カルナログ郊外、総合医療センター。
ロストロギア保管施設出発前、医療センター内にある大型の会議室では機動六課の面々や、協力してくれているチンクやセインが集まっていて、今後の対策についての話し合いが行われていていた。
「C.C.O……?」
聞いたことも見たことのない後付けの仕様に、デバイスの提出を求められたスバルやティアナたちは首を傾げる。
会議室の大型モニターの前に立って、話の主題を話しているのは、はやてに同行する形で着いてきたのは、フェイトの執務官補佐を兼任しつつ機動六課では技術主任を務めていたシャリオ・フィニーノである。
彼女に預けられたデバイスの全てにその機能が追加されることになった。
特徴的な丸メガネを正したシャリオは、追加したオプションの資料を手に不思議がるスバルたちへ説明を始める。
「C.C.O……クローズ・コンバット・オプション。装備の略名となります。すごくざっくり言えば、白兵戦オプションとなりますね」
「……白兵戦オプション?」
とりあえずデバイスを展開してみてください、というシャリオの言葉に従い、スバル達は待機状態のデバイスを展開して、そしてすぐに変わった点に気付いた。
「形状が変わってる!」
バリアジャケットが問題なく展開されるが、その武装に大きな変化があった。スバルのリボルバーナックルはナックルガード部分が大型化しており、ティアナのクロスミラージュはバレル下部に装甲とブレードが追加されている。チンクは固有武装で保管メモリから出し入れが可能なスローイングナイフ「スティンガー」があらかじめ実体化し複数装填したナイフベルトが腰に備わる形となっている。
展開したなのは達のデバイスも大きく形状変化していて、レイジングハートの先端部に尖形状の装甲が追加され、バリアジャケットの防護装甲も追加されているし、フェイトのバルディッシュは魔力光刃がオミットされ、実体剣が展開できるようになっている。
「このオプションは外部に魔力を漏らさない内部循環に重きを置いたモードで、別名は超節約モードと言ったところです」
C.C.Oの最大のメリットは、消費する魔力量が大きく減少することにある。必要以上の魔力は消費せず、デバイス内で循環するように大きくシステム変更が施されている。
既存のデバイスでは滅多に見られない大胆な仕様変更であるが、実はこの技術はすでに確立されている。もともと次元世界の探索、未開地を開拓する外縁部調査隊向けに作られたものだ。
次元世界の外縁部。そこにはデータのない未開拓な新世界が広がっていて、新たな資源や文化を開拓する外縁調査隊は、どういった脅威に遭遇するか分からないため、探索を担う魔導師達の魔力をできる限り温存するために開発された技術だ。
その性能から、後発のアームドデバイスやインテリジェントデバイスの余剰領域に保管されているオプションとなり、今では正式に管理局のデバイスに余剰領域に搭載されることになった。
といっても、C.C.Oは完全に「白兵戦」に特化したものになるため、魔力スフィアの展開、魔力光刃の展開、砲撃魔法や収束魔法のほぼ全てがオミットされ、近接戦闘用の増加装甲の追加、術者の防護装甲が追加されることから、魔導師の汎用性が一気に損なわれることになる。
「魔力刀身が差し替えられてますね」
ティアナが言うように、クラスミラージュの近接用に展開される魔力光刃部は、完全な質量材へ変更されている。
「使用感に大きな変化ないようになっています。追加される装甲や実体剣の素材は、強度は高く軽量。しなやかさを持ちつつも粘りのある点が特徴なんです」
シャリオの言う通り、スバルやティアナたちが軽く振ってみるが重さの違いはごく僅か。ティアナが念じると実体剣は量子化して記憶スロットへと格納される。
「C.C.Oは文字通り白兵戦用のオプション装備となります」
シャリオは続けて余剰領域に格納されていたオプションの説明を続ける。
C.C.O使用時は、術者の魔力をデバイス内で循環させることで安定化した分、前述した通り中遠距離の攻撃手段は全て捨てた超近距離線特化タイプとなる。例えば馬鹿みたいに濃い魔力素濃度で形成されている世界とか、逆に魔力素濃度が希薄な世界でも、魔力が安定し、問題なく維持できるようにする。それがこのオプションの真髄である。
「追加装甲は記憶スロットから即座に展開されますけど、魔力刀身とは発生タイミングが若干異なります。また軽量素材とは言え魔力光刃とは違い質量も存在します。なので使い勝手がかなり違うと思われますので、なるべく訓練をして体を慣らしていきましょう」
他にも大きな変化点がある。
魔力を内部循環方式に変えた故にC.C.O使用時は空を自在に飛ぶことはできない。
その代わりに地表スレスレを滑走するホバー機能を追加しているので、水上や荒野でも問題なく移動はできるようになっている。また飛ぶことはできないがジャンプすることは可能。しかし無理に高く飛べば魔力消費が激しくなるデメリットがある。
「それだったらまたリンカーコアを通して魔力を補充すれば……」
「それがスムーズにできないからホバーっていう誤魔化しをしてるんだよねぇ」
スバルの指摘にシャリオではなくなのはが困った顔で答えた。地上での戦闘と空戦では消費する魔力量が圧倒的に空戦の方が多い。常に術者の体を座標に留める必要がある上に、上下左右だけじゃなく、回転軸方向の制御も必要になるので、ぶっちゃけて言えば限られた魔力リソース内で空を飛べばあっという間にガス欠になるのだ。
そんな中、C.C.Oの追加装甲が備わったレイジングハートの調子を確かめていたなのはに、おずおずとスバルが手を上げる。
「なのはさん。やっぱりその……砲撃魔法は?」
「もちろん撃てる!……と、言いたいところだけど現実的にかなり無理があるかな。ディバインバスター数秒で3分の1の魔力が無くなるね」
「で、ですよね」
対ワールドダウンシステムとして急拵えに用意したものであるが、相手も魔力が使えない環境なため、砲撃魔法、収束魔法、魔力スフィアの応酬といった派手な戦いよりも、近接戦のによる地味ではあるが玄人が好みそうな戦術がカギとなるはずだ。
なのははレイジングハートを見て内心で思う。今の自分の体は、J.S事件時の無理が祟った影響で、砲撃魔法や収束魔法をバンバン撃って火力を全面に押し出すような戦いはできない。けれど、近接戦闘ならばまだフェイトやスバル達と一緒に戦える。
「これで、まだまだ頑張れるね」
《Exactly》
愛機であるレイジングハートの声もどこか満足げだった。