閃光のリベリオン   作:塩焼きイワシ

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 ザンクが完全に気絶したことを確認し、二人は顔を見合わせた。

 タカアキはガッツポーズを作ってみせる。

「……意外と弱かったわね。ま、お互い死なずに済んでよかったわ」

 アリアの方は冷静に言い放つ。しかしすぐに踵を返した。

「あまり長く留まって警備隊に見付かっても厄介だわ。もちろんナイトレイドにもね」

 ザンクを倒した後は速やかに退散する。……そういった段取りだ。

 ザンク自体は警備隊に回収を任せればいいし、ナイトレイドに見付かっても帝具は回収するので、今さら殺されはしないだろう、といった考えだ。

 ただ、後者についてはアリアは「そんな甘い連中だったら楽よね」とこぼしていたが。

 いずれにせよ、まずは離脱だ。アリアの方は駆け出すが、タカアキが付いて来ていない。アリアは振り返って催促するが、

「いや……ザンクのさっきの言葉……気になって、な」

 ザンクを見下ろして思慮に耽っていた。

 アリアは仕方なくタカアキに近寄る。

「さっきのって、愛する者が云々ってやつ?」

「ああ、さっきの娘、確かに見覚えはないんだが、何か気になってな」

「……どんな娘だったの?」

 アリアが問いかけると、タカアキはさらに唸り始めた。

「顔はもうあんまり覚えてないけど……こう、長い髪を頭の横で一つにまとめてて……色はクリーム色? だった。そっちは珍しいから覚えたけど」

 タカアキが身振りで示すと、アリアもあごに手を当てる。

「クリーム色……確かに珍しいし、最近すれ違った娘ではなさそうね」

「そうだな……って、愛する者って言ってんのにそれはねぇだろ」

「さあ? 一目惚れっていうのも世の中にはあるし。……その線はなさそうだけど」

 肩をすくめてみせたアリアだが、記憶を探ってみてもやはりそういった人間は見かけた覚えはなかった。

「そういやあと、サヨの着てた様な服だったな。俺たちの村ではそれなりに一般的だったけど」

「ああ、あの動きにくそうな……」

 袖や足を包み込む裾が長い特徴的な服を思い浮かべ、アリアは納得して頷いた。

 俗に和服と呼ばれる服で、東方から伝わったものだ。帝都でも色町やスラムでもちらほらと見かける服装ではある。

「とにかく、それについては考えても仕方ないわ。あなたが変なのは今に始まったことじゃないし」

 あの不気味な力も……と言いかけて、アリアは口をつぐんだ。それを言うのは色々と憚られたからだ。

「……ここから離れましょう。ナイトレイドが来たら面倒だわ」

「いや……悪いけど」

 タカアキは言葉を濁すがアリアは意味を理解した━━してしまった。

 タカアキは近くにあった建物に振り返り、屋根の上を見上げた。

 一見すると何もありはしない。

「出てきたらどうだ? たいして隠れる気もないくせに」

 そして屋上に向かって言い放った。普通なら返事など返って来るはずなどないが、

