夏目友人帳 × ウマ娘   作:ムラサキメダカ

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世界観としては、夏目友人帳の世界の「馬」という存在がそのまま「ウマ娘」に置き換わった世界になります。
ウマ娘世界の「夏目友人帳」という認識で読み流していただけたら嬉しいです。



1.結ばれた縁

空港の出口で3人のウマ娘がバスの停留所を目指して、音を立てながらキャリーケースを引きずっている。

薄曇りを通った陽光をキラキラと弾く黒髪を揺らす少女は、スマートフォンを眺めつつそこに表示されている番号の記された停留所をきょろきょろと探す。

 

「あ…どうやらあのバス停のようです。

…よかった、まだバスは来ていないみたいですね」

 

その言葉を聞いてカンカン帽のしたから淡い栗色の紙をのぞかせた少女が、笑顔を輝かせながら黒髪の少女の横に並ぶ。

 

「じゃじゃー…えがったですねえ、間に合って…!」

 

「…走らせてしまってすいませんユキノさん」

 

「いえいえ、あたしは全然!全然疲れてねぇですから!

あんのぉカフェさん、あたしよりそのぉ…」

 

「…おーい、まっておくれよお…!」

 

二人のウマ娘の背後からもう一人、ウマ娘が手を振りながら駆けてくる。

こちらは少し暗めの栗毛の上にサングラスをかけており、手荷物の小さな手鞄を大きく揺らしながら二人に向けて近寄っていくと、黒髪の少女に向けて恨めしそうな表情を向けた。

 

「ひどいじゃないかカフェ…置いていくなんて!」

 

「…タキオンさんが急いでといっているのに、もたもたしているからです」

 

「た、タキオンさん、カフェさんはタキオンさんの為にバスを止めておごうって先に向がってくれたんですよ」

 

「おやそうなのかい?」

 

「…あまり遅いようならユキノさんと二人で行ってしまうつもりでしたが」

 

「君はいつも最後に私を突き放すねえ!

たまの小旅行じゃないか、仲良くいこう仲良く」

 

「それよりもタキオンさん」

 

ユキノと言われたウマ娘、ユキノビジンはタキオン…アグネスタキオンの手元を見る。

そこにはおおよそ旅行というには、少なすぎる手荷物がある。

 

「キャリーケース、どしたンです?

さっぎまで持ってらっしゃいましたよねえ?」

 

「ああ、さっき中で今日の宿泊地に送ってきたのさ。

この暑い中ゴロゴロと転がしたくはないからねえ」

 

「…それで遅れたんですね」

 

カフェ…マンハッタンカフェは呆れたようにアグネスタキオンに暗い瞳を向ける。

 

「さっき聞いたじゃないか、私は送るが君たちはどうするって」

 

「…聞いてません」

 

「あたしは平気だっていっだンですけど、カフェさんすぐバス停に行っちゃったんで、聞ごえながったンですねえ」

 

「…まあ、私も苦ではないので問題ありませんが…」

 

「聞こえなかったのは私の責任ではないだろう…なんだい、怖い顔しないでおくれよ」

 

「…もういいです、ほらバスが来ましたよ」

 

カフェは音をたてて近づくバスに向けて踵を返すと歩き出す。

ユキノビジンはむくれているアグネスタキオンに近づくと、耳に口を近づけた。

 

「カフェさん、本当にタキオンさんを置いてっちまうつもりはなかったとおもいますよ」

 

「…あぁ、わかっているよ。

おーいカフェ!私は身軽だから荷物を一つ持ってあげよう!」

 

「…もう、早くいきますよ」

 

「人の好意を無下にするものではないよカフェ~」

 

「…気持ち悪いです、あと熱いのであまりよらないでください。

…それならユキノさんの荷物をもってあげてくださいタキオンさん。

どうせすぐ飽きてへばるんでしょうけど」

 

「言い方がひどい!」

 

「あはは!タキオンさん!

そンじゃこれ、もってください!」

 

「…帽子じゃ持つとは言わないじゃないか…!

ユキノ君、キャリーケース!キャリーケースもつから!」

 

三人の少女の笑い声が空港出口の広場に響く。

雲間からのぞいた初夏の日光を浴びながら、一夏の小旅行が始まろうとしていた。

 

 

 

 

タキオンは旅館の一室の窓を音を立てて開け放つと、大きく一呼吸した。

眼下には遥かに広がる田園風景、山々、そして点在する古民家が見渡せる。

 

「…うーん!いい眺めだ!最高の展望じゃないか!

