番外編と言いつつ伏線を張るスタイル。
拝啓……といっても、送る相手はいませんが、ザンクです。
獄中は喋る相手がいなくて寂しいので、日記をつけます。手紙ではないです。
あの黒髪のせいで牢獄にぶち込まれてから、かれこれ一ヶ月が経ちました。
あの魚魚言ってる黒髪を思い出すと今でも腹が立ちます。
次会ったら絶対殺します。
……金髪の彼女もいたけど、あっちには触れたくありません。
可愛い顔してるのに超怖いです。お腹の中真っ黒です。間違いありません。いつの間にかスペクテッドも取られるし、最悪です。
あんな女を彼女にしてるなんて、あの黒髪はイカれてると思いました。
多分、魚を食べすぎて脳味噌も魚になってしまったんだと思います。
その内後ろから刺されると思います。そして魚みたいに捌かれてしまうと思います。
ざまあみろです。
そんなことより、私は最近首を斬っていません。
首を斬りたくて斬りたくて仕方ないです。でも私は独房なのでどう頑張っても首を斬れません。
脱獄も考えましたが、そもそも独房の外に出してもらえません。警備隊は私に辛く当たりすぎだと思います。
そんなことを書いていると、警備隊員らしい女の子が一人やってきました。
名前はセリューというらしいです。ころころと表情を変えて、とても可愛らしいと思いました。
同時にすごく首を斬りたくなりました。
考えてもみてください。犬の様に人懐っこい女の子の首が、胴から離れる光景。
妄想したらヤバくなりました。マジで斬りたいです。殺したいです。
でも私は檻の中。あなたは外で、触れ合えない。
リズム感が気に入りましたが、どうでもいいです。素直に殺したいと言ったら、やっぱりころころと笑っていました。
本気にしてないんでしょうか。どっちにしろ、私には武器がありません。首を斬れないのがとてももどかしいです。
セリューちゃんは私の愚痴を延々と聞いてくれました。この日記に書いてある様な、殺人衝動が酷いといった話から、私の好きな色まで。
セリューちゃんは聞き上手です。ついいろいろ喋ってしまいました。
嬉しかったのでこうして日記に書いてます。
日記を見せたら「字が綺麗ですね。」と褒められました。私は喋るのも好きですが、書くのも好きです。
私は調子に乗って、セリューちゃんの名前を書いて、そのページをプレゼントしました。
セリューちゃんは跳び跳ねて喜んでいました。こういうのも悪くないかもです。
セリューちゃんは毎日来てくれます。警備隊の仕事の合間をぬっているそうです。
どうしてそこまでするのかと訊くと、セリューちゃんはスペクテッドについて訊きたがっていた様です。
曰く、セリューちゃんも帝具持ちなので、帝具の勉強をしたいそうです。
私はスペクテッドの性能を語ってやりました。
セリューちゃんはキラキラした目で私の話を聞いてくれました。
最初に会った時からそうでしたが、こうやって私の話に耳を傾けてくれる人なんていつ以来でしょうか。
年甲斐もなく涙ぐんでしまいました。
そうしたらセリューちゃんが頭を撫でて慰めてくれたのです。本当に良い娘です。
何だか首を斬りたいなんて思っていたのがバカらしく思えてきました。
こんな良い娘を殺すなんて有り得ません。
他の奴らはどうでもいいですが、セリューちゃんだけは首を斬りたくないと思えました。
セリューちゃんは自分の話もしてくれました。
父が警備隊員で、自分も同じ道に進んだこと。
警備隊には鬼と呼ばれたとても強い人がいて、その人に師事していたこと。
そしてその二人は私の様な賊に殺されたこと。
ですがセリューちゃんは賊を恨んではいない様です。
「殺されたからといって、殺しても意味はありません。そういった憎しみは連鎖して、無駄に尾を引くだけです。」そう言っていました。
今は警備隊として仕事をこなしているそうですが、近々特殊警察の一員になるそうです。
何でも帝具使いだけを集めた治安維持組織だそうで、あの帝国最強と謳われるエスデス将軍が隊長らしいです。
祝福してやると、セリューちゃんは嬉しそうに、とびっきりの笑顔を見せてくれました。
そんな日が何日か続き、彼女が来るたびに、こうして日記を書いていました。ですが、どうやらお別れの時間が来たみたいです。
実は私は死刑囚で、死刑の執行を待っていました。
ただ待っているだけなのもアレなので、干し首以外にも私が生きた証を残したいと思い、日記を書きました。
ところで、セリューちゃんの帝具はヘカトンケイルという生物型の帝具です。
セリューちゃんと一緒によく牢獄に来てくれました。
そのヘカトンケイルは人を食べるそうです。ちっちゃい犬の様な外見ですが、とても大きくなれます。
ヘカトンケイルは人を跡形もなく捕食することが可能です。
大きな口で丸飲みにするそうです。
綺麗に食べれるので痕跡を残しません。
そして持ち主のセリューちゃんは警備隊員です。帝都の警備隊員は死刑囚の死刑執行も請け負っています。
基本的に死刑執行は、首吊りか私がかつてやってきた様に、首を斬り落とすかです。
でもヘカトンケイルがいるなら話は別です。後処理をしなくていいので、ヘカトンケイル並びにセリューちゃんに執行を任せているそうです。
セリューちゃんはそう語ってくれました。
つまり、私はセリューちゃんに殺されます。殺したい、なんて思っていたのに皮肉なものです。
セリューちゃんはそれを最初から分かっていたそうです。
なのに、
馬鹿だなぁ。
わざわざ殺す相手の話を聞きにくるなんて。
セリューちゃんは自分が、俺を殺すという事実を語った時肩が震えていたよ。
可愛い顔をくしゃくしゃにしてたよ。
本当に馬鹿だ。
全然愉快じゃない。
もしかしたらセリューちゃんは、最後に俺にいい思いをさせようと思って俺に話しかけたのかもしれない。
自分が辛くなるだけなのに。
帝具の話もあながち嘘ではなさそうだが、どちらにしろ、死刑囚に話しかけてる時点で大馬鹿だ。
馬鹿だよ、本当に。
だからこの日記はセリューちゃんにあげることにした。
俺が殺された後の部屋の片付けはセリューちゃんに頼んである。
せいぜいこの日記を見付けて、読んで、後悔するといいさ。
そして二度と死刑囚に話しかけるなんて、馬鹿な真似をしない様にしてほしい。
死刑執行の日。セリューちゃんはどんな顔をしているんだろうね。
やっぱり泣きそうな顔をしてしまうかな?
駄目だよ、それは。警備隊が悪人の死を悲しんでどうすると言うんだ。
俺は辻斬り。
人を殺すのが大好きな、
人の首を斬るのが大好きな、
人の首を飾るのが大好きな、
辻斬り。
最低の殺し屋さ。セリューちゃんに殺されても、文句は言えない。
言う気もないけどね。
ああでも、最後にもう一つ、好きなものが出来たよ。
こんな気持ち初めてだし、セリューちゃんが日記を読む頃には、俺はどうせ死んでいる。
だから奇を衒わず言うことにするよ。
今までありがとう。
好きだったぜ、セリューちゃん。