Forceへ繋がる物語   作:紅乃 晴@小説アカ

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ちょっと短いですが続きです


chapter.19「敗北と敗北」

 

 

あぁ、やはりこうなったか。

 

仰向けに倒れながらアノンは自身の状態を改めて認識する。胸部から腹部にかけて致命的なダメージ。各種装甲にダメージ。発声装置もダウンし、自立行動もできない。完全なる敗北であった。

 

唯一の救いは頭部にあるメモリーと頸にある演算ユニットが破損していない点。レプリロイドは人に似せられて作られているが、あくまで似せられているだけでその機能や構造はメカトロニクスの集合体だ。四肢を欠損しようが、ボディに致命的なダメージを負おうが、重要部品さえ無事ならば稼働し続けることはできる。

 

だが、戦闘継続能力はそのボディに依存しているため、今のアノンになのはたちへ反撃する術など残っていなかった。

 

自身を貫いたベリルショットを持つボウマンがトドメを刺すために近づいてくるのがわかる。瓦礫を踏む音が近づいてくる。

 

仰向けに倒れるアノンの周りには、ボディを駆動させるために使用する青い循環オイルが床面に飛び散っていた。

 

この結末を、ダインシーファは知っていたのだろう。敵を排除するために行動しようとしていたアノンに、彼は幾度も忠告をしていた。こうなることを予想していたのだ。

 

だが、アノンは止まらなかった。レプリロイドの役目は計画の脅威となる存在を排除することだ。それから目を逸らすというのは、レプリロイドという存在そのものを否定するに等しかった。

 

だから、こんな結末になってもアノンの思考の中に迷いなどなかった。ここで果てるというなら……それこそが、自分の戦ってきた意味なのだから。

 

「あーあ、アノン。手ひどくやられたねぇ。まぁ自業自得だけどサ」

 

降り注ぐような声に、アノンは視線を向ける。気がつくとこちらに向かってきていた敵の足音が止まっていた。真上からアノンを覗くように顔を向けていたのは、敵ではなく……同じレプリロイドだった。

 

「普通の人間なら即死だったよ。レプリロイドであることを感謝するんだね」

 

言葉を発せないアノンに言いたい放題に言いつつ、従えるレプリカントたちにボロボロのアノンを回収するように命ずる。

 

相対するのは先ほどまで激闘を繰り広げていたなのはたちだった。苦戦しながらもレプリロイドに辛勝したところに、目の前に鉛色の光が降り注ぎ、それを起点にゲートが開いた。そこから出てきた〝軍勢〟が、追い詰めた相手をさっさと回収していく。

 

「貴方達は……」

 

「僕はトゥリー。アノンは僕より先に作られたモデル……後期モデルのレプリロイドだよ」

 

はやての言葉にそう答えたトゥリーと名乗ったレプリロイドはアノンを回収を見送るとすぐに開いたままのゲートに踵を返した。

 

「さぁ引き上げるよ。アノン、君の独断専行でこっちの配置計画が無茶苦茶なんだから」

 

「逃すと思ってるんですか?」

 

逃すまいとバルディッシュを構えるフェイトだが、すぐにゲートから飛び出した影が腕から生やしたブレードをフェイトたちに突きつける。飛び出してきたのはトゥリーが従える複数のレプリカントだった。圧倒的な数に物を言わせてフェイトたちの進撃を封殺する中で、トゥリーは肩口で振り向きながら、鋭い視線をなのはたちに向ける。

 

「あまり調子に乗るなよ、人間。逃げるんじゃない。引き上げると言ったんだ。アノンに勝てたから調子に乗ってる?僕らの基本的な戦略はレプリカントを使った制圧戦。単騎で挑むなんて基本的にありえないんだよ」

 

レプリロイドはレプリカントの指揮を担う存在。基本的に単騎で敵と戦うなんてあり得ない。指揮下にあるレプリカントに命じ、敵をすり潰す。

 

そして命令系統を担うレプリロイドは最優先の保護対象でもある。つまり、雑兵を抜けて司令官を抑えようとすればレプリカントは過剰に反応し、なんとしても敵を撃滅するのだ。

 

トゥリーが指揮しているレプリカントの総数は50近く、たった六人の敵をすり潰すなんて造作もない。だが、トゥリーはそれをしなかった。

 

「ここで君たちを潰してしまったらアノンの顔を潰すことになるからね。今回は引き上げてあげる。……次に会った時は、レプリロイドの本当の戦い方を教えてあげるよ」

 

なのはたちを牽制するレプリカントたちをゲートに戻したトゥリーは不適な笑みを浮かべるまま、鉛色の光は閉じていき、その姿を消した。

 