しかし田舎!田舎だねえ二人とも!饅頭も倍おいしく感じるというものだよ!もぐもぐ」

 

タキオンは菓子盆から取り出した饅頭を頬張りながら目を輝かせる。

 

「…タキオンさん、大声で失礼なことを言わないでください」

 

カフェは荷ほどきする手を止めてタキオンの方へ、呆れ顔を向ける。

ユキノはタキオンの声に誘われたのか、弾かれたように窓辺に走り寄ると目を輝かせてその風景を眺めた。

 

「じゃじゃー!本当だぁ!

ほんにほんにいい風景ですねえ!

まるで実家に帰ったみたいだぁ…!」

 

「ほらユキノ君見たまえ!

水車!水車だよ!」

 

「本当だ!この時期だから田んぼに水引いてンですかねえ!」

 

「きっとそばだ、そば粉を挽いてるに違いない!

どう思うカフェ!」

 

「…知りません。

…お二人とも、あまり身を乗り出すと危ないですよ」

 

カフェははしゃぐ二人の様子を見て、ここに来た経緯をふと思い出していた。

 

 

「サマーウォーク、ですかぁ?」

 

カフェテリアの一角。

ユキノの声はウマ娘たちの喧騒の中、確かに二人の耳に届いていた。

 

「ああ、近年学園側が我々の心身のリフレッシュのための調整期間…特にこれからレースに向けて動き出すものや、ひと段落ついたものに向けたイベント企画に力を入れているのは知っているだろう?」

 

「…そうですね、特に夏合宿前に数名でグループを組んでの遠征や旅行を推奨しているとか、確か名前は…」

 

「『サマーウォーク』!!」

 

タキオンは大仰に白衣に隠れた両の手を挙げながら叫んだ。

数人のウマ娘が振り返るが、それを気にせずタキオンは鈍く輝いた目を二人に向ける。

 

「サマーウォーク!

確かシチーさんが前にジョーダンさんと一緒に行ってたやつですねぇ!」

 

「そう『サマーウォーク』だよユキノ君!

トレセン学園での厳しいトレーニングや、レースのことから一度離れて、身体の調整を図ろうとする企画なのだが!」

 

「…それがどうかしたんですか」

 

「君たち、再来週末の予定は空いているかね!」

 

「…何を考えているのですか」

 

カフェは口元にカップを近づけながら疑いの目をタキオンに向ける。

 

「質問に質問で返さないでおくれよ。

…ユキノ君!君はどうだい?」

 

「あ、あたしは特に予定はないですけンど…ま、まさかタキオンさん!」

 

「ああ、二人とも!

今年の夏は旅行をしようじゃないか、刺激的な冒険旅行をね!」

 

「じ、じゃじゃー!」「…はあ」

 

 

(…結局、そのままなし崩し的に旅行に付き合うことになり、今にいたる…と)

 

カフェは窓辺ではしゃぐ二人を見やる。

 

(…ユキノさんも乗り気のようでしたし、タキオンさんと二人で行かせるのは心配、でしたしね)

 

カフェはキャリーケースから日焼け止めを取り出すと窓辺に近づいていく。

 

「ほら、カフェも!

とても牧歌的ないい風景だぞ!

…おお、見てみたまえ牛だ!牛が走っている!」

 

「じぇ!ほンとだ!

…あ、でも後ろから男の人が来ましたよ」

 

「…おお、縄で捕まえようとしているようだ。

脱走中だったのかねぇ」

 

二人の様子にカフェは呆れたような笑顔を浮かべながら、同じように二人の間から窓の外を眺める。

 

「…本当、いい景色ですね」

 

「ああ~カフェ、牛が捕まってしまったよ。

彼にとっては新たな世界に向けての決死の逃避行だったのかもしれない。

…いや、乳房が大きいからあれは彼女か」

 

「ですねぇ、あン子はいい乳を出しそうです」

 

「わかるのかい?」

 

「ええ、腰回りがいいですンで、きゅっとしてます!」

 

「…」「…」

 

「「あはは!」」

 

