アリア「自分で言うのもどうなの?」
タカアキ「いるじゃん。今まで登場した中ではタツミとザンク」
イエヤス「片方辻斬りじゃねーか!」
アリア「と言うか初めて魚以外の言葉を発したわね」
タカアキ「……はっ! 鮪鰈鯛鱚鰻鱈鰤鰯鰹鮍鯖鯔鱒……(ぶつぶつ)」
イエヤス「おま、余計なこと言うから!」
アリア「…さすがに後悔したわ…」
ドクに治療してもらったおかげでタカアキは、次の日の昼には元気になっていた。傷もだいぶ塞がっており、理由を訊くと「西方の特殊な治療技術を使ったんだよ」とドクは答えた。
その日の昼食時。タカアキはドクにイエヤスも訓練に参加させてくれる様に頼んだ。イエヤスの槍さばきは中々のもので、実力的にもタカアキとも互角だ。
ドクはイエヤスの回復を待ってから訓練を開始することにした。曰く「準備に少しかかるから丁度いい」だそうだ。
「バンダナは案外タフだな。これなら四、五日リハビリすりゃ大体の調子は戻るだろ」
「え、マジ? 凄くね?」
ドクがイエヤスの体力を誉めるとタカアキは驚きを隠せなかった。
「まあもちろん、俺の術のおかげだがな。それでもバンダナの体力には目を見張るものがあるぜ」
ともかく、イエヤス以外にはある程度暇が出来てしまった。タカアキはその時間はもったいないと考えていた。前の一週間と同じ様に、またナイトレイドに人々を殺されてしまうかもしれない。
今の実力ではとても敵わないし、制御出来ない力に頼る訳にもいかない。そこで出来ることを考えた結果、昼の帝都を見回ることにした。
「夜に帝都を見たのに意味あるの? ナイトレイドの活動は夜だし」
それにはアリアが疑問を口にした。
「いや、夜と昼ではだいぶ街は違って見えるぜ」
それに対してはドクがフォローをした。
「そこで活動する以上、両方の顔を見とくのは基本だな」
それにアリアは興味なさげに頷き、自分は四針の補充をするために森や山に出ることに決めた。
タカアキたちはそれぞれナイトレイドを倒すため、動き始めた。
タカアキの昼の巡回が始まって三日。ようやくスラムを見終わり、今日は帝都の城下町の半分の下見を終えた頃だ。
夜と違い人が多く、活気に溢れていた。と言っても帝都に来たばかりで色眼鏡をかけていた数日前と違い、人々はどこか表情は暗かった。もちろんオネスト大臣の圧政のせいだ。賑わっている様に見えても実際は闇を抱え込んでいる。
ナイトレイドもそうだが、出来ればこちらも何とかしたかった。
大臣の圧政と、得体の知れない暗殺者集団が跋扈する街。とても居心地がいいとは思えない。しかも暗殺者の方に至っては革命軍と言う大きな組織で動いている。いつ帝都に本格的に牙を剥くか分かったものではない。抜け目がないらしい大臣がその辺りをどう処理するかは分からないが。
悶々としながらも街を見回っていると、少女が一人でかなりの大荷物を担いで歩いていた。昼に帝都を歩いていると、そういった手合いに何度か巡り合った。
女の子の場合は初めてだったが、タカアキの行動はいつも決まっていた。
少女に近寄り荷物をひょいっと持ち上げる。
「よ、精が出るな。手伝うぜ」
タカアキが荷物を代わりに背負うと少女は一瞬驚いた表情を見せた。が、トレードマークの栗色のポニーテールを揺らして嬉しそうに笑ってお礼を言った。
よく見ると少女の隣には老婆がいて、荷物は老婆のものらしかった。
老婆の家へ荷物も届けると何度もお礼を言われ、少女と一緒に茶菓子をご馳走になってしまった。
「ありがとうございました。私も助かっちゃいました」
老婆の家を出た後、少女は腰を折って深々とお辞儀をした。
「いや、いいって結局俺も半分持ってもらったし」
「いえいえ、貴方のお気持ちは本当に嬉しかったです! まだまだ正義の心を持った人はいますね!」
本当に嬉しそうに笑顔を見せる少女に、タカアキはまあいいかと照れ隠し込みで頭をかいた。
「そう言えばまだ名乗っていませんでしたね。私は帝都警備隊所属のセリューです」
ビシッと敬礼する彼女は確かに警備隊の制服を身にまとっていた。セリューは常に自分にくっついていた犬の様な姿の小動物を抱き抱えた。
「この子はコロちゃん。実は帝具なんですよ」
「え!? 犬じゃないの?」
ずっと犬だと思っていたタカアキは目を見開いた。確かに鳴き声は「キュゥゥ」などと犬っぽくないとは思っていたが。
「ヘカトンケイルっていう名前らしいです。可愛くないので私がコロって名付けました。それで貴方の名前は……?」
「あ? ああ、俺はタカアキ。アキで構わんぜ」
