Forceへ繋がる物語   作:紅乃 晴@小説アカ

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第三章に入ります


第三章「ワールドダウン」
chapter.25「無限の欲望と壊れた理性と」


 

 

第9無人世界「グリューエン」。

軌道拘置所、第1檻房。

 

無人世界と謳われるように、この世界には人の文明というものすら存在しない。赤茶色の星色をしたグリューエンは、一年を通して強い磁気嵐に見舞われていて、その大気の下は生物が生きるには残酷すぎる環境が横たわっている。ゆえに、軌道上に拘置所をつくり、次元世界で大罪を犯した者たちを閉じ込めておくにはうってつけの場所だった。

 

圧倒的な文明格差。この世界には娯楽というものはない。出入りするのも軌道拘置所のスタッフのみで、時折取り調べやカウンセラーが独房にいる無法者たちと会話を交わす程度。ここにぶち込まれている者どもは、2度と外に出ることは叶わないロクデナシばかり。

 

その中でも、第1檻房に隔離されていた男は恵まれている方なのかもしれない。月に一度は自分を慕う者たちと面会も許されていたし……何より、こうやって熱烈な面会を求める相手もいるのだから。

 

独房の壁に背を預けて足を投げ出すように座っていた男……ジェイル・スカリエッティが異変に気づいたのは数分前だった。この部屋を監視するモニターの周波数にわずかな揺らぎがあった。

 

それはあり得ないことだ。

 

ひとつ、この世界でも最も進歩した技術が使われているところはどこか?

 

答えは今、自分がいるこの拘置所だ。

 

次元世界で大罪を犯した者たちを逃さず、捕らえ続け、決して外界に触れさせない。

 

それを実現させるため、この施設には莫大な資金と技術が注ぎ込められている。スカリエッティはここを存外気に入っていた。

 

全く知らない間に新たな技術が導入されているなんて日常茶飯事で、自分一人のために躍起になって資金と技術を湯水のように使う者どもの姿が滑稽で仕方がない。

 

そして、苦労して作り上げたセキュリティを簡単に突破されるのをみると、やはり集団によってもたらされる技術の限界を思い知らされる。

 

自分ならば、大罪人たちがいる場所そのものを亜空間化し、外からも内からも干渉できなくするというのに。ほんのわずかにでも外と繋がる道があるからこうなる。

 

硬い靴底がピカピカに磨き上げられている通路を踏み込む音が聞こえる。暇潰しに読んでいた文献から視線を上げて、スカリエッティは自身の独房にやってきた相手に視線を向けた。

 

「やはり貴方はここに来たか」

 

強化ガラスと魔力阻害装置が組み合わさった檻房窓から見えたのは、無傷のままここにたどり着いた「選定者」の姿だった。

 

「そんな目を向けないでいただきたい。私と貴方は同じ穴の狢じゃないか」

 

ダインシーファ。アルハザード滅亡後に、恐怖と危機感に駆られて人によって作られた「監視装置」。人と魔法のバランスを見定め、行き過ぎた進歩を遂げた人間がアルハザードの悲劇を起こさぬよう、その文明を滅するために機能し続ける存在。

 

アルハザードの技術で作られたスカリエッティ。

 

アルハザードの残火で作られたダインシーファ。

 

技術は同じ出自は同じ……なのに驚くほど、その在り方が異なる。

 

「アンリミテッドデザイア……無限の欲望か。あの世界の技術らしい……確かに皮肉の効いた名前だ」

 

「求めることは罪深いかね?ダインシーファ」

 

その言葉にダインシーファは何も答えなかった。その様子にスカリエッティは落胆する。本来なら「罪深い」と即答できたはずだ。けれどそれの答えが返ってこないことが、ダインシーファという存在の在り方に変化があったと答えているようなものだった。

 

「私の本質が剥き出しの欲望というなら、君の本質は滅びた者たちの嫌悪感……あるいは人間らしい理性といったところか」

 

