Forceへ繋がる物語   作:紅乃 晴@小説アカ

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chapter.9「ジョン・オールドマン」

 

 

 

「オールドマン中将」

 

執務室に入ってきたはやてに対して、デスクに座って書類の処理をしているジョン・オールドマン中将はいつものように彼女を部屋に招き入れた。

 

外で待機するようにシグナムやヴィータにアイコンタクトを送ったはやては、促されるままに部屋に入る。中将の顔を一瞥すると開いていた光学モニターを閉じて、デスクの上で軽く指を組んだまま言葉を続ける。

 

「話はすでに聞いている。まさかブラフを摑まされるとは……やれやれ、私も耄碌したかな。人の見る目だけはあったつもりだが……」

 

「調達部の知り合いもすでに身柄を拘束し、事情聴取をしていますが関連は否認していて……」

 

「手がかりはゼロ……ということかな」

 

そう神妙な顔つきで言うオールドマン中将。

 

彼が言う通り、今回のことについての手がかりは全くゼロと言ってよかった。

 

拘束……というよりも任意同行をしてくれた調達部の仲間も、この結果は予想外だと話をしてくれたし、彼らとの付き合いは空港火災時からで、J.S事件でも色々と便宜を図ってくれた。そんな縁のある相手が今になって罠に嵌めようとする。自分や仲間を陥れようとするなんて考えられなかった。

 

「もっと深いところで手が加わっていると考えます」

 

意を決して言葉を吐くはやてに、中将は眉を顰めて答える。

 

「となると、最高評議会とでも?」

 

「いえ、貴方自身です。オールドマン中将」

 

「……ほう?面白いことを言うな」

 

部屋の空気感が一気に締め上げられたように思えた。喉の奥がヒリヒリと熱がこもり、一気に乾いていく感覚がある。言葉を出すことも躊躇うような空気感の中であったが、オールドマン中将は顔色も目つきも何も変化させることなく、はやての真剣な言葉に耳を傾けていた。

 

「今回の調査で発覚した資金源の流れ、レプリカントの製造……そして、情報源。けれど、それ以前の情報はあまりにも不鮮明だった。ここにきてあらゆることが鮮明になったんです。ワイズナリー・バイエンス社が隠れ蓑にされていたことは今の今までわからなかった。彼らが管理局にレプリカントを売り込んできたのは5年前だというのに」

 

ワイズナリー・バイエンス社が管理局の科学局と共同で、シンセサイド・プログラムの研究を始めたのが5年前なのは確かだ。

 

これは、レティ・ロウラン提督や、クロノ・ハラオウン提督にも独自に調査してもらっていて、あらゆる物的証拠を得ることができた。にも関わらず、ワイズナリー・バイエンス社の実態は何もなく、あったのは多額の資金を得た科学局の実態だ。

 

なぜ、5年間もそれが発覚しなかったのか。

 

当時の科学局の局長は、管理局の上層部メンバーの一人であり、彼がワイズナリー・バイエンス社との共同開発と、シンセサイド・プログラムの導入を主導した……ということになっている。

 

そこで話を区切ったはやてに、オールドマンは座席の背もたれに体を預けた。

 

「何が言いたい?」

 

「その人物は同時にワイズナリー・バイエンス社のコンサルタントもしていた。実態のない企業のコンサルタントなんて可笑しな話です。けれど、誰も疑念を持たなかった。それは当然です。そもそもの話……当時の局長も、コンサルタントをしていたのも、すべて貴方だったんですから」

 

シンセサイド・プログラムの導入。

 

時空管理局の地上本部や地上施設、民間居住区にも甚大な被害をもたらしたJS事件から2年というターニングポイントで、なおかつ最高評議会の監視の目が一番手薄になってタイミング。

 

「貴方はそのタイミングに目をつけた」

 

レジアス・ゲイズの後釜という立場。

 

最高評議会に気付かれずにこれほどのことをやり切る権力。

 

そして、科学局の局長という立場とコンサルタントをしていた事実。

 

中将の資産運用履歴を見ればすぐにわかった。

 

はやては〝紙〟の資料をオールドマン中将の机の上へと投げる。

 

そこには彼の行ってきた裏工作と思われる内部告発資料の全てが記載されていた。

 

見るまでもない、とオールドマン中将は小さく息をつくと、ギジリと椅子をしならせて、彼を見据えるはやてに視線を合わせた。

 

「ようやく気づいたか。でも、それでは足りないな。八神はやて」

 

ゾッと、はやての身の毛がよだった。

 

いつも聞いていた落ち着いた中将の声とは思えない……もっと得体の知れない何かが、はやての目の前にいた。

 

明らかに今までのモノとは比べ物にならない気配が部屋に充満する。

 

今にも逃げ出して、外にいるシグナムやヴィータを呼びたい気持ちが思考に溢れたが、その恐怖心を全力で押し殺してはやては言葉を返した。

 

「全てを疑い、調べろ。貴方の言った言葉です。ジョン・オールドマン中将。いえ……ジョン・ドゥ……貴方は最初から「名無し」だった。貴方の戸籍は、存在しない偽名だった」

 

「なるほど。君とずいぶん長い間接してきたが、無駄ではなかったようだ。だが……間違っている。君は気付いただろうが、他の誰も気づいていない。だから、まだ足りないと言ったのさ」

 

事実、はやてはこんな簡単な手がかりにも気づくのに膨大な時間がかかった。

 

