Forceへ繋がる物語   作:紅乃 晴@小説アカ

37 / 40
幕間.「エンデュランスのひととき(2)」

 

 

 

「サガミさん、ジャンさん、どうしてお二人は戦うんですか?」

 

なのはたちとの出会いから始まった昔話が一区切りついたところ。

 

話に夢中で冷えてしまった身体を温め直すために湯船に肩まで使っているサガミとジャンに、エリオはそんな問いかけを口にした。

 

サガミはジャンの顔を見てから、瞑目するように目を閉じつつ小さく笑みを浮かべる。

 

「どうして……か。よく聞かれるな、それ」

 

「ま、考えたことないな」

 

「え」

 

あっさりと、ただ迷いなくそう答える二人の先達にエリオは驚いた顔を向けた。

 

何かこうあるはずだと思っていた。

 

大切な人を守りたいだとか、何かを守るだとか、信念だとか。そんな理由があるはずだと思っていたエリオに、サガミは閉じていた目を開き、まっすぐと若い魔導師を見据える。

 

「俺たちの世界じゃそれが当たり前だったからだ」

 

そこはもはや文化や世界の違いと言ってもいい。何か理由をつけて戦う以前に、その世界には危険が溢れすぎていて、「おれは大切な人を守るために」なんて理由を言う間に、頭からバケモノに食われて天寿を全うするような世界なのだ。

 

戦う理由よりも戦うことが必須な環境な故、サガミにもジャンにも、戦う理由なんてものは最初から存在していない。強いて言うなら、生きるために戦うということだ。

 

「出来ることを出来る者がやる。バケモノ退治も戦うことも一緒ってことだ」

 

「そこに理由なんていちいち考えてる暇なんてないのよ。バケモノで傷つく人がいて、自分にはそのバケモノを倒す力がある。ならやることはひとつだろ」

 

溢れる危険。人を食うような危険な生物が隣り合わせの世界だ。戦わなければ生き残れないのだから、そういう生き方になるのは必然でもあった。

 

そして危険極まるよう世界であっても、サガミたちのように戦える人以外の人々にも明確な役割があった。

 

例えばサガミたちの力を持つ人間が狩ったバケモノの解体。素材を使った道具の作成や武器の作成、建築資材を作ったり、鉱物資源を採掘したりと、やることは山のようにある。

 

「力を有する者が力を正しく使う。正しく使うために戦えない周りの人がサポートする。それが俺たちの世界の土台だった」

 

出来ることをする。誰かのせいや誰かに押し付けるのではなく、自分にできる精一杯の範囲をしっかりとやる。それができなければバケモノの餌食だ。

 

怠けるとか、だらけるとか、そんな人間らしい言い訳など聞いてくれないバケモノがそこらを闊歩しているのだから、それはもう全員が面白いほどに自分の役割を認識して、自分のできることを迷わずにやる。

 

そうしてサガミたちの世界は存続してきたのだ。

 

「管理局に所属して、外縁部の調査をしてもその根っこの部分は変わらないってわけさ」

 

サガミとジャンが育った世界を離れても、そこで培った価値観や世界観が急激に変わることはない。

 

もちろん、外縁部の調査や管理局の人間との交流で取り入れた考え方や、物事の捉え方にも変化は出てきているものの、それでも根底にあるものは確固たるものとして存在している。

 

「今回のこともそう。俺たちが求められていて、俺たちが相手に対して突破力と対応力がある。世界の命運がかかってるんだ。戦うことに意味なんて必要ないだろ?」

 

「おう!戦士として求められるのはハムナマの戦士にとって面目躍如ってところだな!」

 

だから、そこに意味なんてない。

できるから、できることをやる。

精一杯に。

 

その単純明快でありながら、その思い切りのいい生きた方などできやしないエリオは、参考にはなるけど役に立つかは微妙なアドバイスに小さく肩を落とした。

 

「……なんだか、戦う理由を聞いたり、考えたりするのがバカらしくなってきました」

 

「そう言うエリオはどういう理由があるんだ」

 

そう聞くジャンに、エリオは少し気恥ずかしいような素振りを見せながら、小さな声で答える。

 

「その……僕は大切な人を守りたいから戦います。仲間も、家族も。そのために力をつけてきました」

 

エリオにとって大切な人はたくさんいる。仲間はもちろん、母親代わりになってくれているフェイトや、共に生活をしているキャロ、自分たちを気にかけてくれるルーテシア母子。

 

いつのまにか大切な人がたくさん増えた。だから、それを守れるように強くならなければならない。憧れ、背を追うフェイトや、シグナム、なのはのように。

 

「ふーん。ところでエリオよ。キャロとの子孫はいつ頃に作る予定なんだ?」

 

まぁそう言う考えも大事だな、と言おうとしていたサガミを知ったこっちゃないと、ジャンは火の玉ストレートをいきなりエリオにぶん投げる。

 

思いがけない言葉で直撃を受けたエリオは足を滑らして頭まで湯船に落っこちることになった。

 

「ジャ、ジャンさん!?いったいなにを!?」

 

「え、だってお前たち番だろ?」

 

「つ、つつつ、つが……!?」

 

「おい、ジャン。だから言っただろ。まだそう言った年頃じゃないって。エリオもキャロも20近くだろ」

 

「え、うそ?まじ?っかー!やっちまったな!ハムナマへの祈りの時に番としてエリオとキャロを紹介しちまったぞ!訂正の儀式と再認の儀式やらないと」

 

「それめちゃくちゃ手間かかるやつじゃねーか」

 

次々と飛び出してくる二人の発言についていけない。儀式ってあれのことか?

