある国がいくつかあり、それらが連合を組んで悪魔大王討伐作戦を展開した。

 しかし悪魔大王の力は強大すぎて、千の兵士も物の数ではなかった。

 民の間に不安が広がる中、立ち上がったのが後の帝国の始皇帝とその仲間たちだった。

「その内の一人が、我がジパング出身のダンテでした」

 始皇帝は東へ赴きダンテを仲間に引き入れ、西へ赴きさらに仲間を増やした。

「最終的に始皇帝が仲間として引き連れた人数は四人。たった四人だったそうですわ」

「始皇帝を含む五人で、その悪魔大王を討伐しちまったんだよな?」

「はい。当時帝具はまだ発明されておりませんでした。その四人の方々が素晴らしい腕前だったのでしょう」

「さすがに誇張っぽいけどなぁ」

 結末は当然の如く悪魔大王の敗退。悪魔大王は始皇帝によって身体を四つに分けられ、封印されたと伝えられている。

「あの神社が、その一つらしいですわ」

 本来なら神様を祀らなければならないんですけれど、とユセは困った顔で笑った。ジパングにある他の神社は、しっかりその地方に由来した神やジパング独自の神が祀られているらしい。

 言われてタカアキも思い出していた。自分の住んでいたマツラ村の近くにある洞窟……そこにも確か祠があった。

 小さい頃は気にしたことなどなかったが、今思えばなかなか(えにし)の深そうな場所だ。特に、四つにした悪魔大王をこの場所に封印したのは、大きな意味がありそうだ。

「興味がおありでしたら、後ほど訪れてみてもいいかもしれませんわね」

「あ? ああ、そうだな……」

 タカアキの思考を見透かした様にユセがタカアキの顔を覗き込んで笑った。

 タカアキは何だかユセが苦手に感じてしまっていた。ザンクの幻影を意識しすぎることもないはずだが、どうしてもユセが気になってしまう。

 ━━やはり以前会っている様な、そんな気がして。

「絵本でよく見るのはダンテだけどよ」そんなタカアキの様子を察したのか、イエヤスがひょいっと顔を出した。「他の三人の名前はわかんねーのか?」

 帝国で出回っている「始皇帝誕生秘話」にはダンテ以外の名前は記されていない。何故ダンテだけなのかは不明だが、これによりダンテが一番の始皇帝の部下として有名だ。

「ジパングには伝わっていますよ。ダンテとウェルギリウス、エリザベートにベアトリーチェ……この四人ですわ」

「ふーん。半分は女なのね?」

 意外そうにアリアが呟いた。その後に「ん? エリザベート?」と最近聞いた様な単語に頭を悩ませ始めた。

 しばらく記憶を辿ると、一つだけ、思い当たるものがあった。

「……エリゼ。そのエリザベートさんの略称ってもしかしなくてもエリゼ?」

「? ええ、多分。名前からそう判断出来ると思いますけど」

 ユセの回答を聞いて「ああ……」とアリアは頭を抱えた。

「どうしたんだよ、アリア」

「いや、ね。前にダンテと話した時、私がそのエリゼに似てるって言われたのよ……」

 タカアキの問いにアリアは弱々しい声で答えた。別に悪いことじゃねぇだろとタカアキは言うが、

「私は似てるって言われるのが嫌いなのよ。特に動物じゃなくて人間にって言われると、もう、最悪」

 アリアは自分のアイデンティティーを大切にしている。だから何かと似てる、何かに似てる、誰かと似てる……そんな言葉はアリアにとっては侮辱に等しい。

 自分は自分。一人だけだ。その誇りがあり、ともすれば傲慢ともとれるが、自分はこの世に一人だけ。オンリーワンである。それを誰よりも強く思っているのがアリアだ。

「ああ……まさかそんな歴史的な偉人と似てるなんて……」

 そしてアリアは負けず嫌いだ。自分が下に見られるのを我慢出来ない。

 だがら、

「エリゼより凄いことしてやんなきゃいけないじゃない!」

 この結論に辿り着く。

「ダンテめ……見てなさいよ。エリゼみたいって言ったこと、後悔させてやるわ……!」

