Forceへ繋がる物語   作:紅乃 晴@小説アカ

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chapter.5「シンセサイド」

 

 

 

《こちら、時空管理局が新たに導入するシンセサイド・プログラムは、完全自立型の治安維持ユニットです》

 

首都、クラナガンにある時空管理局の地上本部。中央区画にある催事用の巨大ホールは、試験運用が始まる新たなシステムのための特設会場となっていた。管理局内部の放送局から送られるライブ映像には、司会者の後ろに人型の生体ユニットが直立不動でずらりと並んでいるのが見えた。

 

都市部が壊滅的な被害を受けたJS事件から5年。

 

ミッドチルダを含めた数多くの管理世界は、違法デバイスを持つ犯罪者たちの被害が拡大の一途を辿り続け、その平和と安全は今も脅かされ続けていていた。

 

一昔前では管理局しか持つことが禁じられていたデバイスが、現代ではダウングレードを施されているものの一般人でも魔力適正があれば購入できるほどになっている。

 

個人向け通信インターフェースとして、さまざまな機能も付け加えられて売り出されているが、その本質は魔力を使うための機械。悪化する治安状況に対して自衛手段としてもそれらデバイスは有効性を示していた。

 

だが、それは悪化する情勢の根本的な解決にならない。

 

いくらデバイスをダウングレードし市場に流通させたとしても、それを扱えるのは魔力資質を持つ者だけ。その結果、魔力資質を持たない者は犯罪者のターゲットになりやすく、自衛手段を持たない者は無抵抗で殴られ続けるような状況ができあがってしまった。

 

全員が降り掛かる火の粉を払えるわけでもないのだ。

 

次元世界全てで犯罪率の右肩上がりの状況を見た時空管理局はついに重い腰を上げる。

 

数年前に概要提案され、管理局の科学部と第四管理世界「カルナログ」にあるワイズナリー・バイエンス社が共同で開発したのが、今発表されている治安維持システムだ。

 

シンセサイド・プログラム。

 

人工筋肉と人工骨格で構成された生体ユニットと、高度に並列化されたAIが備わるレプリカント。その指揮官、あるいはマザーユニットである上位のレプリロイドの命令に従ってパトロールや、犯罪者への取り締まり、必要時の拘束や最低限の魔力による交戦も可能だ。

 

記者会見を開くワイズナリー・バイエンス社の広報が語るに曰く、「自発的に魔法を使役する手足の生えたデバイス」ということだが、映像を見つめる高町なのはの目は不信感に満ちたものだった。

 

《この深刻な事態に団結をしなければなりません。ワイズナリー・バイエンス社と時空管理局。我々の世界の平和と、安全をもたらす存在となるのです!》

 

そう高らかに宣言する管理局高官によるパフォーマンスに、管理部上層部とワイズナリー・バイエンス社の取締役が固い握手を交わし、傍聴に訪れた観衆へ手を振って笑顔を見せる。

 

何もわかっていない人々による万雷の拍手がライブ映像から響き渡って、そこで光学モニターに写されていた映像が消える。モニターの電源を落としたなのはは、フェイトと共にはやてに当てられた執務室でソファに背中を預けて眉間を揉む。

 

かなり不味い。

 

あの発表を見て三人が真っ先に思ったのがそれだった。

 

「ついにお披露目されてもうたか……これから一体どうなることやら」

 

執務室のデスクで映像を見つめていたはやては、傍に置いてあったマグカップを一口飲んで、そうつぶやいた。表情はかなり険しく、とてもあのシステムを受け入れているようには見えない。それはなのはやフェイトも同じだった。

 

「はやてちゃん。本当に……このままでいいのかな」

 

「いいも何も、これは時空管理局が威信をかけて提唱した治安維持システムやで。私たちは組織に属する側。前みたいにどうこう言えるものとは違ってくる」

 

はやての言うとおり、今回は外的要因ではなく管理局内部の話だ。海上警備部捜査司令になったとはいえはやて自身も一介の管理局員に過ぎない。

 

シンセサイド・プログラムを時空管理局と関わりのない組織が宣言したというなら、時空管理局は最大限の警戒と監視を強めるように指示を出すはずだ。

 

