序
恋というものは、2回することが出来るらしい。放課後、夕日が差し込んで朱が教室を満たしている時、
本当に?
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第1話 不穏
月曜日、休日の終了に絶望した生徒たちのため息が教室を満たす中、篠田芽衣はため息すらできないほどの緊張でいた。緊張と言うよりも心配と言うべきか、一昨日、想い人に告白した親友、姫咲殊音になんと声をかけるべきか、ずっとぐるぐる悩みすぎて、いつもは遅刻ギリギリのところが早く目が覚めてしまい、柄にもなく勉強しているクラスメイトたちの筆記音だけの教室で頭を抱えていた。殊音はとってもいい子だ。中学の頃、変わりたいと言った彼女は本当に変わり、ついに告白するに至った、自慢の親友。今か、今かと心臓がはねる。
ふと教室のドアがガラリとなる。
「......!殊音!」
「違うよ」
殊音かと思って勢いよく立ち上がったのに。
「なんで光なのよ」
「なんでも何も、登校しただけだ。ガッカリされる筋合いはないぞ」
藤澤光。メガネと1000円カットという地味な格好の、私のパシr......便利なやつだ。かなりの情報通で、色々とこき使える。......こういうタイミングの悪い登場がよくあるのは少し気に食わないが。
「......姫咲のことか?」
「!......なんで......」
「お前がそんなにセンシティブになる相手なんて、一人しかいないだろ。バレバレ」
「......あんたのそういうところ、嫌いだからね」
「普段は都合のいい扱いをするくせに、よく言うよ」
「とにかく、私は殊音を待ってるから、話しかけないで」
「ハイハイ」
そう言って光は机に朝自習の用意を広げる。
いくらかスマホの通知がなるが、どれもSNSでいいねがされた、などだった。普段なら気分が上がるものだが、やはり今はどうでもよかった。
ガラリ。戸が鳴る。少し、期待を抑えながらそちらを見ると、待ち人、殊音だった。
「!! 殊音!」
「あ、芽衣......」
殊音にやっと会うことが出来た。心做しか殊音は少し、上の空のような雰囲気だ。構わず、入口まで駆け寄る。
つい、勢いで殊音の肩を掴んでしまう。それに気づいて思わず手を離す。
「あ、えっと、その......とりあえず、机に行こうか」
「うん」
何故かしどろもどろになってしまう。
「それで、どう......だった?」
「えっと、告白、だよね?」
黙って頷く。
「えっと、受けて、貰えました」
「......ってことは!」
「恋人に、なったよ」
「......!! おめでとう!!!!!」
「ちょっと芽衣、苦しいって」
思わず抱きしめていた。抱きしめて、少し顔を隠した。すると、殊音がなにかに気づいたように言う。
「あ、ちょっとトイレ行ってくるね」
「あ、うん。行ってらっしゃい」
そう言って、今しがた祝福した親友は廊下を駆けて行った。
......伊達にスマホをいじっていない。これはおそらくメッセージの振動を感じたからだ。だから、トイレに行ったのだろう。もしかしたら個室で長々と、彼氏とやり取りをするかもしれない。
「......いいのか」
光が後ろを向いて、私に話しかける。
「何がよ」
「姫咲が前から、バスケ部主将の前田に好意を寄せていることは噂になっていたが、彼のことが好きなのはお前もだろ?」
「......気づいていたの?」
「嫌でもな。お前の臆病さも相まって、気づくやつは気づくさ」
「......うっさいわね。いいのよ別に」
「私は、あの子の気持ちが成就しただけで、それだけでいいの。あの子の方が彼にふさわしいって、ずっと前から気づいていたもの。それで、これでいいの」
「......俺は恋愛ごとに疎いからな。篠田の葛藤など知る由もないが、まあなんかあれば言え。酒の肴になる」
「ぶっ飛ばすわよ?」
「ぼうりょくざーい」
......やはり光はウザイ。しかしそのおかげで、少し気持ちの整理もついた。教室の、前の方のドアが開き、先生が入ってくる。
「ほらー出欠取るぞー」
「おお、もうそんな時間か......あれ、姫咲は?」
「......大丈夫よ。多分すぐに来る」
先程トイレに行ったきりの殊音だが、大方彼氏とのやり取りに夢中になっているのだろう。相手もこの学生だし、遅くはならないだろう。
しかし、その予想に反して1時間目、殊音は教室に現れなかった。
「......姫咲、ここまで来ないのはさすがにおかしくないか?」
「......そうね。ちょっと行ってこようかしら」
私は立ち上がり、肺に息を貯める。いつ使うかも分からない古文法と和歌が敷き詰められた黒板に向かってわざとらしく言う。
「せんせートイレー」
「先生はトイレじゃありません。行ってこい」
ノリがわかる古賀セン、便利だわ。私は足早に廊下を駆けた。
「殊音ー?」
トイレにて、呼びかけるも、返事はない。
「殊音ーー」
......やはり返事はない。歩みを進める中、足元にピチャリと音がする。見れば、辺り一面に水があった。漏れだしたと思うのは簡単だが、悪い予感が、心臓が警鐘を鳴らす。
「殊音?殊音!」
ひとつ、ドアロックが赤いものがあった。
「殊音!いたら返事して!」
壁を叩きながら呼びかける。ふと、すすり泣くような声と共に、個室の中から声がする。
「め......い......」
小さな声は静かなトイレにしっかりと響く。私は急いで、ポケットに常備している100円玉でドアのロックを解除する。
「こと......ね?」
果たして、そこにはびしょ濡れですすり泣く殊音の姿があった。