閃光のリベリオン   作:塩焼きイワシ

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あんまり真面目に読むものでもない作品。
楽しんでいただければ幸いです。

ちなみに原作が原作ですが、グロ表現はカットしてあります。安心してくださいませ。


序章 闇の中で
始動


 帝都で働くのは田舎者のロマン。

 賑わう大勢の人々に活気ある巨大市街。田舎にはない輝かしく、珍しいものがそこらじゅうに溢れている。

 今しがた帝都に到着したばかりの青年━━タカアキも例外ではない。

 帝国では珍しい黒髪の青年で、服装こそ田舎臭いがどこか気品がある出で立ちだ。整った顔立ちがそうさせているのか、あるいは別の何かか。

 彼は見たこともない物に目を泳がせ、キョロキョロとせわしなく頭を動かす。

 やはり誰がどう見ても田舎者であった。

「……帝都ってスゲー」

 気付くとタカアキは呟いていた。タカアキの故郷はもちろん田舎で、帝都より北にある。しかし冷害が酷く、村は常に食糧難に陥っていた。さらに重税も課せられており、何とかその日その日を凌いでいるのが現状である。

 そんな折、タカアキを含む四人の若者を村は帝都に送り出したのだ。

 帝都で稼いで出世し、村を救う。そんな使命を背負って四人は旅に出た。

「でもまさか、途中で夜盗に襲われるなんて」

 ツイてないな……と大きくため息をつく。お陰で三人と見事にはぐれてしまった。

「タツミ……イエヤス……サヨ」

 タカアキは今まで共に高め合い、修行を重ねてきた仲間の顔を思い浮かべる。無事に逃げおおせはしたが、はぐれてしまった。

 しかし悩んでいても仕方ない、とタカアキは兵舎に足を向ける。皆が帝都に集まり、また会えることを夢見て。

 しかし━━。

「この書類書いたら、俺んトコ持って来な」

 タカアキは兵舎に辿り着いたのはいいものの、疲労からか大きく隈をこさえたオヤジに、一枚の紙を押し付けられていた。

 どうやら履歴書の様で、いきなり兵士になれる訳ではないようだ。

 タカアキは書類をまじまじと見つめ、オヤジに向き直る。

「え、字書かなきゃいけないの?」

「当たり前だ。何のための書類だよ」

 向こうで書いてこい、とオヤジは手でタカアキを追い払うジェスチャーをする。

「自慢じゃないが……」それには意も介さず、タカアキはくいっと親指を自分に向ける。「俺は産まれてこの方文字を三十五文字しか書いたことない!」

「おのれ田舎者! 本当に自慢にならねぇな」

「書いたことある字は、魚と春。合わせて(さわら)!」

「だから何だ!? 何のアピールだよ! つか逆にすげぇ!」

 オヤジはげんなりした様子でカウンター越しにタカアキをどかす。

「後ろが詰まってんだ。お前みたいなバカとじゃれてる暇はない」

 たたらを踏みながらタカアキが振り返る。すると確かに人が並んでおり、迷惑そうにタカアキを見ていた。

 普通の人間ならここで萎縮し、申し訳なく思うだろう。そしてトボトボと書類を書きに向かう。

 しかしこの男はタカアキ。彼はにやりと口角を吊り上げる。

「なぁ、おっちゃん。(いわし)ってどうして鰯って名前が付いたか知ってるか?」

「知るか! つか邪魔する気満々だろ!」

「俺を採用してくれるなら、教えてやってもいいぜ?」

「採用してもしなくても邪魔する気がおのれは!?」

 しばらくそんなやり取りを続けたのだが、遂に堪忍袋の緒が切れたオヤジに放り出されてしまった。

 玄関からゴミ袋のように投げ捨てられ、タカアキは打ち付けた頭をさすりながらオヤジに文句を浴びせる。

「うるせぇ! 兵士になりてぇなら、その書類を書いてこい!」

 しかしオヤジはタカアキの不満には耳ひとつ貸さず、昨日に続いてまったく田舎者は……とボヤきながら兵舎に消えた。

「あーあ、上手くいかんかったか」

 タカアキは立ち上がり、服に付いた埃を払う。あそこで駄々をこねれば面倒になったオヤジが兵士に取り立ててくれるかと思っていたが、そう上手くはいかないらしい。

「仕方ない。誰かに代筆してもらうか」

 しかし字を書けないのは確かなので、とりあえずは当てもないがさまようことにした。

 

