Forceへ繋がる物語   作:紅乃 晴@小説アカ

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chapter.27「動き出す次世代たち」

 

 

 

第1管理世界、ミッドチルダ。

 

起動準備を進めているワールドダウンシステムはすでにこのミッドチルダにも影響を及ぼし始めていた。

 

長距離通信をしていたヴィヴィオは、母親との通信が途切れたことに首を傾げ、リダイアルしても通信が全く繋がらなくなっている。不思議に思った周りにいた友人たちも個人端末でもあるデバイスを起動すると、さっきまでは問題なかった通信関係がすべて「圏外」となっていることに気付いた。

 

「リオ、コロナ」

 

「ダメ……こっちも全然繋がらない」

 

家や他の友人にも連絡をしてみたものの、コールすら鳴らずに「圏外」を知らせる電子音のアナウンスが流れるだけで、通信アプリでのメッセージも送付してみるが、それも送信失敗の通知が表示されている。

 

ヴィヴィオもテレビなども付けてみるが、こちらも映像は映らず受信失敗というメッセージが光学式モニターに表示されるだけだった。

 

「おそらくミッドチルダの通信網がダウンしていると考えていいかと」

 

アインハルトの推察にその場にいる全員が顔を見合わせる。

 

こんなことは初めてだ。いや、通信機器の点検や、ミッドチルダの軌道上にある衛星のトラブルで通信がやや不安定になることはあったが……完全な通信不能状態になるのは初めての経験だった。

 

いつもは閑静な住宅街だが、急な通信不良で住んでいる住民が外に出て空に端末などを向けて通信ができないか試みてる姿も見られる。

 

そんな中、高町家のインターホンが鳴り響いた。しかも数回も。驚いたヴィヴィオが思わず玄関を開けると、そこには肩で息をした人物が立っていた。

 

「全員無事か!?」

 

息を切らしてやってきたのはノーヴェ・ナカジマだった。

 

普段はナカジマジムのオーナーとしてウェア姿をしているのだが、今はなぜかバリアジャケットを展開していて、ジェットエッジで疾走してきた様子であることは明白。驚いているヴィヴィオたちを見て一安心したノーヴェは、バリアジャケットを解除し、ヴィヴィオが用意してくれた水を一杯飲んでから一息つく。

 

ノーヴェ自身も、なのはたちに同行しているスバルやチンクから事情を聞いていたこと、そしてセインから報告を受けた聖王教会も動き始めようとしていた。

 

その矢先にこの通信不能の状況。

 

驚いたノーヴェの脳裏をよぎったのは、ヴィヴィオやアインハルトたちの事だった。イクスヴェリアは聖王教会にいるので、カリム少将がついているが、聖王の依代であるヴィヴィオや、覇王の子孫であるアインハルトは厄介ごとの対象になりやすい上に加護者たるなのはたちが離れていることから無防備だった。それもあって大急ぎで向かってきたのだが、どうやら杞憂で終わったらしい。

 

「姉貴や、ウェンディ……それに聖王教会のイクスから色々とヤバそうな話は聞いていたが……とにかく全員、安全になるまではここから出るなよ」

 

そう釘を刺したノーヴェは合流予定のウェンディやギンガを待つために外に出ていく。何が起こっているのか、全く事態を把握できない。通信網がシャットダウンするだけでここまで大きな影響が出ている。幸い、まだ事故などには繋がっていているものの、遠隔で通信制御されているレールウェイのような交通インフラは軒並み使用不能になっているし、街にも混乱は広がりつつある。

 

そんな中、アインハルトは話しているヴィヴィオたちの隙を見て、一人勝手口に繋がる廊下へと出た。念の為にバリアジャケットを展開するが、問題なくアインハルトの姿はイメージした理想の姿へと変わることができた。

 

「ついてきてくれますか?アスティオン」

 

肩に乗っている相棒、デバイスであるアスティオンは力強い表情で一鳴きして同意してくれる。それに小さく微笑んでからアインハルトは気配を消して勝手口のある台所へと踏み出す。

 

「ヴィ、ヴィヴィオさん?」

 

そこにはさっきまでリビングにいたはずのヴィヴィオが腕を組んで勝手口の前に立ち塞がっていた。

 

「勝手口からどこに行こうとしてるのかなー?」

 

その顔は笑顔であったが、目は笑っていなかった。ふとクラウスの記憶にあった一幕を思い出した。

 

オリヴィエも同じ表情をしていたことがあって、「笑顔の起源は威嚇である」と友であるエレミアが教えてくれたことがある一幕である。

 

「昔の辻斬り紛いな行動」の前科があることから、ヴィヴィオが簡単にアインハルトの無茶を見逃すはずもない。ダラダラと冷や汗を流すアインハルトにヴィヴィオはそれ以上何も言わずに笑顔を向けていた。

 

もうどっちが歳上かわからない状況だが、こうなってしまうとヴィヴィオは納得しない限りテコでも動かない。観念したアインハルトは一息おくと、正直に口を開いた。

 

「この状況は異常です。単なる通信施設の故障だけとは考えれられません。それにイクスや聖王教会も動いています。ここでじっとしている訳にはいきません」

 

「ノーヴェも……それにママたちも、ここから動かないほうがいいって言っていたけど、アインハルトさんはそれでも行くの?」

 

「はい。覇王流の継承者として……クラウスの意を受け継いできたからこそ、今ここでジッとしているわけにはいきません」

 

「それもアインハルトさんが覇王だからやらなきゃならないこと?」

 

