Forceへ繋がる物語   作:紅乃 晴@小説アカ

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第二章「ソーサラーズ」
chapter.12「ワールドダウンシステム」


 

 

第4管理世界「カルナログ」

首都、グラニマから南へ100km。

 

郊外にある総合医療センターに運ばれたなのは達は、手渡された高流用のベンチュリーマスクを口に当てて呼吸を整えていた。……これは酸素を得るためではなく、より効率よく魔力素を補填するための行為だ。

 

レプリロイドであるアノンが言った「魔力素マスク」の考え方に近いと、このマスクを手渡していた医療スタッフは言っていた。スバルやチンク、セインも消耗した魔力を補うためにマスクで呼吸を整えている。

 

今のなのはたちは、極端にリンカーコアが衰弱していた。

 

例えるなら、かつて闇の書に魔力を蒐集された直後の状態に近い。マスクを通して高濃度に調整された魔力素を含む酸素がこくられていて、それを摂取することでリンカーコアの衰弱を幾分か回復させることができる。

 

「君たちは運が良かったというべきかな。もう少し遅れていたらリンカーコアが衰弱しきって意識混濁……最悪の場合はショック状態もあり得た」

 

魔力素以外にも影響があったため、内申や栄養補給の点滴もしてくれた医療スタッフから、なのは達は説明を受けていた。この総合医療センターは、なのは達を助けた組織「ソーサラーズ」に協力的であり、忙しく動き回るスタッフ達はなのはたちと一緒にいた他の隊員のケアも行なっている。

 

本当に、彼女達は運が良かった。

 

スタッフは伏せたが、リンカーコアが限界まで衰弱すると魔力補填だけでの完全な根治は難しく、なんらかの障害が残ることになる可能性もあった。

 

「なぜ、魔力がこうも消耗したんですか?」

 

「君たちがいた廃墟だが、あの地帯一帯の魔力素の絶対値が大きく減衰していたんだ。特に君たちのいた部屋の魔力素はゼロに等しかった」

 

魔力素が消失している。その状況になのは達はお互いの顔を見合わせる。そんな話など聞いたことがない。魔力素は自然界に存在する物質であり、それは大気内、宇宙空間関係なく存在している。あって当然な物質が無くなるなんて、あり得なかった。

 

「あり得ないことだ。魔力素はこの世界を維持する源でもある。人はリンカーコアを通して魔力を得ているが、他にも動植物や次元空間に住む生命体のエネルギー源にもなっている。そんな物質がピンポイントで消失するなんて自然ではないことだ。だが、奴らはそれを可能にした」

 

「それは……どうやって?」

 

「ワールドダウンシステム、と我々は読んでいる」

 

スタッフに代わって答えたのは、病室に入ってきた男性だった。

 

「ボウマン」。そう名乗った相手は、捕らわれていたなのはたちを助けたソーサラーズを率いていた人物だった。

 

なのはたちよりも年上で落ち着いた雰囲気をまとうボウマンの容姿は、白髪と褐色の肌。赤茶色の瞳をしていた。

 

「ワールドダウンシステム……随分と豪胆な名前だな」

 

マスクをしたまま呟いたチンクに、隣にいるセインも頷く。医療スタッフは別室にいる他の隊員の様子を見に行って、病室内にはボウマンとなのは達、そして数人の警護しかいなかった。

 

「なのは?」

 

隣にいる親友は黙って部屋に入ってきたボウマンを見据えている。その様子を見て心配になったフェイトが声をかけるが、なのはからの返事はなかった。ボウマンは、じっと見つめているなのはと目が合うが、すぐに目を逸らして言葉を続ける。

 

「レプリカント、レプリロイドはワールドダウンシステムを前提に作られた。システムが起動すると空気中の魔力素は性質が反転する。つまり魔力を得る性質から消費させる性質に変わるんだ。AMFやジャマーなんてものじゃない。まさに魔導士の力を奪いにくる」

 

空気中の魔力素が裏返る。

 

それはつまり、リンカーコアが吸収するはずの魔力が、その器官からエネルギーを奪うことになるのだ。

 

