星の母は。 作:彼女
元から決まっていた。
どの原子がいつ、どこに動くか決まっていた。
どのエネルギーがどう変換されるか決まっていた。
どの人がどう考えるかも決まっていた。
全てが最初から決まっていた。
だから、全てのエネルギーの動きを認識することで、
正確に未来を観測することが出来るようになる。
「予知」とは、トリオンを計算に使用し、膨大な情報を処理し、未来を計算する物だ。
完璧な観測が成立すれば、物理法則が破綻し、世界が終焉するそのその日その瞬間まで、完璧な
.....そうだ。彼女はソレに手伸ばし、
一瞬であるとはいえ、
矮小なれど星は星。それの母であるのだ。
愛する
専用の設備を作り、彼女は祈った。
成功した。成功
しかし、結果は願いとは真逆であった。
全ての未来はただ一つの結果に向けてまっすぐ進んでいた。
彼女はその事実に耐え切れなかった。
100年近く引きこもり、愛する子らの全てを失った。
彼女は、残されたごくわずかな寿命全てを費やして悩んでいた。
時には、予知能力の応用で、過去を見て思い出に浸ったりもした。
時には、彼女の持つ膨大なトリオンで、愛する子供たちを再現した。
時には、愛する子供たちを忘れようとした。
しかし、全てがうまくいかなかった。
全て決まっていた事だと考えるだけで、全てが虚無になってしまった。
そうして、答えが出る前に、長きにわたる彼女の人生は終焉を迎えていた。
彼女は瞑目する。
ああ、そうだ。
予知、やめよ。
彼女は、予知を
どうせ定まっている運命なら、見ないでも問題は無いと
そうだ、体、捨てよ。
愛する子らにネグレクトしてしまった事を償わなければならない。
ああ、この手が。
そうだ、愛する子らが会いたがっていた、玄界に行こう。
近づくことすらなく、会う事が望めなかった星。
愛する子らの夢を代わりに叶えるのが、彼女にとっての最大の贖罪なのだ。
彼女は、国に残ったトリオン管理施設跡地に出向き、
制御盤に手を伸ばし、
彼女の持つ、老化して尚限界の見えない膨大なトリオンの内の極僅かを、
しかし一般人にとっては膨大な量を注ぎ込み、施設全体を再起動した。
そして、施設の再起動完了を待っている間に、
彼女の星でよく使われていたペンダント型のトリガーを手に取り、
制御盤の前に腰かけた。
機械のアナウンスと共に施設の照明が付き、
彼女は制御盤を叩き、その後全ての入力を終えた後に、ペンダントを手で包み込み、
祈る。
祈る。
祈る。
彼女の手の中から眩い光が漏れ出し、
彼女の持つ膨大なトリオンが余す事無く注ぎ込まれ、
彼女の手の中のペンダントは宇宙を想起させる真っ黒に染め上げられた。
そして彼女の身体は塵になり、未だ星を撫でる風により舞い上がる。
静寂が訪れた。
コツ、コツ、コツ。
足音がする。
亡き彼女の形見に近づく足音。
コツ、コツ、サクッ。
数秒ほどして、足音が止まる。
地面に落ちていたペンダントを、
ペンダントに付着した塵を払い落とし、首にかけた。
少女は数秒ほどフリーズし、元の無機質な動きから、優雅で洗練された動きへと変わる。
「彼女」は、「少女」へと生まれ変わった。
彼女はブラックトリガーを自分に託したのだ。
身体、機械の演算能力、膨大なトリオン、母としての強さ。子を見捨てた弱さ。
そう。 近界の長い歴史の中で一度も生まれる事が無かった、自我を有するブラックトリガーが今産声を上げた。
これは、予知を捨て、体も捨てた、