 

 捨てる神あれば、拾う神あり。誰がそう言ったの知らないが、タカアキはあながち間違いではない様な気がした。

 何故なら幸運にも見知った顔を見付けることが出来たのだ。

「タツミ! タツミじゃねぇか」

「え……アキ?」

 前髪をセンターで分け、アホ毛が一本ぴょこんと飛び出している特徴的な髪の少年がタツミだ。彼は、何やら大量の荷物を乗せた馬車の側に、兵士らしき男と一緒に立っていた。

 無邪気な笑顔でタカアキとの再開を喜ぶタツミに、タカアキは涙ぐみながら彼の肩を叩く。

「そうかそうか、出世したなタツミ。もう既に一人前の兵士に……」

「いや、違うって。たまたまお嬢様に拾われてさ。しばらくの間、その娘の護衛をすることになったんだ」

「そういうことだ。こいつはオマケだな」

 ずいっとタカアキとタツミの間に、タツミと並んでいた男が割って入る。素人目に見ても鍛えられていることが分かるほど、肉付きがいい。

「タツミ、知り合いか?」

 男がタツミに尋ねるが、タツミが答えるより早くタカアキが口を開いた。

「ああ! 名前はタカアキ。ダチにはアキって呼ばれてる。村で一番━━いや、世界で一番魚を愛する男だ!」

「……何だコイツは」

「俺もよく……。近くに海もないのにやたら魚が好きで」

 男が困った顔を向けると、タツミも同じ顔で返す。タツミにとっては十数年に渡る付き合いだが、タカアキという少年のその人となりを理解しきれていない。どちらかと言うとイエヤスの方が仲がいいので、そちらの方が理解しているのかもしれない。

「えっと、こっちの人はガウリさん」タツミは延々と魚について語りそうなタカアキを手で制する。「アリアさん━━っと、俺を拾ってくれたお嬢様の護衛をしてる」

「苦瓜?」

「子供のころそれでいじめられた。殴るぞ」

 ガウリの名前を聞いてほぼ条件反射で答えたタカアキに、本人は苦い顔をする。どうやらコンプレックスに近いものを感じるらしい。

「こいつは悪い。(さば)の様に青い青春時代だなぁ」

「……何故こいつは、魚に話が帰決していくんだ?」

「ちょっとしたホラーっすよね」

 長い付き合いのタツミですら若干の悪寒に身体を震わせていると、タツミを拾ったというお嬢様が他の護衛と共に帰って来た。

 いかにもお嬢様風のドレスを身にまとい、緩くウェーブのかかった金色の髪を風に揺らしている。後ろ手には数人の護衛を引き連れており、各々に荷物を持たせていた。やはり買い物中だった様だ。

「あら」

 お嬢様はタツミやガウリと話す余所者を見付け、その可愛らしい瞳を見開いた。

「あ、アリアさんおか━━って荷物が面白い量になってるんですけど!?」

「? これくらい普通でしょ」

 普通と言うには確かに面白い量で、護衛たちはやっとの思いで荷台に荷物を積む。

「それでこの人は━━」

 改めてお嬢様はタカアキに目を向けるが……。

 二人が目を合わせると、一瞬固まった。

 そのやり取りにタツミが気付き首をかしげる。

「どうかしたか?」

「……いや」それにタカアキは首を振って答える。「可愛い娘に拾われたじゃんか。羨ましいぞ」

「ま、まぁ……」

 言われてタツミは、にへらとだらしなく鼻の下を伸ばした。しかしすぐに気を持ち直し、

「えっと、この人がアリアさん。俺の恩人だ」

「初めまして」

 紹介されたアリアがスカートの裾を持ち上げ、上品にお辞儀をする。

「ああ、初めましてだな。俺はタカアキ。アキで構わんぜ」

「そう? よろしく、アキ」

 アリアの方も先ほどのやり取りが嘘の様に自然体だ。

 それからアリアはタツミに向き直る。

「タツミ、この人って昨日言ってた……」

「ああ! 三人の内の一人だ! 本当に会えてよかった」

 タツミが満面の笑みを浮かべると、アリアも微笑み返した。

「言ったでしょ? アリアの勘は当たるって」

 優しい笑顔にまたドキリとしつつも、タツミは恐る恐るといった体で口を開く。

「えっと……それで」

 目はチラリとタカアキを向いている。アリアはタツミの言いたいことを察し、手を叩いた。

「うん。その人もしばらく雇ってあげる! 護衛は多い方がいいし」

 再び顔を輝かせたタツミに、アリアも無垢な笑顔を向ける。

「それに、友達はみんな一緒がいいよね」

 なし崩し的にアリアの家に招待されることになったタカアキだが、アリアの最後の言葉に何かの違和感を感じられずにはいられなかった。

 

