Forceへ繋がる物語   作:紅乃 晴@小説アカ

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chapter.30「それぞれの向かう先へ」

 

 

 

「え、私たちがですか!?」

 

クロノ指揮下のクラウディアに向かう連絡船を待っているところ、リンディ提督やクロノ、そしてソーサラーズの上役であるトレイルやキィナがやってきて、これから作戦に参加する皆んなに励ましの言葉を頼む、とこんなお願いをしてきた。

 

驚くはやてを横に、フェイトも隣にいるなのはの顔を思わずみてしまっていた。クラウディアに向かうためにまとめた荷物を抱えているなのはも、はやてと同じく驚いた顔をしている。

 

「そんな役目、私たちが担ってもいいんですか?」

 

「指揮官全員の意思がそう言ってる。できそうか?」

 

「できないことはないと思います……けど」

 

「ぶっつけ本番やからね……」

 

そういうなのはに、はやても口籠る。なのはもはやても大勢の前で訓示や作戦指示などをしたことはあるし、公式の場で挨拶や会見などの経験もある。ただ、そう言ったものはあらかじめ原稿なり、メモなどを準備してから挑むものであって、強いて言えば「言葉ありきの演説」に近い。

 

けれど、作戦時間が差し迫った今の状況ではそんなものを準備する暇もないし、準備できたとしても会話の流れの方針や、着地点くらいで、その間の話の大半はアドリブで乗り越えるしかない。

 

まだ若年の3人の娘が、これから死地になるかもしれない場所に向かう魔導師たちに不安定な演説を聞かせていいのか。そう思っているはやてたちに、トレイルは言葉をかける。

 

「ここから全員が挑む戦いは、途方もなく過酷なものになる。俺たち指揮官が話をしても心までは響かないと思う。だが、君たちの言葉は違う」

 

「なのは、フェイト、はやて。君たちの言葉は真実を帯びている。数々の事件と、世界の破滅と、大切なものを守るために戦ってきたんだ。だから、君たちの言葉はきっと彼らの心を希望と勇気づけてくれるはずだ」

 

トレイルの後に続いたクロノの言葉は紛れもない本心だ。なのはとフェイトとはやて。この3人が世界を救った立役者なのは事実だ。そして、それぞれが苦しい過去や、辛い現実を乗り越えてここまで駆け抜けてきた稀代の英雄たる魔導師でもある。そのバックボーンがある彼女たちから出る言葉を信用しない者なんていない。

 

今は建前や飾り毛のある言葉が必要なのではない。事実を基盤とした真っ直ぐな言葉が必要なのだから。

 

その言葉を聞いて、3人はそれぞれの顔を交互に見て、小さく頷いた。

 

「やります。それがみんなの力になると言うなら」

 

そう答えた3人の瞳には決意の色が宿っていた。

 

 

 

アースラの貨物室。連絡船から搬出された物資の搬入作業を進めていると、ヘルメットから微かな音声が漏れる。

 

『あ、あー。聞こえますか?』

 

酸素がない無重力空間。作業員の呼吸と安全を保持するヘルメットから聞こえてくる音声驚きつつ、作業員は別の場所で作業している同僚に視線を向ける。

 

「そっちも聞こえているか?」

 

ヘルメット内で反響した同僚の声が聞こえる。どうやら同じ音声が同僚にも聞こえているようだ。

 

その音声はアースラだけじゃない。同じく出発準備をしているエンデュランスや、クラウディアにも同く響いていた。あくせくと準備を進めていた者たちは全員思わず手を止めて聞こえてくる音声に耳を傾ける。

 

『私は、管理局の……いえ、もうここでは階級なんて関係ありません。ただの八神はやてとして、皆さんに語り掛けさせてください』

 

『現在私たちは、ダインシーファの計画阻止のために各次元世界に設置された中継器、およびポイントガンマ……アーズガルドにあるワールドダウン・システムの中枢部に向かう準備を進めています』

 

改めて確認するように、声の主である八神はやてはそう言った。管理局に身を置いた経験がある者なら、彼女が何者であるかはすぐに理解することができた。

 

