Forceへ繋がる物語   作:紅乃 晴@小説アカ

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chapter.10「ダインシーファ」

 

 

 

ダインシーファ。

 

歴史の表舞台には一切現れないその存在は、管理局が有する無限書庫の奥底にある最古の文献で、断片的ではあるが記述が残っていた。

 

古代ベルカ以前。人々が魔法と袂を分ち、あらゆる魔法技術が失われた暗黒時代。その時代を記す古代文字……通称「ダーク文字」で残された歴史書がある。

 

いまだに解読が進んでいないダーク文字であるが、その歴史書の筆者は、畏怖と敬意を持ってこう書き綴っていた。

 

【彼の者はアルハザードの破滅から生まれた選定者。進歩しすぎた結果、自らの愚かな過ちと怠慢、傲りで偉大なる魔法の叡智の歴史に幕を下ろしたアルハザード。その過去の過ちを目撃した人々が〝二度と同じ過ちを繰り返すまい〟と狂気に似た強迫観念に背を押されるままに想像したのが、ダインシーファという存在である】

 

彼は昔から〝そうであった〟。

 

今になってこうなったのではない。

 

最初からそれが目的で生み出された存在なのである。

 

進歩し、進化し続け、果てのない欲と願いを追い求める人種に訪れる等しき滅び。

 

人が作り上げた魔法文明は、滅び去ったアルバードのように人の手に余る叡智だ。

 

魔法という力を悪戯に振りかざせば、世界の終わり程度では済まない。あらゆる事象が連鎖的に崩壊し、世界も、宇宙も、多次元世界も、何もかもに終わりがくる。

 

人の愚かな欲で、そんな真似だけは絶対に許してはならない。

 

人種はその権限を持つべき種族ではない。

 

故に、彼は滅びを携えて歴史の節目に現れる。

 

ある時は賢者として、ある時は魔王として、ある時は勇者として、ある時は権力者として。

 

彼は何者でもない。その時代、その世界、その歴史、その文化に即した最適な形で現れる凶報そのものだ。

 

彼は常に点をもたらす。

 

その点は人種を進化させることもあれば、争いを招くこともあり、そして悲劇に繋がることもある。

 

点そのものがターニングポイントなのだ。

 

彼が選定を下す際、その点はまるで導火線の如く連鎖的に火を吹き、瞬く間のうちに叡智と繁栄を極める文明社会を終わりへと導くのだ。

 

だが、稀に。

 

本来繋がることのない点を繋げる存在が現れる。

 

点は線となり、その点に気づいた者たちの力となる。自覚があろうが無自覚だろうが関係ない。その存在は、ダインシーファにとってはイレギュラーな存在であり、その世界にとっては福音になりえる英雄でもある。

 

そんな存在を期待した。

 

点に気づき、繋げてゆくことができるイレギュラーを。

 

その滅びゆく世界を止めるべく立ち上がる〝主役〟たちを。

 

彼らこそが、人の可能性と、魔法という力に呑まれ、溺れない存在なのかもしれない。

 

だが、その期待と夢はこれまで幾度となく裏切られてきた。

 

結局、そう言った主役たちもまた人である。己の欲望、権力への執着、生への願望を捨て去ることなどできないのだから。

 

だから、彼は期待はしない。

 

彼はただ待つだけだ。

 

すでにこの世界に点を置いた。

 

あとはそれをどうするか。

 

それを決めるのは、その世界に生きる〝主役〟たちなのだから。

 

 

 

 

「主!」

 

執務室の前で武装状態で待機していたヴォルケンリッターの騎士たちは、部屋内から溢れた異様な気配を察知し、一斉に執務室へと踏み込む。

 

ザフィーラとシャマルがすぐさま主であるはやてを庇うように立ち回り、騎士の中で最も突発力と攻撃力を持つシグナムとヴィータがのんびりと眺めているジョン・オールドマン……いや、ダインシーファの前でアームドデバイスを構えた。

 

「騎士達を連れていたか」

 

予想通りだな。

 

彼は変貌した容姿のままそう言うと、窓から差し込む光を背にする。逆光の中にいるダインシーファは、赤く変色した瞳ではやてを見据えていた。

 

その目にはやては見覚えがあった。

 

過去に自分の元から去っていった祝福の風。

 

その彼女と同じ目をしている。はやては僅かに動揺する心を覆い隠して、ダインシーファを睨み返す。

 

「貴方がそんな真似をしたなんて、信じたくは……なかった」

 

彼は、はやてにとって理想だった。

 

だが、全ての黒幕であった彼がそうなることは必然であり、ダインシーファからすればはやては手のひらで転がされている哀れな存在の一人に過ぎない。

 

そう思えば思うほど、はやての中にある悲しみと裏切りに対する怒りが大きく膨れ上がっていた。

 

「大人しく降伏しろ。逃げ場はどこにもない」

 

怒るはやてを代弁するようにレヴァンティンの切っ先をダインシーファに向けてそう通告するシグナム。

 

隣にいるヴィータが持つアームドデバイス、グラーフアイゼンから爆轟のような炸裂音を轟かせた。なるほど、戦闘準備は万全というわけだ。

 

目に見えるほどの敵意の気配を体全てで浴びながらも、ダインシーファは何ら動じることもなく二人の前に数歩、歩み出した。

 

「確かに、最早ここには用はないが、逃げるつもりはない。私は自らこの場にきた。だから、自らでここを去ろう」

 

「てめぇがここを去るのは、はやてに手錠をかけられた時だ……っ!」

 

ただでさえ、ダインシーファの言ったプレシアの無念と、フェイトの過去に大きく関わっている事に対して怒りを抑えられないヴィータは、それに輪をかける形で挑発してきた相手を待てるほど気は長くなかった。はやてからも相手の出方次第では過激な手段を許されている。なので遠慮はしない。

 

ヴィータが地を蹴ると同時、爆音の炸裂音を響かせたロケットが閃光を発する。2メートルほどあった間合いを一気に縮め、飛びかかる形で鉄槌を振り下ろす。その手には確実に捉えたという手応えがあった。彼は受け身も何もしていない。

 

なのに、なぜ、自分が後ろへ吹き飛ばされている?