あるいは強迫観念か。あるいは絶望からくるものなのか。スカリエッティから見て、ダインシーファという存在は自分とは対極に位置する存在であり、そしてひどく哀れでもあった。凄惨たる失敗を目にした者たちの感じた恐怖を押し付けられて、2度と間違いを犯さないようにと歪んだ価値観を刷り込まれている。

 

進歩こそが生き物の本懐だというのに、それを否定され、それこそが正しいと刷り込まれているのだ。それを哀れと言わずになんと言うか。

 

「いつまで失敗に怯んで立ちすくんでいる?そんなことだから私のような輩に好き勝手される世界程度にしかならないのだよ」

 

「だからアルハザードは滅んだ」

 

「まだそれに拘るかね?そんなもの、ただ一つの結果に過ぎんよ。その程度で立ち止まってどうする?ゼロになったのならまた積み上げればいい。ただそれだけ……単純なことだ」

 

にべもなくそう言うスカリエッティにダインシーファは無表情だった顔をしかめる。

 

「その結果に人は滅びる寸前まで進んだ。次は何もかもなくなるやもしれない」

 

ダインシーファの記録には、はっきりと残っている。鮮烈で、悲劇的で、業に満ちたアルハザードの滅びの様子が。あの悲劇を再び起こせば、今度こそ人はこの世界から滅び去ってしまうかもしれない。だが、スカリエッティはそんなこと構いはしない。それこそが人の進歩を阻害する障害でしかないのだから。

 

「その可能性に怯えて停滞を選ぶか?甘いなぁ、甘い甘い甘い。人間はそこまで利口になれないことなんて大昔から知っているだろう?……その程度じゃ永遠に君の望む世界は来ない」

 

その言葉にダインシーファはわずかに反応を示し、スカリエッティはほくそ笑んだ。単なる選定者、システムでしかなったダインシーファが、ここまで苛烈に人の世に干渉するなど、本来ならあり得ないはずだ。となれば、考えられる理由など限られてくる。それを知ることなど、無限の欲望と言われるスカリエッティには造作もないことだった。

 

「誰もが笑って明日を迎えられる世界?そんなもの今の在り方では不可能だ。わかっているだろう?君自身が、誰よりも。君が私を訪ねに来たのが何よりの証明だ」

 

何千、何万、何億とその願いを求めて人は生活を豊かにし、技術を高め、そしてさらに求めた。より良い生活を。より良い世界を。より良い全てを。そうやって求め続けて、人は幾度となく滅び、再興し続けてきた。何度も何度も滅んでも、人は懲りずにそれを求め続ける。

 

誰かを蹴落とし、誰かを踏み台にしないと生きていけない運命を背負っているのに、それを理解できずに夢物語に縋り付く。

 

その事実をスカリエッティも知っているし、ダインシーファも知っているはずだった。

 

「君は、その単純な現実に絶望している。見限ろうとしている。その想いを認められなくて、その諦めを受け入れられなくて、無様に足掻いているに過ぎない」

 

こんなはずじゃない。このままいけば人は滅びる。そう言い訳をして、そう決めつけて、幾度とダインシーファは文明を滅ぼしてきたはずだ。気付いていないとは言わせない。

 

スカリエッティの言葉をダインシーファは拒んでいるように見えた。その事実を受け入れられないともがいている。その様子には、もはや人と魔法を選定できるような様子はなかった。実に人間らしいとすら思える。

 

さっさと認めてしまえば、楽になれるものを

 

「魔法をこの世界から無くして人から取り上げる?そんな杜撰な計画で、誰かが自分を止めてくれて、繰り返される進化と衰退の世界をどうにかしてくれると本気で思っているのかね?……なんとも他力本願な夢なことだ」

 

「君も同じだ。溢れ出る欲望のまま、自分で手に入れる道を突き進んだ。至極単純で……杜撰な本能を曝け出して……そして敗れた」

 

「それが欲望の本質だよ、ダインシーファ」

 

与えられるだけで求めないものは生き物とは言えないとスカリエッティは言う。人は欲深い生き物だ。強欲であるからこそ、人は進歩することができ、文明や技術を生み出した。

 