闇の書事件の渦中の少女であり、管理局の未来を担う優秀な若者。上層部や権力闘争をしている者たちの意見は違うだろうが、管理局の現場で働く者たちからすれば優秀かつ現場を思い遣った指揮をしてくれるはやてという存在は希望であり、それは共通の認識でもあった。

 

『別働隊も中継器の破壊に動いてます。私たちはダインシーファの目的を崩すために、なんとしても中継器を破壊し、彼を止めなければなりません』

 

そこではやてはわずかに息を吸い、間を置いた。言いたいことを整理して、言葉として吐き出していく。

 

『……私は、管理局の中にいて多くの場面を見てきました。魔法という力に振り回されて、大切なものを失った人、権力にこだわって大切なものを見失った人……大義のために悪をなす人も見てきました』

 

なのはやフェイトよりも「人に指示を出す」という立場にいる以上、そういった場面は二人よりも多く見てきた。管理局に入ったばかりの頃なんて、権力闘争をしている偉そうな男たちにいいように利用されそうになるなんて何回もあった。何度か挫けそうになったこともあったし、夜に一人で涙を流したこともあった。

 

『……正直言って、魔法の力は人には過ぎた力だと思います。けど、私はその力に悪意があるとは思えないんです』

 

ダインシーファ。……かつての理想の上司であったジョン・オールドマン。彼に裏切られたのは紛れもない事実であるが、彼に教えてもらったこと、彼に導いてもらって得たものは嘘偽りはなかった。

 

彼は明確に「魔法」と「人」を区別していた。

 

魔法によってもたらされた悲劇を単純に処理するのではなく、その悲劇の中にあった「人」の悪意や敵意、憎悪を正確に見極め、その本質を理解していたし、その理解するやり方をはやてに教えてくれていた。

 

『私が絶望に近づいた時も、前を向いて生きようと思えた時も……大切で、けど救えたかった人をみおくったおきも。確かにそこには魔法という力はあった。魔法はこの世界に溢れている。そして、それと同ほど人もいて、友達や家族がいました。状況に流されながら、感情に流されながら、いつの時代にも確かに人と魔法があって、その結果が今につながっていると思います』

 

すると、はやての声から別の少女の声がスピーカーから響いてくる。

 

『フェイト・T・ハラオウンです。あの……世界は理不尽なまでの不条理で、大切なものを奪う結末になることもあります』

 

最初はありきたりな言葉から始めようと思っていた。でも、はやてが自分の経験から得た言葉を話し始めてから、フェイトも最初に話す言葉を大きく変えることにした。

 

目を伏せて思うのは、救えなかった自分の母のこと。自分の背中を押してくれた姉のこと。自分に力の使い方を教えてくれた人のこと。

 

たしかに……たしかに、魔法は誰かを不幸にすることはあった。

 

『魔法という過ぎたる力は、確かに人から大切なものを奪うこともあります。けど決して……決して、それだけで魔法に悪意があると決めつけてはいけないんです』

 

フェイトの出自は、絵に描けば悲劇だ。でも、それでも、彼女は自分が生まれたことに憂いも後悔も悲観もない。たとえ生まれが悲劇であったとしても、それだけで全てを決めてはならない。魔法も同じことが言えるはずだ。

 

『魔法は魔法。人は人。魔法の力は単なる力でしかなく、それを特別なものにするか、忌むべきものにするかはいつも使う側に委ねられると思います』

 

授けられたこの力をどうやって使うのか。結局のところはそこに尽きる。問われるのは魔法ではなく、人であるのだから。

 

『魔法による悲劇的な事件や事故、魔法によって助けられた人々の笑顔。そのどちらも確かに存在し、今につながっている。その力は誰かを笑顔にさせられるし、不幸にすることもできる。誰かを助けられることもできるし、誰かを貶めることもできる。人を豊かにすることも……人を破滅させることもできる』

 

だから、考える必要がある。この力とどう向き合うべきなのか。その言葉から、フェイトはマイクを親友であるなのはに手渡した。はやてもなのはに笑みを浮かべて頷く。

 

緊張をほぐすように一息をついてから、なのははマイクの向こう側にいる人たちへ向き合った。

 

