Forceへ繋がる物語   作:紅乃 晴@小説アカ

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chapter.8「遭遇する者たち」

 

 

 

はやてが真実に気づいた時は、何もかもが手遅れだった。

 

彼らはワイズナリー・バイエンス社がダミーであると結論づけたが、事実は少し異なる。

 

同社の在り方は企業というより複合体に近く、企業母体を大きくするというよりも、その活動拠点を増やすことが最大の狙いだった。そして、それだけ組織体制としては乱雑だというのに企業の利益が十全に確保できていた理由は、乱雑であったからこそ名は同じでもそれぞれの部門が独立意識を持って運営されていた結果である。さまざまな分野、部門に分かれたそれらの目的は管理局の目を欺く点でも非常に役に立ったし、特に管理局からの共同開発資金の分配先として非常に有効な隠れ蓑でもあった。

 

一つの企業内では各部門ごとが売上高によって予算が分配され優先順位が付くのだが、ワイズナリー・バイエンス社では部門ごとに独立意識があった点から、円滑かつ合理的に進める上で無駄な役員会議や人が採決を行う前時代的なルールに縛られず、必要かつ有益な事業にダイレクトパワーを与えることが可能になる。そのフットワークの軽さと他にはない組織体制が高い利益率を産み、他の企業に勝っていて、その結果がはやてを含む同社を調査していた者たちの目を曇らせた。

 

はやてが頼った者たちがワイズナリー・バイエンス社の秘密施設だと確信した場所は、カルナログの首都グラニマから南に行った先にある丘陵地帯。

 

時空管理局の年間研究予算と同等の費用のつぎ込まれていたはずのその地には、廃墟同然の建物が佇んでいるだけであった。

 

「ここが……ワイズナリー・バイエンス社の秘密施設なの?」

 

「どこをどう見ても廃墟しかありませんね……」

 

現着した一行、特にフェイトとスバルが先陣を切って辺りを調べるが、施設どころか生体反応すら検知できない。もしかして目的地が間違っていたのかとも思ったが、衛星通信から送られる地図データは間違いなく現在地が目的地であることを示していた。

 

「みんな、油断しないで。もしかするとあの建物はブラフで本命は地下にあるかもしれない。チンクさん、はやてちゃんと通信は?」

 

「ダメだな、数分前から途絶しているままだ」

 

部隊指揮を執るなのはからの問いにチンクは首を横に振る。念の為に持ってきた長距離用の通信機材を使っているのだが、急に通信がぐずっていたのだ。この通信機は魔力によって駆動する新型の通信機であり、従来のネットワークに依存しないことから傍受の可能性が低く、秘匿性の高い連絡を行うことができる。機器の故障も疑わられるが、今の状況では確認のしようもなかった。

 

「とにかく、一旦はあの建物の調査を……」

 

そうなのはが指示を発したと同時、後方にいた魔導師たちのいる場所から轟音が響く。反射的に待機状態だったデバイスを展開して臨戦体制をとると、吹き飛ばされた隊員を引きずる影が見えた。

 

「おや、まだそれだけの力を使えるのですか。やはり、他とは違いますね」

 

それは生き物というにはあまりにも機械的だった。白色に近い人工皮膚を隠すように装甲が張り巡らされていて、マシーンによって補完された腕力は気絶した隊員を軽々となのはたちの足元に放るほどの力を有する。カメラレンズのような無機質な眼光が呆然と見つめているなのはたちを捉えていた。

 

「レプリロイド……!」

 

管理局で発表された際の式典用装備とは違い、より実戦を想定した装備となっていたが、透き通るような白い肌と、独特なみそら色の瞳はなのはやフェイトもはっきりと覚えていた。

 

レプリロイド。

 

それは「シンセサイド・プログラム」の要素の一つ。命令を忠実にこなすレプリカントを管理、統括することに特化したマザーユニット。その名の通り、レプリロイドの背後には十を超えるレプリカントが、なのはたち偵察隊を取り囲むような形で布陣していた。

 

「ここに来ることは予定通りでした。無駄な抵抗は推奨しません」

 

明らかな敵対行動を示すレプリロイドとレプリカント。なのはたちがデバイスを構えて応戦する姿勢を向けると、レプリロイドは肩口に装着されているプラズマキャノン砲を展開して、その狙いをチンクに定めた。

 

「チンク姉!」

 

スバルが声を荒げたと同時、圧縮されたプラズマが放たれる。チンクは咄嗟に固有武装である「シェルコート」を翻したが、その防壁は容易く崩壊した。

 