楽しそうに笑う二人をみて、思わず頬が緩むカフェ。

 

「ふふ…ほら二人とも」

 

カフェは窓辺から離れると日焼け止めを塗り、つばの広い帽子を壁から手に取る。

 

「…せっかく来たのですから、眺めるだけじゃもったいないです。

…冒険にいきましょう」

 

一瞬きょとんとした顔をするタキオン、しかしすぐに笑顔のユキノと顔を合わせると不敵な笑顔を浮かべてテーブルのサングラスを頭にかける。

 

「…ふふふ、そうだねえ。

一週間は長いようで短い、初日からたくさんのデータ…もとい、思い出を作っていこうじゃないか!」

 

「ですねぇ!

あたしもすっごい楽しみにしてたンですから!」

 

つば広の帽子を頭にかぶりながらユキノは首元のカメラを両手で抑える。

 

「いっぱい思い出、残しちゃいますよぉ!」

 

 

 

 

小さい時から時々、変なものを見た。

ほかの人からは見えないらしいそれらは、恐らく「妖怪」と呼ばれるもののたぐい。

 

柏手の音が高く、広く木々の中を響き駆け抜けていく。

淡い栗色をした紙の青年はおよそ、人のものとは思えない文字の記された和紙を口にくわえて細く長い息を吐く。

まるで呼気が形を成したかのように、和紙からするりと飛び出た文字は空をたなびき、青年の前に正座する素焼きの狐面をつけた小人の額に吸い込まれていく。

 

「夏目様、ありがとうございました」

 

一言、お礼を述べて光となって消えゆくものを前に、夏目と呼ばれた青年はばたりと草葉の上に倒れこむ。

 

「…ふん、またお前は私に断りもなく名を返しおって」

 

不満げに鼻息を鳴らしながら、藪をかき分けて一匹の玉のような狸…否、猫が現れる。

頭から背中にかけてきれいに二等分された茶と黒、それ以外は白という三毛柄の縁起のよさそうな色合い。

吊り上がった瞳にクリっとした黒目が覗き、それは冷たく青年を睨みつけた。

 

「…先生、どこにいたんだよ」

 

青年は首を動かすのがやっとといった感じで、顔を先生と呼ばれる猫に向ける。

 

「今日は七辻屋の新作水菓子開発の様子を見にに行くと伝えてあったろうが間抜けめ」

 

「…そうだっけ」

 

(祖母の遺品、打ち負かした妖怪から証として書かせた名前、それを綴じた紙の束。

用いれば名の書かれた妖怪にどのような事でも命令できるという「友人帳」。

それを受け継いだ俺は名を妖怪たちに返す日々を送っている)

 

「いや、そもそも用心棒の先生が守る俺をほっといて菓子を買いに行くのって…。

…この会話、もう何度目だ…?」

 

「フン、まいどまいどぶっ倒れる程疲弊するなら名など返すのはやめればよいのだ。

そうすれば私も子守の回数が減って助かるというものだ。

友人帳の厚みも減らずにすむしな」

 

夏目、夏目貴志という青年はようやく戻り始めた力で、どうにか体を持ち上げて地面に胡坐をかいて座りこむ。

 

「…まあでも、ありがとう、様子を見に来てくれて」

 

「ふん、まだ歩けぬのか?」

 

「いや、大丈夫だ」

 

夏目はそういうと膝に手を当てながらも立ち上がる。

 

「水菓子は?

店長さんの様子はどうだった」

 

「この不機嫌顔を見ろ!

店長の奴め、まだ納得がいかんのか窓辺でうんうんと唸っておったわ。

あれはまだ当分はかかるな」

 

器用に地面に座り込み、腕を組む先生…ニャンコ先生と呼ばれる猫の口元にあんこがついているに気が付いた夏目。

自分の頬に指を指し示してやると。

 

「…でもまた試作品はもらえたみたいだな」

 

「む…」

 

ニャンコ先生は前足で顔を洗うと、口にあんこを引き寄せて嘗めとる。

 

「あんまりがっついてくれるなよ。

あんこ好きな猫なんて聞いたことないからな」

 

「店長のやつも喜んでおるのだから「うぃんうぃん」というやつだ」

 

「なんだよそれ…」

 

夏目は一息入れて立ち上がると、息を細く吐いて服についたゴミを払った。

 

「…よし、じゃあ帰るか」

 

「おう、帰りに七辻屋に寄るぞ」

 

「たらふく食べてきたんじゃないのか…?

