ゆるキャン△女子たちと、ちょっとエッチな日常 作:白黒パーカー
人肌が恋しくなる、冬のある日。
数日前に借りていた本を返しに行くため、寒い廊下を歩いて、目的の図書館に訪れた。
中に入ると受付テーブルに、クラスメイトの志摩がいる。
お団子にまとめられた髪がチャームポイントな彼女は俺に気づくと、軽く手を挙げた。
「よっ」
「志摩ー。お前に会いたくて来たぞー」
「おー、うれしいー。抱いてー」
「教室ではそんな冗談言わないくせに」
「それはお互い様じゃん」
志摩は表情を一切変えることなく、手元に持っていた雑誌に視線を戻すが、俺も気にせず彼女の元へ行く。
いつも通りのやり取り。
とはいえ、教室ではあまり話したことがない。授業とか用事がある時に一言二言話すぐらいで、クラスメイトのほとんどが俺たちの関係を知らないだろう。
特別な関係でもないが、他人でもない。
こうやって人がいない時にひっそりと親しく話せるぐらいには親しい。
目立ちたがり屋じゃない同士のこの関係を、会好きな自分がいた。
「人、いないな」
「寒いからね、誰も来ないや。私もストーブがなかったらサボってたかも」
彼女の前に立ち、辺りを見渡す。いつもはもう少し人で賑わっているのだが、周りには自分たち以外誰もいない。
「斉藤は?」
「家族でお出かけだって」
「仲良しだな」
ペラペラと雑誌をめくる音、熱を放つストーブの音だけが響いていた。
雪は降っていない。けど、とても寒い。この時期は早々に家に返って、暖かい自宅で過ごすことが一番だ。
すると、雑誌を机に置いた志摩が目を細めて、ちらっと見つめてくる。
「今日は2人きりだぜ?」
「冗談はよせやい」
言って、志摩がカッコつけるように薄く笑みを浮かべた。無口でダウナーに見える彼女だが、意外とノリが良い。
まだ交流していない時は、会話らしい会話を一回もしたことがなかったが。今ではこんな風に冗談を言ってくれる仲にはなった。
もっとそれをクラスメイトの前で出せたら、モテるだろうに。そこが彼女らしいといえばらしいのだが。
それに、彼女がモテたらきっと今の関係はなくなってしまう。それを考えると。
「……とはいえ、人がいないと寂しいな」
内心を誤魔化すように言葉をつむぐ。
委員会の仕事とはいえ、誰もいない部屋で一人というのは暇だし、寂しい。
志摩は俺を見て、ふーんと声を漏らし、なぜかマフラーで口元を隠した。
「……私はありがたいけどね」
モゴモゴと何かをつぶやいた後、こちらを見上げる。
「ところで池田、本返しに来たんでしょ? ほら、ちょうだい」
「……そうだな」
なにを言っていたのか気になるが、まぁ、追求することでもないだろう。そう考えて、持ってきた本を差し出す。
すると、手渡した本の表紙を見て、志摩に鼻で笑われた。
「子どもっぽいな」
「オカルト本読んでるやつに言われたくない」
科学研究本。男の子なら一度は読んだことがあるだろうロマン本。それをアイツは鼻で笑いやがった。
許せねぇ。
今だってどうせ手元にあるのはオカルト系の雑誌だろうに。
そう思い手元を見たけど、どうやらオカルト本ではなさそうだ。
「それ何読んでるの?」
「ん、これ?」
ちょいちょい、と手招きしてくる志摩。どうやら隣に来いと言っているようだ。
断る理由もなく、彼女に従い隣にあるもうひとつの椅子に座る。
——ずいっと、体ごと近づけてきた。
「あっ……」
顔近っ、恥ずかしいんだけど。
よく見たらまつげが長いんだなぁ。とか、謎にキモイ新発見をしてしまった。
「買わないけどさ、こーゆーの見てると楽しいんだよね」
それに反して、志摩は距離感を気にしていない。視線にすら気づいてすらいない。
キョドる自分を悟られないように、何気ない様子で雑誌を見ると、テントや折りたたみの椅子、何に使うのかよくわからないがおしゃれっぽい道具やらが載っていた。
「……ほんと好きだな、キャンプ」
志摩と初めて交流したときも、確かキャンプ場だった。
たまたま訪れた場所でたまたま出会った彼女。
学外でクラスメイトと出会うというのは、どこか非日常的であの時はすごいワクワクしていて、気づいたらここまで交流が続いていた。
「まぁね。先週も本栖湖行ってきたし」
「寒いのによくこの時期に行けるな。夏じゃダメなのか?」
「夏?」
うーんと天井を見ながら、志摩が考えるようにつぶやく。
「別に悪くないと思うけど。私は寒い時期の方が良いかな。夏は人が多いし、虫もウザイから」
寒いけどね。なんて、一言つぶやいて笑う。
なるほど、夏のキャンプも色々大変なんだな
「それじゃあ、逆に海とかは興味ないの?」
疑問に感じたことを聞くと、困ったような顔をする。
「海? 海かー…………どうなんだろ? あんまり行きたいとか、思ったことはないけど」
腕を組み、体を斜めにしながら悩む志摩。本当に考えたことがないのだろう。
俺も彼女が海に行くところを想像してみる。
「まぁ、たしかに志摩が水着着て海行くとか似合わないな」
「むっ」
やはり海で水着を着る彼女を想像できない。
うんうんと頷き、横を見ると彼女が不満げにジト目を向けてきた。
「な、なに?」
「私だって海ぐらい行けるし。水着だって着れるし、…………なんなら、池田にだって余裕で見せれ」
ジト目を向けて、志摩が話している途中。
カツン、と。何かが止まる音が耳に入る。
「あ」
「やば、切れちゃった」
2人して音の方に目を向けると、どうやらストーブが切れてしまったみたいだ。
「うわぁ、先生に言いに行かないと」
うんざりするようにため息をこぼす志摩。
まだ完全に冷えてはいないが、すぐにこの部屋も冷えきってしまうだろう。それを想像したのか、彼女は手をする。
ふと目が合う。
「もう手が冷たいよ……。ほら、触ってみ?」
「お、おう」
両手を差し出して、唐突にそんな提案をしてくる志摩に、思わずどもって、オーケーしてしまった。
え、これ触って大丈夫なの?
