Forceへ繋がる物語   作:紅乃 晴@小説アカ

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第一章「人と魔法の選定者」
capture.1「臨海第8空港火災事故」


 

 

 

新暦0071年 4月29日

19:25

 

燃え盛る炎が全てを覆い隠していた。

 

ミッドチルダ、首都クラナガンから離れた北部にある工業地帯。海上輸送による原材料の搬入や、次元航行船そのものが着水して入港できる利点から、海に面する地域に建設された臨海第8空港が大規模な火災に見舞われたのだ。

 

数年後の世界では、火災の発生原因は杜撰に管理されていた遺失物の暴走が原因という憶測も飛び交ったが、その真相は定かではない。

 

少なくとも、当時の火災が起こる現場で、その原因など考えている余裕なんてなかった上に、その有り様は異様だった。

 

まず火の手の広がり方。火災発生の第一報が緊急管理センターに届いた時間は19時15分で、そして火災が発生した貨物保管施設から数キロ離れているターミナルまで火の手が回ったのが19時20分。数キロの距離、しかも多くの人々がいるターミナルまでわずか5分。しかも一直線に向かうその災は現実離れしているとしか言えなかった。

 

当時、消化活動をしていた者の証言には、まるで炎が生きているかの如く蠢き、施設を次々と飲み込んだと記されている。そのスタッフは空港に常時待機している消火隊に所属していて、その未曾有の火災を前に、彼らの装備は消火対応に入る間も無く炎に焼かれ、残ったスタッフは逃れるしかなかった。

 

初期消火もできないまま火災範囲は広がり続け、火災発生からわずか15分後、19:30頃には空港全体が炎に包まれる非常事態となっていた。

 

その状況に空港内部では対処できないと判断され、すぐさま各救急部隊に緊急救援信号が発せられた。静かだった郊外が警報音と赤色灯、何事かと集まってきた野次馬によって喧騒に包まれる。

 

燃え盛る空港の上空を輸送ヘリが飛び交い、空港に隣接する国際展示場には今回の消化活動や政治的な判断を下す指揮所が設けらた。そこは消防組織、警察組織の他に、救援に応じた時空管理局の職員たちの姿もあった。

 

「なぜ救助部隊の突入が認められないのですか!」

 

静かだった指揮所内で声が響き渡る。その声の主は当時15歳の八神はやてだった。

 

実動部隊である航空武装隊や、機動隊が待機する詰所は指揮所とは離れていて、それら部隊を管理、運用、指揮をする詰所で現場指揮者にはやては詰め寄っていたのだ。

 

闇の書事件から管理局に入局した彼女は、管理局における後方支援部隊の指揮官として研修を受けており、今回の火災で実働部隊が少ない地上本部から急遽招集されていた。しかし、管理局内の地位では詰所で話し合いを行う者たちの中でも末席の身分であり、当時の八神はやてには勝手に部隊を動かす権力は備わっていなかった。

 

故に声を荒げて自身の提出した作戦書を却下した指揮官に抗議していた。

 

「落ち着け、八神一尉。今確認を取っているところだ」

 

「確認!?何の確認ですか?施設の損害補填?魔導師派遣による港湾施設への二次被害の計上?そんなことのために一般市民の命を危険に晒すのですか!?」

 

「八神!口が過ぎるぞ!立場をわきまえたまえ!」

 

指揮官の取り巻きたちから怒号のような声が響く。普段なら大それたことを言わないはやてなのだが、今回はそうはいかなかった。

 

空港内には懸命に消火活動をする消防隊がいる。しかし火災の規模から見て、彼らの持つ能力ではこの大規模火災に太刀打ちするなど不可能だということは明白だった。最悪なことに空港内には職員の他に取り残された一般利用者もいて、空港内にある耐火仕様の避難施設にはすでに収容人数ギリギリのところまで人が集まっている状況。避難する人々は迫り来る火の手に怯えながらも救助隊の到着を待っていたのだ。

 

救援部隊のメンバーは優秀な魔導士が揃っているにも関わらず、現場指揮者からは緊急出動号令が出ていない。その理由は、はやてが言ったように現場指揮者が危惧していることは強行救援による二次被害だった。

 

バリアジャケットを着用する魔導士たちならある程度の火災から対応可能だし、救助者にも結界魔法の応用が効くので、安全に救助することも可能だ。さらに要救助者の元へ向かうとなると、その方法は最短距離、つまり施設を破壊して一直線に避難施設へと向かうルートとなる。

 

その行為は空港施設を破壊することはもちろん、空港に隣接する工場や港湾施設に被害が出る可能性もある。その破壊行為の許可を現場指揮者は上層部に問い合わせているのだ。

 

火の手が回っている施設を壊すことに何の躊躇いがあるのか?