 

「口の利き方がなってないな」

 

ダインシーファの後ろにある大きな窓に叩きつけられる。その窓は高層フロア用に設計された厚み10センチ程度の特殊素材ガラスで、そこ目掛けて背中から叩きつけられ、肺の中の空気が一気に外へと逃げ出した。分厚いガラスにヒビが入り、ヴィータはそのまま床へ落ちてグッタリと倒れた。

 

そのやり取りを見ていた他の全員にとって、相手の動きは信じられないものだった。

 

ダインシーファはヴィータの攻撃を受けたわけでも、避けたわけでもない。

 

ただ単純に振り下ろされたグラーフアイゼンの柄を掴んで、それを後ろへと投げ飛ばしただけ。

 

ただ、その全てが恐ろしく自然体で、なによりも早かったのだ。

 

「……この……野郎ッ!砕け、アイゼンっ!」

 

状況を全く理解できていないヴィータは、グラーフアイゼンから発せられる爆発的な加速の勢いで起きり、今度は外さない、と背後からダインシーファへ殴りかかる。

 

「ガッ!……ァッ……!?」

 

振り下ろしたアイゼンを持つ両手の隙間からぬるりと現れた手が、そのままヴィータの首へと届いた。幼い体躯であるヴィータの身体は急ブレーキをかけたように止まり、首を視点にぶら下がる形となった。ジタバタと足を動かして抵抗するが、ギシギシとはやて達にまで聞こえる音と共にヴィータの首は締め上げられてゆく。気道が潰れ、声も上げられない。まるで万力に挟まれたような壮絶な力の前に、息を吐くことも吸うことも許されない。

 

「実に理にかなった戦い方。だが直線的だ。なにより魔力に頼りすぎている。その程度か、ヴォルケンリッターにおける鉄槌の騎士よ」

 

哀れみすら含んだその言葉に呼吸を完全に断たれているにも関わらずヴィータはダインシーファを睨みつけた。援護するためにシグナムやザフィーラがこちらに向かってくるのが見える。

 

じゃあこうしよう。

 

ダインシーファはヴィータを掴む腕を振い、ヒビの入った特殊ガラスへヴィータの身体を叩きつけたのだ。厚さ10センチの強化ガラスが叩き割れる。ヴィータは、激しい痛みと衝撃に襲われ、途切れる間際にはやての小さな悲鳴が上がったのが聞こえた。

 

ダインシーファは、顔を真っ青にするはやてを一瞥すると、砕けて吹き抜けになったガラスの場所から身を投げ出した。高さ50メートルの高層本部ビルの一室から、まるで小さな段差を飛び越えるような動作で気絶したヴィータを掴んだまま飛び降りる。

 

すぐさまシグナムやはやてもバリアジャケットを展開して飛び降りた相手の後を追う。

 

身一つで、しかも気絶した少女のような体躯の女性を抱えたまま飛び降りたダインシーファは、音もなく管理局の職員たちが行き交う通路へ着地した。

 

同じく下へと浮揚魔法で降りてきたシグナムは、気絶して全く動かないヴィータをまるで興味をなくしたように適当に放り出しすダインシーファの姿を見て、烈火を纏われた愛剣を振り下ろした。

 

飛び降りる体重も、振り下ろした全てにかける。

 

渾身の一撃だったそれは、見上げていたダインシーファの人差し指と親指で何のこともないように受け止められてしまった。

 

「いい太刀筋だ、烈火の騎士よ。だが甘い」

 

同時に腹部に激痛、衝撃。

 

シグナムは吹き飛ばされ、そして背後にあったビルの外壁へ叩きつけられた。外壁を抜いてビル内のフロアに達したシグナムに、状況を把握できていない局員達はパニック状態に陥った。

 

四つん這いになるシグナムは、ドバドバと流れる血を見つめた。意識がぼやけるどころか、痛みでより神経が鋭利になるようだった。パニックになる局員たちの悲鳴が頭の中にガンガンと響き渡る。レヴァンティンを杖にして立ち上がり、口の中に溜まった血を吐き出しながら、シグナムは自分を殴ったダインシーファを睨んだ。

 

そして、その右手を見て言葉を失う。

 

ザフィーラとシャマルに護衛される形で降りてきたはやても、その装飾品を前に声を荒げそうになってしまったという。

 

「言っただろう、全ては私がやったことだと」

 

暗い青を基調にしたカラーリング。白いラインが刻まれており、そして中央には赤いアンカーの槍が備わっている。

 

「ナハト……ヴァール……ッ!」

 

その装飾。姿形。見間違えることはない。はやては震える声で小さく言ってしまった。

 

 

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