反転した魔力素を吸収し続ければ文字通りリンカーコアはどんどん衰弱し、最終的には機能不全を起こし、完全に破壊される。

 

対処法はただ一つ。

 

高濃度の魔力素を補填したボンベから酸素と共に魔力素を吸収するしかなく、マスク内の魔力素しか信用できなくなる。

 

「元々このマスクは外縁部の未開世界調査のために開発されたものだ。外世界では魔力素の濃度が極端に低い場所もある。そういった時に使用することが目的だったが……まぁ、活用頻度は多くない装備だった」

 

ワールドダウンシステムがどういう風に運用されているかは定かではないが、その効果はレプリロイドにも適用される。故に相手も同じようにマスクを装着していた。

 

また、魔力素が消失した空間内では当然、魔法は一切使えない。そのため、レプリカントは人工骨格と人工筋肉から作られ、打撃などの物理攻撃にも重きを置いた設計になっている。

 

「ボウマンさん……。ソーラサーズって一体何なんですか?貴方達は、管理局の人間なんですか?」

 

人一倍、肉体に負担を抱えるなのははマスクを外し、白髪のボウマンへ問いを投げかけた。

 

彼らは「ソーラサーズ」と名乗った。

 

長らく時空管理局に務めるなのはも、執務官であるフェイトも、救護隊で世界をまたにかけて行き交うスバルも、そんな組織の名など聞いたこもない。

 

ボウマンは腕を組んでしばらく沈黙してから、言葉を切り出す。

 

「これを知る上で、お前達は選ぶ必要がある。一つは全てを忘れて元の生活に戻ること。もう一つは我々と共にダインシーファに立ち向かうことだ」

 

その上で、今教えられることを伝えるとボウマンは続ける.

 

「我々は時空管理局の人間ではない。元管理局員という肩書きは多いがな。俺自身も、元は管理局の武装航空隊員だった。だが、それはどうでもいい。

 

ソーラサーズはどこの組織にも属していない。管理局にも、聖王教会にも、もちろん次元犯罪組織にもだ。我々の組織の目的はただひとつ、ダインシーファによる世界の破壊を防ぐことだ」

 

簡潔になのはの質問に答えたボウマンに、スバルがおずおずといった様子で手を挙げた。

 

「その……ダ、ダインシーファって一体何ですか?」

 

あぁ、そうだな。まずは彼の説明か。ボウマンは空中に光学モニターを展開し病室の壁に複数の画像を投影する。

 

なのは達も映し出された資料を見るが、そのどれもが統一性を持っていなかった。

 

壁画、古代文献、紙の資料、惑星の廃墟の写真。そして砕けて消え去った過去の文明社会の残骸が数多く映し出されている。

 

この全てにダインシーファが関与していると我々は考えているとボウマンは言葉を続けた。

 

「ダインシーファは人と魔法を選定する存在だ。その起源はアルハザードにまで遡る。ダインシーファに特定の形はない。それは概念的な存在で、あらゆる時間、あらゆる時代、あらゆる文明に彼は現れている」

 

アルハザード……。それを聞いて、フェイトは〝母〟の顔を思い出した。

 

プレシア・テスタロッサ。

 

フェイト自身が生まれるきっかけともなった少女、アリシア・テスタロッサを蘇らせるために、伝説と言われた魔法世界の極地たるアルハザードを目指した。

 

ロストロギア、ジェルシードを使ってでもその場所を目指したプレシアの狂気。

 

それに絶望した過去が脳裏をよぎる。

 

それに関わるダインシーファはなぜ生まれたのか、なぜ存在しているかはわからないが、確かに存在している。

 

人と魔法のバランスを見つめる選定者。人が繁栄を極め、悪き道に踏み出そうとした時に現れる。

 

悪き繁栄には滅び。正しき進歩には繁栄を。

 

彼はいつも、そうやって幾度も倒れて滅び去った文明の中に現れている。

 

「神様……?」

 

「そう言えたら一番楽なんだろうけどな。残念ながらダインシーファは神ではない。あれもまた、何者かが生み出した存在なんだろう」

 

