タカアキ「あたま、あたま、あたま~。頭~がよく~なる~♪」
アリア「あなたを見れば、それが嘘と証明出来るわね」
タカアキ「おい」
ドク(DHAはほんとに脳にいいけど、今は言えないな…)
それからタカアキとアリアの行動は迅速だった。
夜に出没するとされているザンクを捜索すべく夜まで待つ。それからスラムだけでなく、帝都の城下町を回る。さすがに一人での行動は危険なので、ツーマンセルだ。
夜になり、捜索に足を向ける二人。
だがそれなりの広さのスラムを二時間ほどかけて回るが、成果はまるでなかった。
続いて帝都の城下町へと歩を進める。
「……なあ、お前ってやっぱワイヤー使いってやつか?」
人気の全くない城下町を進む道すがら、タカアキがそんなことを言い出す。アリアは眉をひそめてタカアキを見上げる。
「そうだけど……急に何?」
「いや、せっかく共闘するならお互いの戦い方を把握しといた方がいいと思ってな」
タカアキは言って腰に差してあった刀を抜き放つ。
「俺はこいつだ」
自慢気にかざしたタカアキの得物。帝国で普及している剣とは違い、刃が細く緩やかに反り返っている。俗に東方刀と呼ばれる刀の一種だ。
「確か……ナイトレイドの赤目の女も同じ様な武器を使ってたわね」
よく見てたな、と笑いタカアキは腰に刀を戻す。
「あいつは我流っぽかったけどな。俺のはちゃんとした流派がある」
「興味ないわ。はい終わり」
「ここまで行ったら最後まで聞いてくれませんかね」
再び策敵モードに入ったアリアを止め、タカアキは咳払いをして気をとりなおす。
「東方一閃流。帝国じゃ知られてない流派らしい」
「確かに聞いたことないわね。……皇拳寺系列?」
「いや。あそこは拳法寺だからな。こっちは剣の流派だ」
さてはそっちに疎いな? と調子に乗り出したタカアキに、アリアは一発入れてから早く続けて、と促す。相変わらず容赦がない。
「本来はもっと短い東方刀を使うんだが……夜盗に襲われたときにどっかやっちまって」
「えー、武器落としたのー? マジないんですけどー」
アリアが小馬鹿にした声で、ないないと手を振る。
さながらギャルだ。はっきり言うとウザイ。はっきり言わなくてもウザイ。
「そのキャラすっげぇうぜぇな。……仕方ないだろ。俺の命より重い、魚たちの入った袋を守るのに必死で……」
「……あなたって本物のバカみたいね」
「何を!? 缶詰めだから磯臭くないぞ!」
「そこじゃないわよ」
付き合ってられないと首を振るアリア。しかしタカアキが、今度はそちらの手を見せて欲しいと言い出した。
アリアは渋ったが、タカアキに押され結局武器を取り出した。
「こりゃあ……ワイヤーと、針か?」
アリアが出した武器は近くで目を凝らさないと見えないほど細い糸と、一本五センチほどの細い針だった。
「
「綱糸━━はいいけど、四針って?」
興味津々でタカアキは針に手を伸ばす。
「四つの効果を持った針……という意味よ。毒が塗ってある針もあるから、死にたくないなら触らないで」
「いっ!?」
「あ、死にたいなら触って? の方が可愛らしかったかしら」
「殺伐としすぎて、可愛らしさなんか微塵もないけど……」
タカアキがびびって手を引っ込めると、アリアは楽しそうに笑った。ただ、それは美少女の微笑みと言うより、狂喜に犯された変態の笑みだったが。
「四針には四種類あるの。
一つの針に一種類の効果を持たせている。
紫針は毒を塗った針。致死性の物から激痛を誘発するものまである。
弛針は毒は毒だが神経毒。呼吸困難や手足の痺れを引き起こす。
枝針は針の先が釣針の様に反り返っている。傷をえぐるのに使う。
といったことをアリアが一通り説明すると、タカアキは青ざめた顔で首を左右に振る。