ジョン・オールドマンからすれば、この程度の謎解きなど簡単な問題に過ぎない。

 

はやてを含む「主役」たちがあまりにも気づかないから、盛大にヒントを出したというのに。

 

その言葉ではやてはぐにゃりと視界が歪む。目の奥がジンジンと痛んで、思わず片手で痛む場所を覆った。

 

ふと、思い出す。

 

クロノ提督やレティ提督に見せてもらった過去の写真。今、管理局の権力を握る席に座る者達がはやてやなのはと同じく現場にいた頃の写真。

 

数十年前の科学局が発足された当時の写真。

 

管理局上層部の人間達の写真。

 

どの写真を見ても〝一緒だった〟のだ。ジョン・オールドマンという人物の姿形が。若返ることもなく、老いることもなく、同じ姿で異なる年代の写真に写っている。すこし見れば違和感を抱くようなことだ。なぜ今まで気づかなかったのかが不思議になるほどの強烈な違和感。

 

痛みが引いても顔色が悪いはやてに、ジョン・オールドマンは微笑みかける。

 

一言で言えば催眠。その言葉がしっくりくるだろう。でもなければ、こんな簡単なことに誰も気づかないはずがない。

 

「……どういうことや……貴方は……アンタは一体〝何〟や?」

 

「この計画はずっと昔から始まっている。世界をひっくり返すための反転作戦だ」

 

反転作戦?はやての言葉に、彼は緩やかに席から立ち上がり、長年慣れ親しんだ机を離れる。それはまるで永遠の別れのように思えた。

 

オールドマンだった男は、はやてと睨み合うように一定の距離を置いて部屋を歩きはじめる。

 

「始まりは魔力動力炉の暴走事故だった。君は知っているか?魔力炉の暴走により、その研究所一帯の酸素が綺麗に消え去ったことを」

 

相手から突然出た親友の過去が深く関わっている事故の話。はやては察せられないように鉄仮面を意識したまま彼の言葉に頷く。

 

「……ええ、よく知ってる。その話が、一体何の関係があるんや」

 

「一つ目の点だよ、八神はやて。君はまだそこに気づいていない。あれが単なる〝事故〟だと本気で信じているのか?あれは有意義な実験だった。失敗には終わったが、大いなる一歩でもあった」

 

「何を言ってるんや……!」

 

オールドマンは大きな窓ガラスの前で立ち止まった。外から降り注ぐ太陽がちょうど逆光となり、彼の真っ黒な瞳がまるでゆらめく火のように見えた。

 

そして、その瞳が赤く変色してゆく。

 

「あの実験を主導したのは、私だ」

 

はやては言葉を失った。

 

プレシア・テスタロッサを狂わせ、アリシア・テスタロッサの命を奪った、あの事故の首謀者は自分であると。目の前の相手はそう断言したのだ。

 

あれは新型魔力炉のテストなんかじゃない。今、実現しようとしている〝反転装置〟の初期段階のテストだった。

 

もっとも、当時は技術がまだ未発達で莫大な量のエネルギーが必要だった上に、装置が不安定だったこともあり、反転する対象が「魔力」ではなく「酸素」となったのだが。しかし、あれは意味のある失敗だった。

 

つづけて男は言う。

 

「闇の書を君の元へ送り届けたこと。ジュエルシードを君たちの故郷である地球に送り込んだこと」

 

アルカンシェルや、アインヘリアルの技術を供与したのも。

 

プレシア・テスタロッサに、死者を蘇らせる術を教えたのも、最高評議会の者どもが金と権力に目をくらませ、ジェイル・スカリエッティへ手を出すように誘導したのも。

 

「すべて、この私がやったことだ」

 

その言葉に思考がついていかない。

 

「そんなアホな話があるわけないやろ……!何もかも辻褄が合わへん……」

 

咄嗟にはやての口から出たのは否定の言葉だった。

 

それしかできなかった。現実逃避とも言える自己防衛反応に近いものだ。その否定の言葉に、相手は首を横に振って答える。

 

「あまりにも都合が良すぎただろう?だから放置した。誰も気付かないまま、人は再びここまできてしまった」

 

ジュエルシード事件と、闇の書事件も、J.S事件も、マリアージュ事件も。その全てがなぜ、はやてを含む彼女達の前で起こったのか。もっと遠くの出来事でもよかった。なのになぜ、こうも全てが都合よく起こったのか。

 

それは偶然ではない。

 

「君は一つ、思い違いをしている。君のいうとおり、ジョン・オールドマン中将という男は存在しない。じゃあ今ここにいる私は?それもまた、名無しのかりそめでしかない」

 

気づけば彼の容姿は変わっていた。

 

還暦に近い容姿はみるみると若返っており、黒髪は灰色が混ざったアッシュ色に。

 

中将を示す階級章が備わる制服の不似合いさが、より不気味さを引き立てている。

 

彼は、もはやはやてのよく知る理想の上司ではない。

 

その役の割り振りは終わった。

 

ようやく〝主役〟たちが気づいたのだ。

 

ここからが始まりだった。

 

「私の名は、ダインシーファ。希望と絶望の二つの意味を併せ持つ、人と魔法の秤を司る〝アルハザード〟からの使者だ」

 

全てが始まろうとしている。

 

姿を現したダインシーファは、不気味に微笑んではやてと対峙を果たし……次の瞬間、部屋の外で待機していた四人の騎士が一斉に部屋の中へと飛び込んでくるのだった。

 

 

 

 

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