Forceへ繋がる物語   作:紅乃 晴@小説アカ

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chapter.14「ボウマン」

 

 

 

第4管理世界「カルナログ」郊外の総合医療センターは、地方都市の発展に伴って建てられた。

 

カルナログ首都グラニマ近郊に広がる工業地帯、首都からさらに遠ざかる方面には第三次産業があり、それらに従事する従業員や家族にとって重要な医療機関だった。

 

しかし近年の魔法犯罪の増加や、行政の対応不足によってカルナログ近郊の治安も悪化しつつあった。

 

治安悪化の影響を受けて工業地帯にある生産工場も生産拠点を変えるために閉鎖を余儀なくされ、郊外のベッドタウンの人口は減るばかり。それに比例するように医療センターを維持する費用も不足し始めていた。

 

そこに援助を申し出たのが、ソーサラーズであった。

 

管理局や聖王教会といった確固たる組織基盤を持たないソーサラーズにとって、カルナログの医療センターという存在は拠点の一つとして渡りに船で、医療センターも援助を受ける代わりに魔法犯罪やソーサラーズが救護した民間人の受け入れを積極的に行なった。

 

その繋がりがあって、なのはたちが罠にレプリロイドのハマった際も迅速に受け入れを行うことができ、すぐに応急手当てや治療を行うことができたのだ。

 

夜も更けつつあった時間帯。カルナログ特有の青白い月灯りが部屋に降り注ぐ。ソーサラーズの関係者向けに用意されたフロアは、有事の際には病室としても利用できるその部屋で、ボウマンはサイドランプを点灯させた薄暗い部屋の中で、実働部隊の装備点検を行なっていた。

 

後ろをバッサリと刈り上げた白に近い灰色の髪、褐色の肌、そして夕陽色の瞳。彼は淡々と並べられた装備を手に取って整備していく。

 

装備の点検などは本来ならボウマンがやる仕事ではないのだが、今はなのはを始めとした保護されている管理局の魔導師と距離を取りたかったのが本音であった。

 

彼女たちはソーサラーズに協力するか、管理局に帰還するか判断を迷っている様で、指揮官である八神はやて司令との通信も試みているが回線が圧迫されていてうまく通信が繋がらないようだった。できれば、早いうちに帰還させたいところであるが、と考えていた時、物資を保管する部屋の扉が開く音が背後から聞こる。

 

振り返ると前よりも伸びたサイドポニーの髪型が見えた。

 

シルエットだけ確認して、ボウマンは手にしていた酸素マスクの点検を再開する。

 

「ここは関係者以外立ち入り禁止の場所だぞ。それとも何か質問が……」

 

「アーチャー・オーズマン」

 

その名前に、ボウマンの手はピタリと止まった。部屋の扉が閉じられ、静寂の中で入ってきた女性の声が響く。

 

「……貴方ですよね。アーチャーさん」

 

自分の中の疑問を確信に変えるために問いかけてくる相手に、ボウマンはしばらく呼ばれなかった自身の名前を思い出しながら振り返る。

 

「……やっぱり忘れてなかったか。高町なのは」

 

薄暗い部屋の中で振り返るボウマン……アーチャー・オーズマンの顔を見て、なのはは小さく頷いた。

 

「衛星軌道拘置所で面会したのは4年前。忘れられてると期待してたんだがな」

 

「あの面会は、私にとっても忘れられない出来事でしたから」

 

それに、白髪の人は印象が濃いんですよ?と、困ったような笑みを浮かべるなのはの言葉に、ボウマンは「そうか」と小さく呟きながら、点検していた装備を机に置く。

 

ボウマン……ここではアーチャー・オーズマンと呼ぶが、彼となのはには面識があった。

 

4年前。まだアーチャーが「投獄」されていた頃。なのはは彼が起こした事件の真相を知るために当時投獄されていたミッドチルダ衛星軌道拘置所に訪れていた。

 

アーチャー・オーズマンが起こした事件。

 

新暦0068年にレジアス・ゲイズ中将が出した「技術共益圏の拡大」という声明は、その事件が原因で出さざる得なかった声明でもあった。

 