「へえ、以外と鋭いな」

 少しくぐもった男の声が返って来た。同時に屋根から二つの影が飛び出し、タカアキたちの前に着地した。

 一人は鎧に包まれた男。そしてもう一人は一週間前にも出会った金髪の女……レオーネだった。

「よ、久しぶりだな黒髪のにーちゃん。それと……」

 レオーネは人懐っこい笑みをタカアキに向けた直後、アリアへと視線をスライドさせた。その目には一瞬で冷たいものが宿り、明らかに殺意に満ちていた。

「サド野郎」

「……ご挨拶ね」

 アリアはゾッとする様な感覚を抑えながら平然と言ってみせた。「私は野郎じゃないわ。殺ししか能のない殺し屋風情じゃ、言っても無駄でしょうけど」

「上等だ。テメエみたいな腐れ外道を殺すのに、遠慮なんかいらないよな?」

 どういう理屈か、腕から生えた獣の様に鋭い爪をアリアに向けるレオーネ。

 それから庇う様に、身体を挟んでタカアキが一歩を踏み出した。

「確かレオーネっていったな」

 その目は真っ直ぐに、殺気を放つレオーネに注がれた。

「人殺しは楽しいか? 命を奪う行為は誇らしいか?」

「私は人でなしだからな。そいつみたいな外道を殺すとスカッとするよ」

「……そうかよ」

 タカアキは諦めた様に呟くと、刀を構えた。そして全身から闘気をたぎらせ始めた。

「タツミはどこだ。吐け。でないと、痛いじゃ済まねぇぞ……!」

「いいねぇ。いい啖呵だ。筋は悪くはなさそうだ」レオーネに闘気を向けるがしかし、鎧の男に阻まれる。「お前の相手は俺がしてやるよ。もし勝てたら、居場所、教えてやってもいいぜ?」

 鎧の下では爽やかな笑顔を浮かべていそうな声色だが、スキのなさと、何より凄まじい威圧感がタカアキに冷や汗をかかせる。

 手加減など元より出来る相手ではないが、ナイトレイドの中でも最強クラスであることは明白だった。タカアキは刀を強く握り直す。

「分かった。その言葉、忘れるなよ。すぐに吐かせてやる」

「じゃあ私の相手は、その獣女ね」

 スッとタカアキの横からアリアが歩み出た。

「おい……!」

「大丈夫よ。畜生ごときに遅れを取るような腕じゃないから」

 タカアキの静止の声を振り切り、レオーネの前に進み出るアリア。素早く四針と綱糸を取り出し戦闘体勢に入る。

 口元には薄く笑みを浮かべているが、全身から迸るのは間違いなく━━殺気。

「貴族様が直々に調教してあげるわ。━━せいぜい啼いて、喚いて、悦びなさい」

「っの、ドSが……上等だ!」

 まさかの威圧感に多少怯んだレオーネ。だが彼女とて殺しのプロだ。すぐさまアリアに襲いかかった。

「さて、こっちも行くか」タカアキの目の前の男は颯爽と槍を取り出した。

 その動きにさえ、スキはない。

「俺はブラート。百人斬りなんて渾名もあるが……ま、ハンサムって呼んでくれ」

「誰が……! お前にはタツミの居場所を聞き出すだけだ!」

 刀を鞘に収め、抜刀の構えで飛びかかるタカアキ。

 かくして、帝都の夜を舞台に激しい戦いが幕を開いた。

 

 

