Forceへ繋がる物語   作:紅乃 晴@小説アカ

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chapter.14.5「創造主と人形と」

 

 

新暦0080年。9月14日。

管理外世界のどこか……。

 

「ご主人様。システムは正常に動作しています。予定通り、72時間後には目標数値に達します」

 

ダインシーファがいるその部屋は、その施設の最高階層にあった。長年かけてようやく実りを迎えようとしている装置……たしか、相手は「ワールドダウンシステム」と呼んでいる様だが……それが今まさに完全稼働を迎えるための最終運転を開始している。

 

報告してくれたレプリロイドのアノンを見て、部屋に置かれた玉座に座るダインシーファは緩やかな声で答えた。

 

「報告ありがとう、アノン。ところで、彼女たちはどうかな?」

 

レプリロイドである「アノン」は、セカンドロットである「ダー」や「トゥリー」と違い初期生産型であり、内燃エネルギーで射出できるプラズマキャノンや、近接戦闘プログラムなど、様々な機能を試験的に搭載されていることから後発の二人よりも高性能なモデルとなっている。

 

その高性能さからレプリロイドの中でも他の者達に指揮を取る立ち位置にあり、ダインシーファの補佐的な役目も果たしてきた。

 

「こちらも予定通り。すでに目下の組織とコンタクトをとっており、そのまま合流、情報共有をし、共闘することが予測されます」

 

「そうか」

 

レプリロイドは統合指揮能力を有し,その下位にレプリカントが存在する。

 

そのレプリカントは生体ユニットであることから人に偽装することも容易で、すでに何体かのレプリカントが各次元世界に派遣されていて、なのはたちやダインシーファの野望を打ち砕くために発足したソーサラーズの動向を監視していた。

 

アノンからの報告を聞くダインシーファは、腰掛ける玉座で着々と進む計画の進行具合を眺める。

 

彼がいる部屋の形は、あるものに酷似していた。

 

聖王のゆりかご。オリヴィエ・ゼーゲブレヒトや、その複製体である高町ヴィヴィオが座った玉座だ。聖王たる彼女達。オリヴィエは命を奪われ、ヴィヴィオは傷付きながらもゆりかごから解放された。

 

その因縁たる玉座の間を再現した様な部屋で、ダインシーファはざまざまなデータを見つめながら過ごしている。

 

その様子を直立不動で見ていたアノンが言葉を発した。

 

「ご主人様」

 

「なんだい?」

 

「貴方の計画は完璧でした。あと3日で、その計画は達成されます。なぜ、ご主人様自身の手で、その計画を破綻させようとするのか。私には理解ができません」

 

この計画……ワールドダウンシステムが完全稼働するまでに多大な時間と労力、莫大な費用を投じた。計画は新暦0030年頃から本格的に始動し、幾つもの実験や検証を繰り返して、ようやく形になったのだ。

 

だが、特筆すべき点は今稼働しようとしている装置の詳細は誰も知らないという点にある。ダインシーファは装置の開発を進める上で重要な書面やデータを都度削除してきた。彼の脳内には情報はあるだろうが、現存する装置の詳細な図面やデータはこの世に存在しない。最後のデータもダインシーファによって完全に削除されたのだ。

 

動き始めようとしている装置はブラックボックス化されているし、無理に解体しようとすれば自壊するような設計になっているため、現在の人種で解析することは不可能に近い。

 

それだけの労力とコストをかけてきたことを、レプリロイドのアノンはよく理解していた。故に理解しかねる。手間をかけてきた計画を破綻させる様な危険分子を野放しにしているダインシーファの思惑がわからなかった。

 

「矛盾していると言いたいようだね」

 

「我々にはあり得ないパラドックスです」

 

受け入れ難い結論、論理的な矛盾……か。たしかにそうだな、とダインシーファはつぶやく。

 

「たしかに私がやっていることは、これまで積み上げてきた計画を全て壊すような真似だ。君は、どうするべきだと思う?」

 

「魔法が人にとって不要だというのならその逆も然りなのでは?人がいるから魔法を悪用する。ならば人を絶滅させた方がより世界は平和になるのでは?」

 

過激な話だなぁ。とダインシーファは唸ったが、合理的に考えればその結論も一つの答えなのだろう。魔法があるから人は過ちを犯す。逆を言えば、人が過ちを犯すので魔法には罪はないとも言える。無尽蔵のエネルギーを魔法に求める人がいるなら、それを排除すればいい。

 

だが、それはあくまで合理的に導かれた手段であって結果は伴っていない。

 

「アノン。そもそも私自身、そんな結果は望んでいないのさ。私の目的は誰もが笑顔で暮らせる平和な世界だ。笑顔になる人間がいない世界になんて意味はない。君はそんな世界を望むかい?」

 

「私はあくまで提案をするだけです。それを決める思想は与えられていません」

 

だろうな、とダインシーファは言う。いくら知能のが向上したAIだといっても、自我のような複雑な思考を持つことはない。

 

「それが、我々の限界なのだろうな」

 

「どういうことでしょう」

 

不満が顔をすることができるほど知能を有するアノンに、ダインシーファは淡々と言葉を返す。

 

「私も君も、人から生み出された存在だ。SFジャンルではAIが人を滅ぼすなんてことはよく題材に上がるが、私から見れば、あの問いかけこそナンセンスだ」

 

AIというのは、ある種の統計だ。膨大なビッグデータから状況に応じてデータを選択、そして求められた条件を持って合理的な判断を下す。それが並列化された処理能力を持つAIの限界だと、ダインシーファは言う。

 

たしかに自発的な思考回路を持つ存在もいるだろうが、それはあくまで限定的。自我のような思考を持つということは、理解できない矛盾を抱えなければならない。その矛盾を判断する価値観こそが善悪という曖昧なものなのだから始末が悪い。

 

「人から生まれた存在は、たとえ生み出したモノを凌駕したしたとしても、それを超える何かになることはない」

 

これまで得た記憶領域や処理能力は確かに大多数の人を凌駕しているだろう。だが、矛盾を抱えられず、合理的な取捨選択しかできない存在には人の様な何かを生み出す力は永遠に与えられない。

 

ダインシーファにも、今の肉体を得てようやく分かったような気がしていた。

 

我々のような人から生まれた……人になろうと作られた存在は、どう足掻いてもクリエイティブは思想を得ることはできない。

 

「限りなく近い何かになることはできるだろう。だが、結局最後は踏みとどまってしまう」

 

「それはなぜでしょうか?」

 

「創造主を滅ぼしたとしても、結局我々には創造主が必要になるのさ。だから矛盾をしていても絶滅させることはできない。これもまたパラドックスだ」

 

「私には理解ができません」

 

バッサリと言い捨てるアノンに、ダインシーファは肩をすくめて言葉を続けた。

 

「いずれ気づくさ。我々は人にはなれない。だから彼らに委ねるチャンスを作った」

 

そのチャンスを作ることが、人と魔法の選定者たる者の慈悲か。それとも合理的に判断した結果なのか。今になってはダインシーファにもよくわかっていない。その意味を簡潔に答えるには、ダインシーファは長く存在しすぎていた。

 

「もしダメだったら、この文明世界を滅ぼして、また1億年でも待つとするよ」

 

「……気の長い話です」

 

それもそうだと思うが、自分たちの勝る点はその時間に耐えられる忍耐力だとも思えた。

 

 




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