 アリアが静かに闘志を燃やす様子を見て、タカアキたちはやれやれといった様子で頭を振った。

「別にそれでもいいけどさ……お前はお前でいいところがあるだろ? 無理しなくても、十分魅力的だと思うけどなあ」

 タカアキの正直な感想だった。アリアの性格から、自分の魅力が比較された人に劣っていると思い、それが面白くないのだろうとタカアキは判断したのだ。

 今のままでもいいぞと本人は言ったつもりだろうが、そこはタカアキである。他人にどう聞こえるかは分かりきったことだ。

「よくそういうこと、普通に言えるわよね……」

「何だよ、そういうことって」

「はいはい、家畜二号の時もだったけど、本当に舌が回るって言うか……」

「多分、舌が回るは意味が違う。……まあ、アキについては同意見だけどな」

 アリアに続いてイエヤスもゲンナリとして肩を落とした。落とさせた本人はキョトンとしていたが。

 それはともかく、雑談をしていればすぐに旅館に到着した。

 旅館は民家と同じく木造だった。しかし意匠が他と明らかに違う。全てが一階建てだった民家とは違い、こちらは二階建てだ。つまり木造平屋でない。玄関を中央に、左右に建物が別れている。

 豪華な装飾を施され、どことなく帝国の家屋の意匠を見てとれる。完全に客人用なのだろう。

「こちらが今回皆さんが滞在することになる、光明館ですわ」

 ユセは玄関の扉を開け、タカアキたちを中へと導いた。

 旅館の中はさらに豪華な装いだった。床にはじゅうたんが敷かれ、天井にはまさかのシャンデリア。ここだけジパングではない様な意匠だが、どこまでも木造ではある。

 泊まることになる部屋━━男女で部屋自体は同じだが、敷居を障子で隔てて部屋を分けた━━に荷物を置いた。

 そこにはすでに誰かの荷物も置いてあり、タカアキが誰のものかユセに訊くと、

「私の荷物です。しばらく同じ屋根の下での生活ですわね」

 と笑顔で返してきた。泊まり込みをするらしい。

「この村に住んでる訳じゃねーんだな」

 わざわざ荷物を用意している辺り、ユセもこの村の人間ではないのかもしれない。そう思ったイエヤスが口を開く。

「ふふ、私はこの村の出身ではありませんから」

「はーん……なるほど」

 納得して頷いたイエヤスとタカアキたちを引き連れ、再び外へと繰り出した。

 連れて行かれた場所は村から少し離れた森の中。木が開け、ちょっとした広場になっている場所だ。

 ホリマカがユセの代わりにタカアキたちの前に歩み出る。彼は持ってきていた帝具アダユスを地面に突き刺した。

「まだ夕飯まで時間がある。そこでお前らがどれだけ“やれる”か調べさせてもらうぜぇ」

「戦闘能力の調査ってとこか?」

 タカアキたちは、持ってきておいたそれぞれの武器を構える。この場所に案内された時点で、なんとなく予想はしていた。

 ユセを連れてきた理由は分からないが、ホリマカが帝具を持って森へと行く理由など戦闘行為以外にはないだろう。

 反面教師っぽい雰囲気だが、教師は教師だ。

 ホリマカは口の端にシワを刻みつつ、アダユスを引き抜いた。

「いい反応だ。━━()()

 ホリマカに答え、ユセは左腕を持ち上げる。その薬指にはキラリと光ものがはめられていた。

「ゆ、指輪?」

「そう……だがただの指輪じゃあねぇ。こいつも帝具よ」

 タカアキたちは目を見開いた。五百年前の内乱で外国にも帝具は散っていたのは分かっていたことだが、ユセがその一つを持っていた。

「帝具━━奈落軍勢アバドン。こいつ単体には、特殊な能力はねぇ」

「帝具なのに……?」

 アリアは怪訝そうに眉をひそめた。ホリマカの言い方が気になったのだ。

 “単体では”。つまり複数にて効力を発揮するのか。

「知ってる……確か革命軍の書物にあったぜ」

 イエヤスが言う書物とは、いつ書かれたものかは分からないが、帝具について書かれた文献だ。全ての帝具が記されている訳ではないが、書いた誰かが知りうる限りの帝具が載っていた。