 まずタカアキが動き、懐に飛び込み刀を薙いだ。しかし当然の様にかわされ槍による反撃を受ける。タカアキはそれを左手に持つ鞘でなんとか捌いた。

「お、その動き……一閃流だな? の割には刀が長いが……」

「俺の愛刀は諸事情により封印中だっ!」

 ブラートの動きが一瞬止まったスキを突いて半歩下がるタカアキ。だが続いて、刀と鞘を逆手に持って足に力を込める。

「一閃流三の型」

 タカアキは地面を蹴って一気にブラートに肉薄する。その勢いのまま、両手の得物にて怒涛の乱打をブラートに叩き込んだ。

桜花(おうか)!」

 一瞬で計数十もの打撃を与える技だが、ブラートは槍で全てを弾いてみせた。

「ぐっ、速えぇ」

「フッ、アカメにゃ劣るがなかなかのモンだろ?」

 言って今度はブラートが仕掛けて来た。槍をまんべんなく振るい、タカアキを追い詰める。完全には捌ききれないタカアキに徐々に傷が増えていった。

「どうしたどうした、防戦一方じゃねぇか。そんなんじゃタツミの居場所は聞き出せないぜ!」

「言われなくても━━」

 猛攻に耐えていたタカアキは直後、防御をかなぐり捨てて離脱を優先した。

 結果防御を捨てた代償として脇腹に手痛い一撃をもらったが、ブラートて距離を取れた。

「へぇ……」

 感心するブラートをよそに、タカアキは刀を鞘に収める。

「一閃流一の型……」

「おいおい、斬撃じゃインクルシオの装甲は抜けないぜ」

 手の内を知っているのか、ブラートは自らの鎧の胸を叩く。確かに一の型は居合い技。帝具であると思われる鎧に対して効果は薄い。

 だがタカアキもそんなことは承知だった。

「━━参る!」

 タカアキが欲しかったのは速度。彼が得意とするのは居合いの型で、速さにも優れている。故に一の型のスタートの形だけとったのだ。

 ブラートでも反応出来ない速度を。

 かわしきれない一撃を。

 そして確実に鎧の中にダメージを。

 それを可能にする方法は一つしかなかった。

 タカアキは全身全霊をもってブラートに突貫した。その速さは過去最速。さすがにブラートも驚き、反応が遅れた。

「喰らいやがれ!」

 怒号と共に放たれた一撃。型も何もなく、ただただ全力の一撃。

 刀の柄による打撃だ。工夫したとすればその突き方。

 一瞬反応が遅れたにも関わらず何とか槍で防いでみせたブラートだが、驚きで目を見開き、半ば感心していた。

 理由はもちろん先ほどのタカアキの一撃だ。

「鎧通し……か? ノインテーター(こいつ)で受けた感覚が軽かったな」

 ちょっとした工夫……それは刀の柄による鎧通しだった。その名の通り鎧を飛び抜き内側に衝撃を叩き込むものだ。一閃流の型にはないが、タカアキは簡単なものなら習得していた。

 ……だが、それは防がれてしまった。つまりタカアキの勝機が限りなくゼロに近付いたのと同義。

 脇腹の負傷も無理な加速で開き、タカアキは膝を付いた。それでも戦う意志は失われず、ブラートを下から睨み付けた。

「ハハッ。帝具相手に帝具なしでよく頑張ったもんだぜ。ザンク倒したのも、あながちマグレじゃなさそうだ」

 ブラートが感心しきって笑い飛ばすが、タカアキはそれどころではない。

 チラリと隣の戦闘を窺うとやはりと言うべきか、アリアも劣勢に追い込まれていた。常に悠然とした態度を崩さないアリアには珍しく、額にしわを寄せ、汗を滲ませていた。

 勝ち目はない。分かっていたことだが、無謀が過ぎた。

 ━━こうなったら。タカアキが決断を下そうとした瞬間、タカアキの近くに何かが倒れ込む音がした。

 すぐさまそちらに目をやると、苦しそうに腹を抱えたアリアだった。

「ふー。まったくてこずったよ。なんつー女だ」

 獣の様な腕を振り回しながらこちらに歩み寄って来たレオーネ。綱糸によるものか、身体中に切り傷がある。もっとも、どういう理屈か塞がりかけていたが。

「帝具の再生能力……ここまで厄介だとは思わなかったわ」

獅子は死なず(リジェネレーター)……私の奥の手みたいなもんだ。しぶといぜ、私は」

 二人の会話でタカアキは戦闘の経緯をなんとなく察した。

 綱糸で殺しきれないなら、アリアの勝機は薄い。四針で攻撃したくても、そもそもかすりもしなかったのだろう。毒が効かなかった可能性も大いにあるが。

「さーて、じゃあサクッと……」

「まあ待てよレオーネ」

 いよいよアリアにその強靭な爪を伸ばしたレオーネを、ブラートが制止させる。

「こっちの兄ちゃんはナイトレイドに入れようぜ。それか革命軍で働いてもらうか」

「なんだと……」

 ブラートの意外な言葉に、タカアキは驚きを隠せない。それはレオーネも同じで、不審そうに眉をひそめた。

「なんだよブラート。惚れたか?」

「ハハッ、誤解を招く様なこと言うなよ」

 冗談めかしながらも違うとブラートは首を振った。

「腕はなかなかいい。鍛えりゃそれなりの戦力にゃなるだろ。元々人手は足りないし、悪くはないと思うがな」

「……そうだな。仲間になれば、タツミともすぐ会えるぞ?」

 ブラートとレオーネに言われ、タカアキは俯いて考え込んだ。

 殺し屋の仲間になる気は毛頭ないが、着いていけばタツミの居場所も分かるだろう。ただ、それは既に殺されていなければの話で、「すぐに会える」があの世での話ならまるで意味がない。