 

 タカアキが合流したことで買い物は打ち切りとなり、タカアキはアリアの屋敷に招待されていた。

 本当ならアリアの護衛として、ガウリたちと共に食事をするはずである。しかし、アリアが客人としてもてなしたいとのことで、タカアキとタツミはアリアとその両親と一緒に夕食をとったのだ。

「う〜ん、野戦食ばかり食ってきたから、美味しさが身に沁みるぜ」

「本当本当。こんな美味いモン食って、俺たち兵士になれるのか?」

 タカアキとタツミがそれぞれ賛美の声を上げると、アリアの母親は嬉しそうに頬を緩めた。

「珍しくお客さんが二人いたから、コックに頑張らせたの。気に入ってもらえてよかったわ」

「気に入ったけど……もっと魚が欲しかったぜ」

 タカアキがふくれた腹を叩くと、タツミがすかさずツッコミを放つ。

「お前はそればっかだな! 失礼だろ」

「構わんよ、タツミくん。どれ、次回は魚料理を増やすよう言い付けるか」

「マジっすか!?」

 アリアの父親の言葉に一転、タカアキは彼を拝み始める。

 ははーと手を合わせて頭まで下げ、タカアキに拝まれるアリアの父親はさながら仏様だ。柔和な笑みも仏様の様だと思わせる要因の一つだ。

「お、おい。恥ずかしいから止めろって!」

「バカ野郎! お前も海の神様に祈れ!」

「いつから海の神様に!?」

 そんな二人のやり取りを微笑ましく見ていたアリアの父親だが、ふと険しい表情になり、四枚の紙を取り出した。それを二人に突き出す。

 それは手配書で、それぞれ四人の男女が載っていた。

「これは……」

「ナイトレイド。賊だ」

 アリアの父親は一層表情を険しくして続ける。

「その名の通り、夜襲を仕掛けてくる。帝都を震え上がらせている殺し屋集団だ」

 殺し屋という言葉にタカアキは一瞬反応したが、特に何も言わずに手配に目を落とす。

「こいつらは帝都の重役や富裕層を狙ってくる。もちろん、ガウリくんたちも承知しているから、君たちも用心してくれ」

 タツミがその言葉に強く頷く代わりに、タカアキはゆっくりと顔を上げた。

「なぁ、こいつらって……高く売れる?」

 その言葉に、タツミを含むその場の人間がポカーンとしてしまった。

 一瞬の静寂の後、口を開いたのはタツミだった。

「アキ、お前……人身売買でもする気か?」

「ちげぇよ。手配書が回ってるくらいの殺し屋なら、賞金かかってんじゃないかと思ってな!」

「……賞金がかかってたらどうする気?」

 答えは何となく予想出来ているのか、アリアが恐る恐る訊ねる。

「決まってんだろ」フッと一笑し、タカアキは高らかに宣言する。「縛って吊って巻いて責めて踏んでなじってから軍に突き出す!」

「妄想に妥協がねぇ! てかそれ最低だぞ!」

「あら、いいわね、それ」

「何で乗るんですか! もしかしてアリアさんドS!?」

 タツミが、それでも可愛らしい笑顔は崩さないアリアにびびっていると、アリアの父親が机を軽く叩いた。

「夢があるのはいいが、仕事の方もしっかりな。食後の見回り、頼んだぞ」

「あ、アキの部屋はタツミと同じにしといたから」

 タカアキとタツミはそれぞれ礼を言い、アリアの父親の通り食後の見回りに繰り出すのだった。

 

 