「なに!?」

 

驚愕するチンクに無慈悲な2射目が直撃する。無防備なところに打ち込まれた彼女はそのまま吹き飛ばされ、後方にあった岩場に背中から激突した。

 

「抵抗は推奨しませんと言いました。再度の警告はありません。それにもう貴女たちに戦う力は残っていないはずです」

 

レプリロイドが指揮する複数のレプリカントの動きは完璧だった。

 

精鋭中の精鋭であるなのはが率いる偵察隊は今や分断され、複数名の隊員がレプリカントに捕縛されている。

 

何より、なのはやフェイトの感覚にも異変が起こっていた。体に不調はない。意識もしっかりしている。なのに握りしめているデバイスに違和感を覚えた。

 

(魔力消費が早い!?)

 

愛機であるレイジングハートを起動した瞬間から、なのはは自身の想定する倍の速さで魔力を消費しているような感覚があった。

 

最初はJS事件による怪我の後遺症かと疑ったが、隣にいるフェイトも同じようで、バリアジャケットを展開しているだけでもみるみると魔力量が減衰している。岩に打ち付けられながらも立ち上がったチンクも、無機物に潜航しようとしても上手くいかないセインも、この場にいる全員が異常な魔力量の減衰に困惑を隠せずにいた。

 

(AMFが展開されている?)

 

AMF……アンチ・マギリンク・フィールドは、魔力結合や魔力効果発生を無効にするAAAランク魔法防御だ。フィールド内では攻撃魔法はもちろん、飛行や防御、機動や移動に関する魔法も妨害される。

 

JS事件時にガジェットドローンなどが使用していたものだが、対処法がないじゃない。それになのはやフェイト、スバルたちのデバイスもそれらジャマーの対策を施されているはず。にも関わらず、魔力の減衰率は悪化する一方で、ついにはデバイスもバリアジャケットも維持できなくなり、戦わずしてなのはたちの敗北が決した。

 

「だから無駄な抵抗をしないよう推奨しました。貴女たちに我々に抗う術は残されていないのです。」

 

レプリロイドの言葉と共にデバイスが魔法が使えなくなったなのはたちは、数で勝るレプリカントたちに囲まれる。捕らえられた隊員と同じく、抵抗する手段を失ったなのはたちに残されたのは降参することのみだった。

 

 

 

 

「はやてさん……これは」

 

光学式モニターに映る相手は、親友の母であり、自分のよく知る相手で恩人であり、組織としても上の立場に立つ人物だった。リンディ・ハラオウン提督。地上本部ではなく次元本部にいる彼女に、はやてはあるデータを送った。

 

それは、自分の調べた情報とティアナからもたらされたワイズナリー・バイエンス社の資金の流れをまとめたものだ。

 

秘密施設……そんなものはないが、それがあると思い込まされていた場所に向かったなのはたちとの通信が途絶して半日。はやては焦る気持ちを押し殺しながら、今自分にできることを手にとって進めてきた。莫大な資金がどこからどこに流れているのか。ワイズナリー・バイエンス社の実態調査。地下に流れた資金に関わる人物の洗い出し。やることは山のようにあった。

 

その資金の動きそのものが、次元世界にとって危険なものだと知らしめるには十分なデータが揃って、はやてはリンディにそのデータを秘匿回線で送り届けたのだ。

 

「私の得た真実です。リンディ提督」

 

そう告げたはやての顔は酷いものだった。情報の照らし合わせの中で、はやてはある真実に気づいた。リンディもデータを見て、はやてがたどり着いた真実を知っている。

 

それは耐え難い残酷な真実だった。

 

今まで信じていたものが覆されるような……押し潰されそうな真実だ。

 

「そうだったのね……貴女はどうするつもりなの?」

 

意を決してリンディが問うと、はやては迷いのない真っ直ぐとした目をして答える。

 

「その真実に至った理由を聞きます」

 

なぜ貴方がそんなことをしたのか。事実に打ちのめされている暇なんてはやてにはない。だから聞くのだ。はやての信じたものが何故、そんな道を辿ったのか。

 

はやての真っ直ぐな言葉にリンディは目を閉じて過去を思い返す。はやてと出会ってからしばらく経つが、彼女の生きる道では、残酷な真実を知ることがあまりにも多い。そして大事な人との別れも。それが八神はやてという少女を強くしたのだとも思えるのだが、そう考えて納得するのはあまりにも酷だ。

