Forceへ繋がる物語   作:紅乃 晴@小説アカ

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chapter.32「ブレイク ザ ワールド(2)」

 

 

 

「各隊、目標時間通りに作戦を進行しています」

 

次元空間を航行するXV級大型次元航行船【クラウディア】。黒く塗られたその大型艦艇は管理局次期主力艦として建造され、増え続ける次元犯罪に対応するために単独運用が主流だった既存戦略から脱却し、艦隊運用も想定された設計となっている。

 

その艦艇のブリッジで、指揮を取るクロノ・ハラオウンは艦長席に座りながらオペレーターの報告を黙って聞いていた。

 

「ラルドニア、ブルックアイルズの二拠点へすでに部隊は降下済み。最終通信では両指揮官から戦闘状況に入ったと通達がありました」

 

「……以降の通信は?」

 

「依然として音信不通。おそらく、ワールドダウンシステムの影響かと考えられます」

 

クロノの問いにオペレーターは少し表情を翳らせながらも応える。

 

「強力な無線網も役に立たずか。これが本格的に広がれば、文字通り人と魔法は切り離されるな」

 

「クロノ提督……」

 

二つの世界に向かった船はクラウディアが次元航行に切り替わったと同時に普通となり、ミッドチルダは相変わらず通信復旧の目処が立っていない。ブリッジに設置されたタイマーは寸分狂わずにカウントを続行していて、今はそれだけが各世界で戦う仲間たちの奮戦を意味している。

 

「それを阻止するために俺たちは行動している。声は聞こえずとも奮戦している仲間を信じるしかない」

 

通信はできなくとも、カウントを続けているタイマーが戦っている仲間たちの思いを伝えてくれている。揺動のために各世界で戦う仲間たちのためにも、自分達は敵本拠地を一気に取る必要がある。

 

そんな最中、クラウディアは大きな揺れに見舞われた。

 

すごい横揺れだ。クロノは思わず息を呑む。ブリッジには警告音が溢れ、数人のオペレーターは小さく悲鳴を上げ、クロノも艦長席の肘掛けに手を食いつかせて踏ん張る。

 

次元空間を航行している中でこんな大きな揺れを感じることは今までなかった。全員に緊張が走る中、航行システムを担う操舵手が声を荒げた。

 

「提督!次元航行システムに異常発生!次元空間に留まることができません!」

 

そんなバカな!と出るはずだった声は、さらに大きくなった揺れに耐えるために出すことは叶わない。

 

今にも弾き出されそうだ。

 

舵を握るスタッフが向きいっぱい舵を保とうとするが、まるで理外の力が働いているように船はどんどんと外へ外へと追いやられていくようだった。これも魔力素が反転したことによる影響のひとつで、次元空間で船体を保護するためのシールドが保てなくなり、船にかかる圧力が急激に増加していたのだ。

 

「通常航行に切り替えだ!船がバラバラになるぞ!」

 

船体に生じる異常な圧力を把握したクロノはすぐさま指示を出した。操舵手やオペレーターたちは驚いた表情を見せる。あきらかに予定よりも早いタイミングで次元空間を脱することになるが、無理をして船がバラバラになってはどうしようもない。操舵手の卓越した操縦でクラウディアは次元空間から脱し、通常の宇宙空間へと逃れる。

 

「無事、通常航行へ移行。ただ、目的地よりも手前に出てしまいました」

 

到達するはずの座標と現在地を比較し、すぐに誤差を算出。その距離は予定地点のはるか手前だ。遅れとしては一時間以上……いや、もっと掛かるかもしれない。

 

「足りない分は移動しながらカバーするしかないか……。彼らの準備はどうか?」

 

無いものねだり、起こった状況に対応するしか無いと切り替えるクロノはすぐに艦内通信を開く。接続先は小型輸送艇の格納庫だ。

 

 

 

 

「予定より早い通常航行だな」

 

「念の為、余分に燃料を入れておいて正解だったな。この距離ならちょっと足は出るが問題なく降下はできるぞ」

 

クラウディアの格納庫。大型の懸架アームに支えられている船の操縦席に座るのは、今回の突入隊に選抜されたサガミ・バルディオ。そして副操縦席には彼の相棒であるソリオ・ジャン・ハムナマが各計器類を忙しなくチェックしていた。

 

クラウディアが予定座標よりも手前で通常航行に移行したのは、モニタリングをしていたサガミとジャンも承知していた。もう少し手前だとかなり苦しかったが、クラウディアはよくここまで届けてくれたとサガミはエンジンのスタートアップ手順を進めていく。