まあ、飼い主としては試作品をもらったお礼をしなきゃだもんな」

 

「飼い主だと!

私はお前のペットではないぞ!」

 

「そりゃそうだけど、世間体的にはそう見えるんだから仕方ないだろ。

貰うだけ貰いっぱなしってのはよくない。

次また行くときに買いに行きづらくなっちゃうしな」

 

「それはまずい、行こうすぐ行くぞ夏目!」

 

「はいはい」

 

苦笑を浮かべつつ、ニャンコ先生を肩に乗せ歩き出す夏目。

その様子を、小さな妖怪たちは草葉の陰に隠れながら覗いている。

 

しばらく山道を下り、公道に出てまた少し歩くとそこに七辻屋がある。

ニャンコ先生の注文通りに団子と饅頭を買うと二人はまた歩きだした。

他愛のない話をしながらしばらく歩いた所で、二人は足を止めた。

 

「…先生」

 

「気づいたか」

 

「ああ、圧のようなものを感じる」

 

二人は山肌を見据えて、そこから漏れ出してくるただならぬ雰囲気を感じ取る。

何かが山にいる、それも力の強い何かが。

 

「…うむ、このあたりの妖のモノではない。

それにこれは…妖と呼んでもよいものか」

 

「…悪いモノではない気がするけど」

 

「放っておけ、小物どもも騒いでいないし、どうせ流れの妖が山で寝泊まりしているだけだろう。

それよりも早く家で団子をたべるのが…」

 

「見に行こう先生」

 

言うや否や、夏目は山道を駆けて行く。

その手には七辻屋の袋が握られたままだ。

 

「あ!待て夏目!

行くなら饅頭は置いていけ…!」

 

ニャンコ先生が言い終わる前に、夏目は山腹に消えて行ってしまった。

ニャンコ先生は眉間にしわを寄せた後、ため息を吐きながら脱力する。

 

「まったくお前はいつもいつも…!

おーい!待て!夏目ーッ!」

 

 

藪をかき分けながら山を進む夏目。

すると道すがらに、数匹の妖が顔をのぞかせる。

 

「うわ!人の子!」

 

驚いて引っこもうとする妖の前に立ち、夏目は息を切らしながら問いかける。

 

「すまない!このあたりで強い妖を見かけなかったか!」

 

「つ、強い妖?

…そ、それならさっきあっちに妙なやつが…」

 

「妙なやつ?」

 

「この辺りでは見ない黒い妖だ、図体はあまり大きくないが、まるで風のように森を駆け抜けて…ものすごく速かった!」

 

すると傍の藪から別の妖が顔を出す。

 

「そうだ!

まるで柳のような黒く長い髪をたなびかせて走っていった!

何匹か強いのが食い掛っていったが、それらをみんな弾き飛ばして…」

 

更に更にその横から妖が顔を出す。

 

「女だ!女の妖だったぞ!赤い目を煌めかせて、それは美しい走り姿であった!」

 

「美しいモノか!」「恐ろしい牙をむいておったぞ!」「何を言ってるのだお前ら!」

 

興奮した妖たちがポカポカと殴り合いを始める。

 

「黒い髪の女で…ものすごく速い妖…?」

 

夏目の頭の中で過去に会った妖たちの記憶が反芻される。

しかし、思い当たる限りそのような特徴の者はいない。

 

「…おや、よく見ればあなたは夏目殿では!?」

 

「夏目殿!」「まこと夏目殿じゃ!」「夏目殿が来てくださった!」

 

妖たちが夏目の足元に集まってすり寄っていく。

 

「夏目殿、あの恐ろしい新参者を懲らしめてくだされ!」

 

「お願いし申す!」「お願いします」「夏目様ー!」

 

夏目は妖たちをどかしながら、木々の間を駆けて行く。

強い力を辿りながら笹の間を抜けた先。

 

(…いた!)