 今この場で二人がタカアキを簡単に殺せることを考えると、その可能性は低いが。

 ならいっそ着いていってタツミと合流し、こっそり脱け出すべきではないか。難しいだろうが、自分の中に眠るあの力を使えば可能性は十分にある。

 その間意識が飛ぶのがネックだが、過去に発動した中でタツミやイエヤスなど仲間に危害が加わったことはなかった。

 今はこれに賭けよう。

 タカアキは覚悟を決め、口を開いた。だがその前に必ず確認しておきたいことがあった。

「分かった。そちらに従う。ただし、アリアは見逃してくれ。そうすりゃ着いてく」

 背後でアリアが息を飲む様な気配がしたが、タカアキはブラートとレオーネを睨み付け続けた。

「ああ、そいつは無理だな」

 しかしその言葉をレオーネは切って捨てた。

「殺し屋が獲物を逃がすなんてあり得ないし、前に逃がしたやつなら尚更だ。もちろんザンクも殺すよ」

「おい待てよ。ザンクの帝具は俺たちが回収した。その内警備隊に捕まるだろうし、殺しもしないだろ! それでも殺る気か!?」

 確かに帝具を失ったザンクにもはや力はなく、警備隊に逮捕されるのも時間の問題だ。だが、それでも……。

「当たり前だ。首斬りが大好きで辻斬りになったやつが、そう簡単に改心するとは思えないね。……なら殺すだけだ」

 レオーネは変わらず無表情で言ってのけた。

「おい、レオーネ……」

 さすがにレオーネの言い方に難を感じたか、ブラートがレオーネの肩に手を置くが、彼女はそれを払った。

「つべこべ言わず着いてきな。別にここでその犯罪者と一緒に殺してやってもいいんだぜ?」

 ━━タカアキの中で何かが千切れた音がした。

 もしかしたら理性だったかもしれないし、あるいは己の中の力を縛っていた鎖だったかもしれない。

 分かることは一つ。

 こいつに、こいつらにだけはアリアを、タツミを、大切にしているやつらを殺させる訳にはいかない。

 タカアキはゆっくりと立ち上がった。初めてナイトレイドと邂逅した時と同じく、圧倒的なオーラをまといながら。

 レオーネはそれに戦慄しながらも喜んでいた。

 彼女は元々強敵と戦い、勝利することを楽しみにしていた。そこで目星を付けていたのがタカアキだ。

 レオーネはわざとタカアキを煽り、まんまと力を引き出させたのだ。

「時間はたっぷりある……! 今回は楽しませてもらうぜ!」

 レオーネも全身から闘気をたぎらせ、殺気を高めていく。呼応するかの様にタカアキの闘気も膨れ上がり━━爆発した。

 もはや神々しさすら感じるほどの力を放ち、タカアキはレオーネとブラートを睨み付けていた。

 居立ち振舞いはもはや別人。ブラートでさえも押し潰されんばかりの力を感じた。

 タカアキは一つ大きく息を吸うと、ゆっくりと吐き出した。

「……久々にあのバカを怒らせたのは誰かと思ったが……見知った顔だったか」

 それから発せられた声は間違いなくタカアキとは別の誰かだった。低く威厳に満ちており、まだ若いながらも泰然とした雰囲気をまとっている。

「インクルシオにライオネル……久しいな」

 タカアキはブラートやレオーネにではなく、彼らが着けている帝具に向けて言っていた。

 背後で目を見開いているアリアはもちろん、ブラートやレオーネですら理解が追い付いていない。

 そんな彼らに構わず続けた。

「いつかの決着を着けようか。今度こそ壊してやろう」