同時に、動力不調に陥っていた古代遺失物の保管施設のシステムは再起動し、至る所から警報音が響き始める。それは正常に管理システムが機能している証拠だった。

 

「だっはぁーー……疲れた……なにあれ、怖ぁ」

 

まとわりつくような重苦しい空気を吹き飛ばすようにはやてが大きく息を吐いて腰を落とした。フェイトを含め、臨戦体制をとっていたなのはたちだったが、レプリカントの牽制に一歩も動くことができなかった。一つでも判断を間違えれば、避けられず、有無を言わせない敗北が全員の目の前にあったのだ。

 

「レプリロイドはレプリカントを指揮する存在。たしかに今回の襲撃はイレギュラーでもあったな」

 

ベリルショットもバリアジャケットを解除しつつ、ボウマンは保管用のケースに仕舞っているロストロギア、レリックを確認する。戦闘にはなったものの、最優先事項であったレリックの奪取には成功したのだ。

 

あとは施設の職員が呼んでいる増援が来る前に撤退することなのだが、誰よりもアノンの攻撃にさらされたボウマンの足取りはふらついていた。

 

「目的は達成できたが……こちらもレプリロイド単騎の襲撃は予想……外……」

 

ポタポタと額から溢れ続ける血で床を濡らしていたボウマンは、出口に向かって歩き出そうとしたが、そのまま膝を折って前のめりに倒れる。

 

「ボウマンさん?ボウマンさん!しっかりしてください!」

 

なのはたちの心配する声を聞きながらも、はやく離脱しなければならないと焦りを残したまま、ボウマンは失血による意識の混濁に逆らうことができなかった。

 

 

 

 

管理外世界のどこか……。

 

拠点に戻ってきたトゥリーはボロボロになって動くことすらできないアノンをラボへと運ばせ、すぐに修復を指示した。

 

アノンはレプリロイドの中で最初に生産されたモデルだ。トゥリーにとっては頼りになる存在でもあったのだが、思考AIは後発のトゥリーに劣っている点もあって、少々考え方が固い……人のようにいうなら頑固な側面があった。

 

今回の件も、はっきり言えばアノンの独断であった。トゥリーにも声をかけていればやりようはいくらでもあったのに、アノンは一人で行ってしまった。そしてこうやって少なくない被害を負うことになっている。

 

おそらく、アノンは今回の失態でいくつかの権限を剥奪されるだろう。頑固な先達にはいい機会になるだろう。成長というものを持たないので改善されることはないだろうが、システムとして縛るしか抑える方法ないので、どちらにしてもというのがトゥリーの出した結論であった。

 

「トゥリー、アノンは?」

 

「現在修理中。破損した胸部と腰部ユニットは全部交換になるね」

 

「復帰はまだ先になるか」

 

ラボの出口でトゥリーに話しかけてきたのは、ダー。トゥリーと同じタイプで、3機の内、最後に生産されたレプリロイドだ。ダーはトゥリーの報告を受けて肩をすくめてから光学式モニターを操作する。展開したデータは来る計画に向けたレプリカントの配置データだった。アノンが指揮する予定だったレプリカントら、今回の独断専行で大幅な見直しが必要となり、今もこうやってダーはどう采配するか、頭を悩ましていたのだ。

 

「マスターは全ての采配は僕達に任せると言ってるけど……どうする?」

 

「今のところは部隊の配置は問題なし。あとは計画通りに進めるだけ」

 

マスター……ダインシーファをそう呼ぶトゥリーの言葉にダーは簡潔に答える。最終更新したデータではアノンに預けられる予定だったレプリカントは、トゥリーの指揮下にあった。

 

「つまり、指揮官である僕らは待機状態と……なるほどね」

 

「いくの?先生に怒られるよ」

 

「予備の中隊を借りていくよ。敵の拠点を潰すには充分だ」

 

トゥリーの思惑をいち早く察知したダーは苦言を言うが、トゥリーは聞く耳を持たない。すでに申請は行われていて、申請された予備中隊はトゥリーの指揮下に入っていた。これはまた、先生が頭を悩ましそうだ。ダーは先生と慕うダインシーファの様子をイメージしてどう報告するか、さらに頭を悩ませることになる。

 

「アノンが独断で動くほどだし、あれほどダメージを負った相手。僕としても脅威は排除したい……何より座して万全な相手を待つ主義でもないからね」

 

そんなダーを横に、トゥリーはガラス越しに見えるラボを見つめる。

 

そこにはトゥリーのために用意された二つの剣からなるクラニアムが鎮座していた。

 

 

 

 

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