 

すると、ブリッジから小型輸送艇へ通信が届いた。音声のみであるが、通信相手は艦を指揮するクロノだった。

 

『予定通り君たちは小型輸送艇でアーズガルドに突入してもらう。この通信状況は相手も同じだ。なら図体がでかいクラウディアよりも小柄な船の方が気付かれずに突入することができる』

 

この作戦はクラウディアはアーズガルドの索敵範囲外で小型輸送艇を出発させ、ワールドダウンシステムの影響で満足に動かない通信網を一気に突破。敵に探知される前に最短で本拠地に戦力を届けるのが目的だ。

 

予定とは異なる位置であるが、距離は速度で稼ぐので問題はない。

 

「よぉし!全員聞こえたな!予定通りに通常航行開始と同時に出発だ!」

 

副操縦席から振り向きつつそう声を上げるジャンに、三人がけ後部座席に座るなのは達はシートベルトをしっかり装着していく。

 

「F506ティラー級 ストライクヴェクター輸送艇「リトルウイング号」。こいつは外縁部調査隊でも活躍しているストライクヴェクターの中でも特別製だ」

 

ティラー級の中でも傑作と言えるストライクヴェクターは管理局のL級艦艇に次いで長年愛用されている信頼性と汎用性を有した小型艇だ。特殊鋼材で作られたボディフレームは堅牢。カスタムパーツも豊富で、エンジンユニットを換装できるのでユーザーからの信頼も非常に高い。

 

かくいう、このリトルウイング号もサガミが長年愛用してきた船であり、彼が管理局に入局する前から乗り回していたのだが、今も変わらず手に馴染む操作性と快適さは健在であった。

 

「動力は化石燃料と圧縮ガスを利用したスクラムジェットエンジン。魔力に一切頼らずに航行できるし、大気圏離脱パックもついているから離脱時にも大活躍すること間違いなしだ」

 

『リトルウイング号突入後、状況を見つつ逐次戦力は投入する予定だが……要になるのは第一陣のお前たちだ。こうして後ろから言うことしかできずすまないが……道を開いてくれることを期待する』

 

クラウディアが本格的に戦闘に参加するのはなのは達が降下し、敵拠点の一部を制圧してからだ。つまり、なのはたちが降下できたとしてもそこで撃ち落とされる、迎撃されて捕らえられたりしたら、この計画は全てを破綻する。

 

しかもこの作戦は時間制限付きだ。ワールドダウンシステムの影響下だと、なのはたちが戦闘できる時間は一時間が限界となっている。

 

『ここから先は時間との勝負だ。俺たちが手間取ればワールドダウンシステムの影響はさらに広がる。そして三拠点で戦う仲間たちも不利なる。だから、他を構うな。俺たちは一直線に相手の本丸を叩く』

 

クロノの言葉に、サガミとジャンを除いた全員の顔がこわばっている。突入メンバーは、管理局からはなのは、フェイト、はやて、スバル、ティアナ、エリオ、キャロ。協力者としてチンクとセインも同行していて、ソーサラーズからはキィナと、輸送艇パイロットと護衛を兼ねてサガミとジャンが乗り込んでいた。

 

計、十二人。たったそれだけの戦力で敵の本拠地を抑えようとしている。そんなことが本当に可能なのかは誰にもわからない。

 

でも……それでも、他の世界で自分たちを信じて戦っている仲間がいる。

 

「行こう、みんなで」

 

シンとした船の中で、なのはの凛とした声が響いた。全員が頷く。サガミはまっすぐ前を向いて操縦桿を握りしめた。ガコン、とリトルウイング号が揺れる。懸架していたアームが動き始め、船が発進位置に移動する。

 

クラウディアの側面から突き出る形で発進位置へと着いたリトルウイング号は、メインスラスター、サブスラスターの出力チェックをして、最終の発信準備を整えた。

 

『アーム解除。リトルウイング号、リリースポジション、ゴー』

 

「リトルウイング号、発進!」

 

アームから解き放たれた船は軽やかな動きでクラウディアから離れていき、メインスラスターを吹かすと一気に加速。星の大海の中へと消えていく。

 

「頼むぞ、みんな」

 

消えていった小型艇の行先を見つめながら、クロノは小さくそう呟くと、出発したなのはたちから合図があればすぐに突入できるよう準備を進めていくのだった。

 

 

 

 

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