Forceへ繋がる物語   作:紅乃 晴@小説アカ

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chapter.18「レリック奪取 下」

 

 

2年前。

新暦0078年。12月。

 

ミッドチルダ北部での冬は西部や東部と比較すると厳しい寒さと雪に見舞われる土地柄であり、そんな過酷な環境を利用して作られたのが第四陸士訓練校であった。

 

この学校はティアナとスバルが訓練生時代を過ごした母校であり、今なお若き魔導師達が日々訓練を行う場所となっている。雪深い12月では、訓練カリキュラムが室内シミュレータや体力トレーニング、雪中行軍など季節による環境を生かした訓練も取り入れられている。

 

今日は室内での体力トレーニングだろうか、部屋に入ると遠くから掛け声と僅かな物音が聞こえてきた。

 

「……」

 

穏やかそうな事務員に案内され、訓練学校の校長室に入室したのは、先日ミッドチルダの衛星軌道拘置所から「異例」で釈放されたばかりのボウマンだった。

 

「こうやって貴方とお話をするのは……はじめてでしたね」

 

「ここで話を聞けと言われてきたが……訓練学校の校長様が出てくるとは考えてなかったな」

 

打倒ダインシーファを掲げるソーラサーズに協力することを決めたはいいが、釈放されてすぐに訓練学校に放り込まれるのは予想外……いや、自身が勾留されていた年月を考えれば当然の判断かとボウマンは向かい合う女性を眺めながら思った。

 

ファーン・コラード訓練学校長。

 

そう名乗った女性は、アーチャーより歳上で落ち着いた雰囲気を持っていた。

 

群青色の管理局制服をきっちりと着こなし、長い白髪を編み込んで整え、髪留めでまとめているシニヨンヘアが印象的……そしてなにより、ボウマンを見る目に違和感があった。

 

拘置所から出たばかりのボウマンに知り合いなんていない。なのにファーン・コラードは古くからボウマンを知っているようだった。その眼差しに気付きながらも、ボウマンは寒さを紛らわすために用意された紅茶に口をつける。

 

「アーチャー・オーズマン……いえ、今の貴方はボウマンでしたね」

 

ティーカップをソーサーに置こうとした手が止まる。ふと、視線をファーンに向ける。すると彼女は自身のデスクにあるフォトスタンドを取り、ボウマンに見せる。

 

そこには、ボウマンがまだ「アーチャー・オーズマン」であり、彼の相棒と肩を組んで映る写真と……そして、ファーンと相棒が肩を並べて映る写真が収められていていた。

 

そうか、なるほど……そういうことか。

 

その眼差しの理由も、自分をここに招かれたのも納得できた。

 

目の前にいる訓練学校の校長は、ボウマンが過去に犯した罪の現場にいたのだ。

 

「….…あれから10年も経ちました。貴方を憎むほど、気持ちの整理がついてないものじゃありませんので」

 

ファーンは10年前の事件の記憶を僅かに思い起こす。まだ自分が教導員として空を飛んでいた頃に遭遇した未曾有の事件。あの時の記憶は今もなお彼女にとって鮮明で、忘れ難いもので、今のように自分が空を降りて訓練生を育てる道を選ぶきっかけにもなった。

 

あの事件でファーン・コラードは多くのものを失ったのだ。空を飛ぶ意味も。自分の中にあった価値観や正義感も。そして憧れた人の背中も。

 

「それに……私以上に、ボウマンさんは自分自身を許していないようにも見えます」

 

「……どうだろうな」

 

そういってボウマンは視線をティーカップの中で揺れる紅茶の水面に落としていた。

 

本音を言えば、ファーンはあの事件を起こした相手に物申したいこともあったと思う。けれど、部屋に入ってきたボウマンを見て、ファーンは考えていた言葉の数々が意味を成さないと理解した。

 

事件を起こし、管理局を裏切り、多くの犠牲を出して、そして……相棒であり、親友だった相手を殺した。今のボウマンは、決断した全てを受け入れ、自分自身を許さずに立ち止まっている。そんな様子を見て、ファーンの中にあった怒りに似たような何かは音も立てずに消え去っていた。