やっぱり断るタイミングをなくし、おずおずと彼女の手に触れる。
水着とは違い、こちらは予想通り、ほっそりとした彼女の手がひんやりと冷えていた。
女の子らしく柔らかいんだなぁ、なんて感想が思い浮かぶ。
「変なこと考えてない?」
「え、いや、志摩のことはそうゆう目で見たこと……ないけど」
自分から触らせておいてそんなこと言われても困る。こっちは緊張して、変なことしないか不安なのに。
内心が悟られないように嘘をつく。
「ほう、それは安心した」
言うと、志摩はふーんと鼻を鳴らす。
バカにしてるのかと思いきや、何事か思案し艶っぽい笑みを浮かべて、彼女はゆっくりと口を開く。
「じゃあ、池田が温めてよ」
「はぃッ!?」
思わず叫んでしまった。いや、叫ぶだろ、これは。
しかし、志摩はまったく気にした様子を見せず、わざとらしく小首を傾げる。
「別に私のことそういう目で見てないでしょ? なら、大丈夫だよ」
ふふ、と笑いながら、とんでもねぇことを言われた。
初めて見せる彼女の一面に頭がパンクしそうだ。とにかくこれは断らないと。
「いや、それとこれとは別だろ……」
「意外と意気地無しだね」
「は? 別にそれぐらいできますけど」
カチンときてしまった。
別に志摩のこととかどうも思ってないし。というか、なんで俺がそこまで言われないといけないんだ?
一度、そう考えてしまうと断る選択肢はなくなってしまった。
「で、どうやって温めればいいんだ?」
「ん……。そこに座ったままでいて」
数秒悩み、志摩は席から立ったかと思えば、なんと俺の膝の上に座りやがった。
まるで椅子のように、彼女は俺にもたれかかってくる。
「お、おう……」
思いのほか大胆な行動に声が漏れた。
なにより、触れる彼女の体にドキマギしてしまう。
ちっこくて大垣よりもスレンダーだから、大したことないと考えていたが、思いのほか太ももやお尻がモチモチして柔らかかった。
手はあれほど冷たかったくせに、スカート1枚越しに触れる彼女の肌から、熱がじんわりと広がっていく。
気が付けば、口の中がカラカラに乾いていた。
「……どうしたの? やっぱり照れてる?」
表情が見えないがこちらを挑発しているのだろう。声音だけでわかる。
今にも下半身に血が巡りそうになるのをなんとか堪えて、口を開く。
「……そ、そんなわけ。ただお団子が顔近くにあったから困ってただけ」
「へー」
意外だね、と感想を述べ、 後ろを少しだけ振り返る志摩。マフラーのせいで口元が見えず、どんな表情をしているのかわからないのがズルい。
なにより、俺の上でモゾモゾと身動きされると本当にヤバい。
俺の顔をチラ見していた、志摩の目が細まる。
「ほう。それは悪い、ねっと!」
一度立ち上がる志摩。
ようやく止めてくれたのかと思えば、顔がひくついた。
なんと、今度は俺に向き合うように馬乗りになってきたのだ。
スカートがふわりと浮かび、その中が見えそうになる。
彼女の手が俺の両肩に乗せられて、顔が近づく。それは雑誌を見せてもらった時より、比較にならないくらい近かった。
「おま、これはさすがにやり過ぎだろ⁉︎」
「……ふ、ふん。やっぱり照れてるじゃん。意地なんて張らなくてもいいのに」
吐息が混ざり合うほど近くにある。
さすがにやり過ぎたのか志摩も顔を真っ赤に染めていた。
そんな風になるなら、やめておけば良かったのに。その一言すら喉からでてくれなかった。
今にも泣き出しそうな潤んだ瞳が真っ直ぐに、俺を見つめる。
動けない。
動きたくないのか、動けないのかわからないくらいには感覚が麻痺していた。
「…………」
「…………」
沈黙が続く。
この光景を誰かに見られたら、確実に勘違いされるだろう。どう考えても誤魔化しようがない。
「…………わっ」
震える志摩の声。
いつもよりも高い声音は言葉の続きを発することなく、口をパクパクさせる。
瞳の中でぐるぐるとうずまきが回っているのを幻視した。
「わ、わたし、灯油入れてもらえるよう先生に言ってくる‼︎」
「……お、おぅ」
限界だったのだろう。
そう言って俺から降りた志摩は、脱兎のごとく図書室から出ていった。後に残ったのは、放心する俺だけ。
そのまま俺は、机に力なく項垂れる。
心臓がドキドキとうるさい。
「い、意識しないほうが無理だろ……」
……え、戻ってきた時、俺どんな顔で会話すればいいの?
寒いのに、体の熱は当分引かなった。