 

上層部がのんびりと会議をしている間に火災の範囲はさらに増えてゆく。間に合うはずの命が失われ、それは取り返しのつかない事態に繋がる可能性がある。

 

それに管理局には取り残された人々の親族から救援を嘆願するメッセージが何百通と送られてきている。ここで動かなければ管理局の信頼が失墜することになるのは間違いなかった。

 

「火災の規模から見て、上層部の許可などを待っていたら手遅れになります!今すぐ突入するべきです!」

 

「八神くん。君の意見は確かに人命優先の観点から見れば重要なことだろう。だが事は単純ではないのだ。……そう言った駆け引きも覚えておきたまえ」

 

当時、指揮所にいた最高階級の者は地上本部の人間であり、強硬な姿勢で組織改革を進めていたレジアス・ゲイズ中将に反発する派閥の人間だった。空港火災で甚大な被害が出た場合、責任を取るのはレジアス中将となる。

 

後年の事故調査委員会では、政治的理由から判断保留が行われたため、救助作業や消化作業に遅れが出たと指摘されたのだが、事実確認は有耶無耶にされている。

 

その人命軽視としか言いようのない指揮所の判断に苛立ちを募らせるはやては、降格処分……最悪の場合、指揮系統を無視した責任を負う覚悟で強行突入を実施するべきかと思案し始める。

 

そんなタイミングだった。

 

指揮所の正面入り口を開ける音が響く。

 

そこに入ってきた男性は、群青色の管理局制服と階級章を胸につけ、そのまま真っ直ぐに指令部が陣取るデスクまでやってきた。整った黒髪と黒い瞳。スラリとした体型で歩く姿もどこか目を引く悠然さがある。驚いてるはやてに目もくれず、面を食らっている指揮官へ黒い眼差しを向け、手を出しながら言葉を放つ。

 

「ジョン・オールドマン准将だ。君が指揮官だね。たった今現着したところだが、ここから先の指揮権は私が引き継ぐ。インカムを渡してくれないか?」

 

「オールドマン准将……上層部は、ここの現場責任を私に全て任せており……」

 

「その上層部の一人が私だよ。それに私がここにいる時点で、君の立場を聞いている場合じゃないということはわかっているな?」

 

ここから先は、君には無理だよ。

 

思わず息を呑む。言葉では発していないはずなのに、はやてには確かにそう聞こえた。指揮官の席に座っていた男も言葉を失っている。

 

窓から見える黒煙。燃え盛る空港の中には今もなお取り残された人がいて、それを助けるために空港設備を破壊する。

 

その許可を取ることにすら自分の都合のいい点を見つけようとして、無駄な時間を浪費する。

 

いかに誰かを蹴落とすために策謀を巡らせようとしても、目先の事しか見えていないこの指揮官にはそれが限界だった。

 

ここから先に生じる全ての出来事に対処することなどできやしないのだ。高度な政治的判断や、上層部の中で渦巻く複雑な権力闘争の事情も含めて。

 

指揮官の男は目を泳がせたのち、震える手で自身の耳につけていたインカムを外し、オールドマン准将の手に置くと、足速に司令部のあるテントを出て行ってしまった。まぁショックは大きいだろうな、とオールドマン准将は息をついた。指揮権が移行された段階で、彼の華々しい出世街道は幕を下ろしたのだ。

 

ジョン・オールドマン准将。

 

はやての知る限り、准将は現場の叩き上げで出世をした人物であり、上層部の中でも若手に位置する存在だ。管理局内部では不仲な陸(地上本部)と空(次元本部)の橋渡しや仲介役をするということでも有名な役職持ちであり、はやて自身も上級キャリア試験の際に、オールドマン准将と面談したことがあった。

 

〝管理局にいるのは夜天の書の主人としての使命感から?それとも君個人の使命感からか?〟

 

面談の時に問われた言葉をはやてはよく覚えていた。他の面談者の前では軽快に動いていた口が重くなり、喉も何かがつっかえる様な……心を鷲掴みにされたような感覚を味わう緊張感のあった面談だった。

 