 

慌てて夏目は木の後ろに身を隠す。

そしてゆっくりと木の陰からそれの様子を伺うと。

 

「…ぁ」

 

思わず吐息が漏れ出した。

それは確かに木漏れ日を弾く、水面のように輝く美しく長い黒髪をしており、頭の上にはピンとたった獣の耳。

野性味あふれる雰囲気とは異なる、黒を基調にしたきっちりとした装束を身に纏った姿は、まるである種の生き物の頂点のような風格を漂わせている。

そしてそれはゆっくりと振り返り、赤く輝いた瞳を夏目に向けて…。

 

(…まずい!)

 

慌てて木の後ろに身を隠しなおす。

息を殺し、視線の圧が自分から外れるのを待つ。

どれほどの時間がたったか、数秒か数分か。

突然、風が起こる音がする。

 

(…いったか)

 

貯めた息を吐く。

途端に冷たいものが額から流れ出て、零れ日から初夏だということを思い出す。

そして再び正面を見やる。

 

そこには赤い月があった。

 

丸く輝くそれを、両の瞳だと気づくのに数秒かかった。

整った顔つき、しかしそこに生きた人間の生気は感じない、纏う空気も妖のそれだ。

まっすぐ据えられた視線を、正面から受けた夏目の体が凍り付く。

 

「…」

 

それは口を開き、右手を夏目の顔に近づける。

 

(やられる!)

 

瞬時に縛りの解けた夏目は、右手の拳に力を籠める。

振りかぶろうと力を籠め、覚悟をもって目を瞑ると。

 

「オ前ハオレガ見エルノカ?」

 

一言であった。

拳に力を込めたまま、ゆっくりと瞼を開く。

小首をかしげたそれは、赤い瞳をゆっくりと細めると夏目の首筋に鼻を近づける。

 

「同族ノニオイハ、カンジナイ」

 

くすぐったさから逃れるように飛び上がり、夏目はそれと距離を取る。

 

「な、なんだお前は!妖怪か!?」

 

「…オマエ、オレノ質問ニ答エロ」

 

それはゆっくりと立ち上がり、髪の毛を逆立てながら夏目に近づく。

 

「…お前、友人帳に名前がある妖か!?」

 

「ユウジンチヨウ?

シラナイ、オマエ…」

 

その時であった。

笹やぶから飛び出た球体のようなもの、それは空中で回転しながら地面に降り立つと、女妖と夏目の間にたった。

 

「止まれ!この小物…ではないな、中級くらいのやつめ!

これは私の獲物だ、手出しは許さん!」

 

「先生!」

 

女妖はニャンコ先生に目線を下すと、怪訝そうな表情を浮かべて目を細める。

 

「タヌキ?」

 

「狸ではないわ!よくもこのプリティボデーをみて狸だなどといえたな!

その真っ赤な目は飾りか!」

 

「………ネコ?」

 

女妖は腕を組んでしばらく唸りながらニャンコ先生を見つめる。

 

「悩むな!」

 

「…タヌキ!」

 

「悩んだ末に狸に落ち着くな!」

 

「お、落ち着いてニャンコ先生」

 

夏目はニャンコ先生をなだめつつ、再び女妖を見やる。

 

「お前は、このあたりの妖じゃないだろう。

どうしてここに?」

 

女妖は夏目の言葉に聞いて、しばらく考えるそぶりを見せると、静かに目を閉じた。

そして再び目を開けると、そこには先ほどまでたたえられていた赤い輝きを放つ瞳は無く、満月のように金色に輝く瞳があった。

 

「俺は友に連れだってこの地に来た。

友に害のありそうな奴を狩りに山に入ったのだが」

 

夏目はその雰囲気の変わりように驚いた。

まとう空気は数段柔らかくなり、口調も先ほどまでより明確になっている。

 

「お前は私が見えるのだな。

久しぶりだ、あいつ以外に言葉を交わすのは」

 

「…そうか、その友達というのも、妖なのか?」

 

「あやかし…というものが何かはよくわからないが。

俺とあいつは違う、あいつはこの世を生きている」

 

「人間、なのか?」

 

「そうだ、ウマ娘だ」

 

「ウマ…娘」

 

「俺のことは…そうだな」

 

女妖はにやりと不敵に笑うと優雅にお辞儀をし、黒髪を空気に躍らせながら夏目の目をまっすぐに見据えて言った。

 

「『ミサ』…そう呼んでくれ」

 




思い付きで書いたので更新は不定期です。
最後まで駆け抜けていけたらうれしいです。
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