 時間は過ぎ、深夜。虫も眠る丑三つ時。

 起きているのはお月様か━━闇の者だけであろう。

「━━殺気!?」

 異口同音にタカアキとタツミはベッドから飛び起きる。

 お互いに顔を見合せ、それぞれ得物を手に部屋を飛び出す。

 殺気━━それも複数。

 タカアキがそれを強く感じ取り窓の外……つまり殺気を放つ元凶を見やる。それに釣られてタツミも窓の外を見やり、息を飲んだ。

 満月をバックに四人の影がこちらを見下ろしていた。全員が全員、どういう芸当か宙に浮かんでいる。

 ━━全員こちらより格上だ。タカアキは言い様のない恐怖を感じた。見ただけで分かる。あれはただのヒトではない。

 人を殺して人を止めた集団。つまり━━。

「ナイト、レイド」

 タツミの口から言葉が溢れる。タカアキも理解していた。あれはナイトレイド。帝都を震え上がらせている殺し屋だ。

 ナイトレイドの殺気に圧され気付かなかったが、すでにガウリたちはナイトレイドの元へ向かっていた。

 タカアキが示すと、タツミは援護に行くかと問うが、

「いや、全員束になっても敵わない」タカアキは冷静に切って捨てた。「ならせめて今屋敷に気配のないアリアを探そう。彼女だけでも守らないと」

「え、親父さんとお袋さんは!?」

 タツミの手を引いて駆け出したタカアキはタツミの言葉で止まる。

「……二人はもう駄目だ」

 それだけ言うとタカアキは再び駆け出す。タツミは涙を飲み、タカアキに付いて駆け出した。

 アリアにはすぐに追い付いた。一人の兵士に手を引かれ、離れにある倉庫を目指していた。

 兵士は二人の姿を確認すると、

「いいところに来た!」

 ちょうどいいとばかりに二人を指差す。

「お前たち、あいつらを足止めしてくれ。もうすぐ警備隊が来る。俺たちは隠れてるから、なるべく長く━━」

「そりゃ無茶ッス!」

 しかしタツミが異議を唱え終わる前に、ナイトレイドの一人である黒髪の少女が辿り着く。

「タツミ!」

 タカアキは素早く反応。刀を鞘から引き抜き、黒髪の少女に向き直る。

 タツミの方も仕方ねぇと剣を構える。

「……標的ではない」

 しかしそんな二人を完全に無視し、少女は長い黒髪をなびかせてアリアへと向かう。

 兵士が銃で迎撃するが、弾は一つも当たることはなく。兵士は少女の持つ刀で胴を二つにされた。

 当然、次の標的はアリア。咄嗟に飛び退いたアリアに追いすがり、黒髪の少女は刀を構える。

「待ちやがれ!」

 間一髪。少女が刀を振る前に、タカアキとタツミが間に割って入った。

「これ以上殺させるか!」

 二人はそれぞれ庇う様にアリアの前に出る。

 それに黒髪の少女は小首をかしげる。それはこの場には似つかわしくないほど可愛らしいものだった。

「お前たちは標的ではない。何故邪魔をする」

「お前がこの娘を斬ろうとするからだろが!」

 さらにタカアキが一歩踏み出す。刀を構え隙を伺う。が、いかんせん黒髪の少女の方が手慣れているのは明白で、タカアキは隙らしい隙を見付けられずにいる。

「お前ら、金が目的じゃないのか?」タカアキが間合いを保っている間、タツミは何とか突破口を開こうと言葉を探す。「この娘は見逃してやってくれよ! 戦場でもないのに、罪もない女の子を殺す気か!?」