だが、今回は時空管理局そのものがその宣言をしてしまっている上に、出資元も時空管理局で、外部機関と共同開発したとまで発表してしまっている。すべてが最高評議会や上層部で完結している話であり、組織の構成員でしかないはやてには、そのシステムに対して意見を言える立場すら与えられなかったのだ。

 

「けど……あれは……」

 

それでも食い下がるなのは。その隣にいるフェイトの表情も悲痛そのものだった。その思いをはやてがわからないはずがない。

 

レプリカント、レプリロイドは、プロジェクトFの産物によって作り上げられた存在。

 

いくら人間性をなくし、並列化されたAI制御だと言われても、見た目は人間そのものなのだ。

 

なのはが経験してきたこと、フェイトが経験してきたこと。なによりその産まれや、今は遠い地で働くエリオのことを考えれば心中穏やかではいられないだろう。外装に覆われていながらも、熱を持った人工筋肉と骨格があるのだから。

 

「シンセサイド・プログラム内では〝治安を維持するため〟の機械でしかない。手足の生えたデバイスとはよく言ったものやな……」

 

はやては官僚的な発言を持ってなのはたちに言葉を返す。その表現になのはは苛立ちを堪えきれずに立ち上がった。

 

「はやてちゃんはそれでいいの!?」

 

「言い訳ないやろ!」

 

声を上げたなのはに、はやては心の底にある思いを吐露した。レプリカント、レプリロイドという存在を管理局が容認する。ましてそれが、生体ユニットと言われれば尚更のことだ。はやてが計画を知って2年。すでにその段階で事態は水面下で進められていて、その時点ではやてに止める手立てはなかったのだ。

 

「私も止めようとはしたけど……何もできんかった」

 

このプロジェクトを知ってから、はやては持てる人脈を駆使してプロジェクト進行の一時停止や廃止を訴え続けた。それは単にフェイトやエリオの過去からくる思いだけではなく、生体ユニットとデバイスの組み合わせによってもたらされる新たな脅威も大きな理由だった。

 

もし悪用された場合、次元世界中に広まる脅威となり、もし制御下から離れた場合、収集がつかなくなる。それはあまりにも大きすぎるリスクだ。

 

オールドマン中将やリンディ提督、レティ提督、クロノ提督、カリム少将と、様々な人がはやてに協力してくれて、何人かの上層部の高官を味方につけることもできた。しかし結果として各管理世界の治安悪化と犯罪率の増加を盾にされて、プロジェクトを止めることは叶わなかった。

 

今、こうやってプログラムの試験運用が始まる。その事実を前に誰よりも無力さを感じているのは他でもないはやて自身だった。

 

「……ごめん、はやてちゃん」

 

悔しさが込められたはやての言葉に、なのはは謝る。しかし、管理局がワイズナリー・バイエンス社と手を組んで、「シンセサイド・プログラム」の試験運用を発表をしてしまった以上、もう時間の問題だ。

 

しかし、まだ本格導入までは時間がかかる。

 

「チャンスは終わってない」

 

僅かに残った時間。その準備期間が重要だ。

 

はやては光学モニター……ではなく、紙の束をテーブルの上に置いた。なのはとフェイトは思わず置かれた紙の資料に視線を向ける。

 

ミッドチルダ……否、ネットワーク技術と電子化技術が進んだ今の世界は、そのほとんどのデータは電子化されアーカイブされている。にも関わらず、はやてが取り出したのは旧世代の手法である紙による資料である。ペーパーアーカイブとも呼ばれるそれは、まぁ場所をとるし、嵩張ると言ったデメリットはあるが、それらを上回るメリットがある。

 

それは、電子の海に保管されないゴーストデータとしての運用だ。読んでみて、とはやてに促されるまま、なのはとフェイトは紙の束を手に取る。

 

「これは?」

 

「ワイズナリー・バイエンス社の極秘研究施設に関する情報」

 

「……それって普通に最高レベルの機密じゃない?」

 

思わずフェイトがそう返すと、はやては得意げな顔で答えた。

 