ボウマンからすれば、そもそも神様なら何度も繁栄しては滅ぶ世界に律儀に付き合わないとも思っていた。きっと嫌気がさして、人という愚かな存在を絶滅させていただろう。だが、そうなっていないということは、人を存続させるために生み出された……という方がしっくりくる。

 

「そのダインシーファは、ここに映っているロストロギアに何の関係があるんですか?」

 

「君たちが封印して集めたロストロギアは、文明が破滅するためのピースだ」

 

ジュエルシード、夜天の書、レリック、そしてマリアージュ。

 

過去になのはたちを含む管理局が回収し、保存し続けている古代遺失物の全てが、世界の破滅へと繋がるパズルのピースだとボウマンたち、ソーサラーズは確信していた。

 

「ロストロギアは「デッドマンスイッチ」。行き過ぎた魔法技術を持つ世界を滅ぼすための自爆スイッチ。これまでの世界は自らの責で滅んだ。そして、そのロストロギアの影に必ずダインシーファの痕跡が残っている」

 

そのデッドマンスイッチの残骸、役目を終えたものがロストロギアと呼ばれる。そして、それを生み出してきたのはダインシーファである。

 

世界は、過去と現在と未来に無数に点在していてる。

 

しかし、その全てには必然性があって、行き過ぎた文明の進歩が最終的には〝世界の破滅〟に帰結するのだと。

 

「待ってください。それはあまりにも暴論すぎます。世界を滅ぼすためにロストロギアが生み出されたなんて……」

「だが、事実はそうだ。ジュエルシード、闇の書、レリック……君たちが確保したロストロギアは過去にいくつもの文明社会を滅ぼしている。欲の生んだ賜物だというなら、なぜそのどれか一つでも存続して、ミッドチルダを上回る文明を築いてこなかった?」

 

古代遺失物と呼ばれるもの。都合のいいものだと思った。世界を滅ぼすだけの力を持ったもの。では、それはどこからやってきた?世界観を深めるためだけに生み出されたアイテム……なんてことはあり得ない。すべてには意味があり、作られた理由があるのだから。

 

逆説的に言えば、ロストロギアは世界を滅ぼすために作られたと言っても良い。

 

確かに使い方を考えれば人々のためにもなる。ジェエルシードなんていい例だ。あれ一つで世界のエネルギー問題はあっという間に解決する。

 

だが、それは滅びをもたらすために使われ、事実世界は滅んでいる。

 

「古代遺失物は危険だとし、それを確保、保管するのが管理局の存在理由のひとつだ。だが、誰も考えなかった。なぜ危険だとされる古代遺失物は作られたのか、と」

 

ボウマンの言葉に、スバルも、フェイトも、そしてなのは自身も……その場にいる全員が言葉を返すことができなかった。

 

ロストロギアは回収してきた。だが、それで終わり。深くまで考えなかった。結果的に今の世界は、破壊と痛みと喉元にまで迫った終焉と破滅と隣り合わせ。

 

「君たちがどういう選択をしようが構はしないが……もう破滅の戸口の前に我々は立っている。それをどうにかするために、ソーサラーズは作られたんだ」

 

これ以上は語ることはない。そう言い残して救護室から出ようとするボウマンを、なのはが呼び止めた。

 

「……教えてください。貴方達の目的と、ダインシーファが何をしようとしているのかを」

 

世界のすぐそこに破滅が迫っているのなら止めなきゃならない。なのははそんな思いに突き動かされるまま、ボウマンの言葉を待った。

 

彼はしばらく無言を貫くと、振り返ることなく答えた。

 

「ダインシーファに常識は通用しない。相手は我々と異なり、もっと高次元的な存在だ。アルハザードからの使者であり、人と魔法の均衡を監視する裁定者だ」

 

スバルとチンク、セインは信じられないと言った顔をしていて、なのはとフェイトは真剣な眼差しをしている。

 

ボウマンはこう続けた。

 

「簡潔に説明する。奴の目的はワールドダウンシステムを使い、魔法という存在そのものを消し去るつもりだ」

 

世界の破滅はすぐそこに迫っていた。

 

 

 

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