「……あの、アリアさん。どれもエグすぎて言葉が出ないんですケド」
「じゃあ喋らないで。良かった、静かになるわ」
「相変わらずひでぇ」
タカアキはげんなりして言うが、はたと気が付く。
「あれ? もう一つは?」
そうアリアに問うと、アリアは舌打ちをした。
「田舎者のくせに数が数えられるか」
「馬鹿にしすぎだろ。十三までならいける!」
「それは色々ツッコミ所のある数字ね」
そこまでいけるなら二十までいけ、とか手を使って数えるんじゃないのか、とか言いたいことは色々あったが。
「最後は秘密よ。まあ言ってみれば切り札ね。簡単には明かせないわ」
「俺の魚やるから。おせーて」
「絶対、い・や」
どこから取り出したのか、サバの缶詰めを差し出すタカアキ。アリアは鬱陶しげに手を払うと、今度こそザンク探しに戻った。
タカアキもアリアから聞き出すのは諦め、ザンクの気配を出来る限り探す。
その道中でアリアの家だった場所の前を通った。完全に封鎖されており、人の気配は絶たれていた。
ちなみに午前中にタカアキが潜入してサヨの遺体を回収して弔ってやろうとしたが、サヨどころか他の檻に入れられていた人達や拷問器具まで綺麗に無くなっていた。アリアが言うには警備隊が証拠の隠滅を図ったからだそうで、予想はしていたらしい。この国の大臣であるオネストが、そう指示をするだろうと。
アリアは数秒の間足を止めたが、再び何事もなかったかの様に歩き出した。
「なあ、今さらなんだが」早足になったアリアを、タカアキが追いながら話しかける。「お前貴族なんだし、親戚か上の人間かに言って新しい家に住めばいいじゃんか」
すると前を歩くアリアが急に足を止めた。アリアは帝都の中心……すなわち皇帝が住む宮殿を見上げる。
「……どうせ私たち皆死んだことになってるわ。オネストがそうするはずよ」
そして整った顔を歪めて憎々しげに言った。
「オネスト?」
午前中にも聞いた名前で、タカアキはオウム返しに聞いてみた。
「ええ、大臣オネスト。幼い皇帝を権力争いに勝たせ、自分の傀儡としているクソデブよ」
アリアは頭を振って嘆息した。
「一応利害関係だったけどね。お父さんの仕事の都合で何度か会ったけど……相当に食えないやつだったわ」
「お前がそこまで言うのか……」
共に行動したのは少しの間だけだったが、アリアは他人を簡単には評価しない人間であることは、タカアキにも大体分かっていた。基本的に雑な扱いをするからだ。
そのアリアが━━悪い意味でだが━━他人を高く評価している。その大臣はよっぽどの狸親父なのだろう。
「待てよ。政治やら何やらをその大臣がやってるなら、俺の村に重税がかかってるのは……!?」
「オネストのせいね」
「はっ倒すぞクソデブウゥゥ!」
深夜に、しかも皇居に向かって言う言葉ではない。もちろん、アリアに殴られた。
「一応忠告だけど、オネストを敵に回すのだけは絶対に止めなさい」
アリアは皇居に背を向けて歩き出しながら言った。
「あのデブには敵わないわ。知力でももちろん、武力でもね」
「武力って……何かの流派の使い手か?」
「いいえ」アリアは首を振ってタカアキを見る。
そして珍しくタカアキの瞳を見つめてきた。
「皇帝に伝わる至高の帝具を持っているからよ」
至高の帝具。至高と言うからには他の帝具とは違う、異質なものなのだろう。
事実、至高の帝具は他の帝具とは一線を角している。
「あまり世間には知られていないけどね。将軍たちの間では、神の帝具と噂されているみたいだけど」
「神って……万能ってことか?」
「あくまで噂よ」
あまり深く考えないで。と続けて、それでもオネストを敵に回してほしくないのか、念を押してきた。