0067年の冬。

 

管理局がミッドチルダで行った大規模演習の最中に一部の空戦魔導師が管理局に反旗を翻した。

 

離反した彼らの大多数は外世界の人間で、魔力資質を持っていたことから管理局にスカウトされた者たちだった。彼らは管理局のロストロギア回収などによって大切なものを奪われたり、外世界で魔法の力にモノを言わせて横暴に略奪や破壊行為をしていた魔導師対して恨みを持つ者たちであり、魔法を持つ管理局に対抗するため、管理局に従順なフリをして潜伏し、魔法の力を得て、決起したのだ。

 

その決起した魔導師を率いていたのがアーチャー・オーズマンだった。

 

彼は自身の故郷で回収されたロストロギア、ダインスレイヴを管理局から奪取し、クラナガン沖合……地上本部目前まで迫る。しかし、管理局にいた頃の相棒であった空戦魔導師、ライリー・ボーンの決死の戦いによってダインスレイヴは破壊され、管理局への復讐を目指したアーチャーの野望は潰えることになった。

 

その後、離反した残党が次元世界に逃げ、管理局が独占していたデバイス技術が持ち出されたこともあり、当時のレジアス・ゲイズは一連の出来事に緘口令を敷き、デバイス技術の流出を「技術共益圏の拡大」という声明でかき消したのだった。

 

奇しくも、その離反事件が起こった当時、なのはは大怪我を負った直後であり、大怪我を負ったなのはを救助、離反事件で混乱するクラナガンの空戦領域を突破しミッドチルダの医療センターまで運び込んだのが、空戦魔導師のライリー・ボーンだった。彼は離反事件で暴走状態となったロストロギア、ダインスレイヴを止めるために戦い、クラナガン沖合で行方不明となっている。

 

その秘匿された離反事件の真相を知るため、4年前になのはは、投獄されていた主犯のアーチャーに面会をしていたのだった。

 

「アーチャーさん。なぜ貴方はここにいるんですか?」

 

まるで問いただす様な言葉であるが、問いかけた張本人であるなのはの顔はどこか物悲しげに見えた。その理由は、なのは自身がアーチャーが犯行に及んだ経緯を深く理解していたからだ。

 

自分が墜落した後に起こった事件を、彼女はよく覚えている。情報統制された中、病室から見たクラナガン沖合での戦闘や、ヴォルケンリッターの騎士であるシグナムとヴィータがひどく疲弊した姿。その姿や、J.S前後までになのはを形作った全てがあったから、尚更に事件のことを忘れることはなかった。

 

「まぁ、本来ならまだ俺は外に出るべきじゃないはずだった」

 

4年前の時点で、アーチャーの投獄期間は終身刑に近いはずだった。にも関わらず、今こう言って監獄の外にアーチャーはいる。彼は少し考える様な仕草をしてから答えた。

 

「超法規的措置……ってやつになるかな。ダインシーファの一件で、ソーサラーズに協力することになった」

 

「あの事件に、ダインシーファが関わっているんですか?」

 

管理局内部からの離反者が出た事件。ミッドチルダ地上本部の体制すら揺るがしかけた大事件の主犯であるアーチャーに法規的措置が取られたということは、件の黒幕と言われるダインシーファが関わっているのではないか。その予測に行き着くのは当然であった。アーチャーはシーツが整えられている近場のベッドに腰を下ろす。

 

「ダインスレイヴ。あの事件で俺が使ったロストロギアを覚えているか?」

 

「人の想いを魔力に変える剣……ですよね」

 

ロストロギア、ダインスレイヴ。離反事件後に完全破壊されたこともあってか、その古代遺失物の情報はかなり限られていて、「姿形は剣を模していて、その刀身を抜いた者の想いを無尽蔵のエネルギーに変える」という伝承めいた記述しか残されていない代物だ。

 

そのロストロギアを使い、アーチャーは地上本部の壊滅を狙った。だが、それ以前にダインスレイヴはアーチャーと深い関わりがあった。

 