 

「貴方をここに呼んだのは、これを渡すためです」

 

本題である話に切り替えたファーンは、待機状態のデバイス取り出して、ボウマンの前に置いた。

 

それを見て、ボウマンの顔色は僅かに変わる。彼の前に置かれたのはアームドデバイスであり、事件前まで属していた時空管理局で使用していたものだったからだ。

 

突然であるが、ミッドチルダ製のアームドデバイスの歴史は案外短い。闇の書以降でヴォルケンリッターの協力もあってミッドチルダのアームドデバイスの研究が始まり、闇の書事件から2年後の新暦0066年中期からスタートした「シヴィライゼーション計画」の中でひとつのプロトタイプが開発された。

 

それが、ボウマン……アーチャー・オーズマンが過去の事件前と事件当時に使用していたデバイス、「ベリルショット」であった。

 

「何故、あんたがこれを……」

 

「事件後に廃棄される予定だったものを私が譲り受けたのですよ。ただ、もとは二つで一つのデバイスでしたが、片方はあの戦いで失われたままです」

 

そういって光学式モニターを展開したファーンは現在のデータをボウマンに見せる。

 

マスコットネームも変更されており、名は「ベリルショット・ディフェクティブ」と記されていた。ディフェクティブ……欠陥のある、不完全なという名をつけるデバイスとは。ボウマンはそれを渡してきたファーンへ少し鋭い視線を向ける。

 

「俺に対する戒めか?」

 

「これを貴方に託すのは、私自身の覚悟です」

 

ボウマンの言葉にファーンは即答する。彼女の手にはもうひとつの待機形態のデバイスがあった。ギュッと握りしめているデバイスをボウマンはよく知っていた。それが相棒が使っていたものと同じだったからだ。

 

「押し付けがましいですね……申し訳なくも思っています。ただ……貴方にはこれを持っていて欲しかった。単に私の我儘です。それにベリルショットを完全に復元することは叶わず、純粋に当時の技術を再現することができなかったんです」

 

そう続けたファーンはベリルショットのデータをボウマンに見せる。閲覧できる装甲の構造材質、フレーム構造などは「デバイスそのものを武器として扱う」というアードデバイスの特徴をミッドチルダ式で上手く再構成されていて、現代のミッドチルダ製アームドデバイスの礎ともなっている。

 

問題はソフトウェア。

 

ベリルショットはアームドデバイスのプロトタイプという点と、本体そのものに高負荷が掛かることからインテリジェンスデバイスのような高精度なAIの搭載は見送られ、代わりにストレージデバイスのような簡易的な補助AIが搭載されている。それは武装の切り替えや魔力効率を格段に向上させる目的もあったのだが、いざ解析を行ってみるとベリルショットには簡易的な補助AIでは考えられないほどの記憶容量が搭載されていて、しかもその大部分がブラックボックス化されていたのだ。

 

ブラックボックス化された影響で、本来なら2対の「銃剣」であるベリルショットの失われた片翼を復元することも叶わず、ファーンもボウマンへ不完全な状態で渡すことしかできなかったのだ。

 

「このデバイスはおそらく……アームドデバイスのプロトタイプという以外にも、何らかの特別な目的で作られています」

 

神妙な面持ちでそう言葉を続けたファーンに、ボウマンは待機状態のベリルショットを受け取りつつ、問いかける。

 

「なにか、そういうデータがあるのか?」

 

その言葉にファーンは首を横に振る。特別な目的、というものに関する証拠は何もない。けれど、それでは説明できない何かをファーンは感じ取っていた。

 

「ただ単純に……私の勘がそう思っているだけです」

 

席を立ち、校長室から訓練学校を望める窓を眺める。外はあの事件の時と同じような空で……静かに雪が降り始めていた。

 

 

 

 

響き渡る轟音と共に、一瞬飛んでいたボウマンの意識が覚醒する。仰向けで埋まる身体を瓦礫とかした床から起こす。特殊塗料で舗装され、さっきまでワックスでピカピカだった夢は砕けたコンクリートとモルタルの粉でドロドロになっていた。