また、その時に答えたはやての当たり障りのない回答について、オールドマン准将は一切言及せずに質問を終えたこともまた印象的であった。

 

そんなはやての前でインカムを装着したオールドマン准将はスタッフに依頼して全域に対する音声通信を始めた。

 

《聞こえるかな?私はジョン・オールドマン准将だ。上層部からの指示でこれより現場指揮は私が全てを仕切ることになる。よって、通信がつながってある君たちに情報提供を呼びかけたい。あぁ、畏まらなくてもいい。今は何より人命優先だ》

 

誤字脱字のチェック、形式を重視した資料、確証のない情報。その全てを提供する様に准将は現場にいる全員に呼びかけた。一刻を争う事故だ。やり方を重視したら時間を無駄にするだけになる。

 

《最前線で戦う君たちが私の視界となる。だから、そこから情報を与えてくれ。点と点を繋ぐのは私がやろう》

 

その言葉からしばらくして、現場から次々とデータが送られてくる。

 

画像データだけという切羽詰まったものから、通話記録、現場の状況を説明する音声記録、さまざまなデータが指揮所に向けて送信されてきた。次々と送られてくるデータを指揮所にいるオペレーターが人海戦術でアーカイブ化していくと、現場の状況が輪郭を帯びていった。

 

そして事態は最悪なものになっていることも判明する。

 

火の手は生半可な消火では間に合わないものになっていて、最終手段として氷結魔法も試みたのだが、火の勢いが収まる気配がないとのことだ。

 

その情報に目を通したオールドマン准将は、はやてのほうへと視線を向けた。

 

「八神くん。君の提示した作戦書をみた。救助部隊の準備は?」

 

「は、はい!救助部隊はすでに準備を整え、待機しています」

 

すぐに答えることはできた。ピンと背筋を正して答えるはやてが召集した部隊には申し分ない人員を揃えてある。

 

彼女の友人であり、休暇を利用して遊びにきていた高町なのは、フェイト・T・ハラオウンも救急隊員として参加してくれている。家族であるヴォルケンリッター、管理局に入ってから彼女が知り合った優秀な魔導師たち。彼らは万全の体制でいつでも動けるように待機している。それを聞いたオールドマン准将は満足そうに頷いた。

 

「素晴らしい。では、すぐに出発させてくれ。建物への被害が考慮しなくていい。現場の指揮は君に任せる。後続で航空部隊も到着するが遅れが出ている。あとで佐官を向かわせるから、君たちは一直線に要救助者の元へ向かってくれ。もちろんオールウェポンフリーだ」

 

はやては背筋が泡だった様な気がした。付け加えるようにオールドマン准将はこう言った。

 

「この世に命よりも尊ぶべきものなど存在しないからね。建物を吹き飛ばしてでも取り残された人たちを助け出してくれ。責任は私が取る」

 

その言葉にはやては敬礼を打つとすぐに待機しているなのはとフェイトに連絡を入れ、自分も現場指揮のためにリインフォース・ツヴァイと共に黒煙が舞う夜空へと飛び立つのだった。

 

その日、臨海第8空港は完膚なきまでに破壊された。

 

一つは大火災のため、もう一つは救助のためにやむを得ず放たれた収束魔法のため。

 

要救助者が全員助け出された後、恐ろしい早さで広がっていた火の手は収まりを見せ始め、約3時間後には完全に消化されるに至った。

 

火災と救護活動。その二つの影響で臨海第8空港の一部は廃棄処分され、主要箇所が再稼働を果たすまで多大な時間が要せられる事になった。

 

しかしその損失以上に多くの人命が救われたことが、ニュースで多く取り上げられた。

 

救助のために駆けつけたエースオブエースである「高町なのは」。

 

雷の如く駆け抜けて、人々を助けた執務官「フェイト・T・ハラオウン」。

 

そんな救助隊を最前線で指揮した「八神はやて」。

 

彼女らの活躍は瞬く間のうちにミッドチルダ中へと広まり、彼女らは英雄として華々しく事件を覆い隠した。

 

彼女たちの栄光と功績。

 

救われた者たちからの賛美と称賛。

 

そして停滞した組織体制を問題視したはやてが考えた「少数精鋭のエキスパート部隊」の創設。

 

あの火災事故から、またひとつ道は生まれ、進み始めた。

 

そして皆は気づかない。あの空港で起こった火災の真の理由が何だったか……その疑問にすら気づかない。

 

それこそが、「点」の一つであるということも知らずに。

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