 彼らには知らない因縁どもあるのか、タカアキは静かに闘気をたぎらせ始めた。しかし足元で動かずにいるアリアに気付き、そちらに目を向けた。

「ん? エリゼか? 懐かしいな」

「え……な、なんの話?」

 どこか哀愁を漂わせた目を向けられ、たじろぐアリア。そんな彼女の様子にタカアキはふむ、と少し目を細めた。

「……人違いか。悪いな、昔の友人によく似ていた。あの残酷だが、心優しかった娘にな」

「なにを……」

 話を理解出来ずに呆然としているアリアから目を離し、再び二人を……いや二つを睨む。

「あの馬鹿が刀を落としたそうだが、ちょうどいいハンデだな。来い。全員まとめて相手をしてやろう」

 全員とは誰か━━理解出来なかったのは一瞬で、ブラートとレオーネは駆けつけた仲間の姿を確認した。

「無事か!? レオーネ、ブラート!」

 いの一番に飛び出したのはアカメ。と彼女とペアを組んでいたタツミ。

「凄まじい気配を察して来てみたけど……」

「どうなっているんです!?」

 続いてマイン、シェーレのペアも到着した。

「げっ、あれ、もう一人のアキか!?」

 到着するや否や、豹変したタカアキを見てタツミが驚きの声を上げる。

 タカアキに対し、ブラートは警戒しつつもタツミを横目で見やる。

「もう一人の……?」

「ああ……! たまに出るんだけどマジでヤバい。強いってレベルじゃねぇよ、アニキ!」

「タツミか。貴様も久しぶりだな」

 そんなタツミに気付き、軽く手を上げてタカアキは挨拶をした。タツミは知人と認定されているらしく、敵意を向ける様子はない。

 しかしナイトレイド……帝具持ちは別だった。

 さっとナイトレイド全員に目を走らせ、帝具を分析する。計五つの帝具を確認すると、タカアキは微かに口元を緩めた。

「村雨、インクルシオ、ライオネル、パンプキンにエクスタスまでいるのか。さすがに全力でかかるか━━」

 ━━来る!

 その場にいたアリアを含む全員が、タカアキが動き出す瞬間を感じた。しかし動いた後を捉えることは叶わなかった。

 唯一対応出来たのはブラート。一番最初に斬りかかられた彼だけだった。一瞬で数十メートルの距離を詰められ、なおかつ斬りかかられたブラートは、かろうじて槍で防いでいた。

「おい……嘘だろ!?」

「人間にしてはなかなかやるな。インクルシオも使いこなせている。だが━━」

 つばぜり合いから再び一瞬で離れると、タカアキは先ほどと同じように刀を納め、腰に構えた。

 一の型が飛んでくると覚り、槍を縦に構え待ち受けようとするブラートだが、

「一閃流二の型」

「なにっ」

 そこから構えが変化したそれに対応出来ずに、

無月(むげつ)

 二の型をほぼまともに喰らう結果となった。

 さっきまでのタカアキの二の型とは明らかに速度が段違い。十文字斬りの後の突きと動きは同じ。しかしブラートですら斬った後の刃の煌めきを追うのがやっとの速さだった。

 その斬撃を網膜に焼き付けつつ、ブラートは吹き飛ばされ民家へと激突した。

「アニキっ!」

 タツミはブラートの安否を心配し叫ぶが、他のナイトレイドのメンバーはすでに動いていた。

 マインの射撃の援護を受けてそれに突っ込むレオーネとシェーレ。ほぼ同時に辿り着くと、交互に攻撃を開始した。

 レオーネは力に任せて力強く攻め、一方シェーレはレオーネの攻撃のスキを埋める様にコンパクトに攻撃する。ネズミ一匹すら逃さぬと言わんばかりにスキのない攻撃だが、タカアキは全てかわしていた。

