不運なる一昼夜の間に、アトランティスは海中深く没し、その姿を消した。
哲学者プラトン B.C360
それは暗闇しかなかった世界が光を得て、やっと星々が集まって銀河が輝き始めた頃。世界の全てを震わせるエネルギーと共に、ひとつの世界が壊れた。
魔法と人が交わり、頂点に立った超文明「アルハザード」。
桔梗色に染まる宇宙の中、鮮やかな光を身に宿す星々の揺蕩う箱庭の中で、繁栄を極めた一つの世界が瓦解した。
有史以来、はじめて魔法という力で発展の限りを尽くし、次元世界の全てを手中に治めた栄光の姿はなく、滅んだあとの世界は悲惨そのものであった。
彼らは勘違いしていたのだ。
恒星から放たれる暖かな光のように、未来永劫に恵みを与え続けると信じていた魔法という力。
確かに「魔法」とは単なる力。
彼らのその考えは間違っていない。しかしその力を見誤り、全能感に支配された彼らは、その力を制御できず自らを滅ぼしたのだ。
凄惨で苛烈な崩壊が起こるまでに、あまりにも多すぎる犠牲を出した。人という存在そのものが消え去る間際まで。
手放さんとしていた全てを手放し、絶望の淵に立たされた人という存在は、それほどの犠牲を払ってようやく「種の存続」という道を選択することができた。
砕け散った理想の残骸が宇宙に舞う。
もはやそこに何も残ってはいなかった。
あるのは全てを捨て去り、無様にも逞しく生き残った人という存在だけであった。
幻想が砕け散って、ようやく魔法という力は過ぎたる力だということに気づく。生き延びた人々は魔法という力を恐れ、その忌避する思いから一つの考えを導き出した。
魔法と人のバランスを保つシステムの構築。滅び去ったアルハザードという超文明の遺産を注ぎ込んで、人はそのシステムを作り上げた。
その名は、ダインシーファ。
人が魔法という力に魅入られ、再びアルハザードのような災厄を呼び起こさないため。
良き力には繁栄を。
悪き力には滅びを。
魔法という力と人のバランスを選定するシステム。人の情や欲を持たずにただ冷たく、そのバランスを見つめる存在。
システムが生み出され、アルハザードの残骸は消え去り、魔法の力を恐れた人々の記憶や記録、存在そのものも遠い過去となった。
世界はさらに広がり、広大な次元世界の中でさまざまな文化や文明が芽吹いていく。
災厄の記憶は忘れ去られ、人々が再び魔法を手にし、過ぎたる力で繁栄する。
そして過去に起こった災厄の遥か手前に、魔法で得たその力で自らを滅ぼす。
アルハザードの厄災から生き残った人々によって作られたシステムは完全に機能していた。
ダインシーファによって魔法と人のバランスが保たれ、人種が滅ぶような絶滅は阻止され、何も知らない世界は繁栄と滅びを繰り返しながらも続いていた。
そして新暦。
時空管理局という新たな力が産まれ、繁栄と崩壊が迫る世界が80年という歳月に達しようとしていた。