星の母は。 作:彼女
彼女は、矮小な星の母だった。
白を基調とした、小さいながらも非常に栄えた、活気のある星だった。
小さいながらも海があり、小さいながらも山があり、全てが箱庭のような美しさを持っていた。
この等身大の箱庭の母たる彼女は、民に愛され、鳥に愛され、花に愛されていた。
彼女は、自身の、有史以来最も多いであろうトリオン能力に付随した、
彼女の
この
観測範囲が広がれば広がる程精度が増し、国一つを観測できれば、その国の10年後を見通せるだろうと。
生まれてきた予知能力者により栄えた国は山ほどあった。
大災害を防いだ。戦争から国を守った。落ちる花瓶から猫を守った。
しかし、人が大勢死んだ。
王の首が獲られた。
救ったはずの猫が死んだ。
国が滅んだ。
そう、彼らは人の身。
限界があった。
彼らは、せいぜい国一つを包む、それも、空を飛ぶ小鳥を、地を這うネズミを見逃すような、
その程度の観測しか行えなかった。
本来は、近界を丸ごと観測できた場合好きな国の1000年後の未来まで、
1万年後の未来まで、1億年後の未来まで、無限遠に続く未来を、
確定したたった一つの道筋として予知できるもの。
それが「予知」であったのだが、彼らには、他の国や、自国内の見落としと言う変数があるからこそ、
見落としにより変動する、俗に言う「可能性の未来」を複数個見ていた。
実力派エリートの予知とは違い、選択肢などなく、1mmの誤差もないただ一本のレールに沿って全てが動く。
しかし、だ。
彼女は、準備さえすれば近界全てを完璧に観測し、予知する事が理論上出来るのだ。
そう。 彼女は、人の器を超越した、星の器。
彼女は数多の時間を費やし、とうとう机上の空論を現実にしてしまった。
全て。
近界全てを観測してしまった。
一瞬しか未来予知の内容を見れず、結果として内容はほとんどわからなかったが、確実に分かる事が有った。
「道は一つしかない。」
道中で分岐することもなく、消えるわけでもなく、ただ一本の道。
まるで動画のシークバーのような、再生したい箇所を選べば見れるような。
エンディング分岐どころか、選択肢すら、与えられているようで何を選ぶかが決定されていた。
実力派エリートの足取り全てが。 予知のタイミング全てが。
彼女の足取り全てが。予知のタイミング全てが。
人々の行動が、植物の葉っぱが舞い落ちるタイミングが。
それらは全てこの世界の始まりから、定められていた。
その事実に気づいてしまった。
この事実は、彼女を大いに悲しませた。
彼女は、最早自分の星の管理が出来なくなっていた。
約100年間、ひたすら閉じこもっていた。
小さいながらも、近界で最も栄えていた星も、
彼女が全てを受け入れ、殻を破った頃にはとうの昔に廃れていた。
美しかった純白の町は、今や形こそ保っている物の全てが風化していた。
彼女は、最早母とは呼べなかった。
100年にも渡るネグレクトにより、愛する子たちを全て失い、迫り来る死に怯えるだけのただの少女になってしまった。
もはや、取り返しがつかないのだ。
彼女の手を握った、しわくちゃのやさしさに溢れた手は今やどこかに灰となり埋葬されている。
彼女に手を振った小さな少年は、攻め込んで来た敵兵に討ち取られた。
彼女を撫でた侍女の手は今や他国の土の下に埋もれている。
そう。
もう、戻れないのだ。
彼女は、全てを失ったのだ。
星が死に、星の母はどうするんでしょうね?