 何十と叩き込まれる打撃と斬撃を事も無げにかわしたタカアキは、突如二人の真上に飛び上がった。

 二人の反応が追い付く前には、すでに一撃ずつ柄による打撃を頭に浴びせ、二人を地面に叩き付ける。

 飛び上がったタカアキを見て狙撃を敢行するマインも、狙撃に気付いたタカアキの斬撃による衝撃波によって、家の屋根ごと吹き飛ばされていた。

 タカアキは地面に着地して一つ息を吐いた。そこに間髪入れずにアカメが襲いかかった。

 タカアキに勝るとも劣らない速度で刀を振るい、斬り伏せようと畳み掛ける。しかし刀本体とその鞘で攻撃を巧くいなすタカアキには刃が届かない。

 アカメは攻撃を続けながらも、歯噛みするのを禁じ得なかった。

「チッ。マジで強ぇ……別人だな」

「アニキ!」

 レオーネとシェーレが立ち直り、アカメと共にタカアキに猛攻を加える中、ブラートは民家に身体を預けつつ、立ち上がった。

 そこにタツミが駆け寄り、マインも街角から姿を表した。建物から落下したお陰で多少のダメージは受けたが、戦えない訳ではない。

「アタシもシェーレたちに続くわ。ブラート! タツミも、行くわよ!」

「分かってる」

「あ、ああ……!」

 ブラートは勇ましく、タツミはどこか気乗りしなさそうに頷くと、アカメたちの加勢に向かう。

 ナイトレイド全員が戦闘体勢に入り、自らに向かって来ることを認めたタカアキは、シェーレとレオーネの追撃をかわし、距離をとった。

「さすがに全員同時に相手をするのは分が悪そうだ」

 誰に言うでもなくそう呟くと、刀を鞘に納め再び抜刀体勢に入る。

「東方一閃流の奥義で一掃してやろう」

 ナイトレイドは空気が変わったのを感じた。今までタカアキが発していた闘気が嘘の様に消えたのだ。しかし当然それはナイトレイドと戦う気が失せた訳ではない。

 言うなれば、嵐の前の静けさ。爆発する前兆━━溜めだ。

 力を一気に放出するため、一時的に力を蓄えている。

 無論、ナイトレイドは黙っていない。

「ピンチだが、同時にチャンスだ! 潰すぞ!」

 ブラートの怒号と共にタツミを除く、ナイトレイド全員がタカアキに攻撃を開始した。

 アカメが最速を以て斬り込み、ブラートは力と速さを以て突撃。

 二人を挟み込む様にシェーレとレオーネが続く。マインは四人の間を縫って援護射撃を行う。

 もはや面攻撃と言っても過言ではないほどにスキがない陣形。しかしタカアキは目を閉じて刀を構えたまま、微動だにしなかった。

 しかしマインの銃撃と他四人の攻撃が当たるかどうかギリギリのタイミングで、タカアキはゆっくりと目を開いた。

「━━行こうか」

 彼には総てが見えていた。銃撃の一つ一つ、四人の動きやその服、髪の躍動まで。それがまるでスローモーションであるかの様に。

 必殺のタイミング。敵は攻撃しか考えていない。

 タカアキが勝利を確信し、刀を抜き去ろうとした、瞬間だった。

 決着が着く直前、意外な横槍が入ったのだ。

「いいかげんにしろっ!」

 その場の誰もが予想だに出来なかった声が、戦場に響く。それは明らかに年端もいかぬ子供の声。

 それに一瞬だが同様したナイトレイドのメンバー。タカアキも攻撃するのは止め、マインの銃撃をかわしつつ、必勝距離から離脱した。

 ナイトレイドはタカアキを逃がしてしまったが、それよりも子供が戦場に現れたことを不思議に思っていた。

 だがそれも当然。深夜とはいえ、住宅街で騒ぎすぎた。民家を破壊までしているのだから当然だ。

 全員がその子供の方を向くと、子供は木の棒を構え、大きな瞳に大粒の涙を溜めてナイトレイドならびにタカアキとアリアを睨んでいた。

「これいじょう、ボクたちの町をこわすなっ!」

 理由はそれだった。街には辻斬りや暗殺者など、恐ろしい連中が現れるなどと噂されている。深夜などなおさらだ。そんな中、子供はたった一人勇気を持ってタカアキたちに啖呵を切ってきたのだ。