「分かりました、アキさん! 正義の味方同士仲良くしましょう!」
強引に手を掴まれてブンブン振られながらタカアキは苦笑いするしかなかった。正義の味方って……この子大丈夫か? と思ったのは秘密だ。
いい子そうではあるがそこが少し残念だった。
「そう言えば、警備隊なのに一人で行動してるんだな」
基本的に警備隊は二人一組で行動する。もしかしたら帝具持ちで優遇されてるのかもしれないが、一応タカアキは訊いてみた。
「……実は私、ナイトレイド……帝都を騒がせている賊を追っていて。今夜現れる目星が付いたので下見をしてたんです」
「! ほんとか!?」
「警備隊情報ですので間違いありません。……もしかしてアキさんもナイトレイドを?」
少女とは言え警備隊が相手なので一瞬戸惑ったタカアキだが、折角だったのでかいつまんで事情を説明した。
友達がナイトレイドに拐われ、それを助けるために腕を磨いている話をセリューは熱心に聞き入っていた。
「なるほど……それなら今夜、私と一緒に来ますか?」
「え?」
「ナイトレイドが現れるのは今夜。帝都警備隊は全力をもってナイトレイドを撃退するつもりです。人手は多い方がいいですし、どうかなと」
言われてタカアキは考え込む。今の実力の自分が付いて行って戦力になるのか。“力”を使えば勝負になるどころか勝てる可能性は高い。が、それでタツミを助け出せる訳ではない。あくまでも目的はタツミの解放で、ナイトレイドを倒すことではないのだ。
帝具使いが味方にいれば心強いが先走ってつまずいては意味がない。しかし今から特訓して力を着けていくより手っ取り早い。何よりナイトレイドがいつまでもタツミを生かしておくとは限らない。
タカアキは覚悟を決めた。
「分かった。どこまで力になれるか分からないけど……タツミを取り戻すためだ。手伝うよ」
「ご協力感謝します! 正義の味方同士、力を合わせて頑張りましょう!」
今度はタカアキの方から握手をし、具体的な作戦内容に移った。
家の前でいつまでも話し込む訳にもいかないので、近場にある飲食店に移動しそこで話し合うことにした。
適当にオーダーを出した後、セリューは机の上に帝都の地図を広げた。
「今回私は帝具持ちということで遊軍を任されています。ですのでアキさんは私のサポートをお願いします」
「ああ。でも具体的に遊軍って何をするんだ?」
タカアキが疑問を口にすると、セリューは地図上に丸で囲まれた三つの地点を指差した。
それぞれはあまり近くはなく、共通している点は帝都の有名な資産家の家であることだった。
タカアキはアリアの家での出来事を思い出し、顔をしかめた。アリア一家が帝都の役人であることは大体の検討は付いていた。イエヤスとサヨが革命軍に所属していてかつ重要な任務を担っていたことを考えると、ナイトレイドが総出でアリアの家を襲撃したのも頷ける。
今回は資産家という理由で狙われている様だが、ナイトレイドがこの三ヶ所━━あるいは全ての地点に現れる可能性もある。
「私達は順番にここを巡回します。ナイトレイドをこのどこかで見付けた場合、私達はぐに向かうことになっています」
「資産家の人達が殺される前には止めたいところだな……」
警備隊員による強固な防衛網は引くつもりらしいが、相手が相手だ。暗殺される可能性の方が高い。
「私達は私達の出来ることをやるしかありません。共に悪を撃滅しましょう!」
目を輝かせながら言うセリューを見ていると心強いと思う一方、どころか薄ら寒さも感じた。どこか狂気を孕んでいると言うか……ネジが飛んでいるイメージだ。
「確かアキさんにはお仲間がいるんですよね? 協力を要請しないんですか?」
作戦の練り直しが終わり、ジュースをすすりながらセリューが問うた。
「ああ、あいつらはいろいろ準備で忙しい」
と答えたものの、実際のところはまだ実力的には未熟な二人をナイトレイドと戦わせたくなかったのが本音だ。タカアキ7の場合は最終手段としてダンテを呼び出して窮地を切り抜けられる。が、イエヤスとアリアは違う。
前回アリアが助かったのもたまたまで、レオーネに殺されていた可能性も多々ある。
タカアキが何よりも優先するのは仲間の命だ。優先順位としては最上位で、他の何を犠牲にしても……たとえば、ナイトレイドの人間を殺してでも救うべきだと考えている。タカアキにしてもそういった区切りはつけている。
「分かりました。二人で頑張りましょう。……ふふっもうすぐ逢えるぞ、ナイトレイド」
ボソリともらし狂気に顔を歪めるセリューだった。