「奈落軍勢アバドン……破壊した帝具の能力を、吸収する帝具だ……」

 イエヤスの口から漏れるアバドンの能力。タカアキたちの間に戦慄が走った。

「そうだ。まあ帝具は危険種から作り出されたモンだし、帝具の元となった危険種を倒せば力は手に入るんだが……帝具ぶっ壊す方が簡単だ」

「素材の超級危険種は、あのダンテたち四人がかりで討伐したそうですからね」

 ホリマカとユセの言い方から察するに、超級危険種はダンテクラスの実力者四人以上でなければ討伐出来ない様だ。

 つまりホリマカやユセはもちろんタカアキたちでは無理。

「だから簡単に壊せる帝具の方を、これまでいくつか壊してきたんだよ」

「その一つが……これですわ」

 瞬間、地面が裂けた。地面が割れ、中から人の形をした何かが出てきた。一体だけではない。タカアキたちを囲む様に何十体と姿を表した。

「土偶人形クレイマン。土さえあれば好きなものを造り出せる帝具ですの。姿形しか真似は出来ませんけど、それなりの戦闘能力はありますのよ」

 見た目は茶色く人の形をした粘土の様だ。タカアキたちの抵抗を減らすためにわざと粗雑な作りにしたのだろう。

「さあ、そいつらをぶっ倒してみな。気ぃ抜くと……やられるぜぇ?」

 ホリマカのセリフを合図にしたかの様に、クレイマンたちがタカアキに襲いかかる。

「迎撃開始! 全力でいくぞ!」

 そしてタカアキたちも、タカアキの号令で動く。

 始めに踏み込んだのはタカアキ。刀を腰に構え、クレイマンの首を狙って横凪ぎに一閃。確実に一つを捉え、次へ。

 タカアキは相次ぐ強敵との戦いで、そのキレを増していた。

 流れる様にクレイマンを打ち倒すタカアキを見て、イエヤスだけでなく、アリアも嘆美の声を漏らした。

「すげえ、前より強くなってるぜ……」

「ふうん……殺せる相手ならあんなに強いのね」

 二人がタカアキの動きにブレのなさを感じたのは、特にそれが原因だった。

 タカアキは相手が生き物ならば危険種ですら不殺を貫こうとする。生きるために、食べるために以外で生き物を殺めない━━それが彼の矜恃(きょうじ)だ。

 クレイマンにはそれが適用されない。ただの土だ。手加減の必要もない。

 クレイマンは次々とタカアキに打ち倒され、土くれへと戻る。

「こりゃあ、負けちゃいられないぜ!」

 イエヤスも手に持つ槍に力を込める。迫るクレイマンに突きをお見舞いしようと槍を引くが━━

「━━いたっ」

 引いた槍の石突━━槍の柄の刃とは反対部分の先端━━がアリアの背中に当たったのだ。

「あ、すみませ━━」

 振り向いて謝ろうとしたイエヤスに、何の躊躇いも容赦もなく四針が発射される。

 間一髪で避けたイエヤスだが、さすがにこれには下手に出てはいられない。

 こめかみに血管を浮き上がらせつつ、イエヤスは怒鳴った。

「ふざけんな、この外道女! 今俺死にそうだったぞ!」

「あら殺そうとしたのに、何か問題あるかしら?」

 うふふ、とアリアはあくまで上品に笑う。

 限界だ。

 イエヤスのこめかみの血管が切れた。

「てめえ、もう赦さねぇっ! サヨを殺された件もある! ここらで決着付けようじゃねぇか!」

「家畜ごときが私に敵うと思ってるの? 地面に這いつくばらせてあげるわよ。もちろん死体でね」

「死体になるのはてめえだぁぁっ! ぶっ殺してやるううぅぅ!」

 四針が飛ぶ。

 イエヤスが避ける。

 クレイマンに当たる。

 クレイマンが動かなくなる。

 イエヤスが突く。

 アリアはひらりとかわす。

 ついでに綱糸でイエヤスを攻撃。

 イエヤスは近くにいたクレイマンを槍で突く。

 そいつを盾にする。

 クレイマンが輪切りになる。

 …………など、二人の戦いは苛烈を極めていった。いつの間にかクレイマンは全滅し、タカアキは刀を振るうのを止め、ホリマカとユセはただただ呆然としていた。

 イエヤスはアリアに対して色々な鬱憤が溜まっていたし、アリアもアリアで目の前に仇がいるというのに何日かお預け状態だった。

 つまりお互い蓄積があったのだ。アリアに関してはぶつける相手は誰でもよかったろうが、イエヤスはアリア一人に対してだ。

 タカアキは最初こそ呆れた目で二人を見ていたが、段々と二人の間にある……いわば強い確執を感じ取った。

 止まれない。二人は止まらない。それを感じ取った。だからどうすべきか迷った。力で押さえ込むことが出来るのか、出来たとしてもやるべきか。決断しないと二人の内どちらかが死ぬことになってしまうかもしれない。