 遅まきながらそれに気付いた母親が、民家の瓦礫の傍から走り寄って来た。いままでそこに隠れていたのだろう。

「すみません! 何分子供の言うことですから。こ、殺さないでください!」

 母親は子供を庇いながら必勝の懇願をした。警備隊にも通報はしないので、どうか、と。

 ナイトレイドとしては顔を見られた以上、タカアキやアリア同様生かしておく訳にはいかない。

 もしくはナイトレイドが所属している革命軍の工場で働いてもらうしかない。

 アカメは仲間たちに目配せをしてその意図を伝える。一旦子供らを戦場から引き離し、タカアキと決着を着けようとしたのだ。

 それについては、アリアが許さなかったが。アリアは小さく笑い、立ち上がった。

 ようやくアリアを思慮の外へ追いやっていたことに気付き、ナイトレイドはアリアへと視線を移した。

「ねぇ、今日はいい月夜だと思わない?」

 視線を集めたアリアは、どこか熱が籠った声で話し始めた。確かに空には満月が浮かび上がって、タカアキたちをその光で平等に照らしている。

「光が強ければ、影も濃くなるわよね?」

 アリアが、ゆっくりと手を上げた。その動作に意味を見出だせず、ナイトレイドは固まったまま動かない。

 アリアはチラリと子供……そしてその背後にある瓦礫と化した民家を見ると、手を降り下ろした。

「急用が出来たわ。すぐに片付ける」

 そう言ったのと、完全に手が降り下ろされたのが同時だった。そしてタツミを含むナイトレイド全員と、タカアキが指の一本に至るまで動かせなくなるのもまた、同時だった。

 タカアキ以外の全員が困惑し、唯一動く頭を動かし周囲の状況を確認する。

「影縫いか。やはり……」

 自らの影に視線を落とし、次にアリアへと移すタカアキ。その瞳には何かを確信した色が映っていた。「だが、何故俺まで?」

「……それ以上傷が開いたらヤバいでしょ」

 アリアが言っているのはタカアキが変わる前に負った、脇腹の傷。

 傷自体は深くないが、身体に負荷のかかる行動をしたせいで開ききっている。

「影縫い……だと!?」

 聞き覚えがあるのか、アカメは目を見開く。

「知ってんのか、アカメ?」

「ああ。確か、影を貫くことでその本人も縫い止めてしまう技だ」

 言われて影に視線を落とすと、確かに細い針が影に刺さっている。

 アリアの四つ目の四針。奥の手だ。

 先の子供に気を取られたスキを突いて、アリアは四つ目の四針……止針を影にワイヤーを使って打ち込んだのだ。タカアキに気を取られ、アリアを無視していた間にも準備だけはしていて、その瞬間を待っていた。