その言葉になんと答えるか。思考を巡らせるアインハルトだったが、ヴィヴィオの表情が悲しげなものに変わっていることに気づいた。それはまるで、アインハルトが古代ベルカに生きた覇王、クラウスの悲願を伝えた時のような悲しげな顔で。

 

自然と、アインハルトは自分の本心を伝えることができた。

 

「いえ、今を生きる……私自身が求めることです。今度こそ……誰も失わないために」

 

クラウス……古代ベルカで生きた覇王の記憶はアインハルトの中からは消え去っている。けれど、彼の夢見た願いも消え去ったわけじゃない。そして、それを過去の記憶だと割り切れているわけでもない。

 

アインハルトも同じなのだ。大切な人を守りたい。その力が自分にあるというのなら、行動せずにじっとしているなんて出来ない。だから……。

 

「なら、今度は皆でやろう」

 

その言葉にアインハルトは目を見開く。視線の先にいるヴィヴィオは、今度は優しげな笑みを浮かべていて、アインハルトの手を取る。そうだ。彼女はそうだったとアインハルトはヴィヴィオの力強い思いを感じる。

 

今は一人じゃない。まだなにも失っていない。守りたいと思う人、大切だと思える人と手を取り合える。

 

「そうですよ!アインハルトさん!」

 

「仲間外れは良くないです!」

 

その様子を見て我慢できないと言った様子でキッチンの影に隠れていたリオとコロナ、そしてミウラもアインハルトとヴィヴィオの元に飛び出してきた。どうやら全員やる気満々な様子だ。

 

「皆さん……」

 

「私もお手伝いします!師匠たちから教わった技は、誰かを守るためにありますから!」

 

ふん、と腕っぷしをアピールするミウラ。

 

絶対についていくという意思をみなぎらせるヴィヴィオやリオ、コロナ。

 

全員の顔を見渡していると、アインハルトの肩にいるアスティオンが優しい声をあげた。

 

クラウスの記憶にあった様な絶望的な世界じゃない。今立っている場所は、アインハルト本人が決断し、育んで作り上げた結果の上だ。

 

「ありがとうございます……!」

 

深く頭を下げるアインハルトに、ヴィヴィオたちはほんの少し驚いた様な顔をして、全員でこう答えた。

 

「友達なんだから、当然だよ」

 

それから数分後。ウェンディやギンガと合流したノーヴェが高町家に戻ってくる。

 

「おーい、全員……」

 

玄関も開いていたので、当然いるであろうと思いつつリビングにいくとそこには誰もいない。2階にいるのかと思ったノーヴェが目にしたのは、さっきまでいたはずのヴィヴィオたちが残したメモだった。

 

「ごめんなさい」と締めくくられたメモを見たノーヴェは、それを思わず握りしめる。

 

「あんの……バカたち!」

 

怒りというよりも、状況から見て動くことを予想していなかった自分自身に怒りを抱くノーヴェ。思わず吐き捨てた言葉はヴィヴィオたちに届くことはなかった。

 

「ひとまず首都方面に!手がかりがあるならあそこです!」

 

「了解!」

 

通信網のダウンで稼働していないレールウェイの上をバリアジャケットを展開したアインハルトたちが爽快に駆け抜けていく。

 

一本道となっている路線が続く先はミッドチルダの首都、クラナガン。

 

そこは今まさに激戦の地へと変わろうとしていた。

 

 

 

 

「よろしいのでしょうか?お嬢様」

 

「誰に言っているのかしら、エドガー。私はミッドチルダの名家、ダールグリュン家よ。私の目の届く範囲でこのような異変を起こすとは……いい度胸をしてるわね」

 

クラナガン郊外。首都からわずかに離れた高級な屋敷が立ち並ぶそこは、ミッドチルダにおける「名家」が住む地区。そこの一画に住まいを置く「ダールグリュン家」は、旧ベルカの王家の「雷帝」ダールグリュンの血を引いており、聖王、覇王にも精通した「雷帝ダールグリュンの血統」である。

 

その血を引くヴィクトーリア・ダールグリュンは、アインハルトやヴィヴィオとも交流があり、ストライクアーツの選手でもあると同時に、名家たるダールグリュンの一人。

 

ミッドチルダで起こる異変にも気付いていて、自身の住まいの目と鼻の先で起ころうとしていることを見逃すつもりはなかった。

 

「やれやれ、では手筈通りに?」

 

「賛同してくれる友たちにも連絡を。名家たるダールグリュン家に相応しい対応をしませんと……けれど、本当についてくるの?ジーク」

 

いざというときのため、たとえば時空管理局が満足に動けない場合や、管理局が対応できないような事態になった場合、名家は独自に持つコネクションから対応を行う用意をしている。その準備を進める執事、エドガーを横目にヴィクトーリアの視線の先には、普段の気弱な雰囲気はなく、研ぎ澄まされた刃のような雰囲気を纏う少女、ジークリンデ・エレミアがいた。

 

戦闘のためのバリアジャケットを身につけるジークリンデもまた、このミッドチルダに起こる異変を具に感じ取っていた。

 

「うん、着いてくよ、ヴィクター。なんだか……とても良くない気配が漂ってるから」

 

その瞳は何かしらの不安を感じ取っていて、それはアインハルトにも通じる。言いようのない不安。ただ、その不安をジークリンデもアインハルトも知っている。

 

それはまさに、古代ベルカで起こった泥沼の戦争が始まろうとしていた……戦いの前夜の様な静けさと不安だった。

 

 

 

 

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