 

しかし、リンディにはどうすることもできなかった。自身は第一線を退いたのだ。次元本部から見下ろす地上本部に対して、リンディにしてやれることは極端に少ない。

 

それでも、リンディはあえて言葉を紡いだ。

 

「そう……そうね。何事にも理由はある。私は貴女たちと出会って、それを痛感したわ」

 

だから、どうかその真実に打ちのめされないで。通信の終わり際にリンディ提督から言われた言葉がはやての中で反復する。今から事なかれ主義だった上層部の気持ちもわかる気がする。反発していた頃は、なんて腰の思い人たちなのだろうと心の内で半ば嫌悪までしていたが、このような真実を抱えていたというなら腰が重くなるのも無理はなかった。

 

はやて自身、知った真実なんて忘れたかったし、心のどこかでなかったことにもしたかった。けれど、状況とはやての信念がそれを許さなかった。

 

「はやてちゃん」

 

「リィン、なのはちゃんたちとの通信は?」

 

心配そうに声をかけてくるリインフォース・ツヴァイにそう聞き返すが、彼女は小さく俯いて首を横に振るだけだった。

 

ここになのはちゃんたちがいればな……。そんな弱音にも似た独白を吐き出しながら、はやては自身の執務室から出る。廊下には自分の家族であるヴォルケンリッターの騎士たちが待ってくれていた。

 

「ほな、いこうか」

 

佇まいを正し、肩にかけたコートを翻しながらはやては歩き出す。向かう先は同じビル内にある高官用のフロアだ。

 

よく通った道なりを進んで、自身の個人カードをセキュリティキーにかざすと、固く閉ざされていた扉は容易に開いた。

 

管理局の上位者たちが集うこのフロアで、はやての個人カードがセキュリティキーに登録されている相手はただ一人だ。

 

「やぁ、八神くん。やはり君がここにくると思っていたよ」

 

ジョン・オールドマン中将。

 

彼はいつものような朗らかな笑顔で入室してきたはやてを出迎えたのだった。

 

 

 

 

ワイズナリー・バイエンス社が所有していると考えられていた秘密研究施設。

 

だが、その所在地にあったのは単なる廃墟だった。

 

いや、過去に施設はあった。

 

もともとここにあったのは同社の輸送機部門の組み立て工場であり、施設の老朽化と旧製造ラインの廃棄が決定したことで工場そのものの稼働が停止したのだ。工場内の主要設備は運び出され、解体作業も進んでいたのだが工事中に火災が発生。消化は行えたが、その後の処理については遅々として進んでいなかった背景がある。

 

そんな施設の残骸が、なのは達を捕える絶好の場所となった。

 

「私はアノン。レプリロイドのファーストロッドだ。反対側にいるのはダー、右側がトゥリー。手荒い真似をしたことをまず謝罪しよう」

 

捕らえられたなのはたちを前に、特殊装甲を脱ぎ、女性特有の滑らかな骨格を露わにした「レプリロイド」はアノンと名乗った。

 

レプリカントを従えるレプリロイドは三体。

アノンと、ダーと、トゥリー。

 

簡易的な拘束具で手首と親指を固定されたなのはたちを取り囲むようにいる彼女達は、皆マスクを着用していた。

 

単なるマスクではない。目をゴーグルで覆うほどの形で、一見すればガスマスクに近い形状をしている。

 

「なぜ、気づいていたの?」

 

「貴女たちが今日、ここを偵察するのはわかっていた。そう誘導したのは我々だからだ」

 

なのはの問いにアノンはマスク越しのくぐもった声で答える。そもそもここにあるとされた秘密施設の偵察、調査自体が、なのはたちを誘い出す罠だった。

 

はやてが個人のやりとりで入手した情報も、なのはたちが綿密に準備をした威力偵察の何もかもが、敵には筒抜けだったのだ。

 

「なら何故、襲撃直前まで何もしてこなかったの!?いや、そもそも何故……私たちを動かすような情報を流したの?」

 

「これは〝反転作戦〟。だから貴女達にはここに来てもらう必要があった。我々の目的は貴女達が偵察に乗り出す直前まで泳がせることだった。故に任務完了している」

 

反転作戦?私たちが来た時点で目的は達成している?そう口にして、なのはは敵の思惑を何とか理解をしようとする。自分達がここの調査に乗り出し、そして失敗する。それこそが、彼女たちの目的だという。

 

深く息を吐くなのはに、横で拘束されているスバルが問いかけた。

 

「そのマスクは何?私たちの魔力減衰率に影響を及ぼす毒ガスでも使ったわけ?」

 

「いや、これは単なる〝魔力素のマスク〟だ。大気に存在する魔力素をあらかじめ貯蔵し、そして運用することが目的だ。我々の戦いでは必要不可欠な代物だからな」

 

魔力素マスクと、アノンは言うがスバルには理解することが叶わなかった。

 

わざわざマスクをしなくとも、空気中には魔力素が充分に存在している。それを使用すればいいというのに何故?

