Forceへ繋がる物語   作:紅乃 晴@小説アカ

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ちょっと箸休め


幕間.「エンデュランスのひととき(1)」

 

 

 

L-U級外縁次元探査艦「エンデュランス号」の特徴を一言で表すなら、その優れた拡張性と言える。

 

元々、次元航行艦艇は次元空間を通じて外世界へ移動するために使われているものであるが、外縁部調査隊はその延長線上……つまり、長期間の次元世界の調査であり、それに属する艦艇も相応の対応力が求められることは必然であった。

 

外縁部調査は人員が限らられる。長期間の調査で必要な物資や生命維持に欠かせない資源の積載量から見ても、その人員数はL級のネームシップであるアースラの搭乗員数の七割以下にしなければならない。

 

エンデュランス号はそういった面で挑戦的な建造背景があり、アースラよりも大型でありつつも、その拡張性はL級鑑定の中でトップクラスであり、運用に必要な最低人員はアースラの約半分の人員でも運用な可能なレベルで、あらゆるものが自動制御されている。

 

そして、野心的なコンセプトがもたらせたものは人員数のカットだけではない。

 

今まで搭載することが諦められていた小型調査艇を搭載したり、物資を増やして長距離航行時間を大幅に向上させたり、今まで手狭で搭載できなかったさまざまな装置や施設を導入することもできるようになっていた。

 

「まさか船でこんなお風呂を堪能できるなんて思ってもみなかった」

 

作りは天然の岩を削り出して並べ、温泉効能に負けない耐酸性モルタルを使用した純和風仕様。姿見鏡と蛇口が複数並行に作られた洗い場と、木製の桶と椅子。そして最大15人まで入れる大浴場はたっぷりのお湯で満たされている。

 

カルナログから連絡船でエンデュランスに乗船し、一通りのブリーフィングと食事を終えたなのはたちに、「さてと、じゃあ身を清めましょうか」とキィナが案内してくれたのが、この温泉施設だった。

 

通称「次元のオアシス」。

 

木製の看板に手彫りで描かれたその題名は、このエンデュランスの提供に協力してくれたリンディ提督の提案なのだとか。

 

「外縁世界は未知の領域だから、こうやって自分たちの立ち位置を思い出すために色々と用意してるのよ」

 

そう言ってたっぷりの湯から腕を上げ、染み込まれるようにもう片方の手でなぞるキィナの言う通り、次元世界の外縁部を調査する任務は過酷だ。

 

異文化や過酷な世界で、新たな管理世界を調査したり、資源の調査や原生生物の捕獲などもしている。そんな生活中、ミッドチルダや自分たちの暮らす本来の世界を忘れないためにも、この温泉ような施設が複数エンデュランス号に備わっている。

 

「んー、きもちぃー!ここ最近、ゴタゴタで満足にシャワーも浴びれなかったからなぁ」

 

「どっと疲れが抜けて行く感じがします……」

 

「すごいお肌がスベスベなんですけど、これはいったい?」

 

スバルとティアナが久方ぶりのお風呂を堪能する中、ふとはやてが湯を掬いながら気づいたことを口にする。となりにいるなのはとフェイトも自分たちが浸かっているお湯が単に温められているお湯でないことに気付いた様子だった。

 

「外世界探査中にスパリング・ストーンという新種の鉱石を発見したのよ。まぁ鉱石としては焼いたら脆くなるし、砕いても纏まらないし、けど融解点はめちゃくちゃ高くてどうにも使い勝手が良くなかったのよね」

 

それは「とある外縁部の世界」で発見したものだった。その世界には文明レベルは低いものの先住民がいて、管理局の身分を隠した調査隊のメンバーに友好的な態度で接してくれた上に様々な情報を提供してくれたのだ。

 

キィナが言う鉱石は、その世界では石ころのように転がっており、岩山が点在するエリアではより大きな岩も存在している。さらに地中の埋蔵量も計り知れず、その一帯がその鉱物で形成されているといっても過言ではなかった。

 

ただ説明した通り鋼材などには転用できない鉱物で、現地の人々も特に価値のないものとして見ていたらしい。

 

「そのままお蔵入りになるかと思ったら、35度から49度のお湯に入れると薬効成分が溢れることを発見してね。人体の影響も一通り調べたり、実験的にお風呂に入れたりとか色々して、長期的に使用しても問題ないことがわかったから、このお風呂の源泉に採用したの」

 

「すごい発見じゃないですか!?」

 

「でしょー?これで採掘量が確保できたらいいビジネスになると思うのだけど、その世界には採掘技術とか搬入施設とか全くないから、とりあえず管理局本部の判断待ちって感じね」

 

お湯に入れるだけで温泉成分が半永久的に滲み出す鉱石。

 

売れば一攫千金間違いなしではあるが、その鉱石があるのは近年開拓された次元世界の外縁部。交易ルートなんて開拓されてないし、開拓されたとしても行き来だけで2年と言う時間がかかる。

 

流通量を考えても一握りで管理局の一部門の予算が吹っ飛ぶ値がついてもおかしくないのだ。

 

それを察したメンバーは貴重な鉱石の成分を堪能するように静かに肩まで湯に浸かっていた。

 

「気が遠い話ですね」

 

「まず運搬コストがとんでもないからね。ミッドチルダに卸したらどんな市場価格で取引されることになるやら……」

 