「資材管理部門と調達部門に仲のいい友達がおってなぁ。あとミッドチルダを拠点にしている探偵さんにも色々お願いしたんやけど……詳しく聞きたい?」

 

「「ご遠慮します」」

 

なのは、フェイト揃っての即答である。

 

二人とも子供ではない。特にフェイトに関しては執務官とした秘匿レベルの高い情報を扱うことが多い。なので、自分が今手にしている資料がどれほどヤバいものかすぐに把握できた。

 

この資料の存在が知られればはやてや情報収集に協力した人たち、さらに目を通した自分たちも無事では済まないだろう。

 

もうすでにやばい案件に片足を突っ込んでしまっているのだが、はやてがそんな手段に出るほど、この計画はかなりきな臭いのだろう。改めて資料を広げていき、はやてはあるページを指差した。

 

「この情報はかなりやばいやつやで。もし一般に公表されたら管理局地上本部全てが吹っ飛ぶかも……」

 

顔をしかめながらも、促されたページを見る二人。そこに記されていた情報を見て自分の目を疑った。

 

「生体ユニットの素体生産……これって……」

 

「ずっと疑問やってん。どう考えてもあの技術にはプロジェクトFの技術が使われてる。でもどこを見てもそう言った後ろ暗い情報は出てこなかった。だから自ら足を踏み込んで、調べる必要があった」

 

いかに機械化されたとはいえ、人工筋肉や人工骨格を「どのようにして効率よく生産するか」という事が疑問だった。技術的に不可能ではない。だが、その実現には多くの技術革新が要求されるはず。

 

じゃあ、ワイズナリー・バイエンス社はどこからその技術を持ち込んだか?

 

答えは、エリオの出自である研究所の資金を探った先にあった。

 

プロジェクトF。

 

いつか、ジェイル・スカリエッティが言った。

 

〝プロジェクトFはまだ生きている〟と。

 

フェイトの出生、そしてエリオの出生にも深く関わるそのプロジェクトは、今もなお人に知られず闇の中で蠢き続けていて、その技術をワイズナリー・バイエンス社が資本金に物を言わせて丸ごと入手していたのだ。

 

資料には研究に関わった科学者の名前が載っていて、そこには現在管理局から指名手配されている人間の名前もあった。

 

「都合のいいように生体ユニットだけを生産する。その技術にプロジェクトFや……エリオや、実験台にされた子どもたちの記録や、データが使われてるんや」

 

エリオがいた研究施設。そこにはフェイトが踏み込んだのだが、その施設は複数存在していた。協力してくれた第三者の調査によると、今は全てが廃墟となっているが、それは施設の利用価値が無くなった点と、より良い研究環境が手に入ったからだとはやては推測する。

 

単なる金儲け、失った大切な人を莫大な資金で蘇らせるために使われるとは考え辛い。

 

もっと深い理由があるとは予感していたが、まさかこのような形で判明するとは、はやて自身もワイズナリー・バイエンス社の裏の顔を知った時の動揺は計り知れないものだった。

 

「そんな……酷い……」

 

「きな臭いとは思ってたけど……まさかここまでやったとはなぁ。問題は〝誰が〟その技術をワイズナリー・バイエンス社に提供したかっていう点や」

 

「どうするつもり?」

 

そう聞くなのはとフェイトに、はやてはニヤリと笑みを浮かべて言葉を続けた。

 

「そのためにも、二人を呼んだんやで?」

 

これを見過ごすほど、自分は腐っていない。

 

それは言葉にするまでもなく目の前にいる親友に伝わったようだった。察した二人も笑みを浮かべて頷く。

 

「了解。信頼できる人たちを集めるよ」

 

「こっちもすでにいくつかアテのある人員に調査を依頼してる。……シンセサイド・プログラムが本格稼働の前にどうにかせなアカン」

 

プランは二つ。

 

一つは、ワイズナリー・バイエンス社の極秘研究施設へ向かい、そこにいる科学者や指名手配犯を捕え、真相を確かめる事。

 

そしてもう一つが、その技術を誰がプロジェクトFの科学者や実験環境を提供したのか。それを突き止める事であった。

 

 

 

 

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