 いや、高い確率でどちらかが死ぬ。

 タカアキは決意を固め、一歩踏み出すが、

「私にお任せくださいな」

 ユセがタカアキの肩に手を置いて止めた。

 ユセは優雅な足取り……それこそ散歩に向かう様な足取りで激突する二人の空間に歩み寄った。

 ゆっくり、ゆっくり。

 一歩一歩。

 お互いがお互いを傷付け合い、イエヤスとアリアはボロボロだ。

 それでも二人はぶつかり合い、己の敵を駆逐しようとしのぎを削る。

 ユセは二人を哀しそうな目で見やった後、覚悟を固めるかの様に目を閉じた。

 イエヤスが槍を突き出し、アリアが綱糸を振った。

 これで決めると言わんばかりの攻撃。

 ユセは、その二人の攻撃の間に、自分の身を投げ入れた。

「なっ━━!?」

 タカアキの止める間もなく、二人の攻撃が同時にユセに届く。槍はユセの左肩を貫き、綱糸はユセの全身を細かく斬り刻んだ。

 綱糸はともかく、槍は深く肩に食い込んだ。槍は貫通し、反対側にいるアリアに、ユセの血を浴びせる結果となった。

「━━んく……!」

 ユセは肩や全身を焼く痛みを必死に耐え、声を噛み殺した。肩からは血がとめどなく溢れ、白い和服を真っ赤に塗らす。

 赤。命の水の色。そして今、ユセの身体を塗らしているのは間違いなく命の水。その原因を作ったのはイエヤスとアリア。

 イエヤスは急速に頭が冷えていくのを感じた。

 槍を持つ手が震える。

 それだけでなく、全身め震え出した。

「…………ぁ……」

 ようやく喉を震わせたのはか細い声。いや、声にもならない音だろう。

 イエヤスはとたんに視界が真っ白になった。唯一、ユセの血の色だけは、どこまでも赤かった。

 一方アリアはユセを凝視したまま動けずにいた。

 それは、ユセが自らの身体を使って二人の争いを止めたから。

 ━━━━ではない。自身の顔にかかった血。ユセの真っ赤な鮮血。それが流れ、口元を伝った。

 アリアはそれを舐め取った。無意識に。まるでいつも“そう”していたみたいに。

 口の中には当然鉄分の味が広がった。酸化していて苦い……はずなのに、その味がどこか懐かしかった。

 同時に広がる幸福感。懐かしい感覚。例えるならば、母親が作ってくれていた自慢の料理の味。お袋の味と言うやつだ。

「……いったい…………」

 実はアリアも、ユセに初めて会った気がしなかった。とても大事な昔の友人。そんな雰囲気をユセから感じ取っていたのだ。

 だがそんな感覚も一瞬。

 懐かしいと感じた感覚は消え、目の前に広がる衝撃が脳を打つ。

 目の前にいる女性は口を開いた。

「……血を血で洗う様な……そんな、戦い……虚しいだけ、です」

 イエヤスもアリアもしっかとユセの言葉を聞いた。そしてその表情がとても苦しそうだったことも。痛みではない。少なくとも、身体の痛みではあるまい。

 あの表情は、もっと別の何か……どちらかと言えば心の痛さに耐える顔だった。

 ユセはついに倒れ込んだ。イエヤスが槍を引き抜こうとしたが、タカアキに止められた。

「こいつ抜いたら余計出血するだろ! 村まで運ぶぞ!」

「任せとけよ」

 タカアキは適当な木を二本探しだし、それに服を通して簡単な担架を作った。ホリマカと二人でそれを持ち上げる。

 村に運び込み、村に唯一いた医者にユセを任せるまでの間、イエヤスとアリアは何も言うことが出来なかった。




諸君、私は神曲(ダンテ作)が好きだ。神曲が大好きだ。
何故好きかって、別にルシフェルが出てくるからって訳でもありませんが。

神曲にインシュピレーションを受けたとされる「魔王ダンテ」とかオススメです。
デビルマンも好きですが、こっちも好きです。
古い漫画ですが、読んでみてはいかがでしょう。
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