「タツミ……」

 しかしタツミの必死の訴えも、漆黒の殺し屋には小鳥のさえずりほどにも耳を貸す気はないらしい。

 タカアキごと斬ろうと飛びかかってくる。その流れる様な、それでいて全く隙のない動きにタカアキは死を覚悟するが━━。

「待った、アカメ」

 寸でのところで少女の刀はタカアキに当たらなかった。

 原因は新たに現れた金髪の女性。おそらくナイトレイドの一員。

「何をするレオーネ」

 ひょいと仔猫の様に襟首を掴まれた黒髪の少女は、特に表情を変えずに持ち上げた本人を見た。

「そっちの少年には借りがあるんだよ」

 そう言って金髪の女性はタツミにウインクを飛ばす。それにタツミは昨日の出来事を思い出し、声を上げた。

「何だよ、知り合い?」

「知り合いっつーか……昨日、あの人に有り金巻き上げられたんだよ!」

「……俺の勘だがお前……甘言に乗せられてホイホイ金渡したな?」

 タカアキの的を射た言葉にタツミはウッと言葉を詰まらせる。

「今回はその少年の甘さに感謝しな」

 言いつつ、金髪の女性は先ほどアリアたちが駆け込もうとしていた倉庫へ足を向ける。

「さっき少年は罪もない女の子を殺すなと言ったが……」そして、頑丈そうな倉庫の扉をあろうことか蹴りでブチ抜いた。「これを見てもそんなことが言えるか?」

扉の向こう。そこにあったのはまさに地獄だった。

 ところ狭しと拷問器具が並び、付いている血糊から判断して使いこまれているのは確かだ。さらにその器具にかけられるだろう人々が半裸で檻に囲まれていた。

 もはや見るに耐えない状態だ。

「これが帝都の闇だ。少年」

 言葉もなく立ち尽くすタカアキとタツミに、金髪の女性が言い放つ。

 タツミは生気が抜けた顔で、よろよろと倉庫に近付いた。

「地方から来た身元不明の者たちを甘い言葉で誘い込み、己の趣味である拷問にかけて死ぬまで弄ぶ」

 金髪の女性が澄ました━━しかしどこか怒気を孕んだ表情で言葉を綴る間も、タツミはふらふらと倉庫に近付き、信じられないと首を横に振る。

「……それがこの家の人間の本性だ」

 そして、さまよっていたタツミの目が一人の少女で止まる。

「━━サヨ?」

「何っ?」

 タツミが見付けたのは間違いなくサヨだった。裸に剥かれ拘束され、痛め付けられてはいるが、確かにサヨだ。すでにこと切れている様子で、近付いたタツミに何の反応も示さない。ただただトレードマークだった長い黒髪だけが綺麗になびいている。

