星の母は。 作:彼女
ここからが勝負だ!
「トリガーオフ!」
彼の真横に
トリオン兵だとしても、人型近界民だとしても、1歩でも長く走る事が勝利へと繋がると知っているからだ。
計画にない
つまり、自軍の物ではない。
傍観に徹していた他国が、ここぞとばかりに金の雛鳥を横取りしに来たのか、と考える。
「ミラ!!」
男は叫ぶ。
ミラと呼ばれた角の生えた女性は、男の真隣と、突如現れた
男は、界境防衛機関隊員は、イヤーマフをした男は、制服を着た白髪チビは、その場を観測できる全ての人間が1秒ほどフリーズする。
時の止まった世界で動けているのは、考える事よりも走る事を優先した眼鏡と、門から出て来た、武装していない美しい女性だけであった。
眼鏡君は「敵の増援が近くに!」と、絶望に似た感情を覚えるも、即座により深くトリオンキューブを抱え込み、走る。
神の国の尖兵たちは、やはり来たか!と不快を露にする。
そして、角の生えた男はツノの生えた女が繋げた
しかし。
「待って。」
優しくも力強い、有無を言わさぬ重みが空間を支配する。
強引さの欠片もなく、慈愛の手により優しく目を、手を、足を、体を包み込まれているような、
力を入れれば振りほどけると分かっているのにも関わらず、それが出来ないような。
そんな力を受けた当事者たちは、全ての行動を止める。
全ての魚は空中で静止し、かのペンチメンタル眼鏡も足を止める。
その瞬間、全ての戦闘行動が中断された。
通信回線が乗っ取られる。
彼女が口を開く。
「
目を離したくても誘引されてしまう、数百年前に攻め込んだ国の各所に大切そうに飾られていた皇女の肖像画と同じ姿をしている事に。
しかし、人間であるならば数百年も生きられるはずがなく、目の前の女性が何であるかを断定できなかった。
門が開いたと思うと全ての戦闘が中断され、門から出て来た反応を視認できる範囲内に居る人間は敵味方問わずその一点に注目している。
門から出て来た反応を視認できない位置にいる敵や味方は、門が開いて少ししてから一切動かなくなってしまった。
そして、いきなり通信が静かになり、ただ一言「武器を下ろせ」と。
これが敵の罠であるかどうかで悩んでいた。
そして、両陣営は即座に全隊員に様子見を命じ、
最低限のトリオン兵を残して、ほぼ全てのトリオン兵を観測に回した。
なぜなら、彼女のトリオン量計測が未だに終わっていないからだ。
普通は一瞬で終わるはずなのに。
そう、金の雛鳥ですら、せいぜい十と数秒で済んだのに、だ。
そして、両陣営は彼女の次の動向を、瞬き一つすら見逃すまいと注目する。
また、口を開く。
「皆さん、お話をしましょう。」と。
両陣営での計測が終了する。
金の雛鳥が霞んで見える、完成され尽くした玉石の花。
そして同時に、計測機器により人ではない事が告げられる。
トリオン兵。
まるで、人の形をした星のようであった。
両陣営は困惑を重ねる。
また、口を開く。
「私は、元乱星国家プログノシ第129号皇女、ミアル=プログノシ。」
「
「私は貴方がたの敵ではありません。 双方にとって十分なメリットを提示できるでしょう。」
「どうか、矛を下ろしてください。」
「嘘を見抜く能力」を持った人間は、両陣営に存在した。
方や、高度な戦闘技術を持つ白チビ。
方や、名前も顔も表に見せないオペレーター。
双方の「嘘を見抜く能力」を持った人間が、「これは嘘ではない」との結論を弾き出していた。
では、指揮官連中はどうかと言うと、
両陣営には乱星国家プログノシについての知識があり、
「乱星国家プログノシは、滅ぶほんの少し前までは、指一本触れる事すら叶わぬ防御を持つ星だった。」
「あの星には、極めて強力予知能力を持った皇女が居た。