「……さあ、選んでちょうだい」

 それで消耗したのか、アリアは酷く疲労していた。それでも凛とした表情は崩さない。

「このまま殺されるか、今すぐ尻尾を巻いて逃げるか。……三秒で決めなさい」

「何だと……」

「━━いち」

 ブラートが返すがアリアはすでにカウントダウンを開始。取り付く島も、時間も与えない気だ。

 ブラートは一瞬で考えを巡らし、

「分かった。退こう」

 苦々しく言った。

 それに納得出来ないタツミは反論する。それをブラートは制した。

「タツミ……いいか。戦いに勝つには熱いハートとクールな頭脳が必要だ。熱いだけじゃダメなんだよ。……ここは退くべきだ」

「そう……いい判断よ……」

 ブラートが仲間に目配せし、頷くのを見たアリアは影縫いを解除した。

「少しでも不審な動きをしたら、一閃流の奥義が飛ぶわよ。……さっきあの子供が来なかったら……分かるでしょう?」

「多分、それは俺のセリフだがな」

 アリアとタカアキの言葉を背に、特にレオーネが納得のいかない仕草を見せながらも、ナイトレイドは闇へと消えていった。

 アリアはそれをすぐに忘れ去り、子供らへと駆け寄った。

「父親助けるわよ。手伝って」

 彼らを通り越しつつ、アリアは瓦礫へと向かった。一瞬きょとんとした二人だったが、すぐにアリアへと続いた。

「待て娘。俺の影縫いは何故解除しない」

 タカアキの声がアリアの背中からかけられた。彼の言う通り、タカアキだけがいまだに縫い付けられていた。

「動くとヤバいって言ったでしょ。あなたは後回し」

 早口でタカアキに顔を向けずにアリアは言った。そのまま瓦礫に寄る。

 そこには一人の男性が瓦礫に下半身を埋めていた。それは、アリアの後から駆け寄ってきた子供の父親だった。

「もう少し、辛抱して」

 アリアは呟く様に言った後、父親を押し潰している瓦礫に綱糸を絡め、周りの建物を利用して瓦礫をどかした。

 持ち上がった瓦礫から父親を救出し、母親と子供は弱々しく微笑む父親にすがり付いて泣き出してしまった。

「これが急用か」

 その光景を見て安堵のため息を吐くアリアの背後から、タカアキが声をかけた。

「影縫い……自分で解けたの……」

「力がだいぶ弱まってたからな」

「そう」

 アリアは息を整えると、しゃがんで子供と視線を合わせた。

「悪かったわ。もう少し場所を選ぶべきだった」

「ううん。おねぇちゃんありがとう!」

「礼なんか言わないで。元はと言えば、家を破壊したこいつが悪いんだし」

 さらっとタカアキを悪者にしつつ、首にかけていたペンダントを外し、子供に押し付けた。

「弁償したいけど、もう生憎無一文だから……代わりと言ってはなんだけど」

 綺麗な緑色の宝石が付いたもので、実はアリアの母親から譲り受けた家宝だ。

 さすがに母親や父親に申し訳ないと言われたが、アリアは上手く言いくるめてペンダントを渡した。

 その後は父親に応急処置を施し、朝になったら病院に行く様に指示をした。別れるまでの間、三人はお礼を言いっぱなしだった。

「本当に……ありがとうございました」

 もう何度目か分からないお礼を言って、三人は半壊した家へと入っていった。

 それを見送りながらも、アリアは複雑そうな表情だった。

「自分の両親と重ねたか?」

「そんなんじゃないわ」タカアキの言葉をすぐに否定した。「ただ単に貴族の義務ってやつよ。保護すべき民草を守る義務が、貴族にはあるもの」

 言った後、もう貴族じゃないか、と自傷気味に呟いたが。

「サヨやイエヤスは違うみたいだな」

 タカアキが言うと、一つ間を空けて、アリアは嘆息した。

「あなたはタカアキなの? それとも別人?」

「別人だ」タカアキは事も無げに言った。

「ただ、あいつの記憶は共有出来る。逆は出来んみたいだがな」

「身体は一つってことね。なら一つしかない身体は大切にしなさいよ」

 アリアは無理矢理にタカアキを寝かせて、脇腹の応急処置を始めたのだった。

その後、アリアが簡単に脇腹の処置を終えると、タカアキは何事もなかったかの様に元に戻った。

 力を使った自覚はあったが、その間に起こったことは覚えていないようだ。裏のタカアキ━━常に表に出ている人格を便宜上表とする━━の言った通りで、アリアは簡単にあらましを説明するに止まった。その際、タツミが完全にナイトレイドに加入していた事実は伏せられ、タツミが生きている旨だけを伝えた。

 タカアキはそれを聞いてほっと一息つくと、タツミを取り戻す決意を固めていた。

 あまりゆっくりしていて警備隊が来てもやはり面倒なので、今度こそタカアキたちは早々に場を後にした。

 ザンクは分かりやすい場所に縛り付けておき、帝具はもちろん回収した。

 ドクのオーダーはクリア。帝具使いを倒したことになる。

 つまり本番はこれから。タツミを取り戻すため、ナイトレイド以上の実力を身に付けなければならない。

「行こう。ドクに報告だ」

 タカアキは脇腹を押さえつつも、力強い声で言った。

「タツミ……待ってろよ。絶対に殺させやしない!」

 タカアキは強くなってタツミを助け出す決意を新たにした。




剣術指南こーなー ~東方一閃流~

淡雪(あわゆき)
 …一閃流一の型。要するにただの居合切り。速すぎて相手は死ぬ。

秋月(しゅうげつ)
 …二の型。十字にぶった切った後、突く。速すぎて相手は死ぬ。

桜花(おうか)
 …三の型。刀をトンファーに見立ててめった打ちにする。速すぎてやっぱり相手は死ぬ。

雪月花(せつげっか)
 …一閃流奥義。敵集団をなで斬りにした後、居合で斬り伏せる。やっぱり死ぬ。
 ちなみに乱れ雪月花は関係ない。マジでない。ほんとに最近知った。

一応、タカアキは奥伝(強いとは言っていない)。
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