 

意識は揺らぐ。手足はまだ動いた。手に持っている武器の感触もある。まだ戦えると判断して、ボウマンはすぐさま激闘を繰り広げているであろう隣のフロアへ、自身が吹っ飛ばされて空いた穴を通って向かった。

 

《クラニアム・シュラハト》

 

オレンジ色に発光するまで熱せられたランスは、プラズマ砲と同じ原理でエネルギーを得ていて、何の対処もせずに触れれば重篤な火傷を負うこと必須。そんなランスをなのはたちに囲まれているアノンは容赦なく振り回した。

 

横薙ぎの一撃が近くにいたなのはの脇腹に当たる間際で目の前に飛び込んだスバルが片手に備わるリボルバーナックルで受け止めるが、受けたと同時、熱せられた鉄の上で水が蒸発するような音共に、受けたリボルバーナックルが瞬時に熱せられ、スバルは思わず顔を歪めた。

 

「あっつい!こんちくしょおお!」

 

「スバル!」

 

手から伝わる熱さを押し殺して、スバルは振るわれたランスを無理やり地面に向けて押し込む。動きは止めた。ランスの自由を奪われたアノンの背後。戦斧形態のバルディッシュを人の急所である頭頂部めがけてフェイトが振り下すが、差し込まれた装甲付きの腕でその一撃は阻まれる。

 

「流石に硬いですね。ただ、それだけです」

 

その言葉と共にフェイトの下腹部にアノンの蹴りが炸裂する。そのままスバルに抑えられたランスを逆に地面に突き立て、まるでポールダンスを踊るかのようにランスの持ち手を起点に回転したアノンは、抑える力の先を見失ったスバルの顔を蹴り上げた。

 

「フェイトちゃん!」

 

「ふっ……!」

 

相手を気遣う暇があると思っているのかと言わんばかりに、ランスを持ち直したアノンはなのはにも猛威を振るった。熱せられたランスの穂先をレイジングハートで受け流すが、なのはが顔を上げたと同時にアノンの肩口に備わるプラズマキャノンがなのはを襲った。

 

「魔法に制限がある貴方たちなど、取るに足らない」

 

「クラニアム」のひとつであるランスを構えて佇むアノンの近接戦闘能力は圧倒的だった。

 

クラニアムとは、アノンのようなレプリロイドが持つことを許された専用の武装であり、その形は様々。アノンの持つものはランスタイプであり、単なる質量武装としても優秀で、さらに「クラニアム・シュラハト」という穂先を始めとしたランスの前方部を高熱に熱するモードは、魔法が制限されるなのはたちにとっては非常に脅威であった。

 

なのはたちのバリアジャケットにも防御装甲が追加されている。にも関わらず、その防御装甲をアノンの攻撃は容易く抜いてきた。すでに増加装甲の幾つかが破損していて、防御のために魔力を割いている状況だった。

 

「ここで眠りなさい。高町なのは」

 

プラズマキャノンをなんとか堪えて立っているなのはに、クラニアムを構えたアノンが迫る。

 

「王手にはまだまだ遠いぞ、レプリロイド」

 

突き出されたランスの穂先がなのはを捉えたかけた刹那、その真下から穂先が蹴り上げられ、大きく軌道が逸らされる。それと同時に振り抜かれた袈裟斬りがアノンの胴体に喰らい付いた。胸部、腹部にあしらわれた純白の装甲がひび割れ、アノンは体勢を崩して膝を折った。

 

なのはの前に立ったのは、隣のフロアまで吹っ飛ばされていたボウマンだった。顔面が血まみれになっていて、ポタポタと鮮血を床に垂らしているが、その眼光から光は失われていない。

 

「フェイトちゃん!スバル!」

 

すぐさまなのはが声を上げる。すると、手痛くやられていたフェイトとスバルが、挟み撃ちするようにアノンに距離を詰めた。膝をついたまま片手と引き戻したクラニアムで二人からの繰り出される挟撃を防ぐが、追撃で振り下ろされたボウマンの一撃は防げない。肩装甲で無理やり受けるが、片手戦斧形態のアームドデバイスは深々と食い込み、アノンの生体ユニットまで到達する。