「あの皇女は、一人で世界の全てを見てしまい、星の維持すらできない程に発狂し、引きこもってしまった。」
「星を維持できる器を交換してすぐの事であったため、替えが見つからず滅んでしまった。」
と。
さらに、過去に攻め入った
「その皇女が発狂すると同時に国は荒れ、どうやっても開ける事の出来なかった門が開けられるようになった。」
「膨大、などの言葉では形容の出来ない程に大規模なトリオンの流れの痕跡はあったが、そのトリオンの保有者は見つからなかった。」
「強固な防衛とは裏腹に、一度入り込んでしまえば拍子抜けな程にすんなりと制圧できた。」
と。
そして、両陣営の指揮官は、「この女性が、かの皇女なのだ。」と結論を出した。
トリオン兵であると言う計測結果すらも無視して、そう確信出来てしまった。
であるために、双方の指揮官は決定する。
「話そう。」と。
双方の人員が強く反対するも、指揮官としての最適解と考え、歩き出す。
方や、角の生えた女性の繋げた窓を通って。
方や、基地の出入り口より歩いて。
そして数分後、双方の陣営の指揮官がトリオン体の姿で、女性の元に集う。
近くで見る彼女は、皇女の肩書に相応しい王気とも呼べる雰囲気を纏っていた。
彼女は一礼の後に話し始める。
「急に現れた私の願いを聞き届けて下さりありがとうございます。」
「血を血で洗う戦争を、この私のために中断して下さりありがとうございます。」
「私は、亡国の元皇女 ミアル=プログノシ。」
そして、彼女は手を差し伸べる。
「城戸正宗。」
「アフトクラトル指揮官、ハイレイン。」
「城戸様、ハイレイン様、ですね。」
「この私と、取引を致しませんか?」
「取引とは?」
「結論から申し上げます。 この戦争を終わらせましょう。」
「...私の記憶が間違っていなければ、
「侵攻してでも次の代を見つけたいはずです。」
「本来は傍観しているつもりでした。」
「しかし、この
彼女は、手の上にトリオンキューブを作る。
極めて大きく、極めて純粋なトリオンの塊。
「これだけあれば、今後300年は持つでしょう。」
「その間は、私の子らが愛したこの
彼女はトリオンキューブを小型化させ、変形させ、美しくも儚い、見た事もないような花の形にする。
引力を感じるような、圧倒的高密度のトリオンの塊。
白く輝く不滅の花。
そしてその花を
「私の持つトリオンの1/3をアフトクラトルにお渡し致します。」
「これで、この地から身を引いて頂けないでしょうか?」
両指揮官は目を見開く。
あの膨大なトリオンの1/3ともなれば、
これだけのトリオンを持ち帰れば、たとえ捕獲した捕虜を全て返還したとしても、尚余りある功績となるのだ。
そして、目前に居る皇女に勝てるビジョンなど無く、最早答えは一つであった。
「トリガー、オフ。」
指揮官ハイレインが今できる、最上位の敬意を示す行動であった。
敵地で死のリスクを作ってでも、それに余りある話なのだ。
そして、彼女の手から花を受け取り、
「城戸殿、と言ったか。」
「我々は、今この瞬間、十二分などと言う言葉では形容できない程に大きな戦果を挙げることが出来た。」
「この瞬間を以て侵略を終了する。」
城戸正宗は驚きの表情を浮かべる。
「そして、もはや
「彼らを、返還する。」
通信経由で聞いていた、
飛び跳ねたり、友に背中を叩かせて戦闘体を破壊してしまったり、目を細めたり。
そしてハイレインは通信機を手に取り、「今この瞬間を以て撤退する!」と宣言する。
それを見届けた城戸正宗もまた、トリオン体を解除し、口を開く。
「貴官の英断に感謝する。 そして、ミアル殿にも最大限の感謝を。」
そして、自然と握手する。