 それを見たアリアは一瞬だけ顔をしかめたが、すぐに怯えたような表情に戻った。それを確認出来たのは、一番近くにいたタカアキだけだったが。

「……この家の人間がやったのか」

 そう言ったタツミの声は冷たく、感情が籠っていなかった。脱け殻の様な、生気のない声だ。

 それに対し、金髪の女性はそうだと淡々と答える。

「護衛たちも黙っていたので同罪だ」

「だから葬った」

 殺し屋二人に事実を突き付けられ、タツミはどう処理していいのか迷っている様で、俯いたまま動かなくなった。

 その時、タツミは微かに知った声を聞き取った。

「タ……タツ、ミ……だろ?」

 檻の中から手を伸ばしている人物。身体中に斑点を作り、見ただけで病気だと分かる。変わり果ててはいるが……イエヤスだった。

「サヨは……サヨはあの女に……!」

 何とか絞り出した声だったが、タツミにはしっかり届いていた。

「その女は……俺とサヨに声をかけてきて……飯を食ったら意識が遠のいて……。気が付いたらここにいて。……サヨはその女に虐め殺されたんだ!」

 イエヤスは言い切ると力なく崩れ落ちた。

 その女……もはや疑うべくもない。アリアのことだ。

 そんなやり取りを見て、タカアキの後ろでアリアがため息を吐いた。

「唐突に現れた、真相を知る者が事件のネタばらし。ちょっとデウスエクスマキナすぎない?」

 先ほどまで脅えていた彼女の姿はどこへ行ったのか。アリアは髪をかき上げると事も無げに続けた。

「地方の田舎者なんて家畜よ家畜。それをどう扱うかなんて私の勝手でしょう? 家畜は貴族様のためにいるのよ」

「てめぇ、誰が家畜だ!」

「あなたたち田舎者のことよ。頭も悪いのね。……そのくせその女、髪サラサラで生意気なのよ」

 タツミの言葉を一笑に付し、アリアは苦虫を噛み潰した様な表情をする。

「私がこんな癖毛で悩んでるのに。まったく、本当に生意気。だから念入りに責めてあげたのよ。むしろ感謝してほしいわ」

 アリアの狂った独白に、金髪の女性はサド家族が……と吐き捨てる。

「悪いなアカメ、邪魔した」

「葬る」

 再び黒髪の少女が刀を構えるが、

「待て」

 タツミの声が止めた。

「まさか……まだ庇う気か?」

 金髪の女性がいよいよ苛立ちを隠しきれずにタツミに殺気を向け始めるが、タツミは剣の柄を握り、アリアに向かって一歩踏み出した。

「いや、俺が━━」

 その意図を察したタカアキは、素早くタツミの前に滑り込む。

「斬る!」

 降り下ろされた剣はしかし、アリアの前に出たタカアキによって阻まれた。

「何しやがる!」

 邪魔をされたタツミが怒声を飛ばす。その殺気に気圧されそうになるタカアキだが、しっかとタツミを睨み返す。

「馬鹿、何殺そうとしてんだ!」

「当然だろ! サヨを殺したんだぞ!」

「てめぇ……殺されたからって、殺し返すのかよッ!?」

 タカアキは怒声と共にタツミの剣を弾く。

「お前に人殺しなんかさせねぇ……!」

 ゆらり、とタカアキは身体を弛緩させる。その動きはまるで獣のそれだ。そしてタカアキは全身から異質なオーラを放ち出した。

 殺気とは違う、何かもっと黒くてドロドロとした何か。人が触れてはいけない様な何かを。

 それだけでその場の雰囲気は一変した。空気は明らかに重くなり、タカアキが敵意を向けている殺し屋二人は無意識に後ずさりするほどだ。タツミにも当然被害はあり、顔を真っ青にして後退する。

 本人にその気はないのか、タカアキは殺し屋二人を睨みつつも、油断せずに刀を構える。

「こりゃ、マズイな」

 真っ先に反応したのは金髪の女性だった。獣じみた感覚でタカアキを危険と見なし、タツミを抱えて飛び上がる。当然、黒髪の少女もそれに続いた。

「おい、てめぇら。タツミをどうする気だ!」

「こいつは貰ってく。才能あるんでね」

「レオーネ時間だ。早く離脱を」

 そのまま離脱しようとする二人に追いすがろうとするタカアキを、アリアが腕を掴んで制した。

「もうすぐ警備隊が来るわ。任せましょう」

「うるせぇ、触るな!」

 しかしタカアキはアリアの手を振り払い、再び追おうとするが、

「追ったら死ぬわ」

 タカアキは急に身体の自由が利かなくなり、頭から地面に突っ込んだ。

 その正体を、タカアキは一瞬で看破出来た。

「ワイヤー……か!」

 全身に、目視出来ないほど細いワイヤーが絡みついていたのだ。

「チクショウ……!」

 遠ざかって行くタツミの姿を見て、タカアキは蚊の鳴く様な声で呟いた。

 そして地面に顔を埋める。悔しくて涙が出てくる━━止まらない。

 殺し屋が引いたのは警備隊が到着するのを危惧してだろうし、何故かタツミを連れ去られた。

 挙げ句サヨを殺した相手に心配までされた。

 もはや屈辱以外の何物でもない。

 タカアキは声にならない悲鳴を上げていた。

 

 

 気が付くとワイヤーの拘束が解けていた。

 ゆっくりと、覚束ないが立ち上がる。

 辺りにアリアの気配を感じず、見回すとちょうど倉庫から顔を出していた。

 何か……いや、誰かを引っ張っている。

「一人のお友達は拐われたけど、もう一人は残ってるでしょう?」

 アリアが引っ張ってきたのはイエヤスだった。

 瞬間、タカアキは頭に血が昇るのを感じたが、

「この家畜を助けたいなら、着いて来なさい」

 アリアが続けた言葉で、沸騰しかけた頭の温度が下がった。

「なに……?」

 頭が働かず、そんな気の利かない言葉を捻り出すのがやっとだった。

「女好きだけど、いい医者を知ってるの。彼なら治療出来るわ」

「ほん、とうか?」

「早く」

 会話のキャッチボールが成立していないが、少なくともタカアキを嵌めようとしている雰囲気ではない。

 タカアキはイエヤスを担ぎ上げ、今さら敷地に入って来た警備隊を尻目に、アリアと裏門から街へと繰り出した。

 今夜も帝都の闇は深い。タカアキは、そんな闇に足を一歩踏み出したのだった。

 

 




たたみ掛けました。序章は終了です。


せっかくなので主人公設定

名前:タカアキ
由来:漢字だと啓明。分かる人には分かる…かも。
特徴:ウェイブと仲良くなりそう。
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