「事件後、完全に破壊された唯一のロストロギア。あれはもともと、俺の生まれた世界では古の戦士が持っていたとされる神器だった」

 

アーチャーの故郷は管理外世界。その生活様式は古くから伝わる伝統を守る狩猟民族の生き方であり、その世界においてダインスレイヴは、民族の始祖である戦士が使った神器として恐れられ、同時に崇め奉られていた。

 

そして、その神器がロストロギアと判明し、管理保護の名目でやってきた管理局という存在と、彼らが使った魔法のせいで、アーチャーの幼馴染は亡くなり、挙句ダインスレイヴは目覚め、アーチャーの故郷は無くなってしまった。事件を調べていたなのはも、当時の管理局魔導師の横暴さを聞けば、アーチャーが管理局を恨むのは当然のことだと思った。

 

「俺の世界にあったダインスレイヴをロストロギアとして回収する任務の責任者が、ジョン・オールドマンだった。それ以外にも色々とな」

 

それは面会に来たソーサラーズの創設者の一人から聞いた話で、当時からジョン・オールドマンという皮を被ったダインシーファは暗躍しており、世界を滅ぼす可能性を持つ者をけし掛けつつも、今日に至る計画を進めていた。

 

もう10年以上前だというのに、それ以前からダインシーファという存在は管理局の奥底に関わっていた。

 

その話と共に、ダインシーファと接点があったアーチャーはソーサラーズにスカウトされ、コードネーム「ボウマン」として、監獄の外に出ることを許されたのだった。

 

それからは水面下でダインシーファの計画の調査を行なってきて、なのはたちのような管理局の人間を助ける様な真似もしてきた。罪滅ぼし……なんてスカウトしてきた者たちはいうが、アーチャーからすれば、監獄から出ても、こうやって戦う場に身を置いても、罪から逃れることなんてできなかった。

 

「アーチャーさんの目的は、復讐なんですか?」

 

なのはの言葉に、アーチャーの視線は少し下がる。

 

「4年前に言ったはずだ、高町なのは。俺の復讐の思いなんてもんは、あの冬の日の空に全部持ってかれたんだ」

 

それに。復讐なんて言えるほど、俺はまともに生きてきてない。アーチャーはいう。昔から今もかわらずに、自分はロクデナシのままだと。

 

アーチャーが全てを失った日も、管理局に復讐を誓った瞬間も、そして……親友と殺し合った時も。全てはアーチャー自身が決めたことだ。だから、ダインシーファなんていう都合のいい奴を言い訳にはしない。

 

「それでもなぜここにいるか。それを強いていうなら、ケジメをつけるためだ」

 

「ケジメ?」

 

「これまで俺がやってきたこと。俺が決めたこと。その裏にダインシーファが暗躍していて、今まさに魔法を世界から奪うために動いていると言うなら、それを止める」

 

いい様に使われて、牢獄に入るまでやったのだ。それくらい意趣返しをしてもバチはあたらないはずだ。それに、とアーチャーは夕陽色の瞳をなのはに向けて言葉を続けた。

 

「命を奪った親友が守ろうとした世界だ。それくらいやってもいいだろ?」

 

その瞳を見て、なのはは直感した。彼自身の中に、アーチャー・オーズマンという存在はない。彼はあの日……親友をその手で殺した時から、ずっと自分を無くしている。4年前に監獄で会った時もそうだった。自分で犯した罪を淡々と語ってくれた様は、後悔や無念もない、空っぽな語り部でしかなかった。

 

「……アーチャーさん」

 

「俺のことはボウマンと呼んでくれ。これでも身分を隠している身なんでな」

 

幸い、このことは誰にも話していない。なのは自身、4年前に拘置所で出会った日から、フェイトやはやてに問いかけられたことはあったが、誰に会いに行っただとか、どういう理由で行ったのかは常にはぐらかしていた。

 

嘘をついた……というよりは、言いたくはなかったのだ。監獄で見たアーチャー・オーズマンという人物が、あまりにも痛々しいもので。

 

そして今もまだ、深い傷を抱えたままだったから。

 

 

 

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