「新たな火種は勘弁して欲しいんですけど」

 

争奪戦で新たな争い毎になりそうな厄ネタに顔を引き攣らせるはやてだが、そう言った新たな資源を調査、発見することも外縁部調査隊の仕事なのだから仕方がない。

 

ひとまず、今後考えられそうな厄介ごとは置いておいて、この鉱石からもたらされる心地よさを味わっておこうと思った矢先。

 

壁を隔てた向こう側にある男湯から物音が聞こえてきたのだった。

 

 

 

 

「どうだぁ、エリオ!我が根城にあるスパは!」

 

「はぁ、すごいですね」

 

「そうだろうそうだろう!長旅にはハムナマの加護が必須だからな!こうやってスパに浸かって芳醇や豊作をハムナマに祈るのが儀式の通例だぞ!」

 

「はぁ、すごいですね」

 

「ジャンよ。エリオくん引いてるから。めっちゃ引いてるから」

 

このエンデュランスにある「次元のオアシス」には男湯と女湯がある。

 

搭乗員数の割合から女湯の方が大きめに作られているものの、男湯の作りも立派で、大きな大浴場しかない女湯の代わりに、男湯には打たせ湯も備わっている。リラックスするにはうってつけの施設だ。

 

そんな温泉に入ってきたのは外縁部に属するサガミ・バルディオとソリオ・ジャン・ハムナマ。そしてジャンに「ハムナマの仲間」と認定されたエリオもなぜか捕まって男3人で風呂場にやってきたわけだ。

 

ちなみにボウマンや指揮を担うトレイル・ブレイザーは、席を外したなのはたちの代わりに作戦準備を担当している。

 

「スパに来るのはわかるけど、なんでエリオくんを引っ張ってきたんだ」

 

「同じ釜の飯を食ったわけだからな!こいつはもうハムナマの戦士の一員だ!」

 

「だからなんですか、そのハムナマって」

 

そう当然の疑問をぶつけるエリオだが、ジャンは返答をせずにそのまま日課の打たせ湯を頭から浴びに行ってしまった。

 

困った顔をするエリオになんとも言えない表情をしつつ自他共にジャンの相棒と認めているサガミが代わりに答えた。

 

「ハムナマはハムナマだ。深く考えるな」

 

「それでいいですか……けど、すごいですね。こんな広いお風呂があるなんて」

 

「エンデュランス自体が管理局の艦艇の中でも大きな部類だからな!長期間の外縁部任務には打って付けの船なのさ!」

 

打たせ湯に打たれる衝撃で声が震えているが、ジャンは構わずにそのまま言葉を続ける。

 

「スパはもちろん、ボルダリングやスカッシュができる施設もある!全長はリンディ提督が指揮するアースラの1.75倍!しかし人員は最低限で運用することも目的にしているから搭乗員数はアースラのスタッフの約半数で……」

 

「バルディオさん。この人、バカなのか博識なのかどっちなんですか?」

 

「両方兼ね備えてるから始末に追えないんだよ。あと俺のことはサガミでいい。アイツのこともな」

 

とりあえずエリオとサガミは姿見鏡と蛇口がある洗い場で身体と髪の毛を洗い汗を流す。ジャンも打たせ湯の気分を解消してから二人を追うように全身を洗って、3人揃って大浴場に体を浸からせた。

 

「お二人はどこでフェイトさんたちと知り合いに?」

 

鉱物から溢れる薬効成分で体をほぐしているとエリオがふとそんな質問を投げかける。段差に腰掛けているサガミとジャンは顔を見合わせてから難しそうに言葉を返した。

 

「それを話すとなると、とてつもなく長い話になるからなぁ。掻い摘んで話してやろう」

 

「出会いは俺もサガミも管理局に入る前だからな!」

 

サガミとジャン……彼らの仲間となのはたちが出会ったのは、今から7年ほど前。なのはが墜落の怪我から復帰し、フェイトが執務官になって2年目、そしてはやても人事部へと異動してすぐの頃だった。

 

事の始まりは「ジュエルシード」の移送。施設の老朽化に伴って、保管されていたジュエルシードを外縁部に新設された新たな保管施設に移送している中、そのジュエルシードを狙って何者かが襲撃をかけ、その混乱の中で移送を担っていた輸送隊のメンバーがサガミたちのいる世界に逃れたのがきっかけだった。

 

「魔法が満足に使えない世界に碌な準備もせずに身一つで3人が飛び込んできてな」

 

「いきなり無茶苦茶やってますね。慣れてますけど」

 

エリオのあんまりな物言いにジャンが愉快そうに笑って、壁越しに聞いていたなのはたち3人は部下であり息子であるエリオの評価にちょっとだけショックを受けてはいた。

 

それから、サガミとジャンはなのはたちの出会いから色々なことを面白おかしく話した。砂漠を泳ぐサンドワームの群れと遭遇した時の話。海の底にある遺跡に迷い込んだ時の話。そして人が踏み入れた事のない魔の雪山での話などなど。エリオも途中から完全に聴き入っていて、女湯にいるスバルやティアナ、キャロたちも全員がその話に耳を傾けていた。

 

当事者であるなのはたちからするとあまり語らなかった過去であり、我ながら当時の自分達は無茶苦茶をしたなと客観的に指摘されているような気分になって、顔を青くしたり、赤らめたりとコロコロと表情が変わっていくのだった。

 

 

 

 

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