『今世界は、大きな選択の前に立っています。魔法が無くなる。それが自然の摂理だと言うなら、私たちは受け入れなくてはいけません。でも今回は違います。進化の過程の中で発生した絶滅じゃなく、個人の意思によって魔法は永劫に失われようとしています』

 

それは……短期的にでも人々を幸福にするのかもしれない。けれど、その未来は閉塞された結末しかない。

 

『ダインシーファの望む平和な世界。確かに魔法によってもたらされた失敗や不幸は多いと思います。でも、魔法が人から切り離された次は?魔法に変わる新たな力を人が見つけたら、それもまた危険だと取り上げられて。それがずっと繰り返されれば人は人として生きていけなくなります』

 

『それが真なる平和で、誰もが笑って暮らせる世界だとダインシーファは言っているのです』

 

だから、それは間違っているとなのはたちは声をあげて否定する。人から魔法を取り上げて平和だと言うなんて、そんなものはある種の押し付けだ。

 

本当の平和とはなにか。

 

与えられたその力をどう使うのか。

 

『今まで漫然的に使われていた力。特別だと思い込んでいた力が奪われようとしているこの状況で、人と魔法はどう向き合うべきか。その事実を受け止めて、魔法がある世界が正しいのか、それともない方が後の人々にとっての祝福の風になるのかを考えなきゃいけない』

 

魔法と人が混ざり合う世界がある限り、過去の世界のように、この世界もいつか滅びるかもしれない。

 

けれど、いつか滅びるかもしれないからと言って、その力を無くすことを許容してはいけない。

 

思考することを諦めてはならない。

 

『考える事をやめないために、この世界で諦めないために、私たちは彼の計画を止めなければならないんです』

 

なのはたちの声が響き渡る中、アースラとエンデュランス、クラウディアの出発準備は機械的に進められていく。忙しなく三つの船の間を行き来していた連絡船も、それぞれの船に格納されていて、今は静かにこの果てしない星の海に三隻は揺蕩っている。

 

「全艦艇、出発準備が完了しました!」

 

「作戦タイマー合わせ!作戦開始まで30秒!」

 

現地に赴く魔導師たちのタイマーが一斉に起動する。それはクラウディアで言葉を発しているなのはたちも例外ではない。彼女たちの腕に備わるタイマーも作戦開始のカウントダウンを進めていた。

 

『魔法と人を隔てて、与えられた平和な世界で生きることよりも。魔法と人の在り方が向かい合っていて……そして乗り越えた先にこそ、未来があると私は信じています』

 

『「世界を守る」なんて大それたことは言いません。けれど、私たちもこの先にある未来と希望のために戦います。希望と勇気を胸に。皆さんもどうか忘れないでください』

 

『ダインシーファの企みは、私たち全員で止めます』

 

なのはの決意に似た声色に、全員が姿勢を正されるような気がした。アースラの艦長席に座るリンディは微笑み、エンデュランスを指揮するファーン・コラードはかつての教え子たちの立派な姿に満足して、そしてクラウディアを預かるクロノはまっすぐと進むべき道を見据えている。

 

「作戦時間まで3、2、1。作戦開始!」

 

カウントダウンが終わり、タイマーが未来に向けて進み始める。それと同時に、三隻の船はそれぞれの戦場に向け、艦に備わるスラスターを点火した。

 

「アースラ、ラルドニアにむけて全速前進!」

 

「エンデュランス、ブルックアイルズに向けて出発します」

 

三方向に進んでいく船の通信はもう届かなくなりつつある。あとはそれぞれの船に乗る仲間たちを信じるほかない。離れていくアースラとエンデュランスを見つめるなのはに、フェイトは力強い眼差しを向けて言葉を投げた。

 

「いこう、なのは」

 

「うん、フェイトちゃん」

 

ブリッジで指揮をとるクロノは進路を定め、手を前にかざして高らかに声を上げる。

 

「クラウディア、ポイント・ガンマ……アーズガルドに向け、発進する!」

 

メインスラスターを点火したクラウディアは、まっすぐと星の海を突き進んでいき、そして次元間へと姿を消していくのだった。

 

 

 

 

 

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