 

このまま一気に押し切る。なのはは強い決意と共にレイジングハートでバスターの構えを取るが、それよりも先に三方向から押さえつけられたアノンが吠えた。

 

「うるぐああぁっ!」

 

それは獣の咆哮のようだった。クラニアムに集まったイオンをエネルギー源としたプラズマを熱と共に解放する。暴風のようなそれに押し出されたなのはたちは施設内の壁に押し込まれて、せっかく出来たら隙も、詰めた距離も徒労に終わる。

 

アノンからすれば安い痛手だった。装甲や片腕は使い物にならなくなったが、まだまだ戦闘継続は可能だ。相手に制限時間があると言うなら、ここままゴリ押しで押し込めばいい。

 

「所詮この程度。ならばこのままここで……」

 

「今ぁ!」

 

脅威などない、と判断していたアノンの体は急激に自由を失った。クラニアムを持つ片腕、そして両足がびくともしない。目を向けると自由を奪っていたのは物質化した真っ赤な鎖だった。

 

「カウント開始!8、7、6……」

 

その発生源は夜天の主人である八神はやてだった。広域魔法、面による制圧を得意とするはやては、同じく中遠距離を得意とするティアナと共に後衛を担当していた。出来ることは限られる。だが、ただ指を咥えて見ていたわけじゃない。

 

なのはたちもがむしゃらに誘導していたわけじゃなく、アノンをはやてが指定した位置へ誘導していたのだ。

 

(設置型の拘束魔法……!)

 

制限時間たったの10秒という拘束魔法であるが、なのはたちにとっては充分すぎる猶予だった。地を滑るように移動したなのはとフェイトが、砲撃形態へと姿を変えたレイジングハートとバルディッシュを構える。

 

「ブラストカラミティ、ショートバレル!」

 

「これで決める!シュート!」

 

本来なら展開されるはずの魔力スフィアは省略。収束魔法のみに重点を置いた超速攻のコンビネーションアタック。酸素ボンベ内にある魔力素をほぼ使い切って放たれたそれは、なのはたちにとっての起死回生の一撃であった。

 

「カウント終了!」

 

爆砕音と振動が響く中、ティアナのカウントが終わり、はやての拘束魔法も解かれる。なのはとフェイトもバリアジャケットがなんとか保てるギリギリまで魔力を消費していた。だが、これで敵も……。

 

「そんな攻撃などーー!」

 

アノンは現在だった。吹き飛ばされ、装甲はボロボロになっていたが、武装は生きている。見事な戦略と戦術で手痛い反撃を受けたが、それでもアノンは絶え抜くことができた。

 

《クラニアム・マキシマム》

 

真っ赤に熱せられたクラニアムの穂先にエネルギーが充填されていく。溜め込んだプラズマを解放して放たれるそれは、魔力をほぼ消費したなのはたちにとっては致命的な威力を有していた。

 

「なのはさん!フェイトさん!」

 

まだ現在なスバルとティアナがなのはたちの前に立って防御する体制に入る。だが、もう遅い。ここで排除する。自分を作った創造主へ報いるためにーー。

 

「見せたな、圧倒的な隙を」

 

勝利を確信した背後。構えたベリルショットの銃口がアノンの背中に触れた。

 

ベリルショット。それはミッドチルダで作られたアームドデバイスのプロトタイプ。片手戦斧形状と、発振器から生成される魔力光刃。堅牢なボディと圧倒的な近接格闘能力。しかし、それらは本来の目的のために得ることができた付属能力でしかない。

 

本来の目的は、その堅牢なボディの中で生成できる超高密度まで圧縮された……。

 

「ベリルショットの本懐は、圧縮した魔力弾頭だぜ」

 

銃剣の形を取るベリルショットの銃口から離れた超高密度の魔力レール弾頭は、ボロボロになった装甲もろともアノンの胴体を貫いたのだった。

 

 

 

 

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