 

「これはある意味での実験だ。反転作戦で必要になる。ダインシーファの先見の目は貴女達が予想していることの遥か先に行っている」

 

「実験?反転作戦?ダインシーファ?貴女達は……一体何のことを言っているの!?」

 

「AMFは特殊なフィールドを展開し、魔力の結合や分解、再構築と言った要素を阻害するものだ。それならばジャマーに強いシステムを取り入れればいい。現に貴女達のデバイスにはそれが備わっている。だから、アプローチを変えた。効率よく人体内にあるものを飽和状態にする」

 

リンカーコア。

 

それは魔力を使う上で魔導士には切っても切れない関係にある特殊な臓器だ。

 

リンカーコアは大気中の魔力素を集め、それを自身の扱いやすい形に変換する役目を担っている。彼女達はそれを狙った。

 

「以前は失敗して、〝空気中の酸素〟を飽和分解し消失させてしまったが、今回は的確に人体のリンカーコアの攻撃に成功したというわけだ」

 

故に、体外から魔力を供給する必要があるレプリロイドたちは「マスク」を着用していた。

 

思わずなのはの顔が強張った。

 

つまり、敵は大気中や再構築した魔力を狙えのではなく……。

 

「人体そのものを狙っている……」

 

「高町なのは。やはり貴女はセンスがいい。その通り。私たちが持つテスト機にその機能が備わっている。ある特定な周波数で出すソレは、魔導士が命の次に大切にしている臓器を確実に衰弱させていくのだ」

 

その言葉を聞いて捕らえられている全員が青ざめる。

 

人体のリンカーコアに直接作用する妨害など聞いたことも……そこでなのはの脳裏にある光景が蘇った。

 

あれは闇の書の時間が始まったばかりの頃。

 

ヴォルケンリッターの一人であるヴィータによってなのはのリンカーコアか、ダイレクトに魔力が抜き取られた。

 

その後、減少したリンカーコアが元に戻るまで多大な時間を要することになったことも思い出したゆく。

 

「窮屈さと退屈さはあるだろうが死にはしない。貴女達にはもう何もできない」

 

アノンの言葉に、なのはは震える口で言葉を問う。

 

「貴女の技術は……まさか夜天の書の……」

 

だが、その問いは戻ることはなかった。

 

突如としてなのは達のいる空間の裏口が開け放たれ、どっと人が雪崩れ込んできた。思わず振り返ったなのはの目に飛び込んできたのは、レプリロイドと同じようなマスクを着用し、武装した魔導士たちだった。デバイスを握ったままレプリカントたちへと交戦を始めてゆく。

 

「ソーサラーズか」

 

それを見たレプリロイドたちはすぐに撤収準備を始める。

 

「ここでの実験と目的は終えた。あとは本番の作戦時に会おう。高町なのは」

 

そう言い残し、アノンたち3人のレプリロイドは施設を後にする。拘束されているなのは達にできることはなく、突入してきた〝何者かたち〟は、レプリカントを無力化すると捕まっているなのはたちの身を自由にした。

 

「手酷くやられたな。まぁ無事なだけマシなのだろう」

 

なのはの拘束を解いたマスクをつけた男性はそう言うと、施設内の調査に出た他の隊員の報告を聞く。別の部屋に捉えられていた偵察隊のメンバーも無事に救助されたようだ。

 

「あの……貴方達は?」

 

未だに魔力を上手く生成できないなのは達は、自分達を救ってくれた〝何者か〟にそう問いかける。すると、目の前にいる男性はマスクを外す。

 

「あ、あなたは……!」

 

その顔を見てなのは思わず声を上げるが、男性は気にも止めずに言葉を続けた。

 

「俺の名はボウマン。ダインシーファの目的を阻止するための組織、ソーサラーズのメンバーの一人だ」

 

事態は、なのは達の予想と全く違う方向へと動き始めようとしていた。

 

 

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