タカアキはそれを苦笑いで承諾しつつ、今度は本物の笑顔に変わっていった。
「何よ、ニヤニヤして」
それを気味悪がってアリアは若干距離をとる。
「いや、なんて言うか、やっぱお前、いいやつかなって思って」
若干照れくさそうに言ったタカアキを見て、アリアは今度こそ距離をとる。
「どうしたのよ急に。本当に気持ち悪いわよ?」
「え、そんなに引くほど気持ち悪い?」
「どれくらい気持ち悪いかって言うと、人面魚がすごく気分が悪そうな顔で吐瀉物を撒き散らすくらい気持ち悪い」
「そりゃキモいな。さすがに食いたくない」
ある程度予想出来たタカアキの返答に、アリアは肩をすくめた。この男はそれほど勘や頭は悪くないはずなのに、魚が絡むと別人の様にダメになる。
「でも、お前が優しいやつだなって思ったのは事実なんだぞ」
「……私が?」
今のどこにそんな要素があったのか全く理解出来ず、アリアは眉をひそめる。
本気で考え出したアリアを見て、タカアキは表情を和らげた。
「俺のこと心配してくれてるみたいだし。なんだかんだでイエヤスも助けてくれたしな」
「それは…………女の方は殺したわよ」
急に褒められ、いたたまれなくなったのか、アリアはすねた子供の様に目線を逸らした。
タカアキはそんな彼女に近付き、不意に頭を撫でた。びっくりしたのはもちろんアリアの方で、目を見開いたまま固まってしまう。
「そんなに悪ぶらんでもいいだろ。お前が結構いいやつだってのは分かった。……少なくとも、俺にとっちゃな」
いまだにガッチガチになっているアリアを尻目に、タカアキは続ける。
「それに言ったろ。殺されたからって殺す様なマネなんかしない。絶対にだ」
そこでようやくアリアは、真っ白になっていた頭が働き出すのを感じた。同時にあの時、あの瞬間から感じ続けていた違和感を吐き出すタイミングを掴んだ。
「……それよ。どうしてそんな風に言えるの? あの女はあなたの大切な友達じゃなかったの?」
アリアの問いに一瞬驚いた表情を見せたが、
「死んじまったやつより、今生きているやつの方が大切だからだ」
と事も無げに言った。
「死んだ人間は生き返らない。絶対にな。ガキだって知ってるさ。だったらいつまでも死者にこだわってないで、前向いて歩いた方が建設的だと、俺は思ってんだが」
理屈としては正論で、アリアは黙ってしまった。だが人間の感覚的にそう簡単に割り切れるものではない。
事実、アリアがそうだ。両親は当然のこと、護衛であるガウリたちが殺害され、腹の中は煮えくり返っている。だからナイトレイドを皆殺しにすると決めたのだ。
「まだ若いのに、もうそういった切り替えが出来る訳? やっぱりどこかおかしいわね、あなた」
「失礼なこと言うなよ。確かにサヨのことは残念だし、辛いけどイエヤスとタツミは生きてる。なら俺は二人が死なない様に全力で頑張るだけだ」
そう言うとタカアキはニッと笑ってみせた。「もちろんお前も含めてな。今は仲間だし、いざとなったら頼りにしてくれていいんだぜ?」
続いてブイサインを作ってみせたタカアキに、再度驚きつつ、アリアは嘆息した。
「……ま、いざとなったら壁になってもらうわ。それともうひとつ忠告を加えてあげる」
「ん? 何だ?」
タカアキが首をかしげると、アリアは薄く笑って針を取り出した。
「次、許可なく私の頭を撫でたりしたら、四針の刑ね」
「え? ……あー悪い。いつもタツミとかにも無意識にやってて、つい……」
男にもかよ、というつっこみを呑み込み、アリアはおもむろに四針を仕舞う。
「あれね、あなた。すけこましってやつね」
「すけこまし? 帝都の言葉か?」
「ま、そんなところね」
その後にタカアキが意味を聞いてもはぐらかされ、仕方なくザンクの捜索を再開していった。