古代遺失物。古代ベルカ。それ以前の文明社会のすべて。

 

そして、行き過ぎたものは人を破滅に追いやる。その道理から、数億年かけても人は脱することはできなかった。

 

「スカリエッティ。君の言うことは正しい。確かに私は、この世界に……人の変わらぬ在り方に飽き飽きしていて、絶望に似た思いを持っていた」

 

次は、次こそはと、繰り返す人の営みに期待して待ち続ける。そのことにダインシーファは疲れ果てていた。人と魔法のバランスは何度も崩れて、過去の凄惨な破滅を知ったとしても、それでも人は進歩し、欲を満たすための歩みを止めない。それならばいっそと、ダインシーファは諦めようとした。

 

「だが、君もわかっているはずだ。強大な欲望。強大な力。避けられない運命を前にしても逃げずに立ち向かう勇者たちがいるということを」

 

高町なのは。彼女こそが、この世界……この物語における主人公だ。

 

短い期間で魔法という技術を身につけ、天災でもあるジュエルシードの脅威から文明を守った。そして次に闇の書。レリック……そして聖王のゆりかご。

 

彼女一人の力とは言えないが、間違いなく高町なのはという存在が渦の中心となって、絶望に直面する世界を救い続けてきた。彼女こそがこの世界の主人公であり、ダインシーファにとって待ち望んだイレギュラーだった。

 

「彼女らは一度ではなく、二度、三度とその危機に直面し、そして打破してきた。私の諦めや絶望を踏み越えて、彼女たちは挑もうとしている」

 

その大きな壁を乗り越えれさえすれば、きっと自分が待ち望んだ希望につながるものになるはずだ。ジェイル・スカリエッティは眉間に皺を寄せ、不満そうに目を細める。彼自身もその主人公たちに倒された側の人間だ。スカリエッティが彼女らを打倒していたなら、今のような手ぬるい真似はしなかっただろう。早々に見切りをつけて、この世界の文明を最後に人と魔法の繋がりを断ち切ることもできた。

 

結果的に、スカリエッティ自身が高町なのはというイレギュラーに対する生き証人となっていた。

 

スカリエッティは会話の中で「彼女たちがダインシーファの計画を止めるのは無理だ」と言わなかった。

 

その事実だけで充分確証を得られた。

 

「ありがとう、スカリエッティ。君の在り方のおかげで私は人にまだ失望しないでいられる。それだけを伝えたかった」

 

満足そうにそう告げて、ダインシーファは現れた鉛色のゲートの中に姿を消していく。どうやって現れたかもわからないゲートは空間を元に戻すように閉じていき、しばらくしてから静寂と電子機器が復活する音が檻房の中に聞こえてくる。

 

管制室にいるスタッフたちの慌ただしい声に耳を傾けつつ、スカリエッティは読みかけの文献のページを開きながら、疲れたように肩をすくめた。

 

(まったく、そんなくだらないことを伝えるためにこの厳重なセキュリティを突破したというのか。つくづく哀れで仕方ない。私にその言葉を伝えるのも……結局は君の自己満足でしかないだろうに)

 

この世界に生きるものたちは、結局は自己満足にすぎない。欲望の化身であるスカリエッティ自身も、自己が満足するために事件を起こし、捕らえられ、こうやって檻房に身を置いているのだ。大それたことをしでかしたダインシーファの行動も、端的に言えば自己満足だ。それに付き合えるほど、スカリエッティは暇ではない。

 

ただ、彼の行動を否定する気にはなれなかった。

 

理性の権化でもあったダインシーファをこれほどまでに変えてしまった。

 

(だからこの世界は面白く、全てを手にする価値に値する)

 

せいぜい足掻くがいいさ、とスカリエッティは去っていった同郷の存在に思いを馳せる。

 

その壊れている理性で何を求めることができるのか。

 

求めた結果で何を得られるのか。

 

その答えだけを期待しながら。

 

 




スカさんの口調難しい
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