 

ご飯を食べた後、何か小さな箱を片付けた食卓に置いて、すごいキレのある動きで祈りみたいなやつを捧げていた……一見すると意味不明な行動のことなのか!?

 

あれをもう一度!?冗談でしょう!?終わった後、「フェイトにもやった儀式だからモーマンタイ!」とジャンにサムズアップされてキャロと二人で背中に宇宙を背負ったのに!?

 

いや、それ以前に!

 

「あ、あの!キャロとはまだそういう関係じゃ……」

 

「まだ?」

 

「まだ?」

 

「うっ」

 

エリオは思わず手で口を覆うが時はすでにおそく、サガミとジャンはニヤニヤしながら大浴場の縁に腕を預けてウンウンと頷く。

 

「……うん、じゃあそのうち番になるならそのままでいいな!」

 

「うん、そのままでいいな!」

 

「あーもう!ニヤニヤしないで下さいよぉ!揶揄わないでください!」

 

全く、まだ知り合って間もないと言うのにすでに手のひらの上で転がされている感じだ!エリオは激怒した。しれっと面倒見のいい先達ポジションに収まっている二人に目にもの見せないと気が済まない。そしてキャロやフェイトにこの話をバラされたら死ぬ自信まであった。

 

ちなみに女湯にはフェイトもキャロもバッチリいる上に、距離もそんなに離れていないことから会話は筒抜けでもあったので、あとでエリオは二人をストラーダ掲げて追い回すことになる。

 

「そうと言えば、なのはとフェイトはどうなってんだ」

 

「番できる前に子供ができたって手紙をもらった時は二人してぶったまげたぞ」

 

ひとしきりエリオの話題を楽しんだ後で、サガミは思い出したようにそうエリオに言う。ジャンも同意するようにウンウンと頷いていた。二人とも長期の外縁部任務に当たっていたため、J.S事件はもちろん、その後の出来事もメッセージや手紙で聞き及んでいた程度だ。

 

二人からすれば「近々、大きな事件が起こるかも」という手紙の後に「事件解決!子供ができました!」という数段階飛ばした状況変化で一瞬理解するまで固まる程度でもあった。

 

「あー……僕たち含めて、なのはさんとフェイトさんの子供になった理由もかなり複雑ですからね」

 

エリオ自身の出自、そしてなのはの娘であるヴィヴィオの出自もかなり特殊だ。自然的なものではなく、ある目的のために生み出された存在だ。そんな背景があることから、なのはもフェイトも詳しくは二人に話していないのかもしれないとエリオは考えていた。

 

しかし、その配慮が二人をあらぬ方向へ誤解させることを加速させたのだった。

 

「……サガミよ。やっぱりあれか」

 

「あれかなぁ」

 

うーんと腕を組んで唸る二人に、少し嫌な予感を感じ、エリオは恐る恐る聞いた。

 

「あの……あれとは?」

 

「なのはの相手はフェイト」

 

「え」

 

男湯ではない場所から、ビシッと何かが固まるような音がエリオには聞こえた気がした。

 

サガミの言葉にジャンは手を打って納得するような仕草をした。そうすればすべて丸く治る。不可思議な点と点があみだくじを通って予想外に繋がった瞬間だった。

 

「そうだ!きっとミッドチルダはそう言った婚姻関係に厳格なんだろう!だから式も上げられずにお互いに所帯をもったと……」

 

「子供に対する愛情はもちろん大切だが、それと同じく周りへの牽制にもなるからな」

 

なのはの嫁であり、夫でもあるフェイト。逆もまた然り。二人は管理局の注目株だ。その実力も名声も取り込みたい輩はごまんと居る。好いている同士の二人からすれば、それは非常に厄介な足枷になるだろう。だから二人揃って所帯を持つことにしたのだろう。そうすれば下手な相手はまず近づいてこないのだから。

 

ザッツライと指をパチンと鳴らすサガミ。まさに完璧な推察であると自信満々である。ちなみに女湯の空気は完全に死んでいた。

 

「いや、あの、たぶんそれは違……」

 

「ならいっそ同性婚できるように手配するか?」

 

「お、それといいな。伝手を頼れば式場と神父役は手配できるぞ。洋式も希望すれば色々なパターンが対応可能だ」

 

頭が良くて、バカなのはジャンだけじゃない。サガミもそう言った方面では立派なお馬鹿さんなのであった。あらぬ方向にロケットブースターでかっとび始める二人に、エリオの制止する声などもはや聞こえていなかった。

 

「決まりだな!じゃあ仕事が片付いたら……」

 

「そうじゃないってばーー!!」

 

風呂を上がって早速知り合いに連絡を取ろうとしていたサガミたちがいる男湯に、本来聞こえないはずの声が響き渡った。3人揃って目を向けたのは壁。しかし上には少し隙間があって、その向こうは隣り合わせに作られた別の部屋……とたん、エリオの顔がサッと青くなった。

 

「うお!?居たのか!?」

 

「サガミくん、ジャンさん!お風呂から出たらお説教だからね!?」

 

「なぜに!?」

 

なのはとフェイトの揃った説教宣言に戸惑いの声を上げるサガミとジャンだが、死んだ空気を味わったはやてやスバル、ティアナ「当然」と言った様子で、サガミたちの人となりを知るキィナは頭を抱えていた。

 

「エ、エリオくんもお説教だから!」

 

「なんで僕まで!?」

 

思わぬ飛び火にエリオも困惑の声をあげる。

 

だが、風呂上がりとは別の意味で顔を真っ赤にさせているキャロを見て全てを察したエリオは、逃げ出した先達二人を追うためにストラーダを起動させたのだった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。