笑うしかないよね。
拝啓、姉さん、そして今は亡き兄さんへ。
元気にしておりますでしょうか?
僕はなんだかんだ元気に高校生活を謳歌しています。
そして僕は今………
「…ようやくお目覚めになられたようですね、先生」
頭の上に変な輪っかが浮いている謎の女性とご対面しています。
僕には年の離れた兄と姉がいる。
兄の名は霧彦。
そして僕はその弟、須藤
僕たちは風都という街に住む兄弟だった。
風都は一日中風の吹く街。
小さな幸せも大きな不幸も風が運んできてくれる。
そして風都では『ガイアメモリ』*3なる道具が流通している。
そんな街で産まれたのが、僕たち兄弟だ。
自分で言うのもなんだが、僕たち兄弟は結構仲が良かった方だと思っている。
喧嘩をしたこともないし、兄弟の中で誰かが何かを成し遂げた時には全員で喜んだものだ。
特に兄さんが小学3年生の時に風都のマスコットキャラクターを作るためのコンクールで描いた『風都くん』が入賞した時は兄弟全員で泣きあったものだ。
ちなみに、そのコンクールで誕生した風都くんは今も風都のご当地キャラクターとして街の人たちに愛されている。
しかし、時間が経つにつれて二人との関わりは少なくなっていった。
兄さんは仕事で忙しく、姉さんは風都の外の大学に進学したからだ。
とはいえメッセージを通じてやり取りはしていたので、仲の良さは健在だった。
そしてある日、兄さんから『仕事が更に忙しくなるから連絡が取れなくなる。心配はしなくていい』というメッセージが届いた。
このメッセージを真に受けた僕は、兄さんの仕事の邪魔になるかもしれないという理由があったというのもあり、兄さんにメッセージを送らなくなった。
それから数ヶ月後、兄さんはこの世を去った。
兄さんの死は、新聞で大々的に公に晒された。
兄さんは風都でも有力の一家である『園崎』*4の人と結婚したのもあり、情報が広まるのは早かった。
正直、強いショックを受けた。
あれほどまでに強く、聡明で、風都を愛していた人が……家族が、死んだ。
あまりの衝撃に、持っていたコップを落としてしまい割ってしまった。
そしてその日から姉さんとも連絡が取れなくなってしまった。
大学生活がとてつもなく忙しくなったのかもしれない。
死んだという線は考えていない。風都でそういう事件が起こったならば、すぐにでも噂が出回る。
ただ…一抹の不安はあった。
結局、兄さんが死んで姉さんとも連絡を取ることが出来なくなってしまった。
それからは何事もなく高校生活を過ごしていた。
折角の休日なので日々の疲れを癒そうと風都の外に足を運ぶというのも悪くないと考え、電車に乗っていた。*5
そして、今に至るというわけだ。
本当に何が起こっている?
「…少々待っていてくださいと言いましたのに…お疲れだったみたいですね。なかなか起きないほど熟睡されるとは…」
「え…と…?」
「…夢でも見られていたようですね。ちゃんと目を覚まして、集中してください」
「あ…え…?」
夢、という言葉に僕は反応した。
そういえば自分はなにか不思議な夢を見ていたような…?と思考を巡らしたがその内容を思い出すことが出来ない。
「もう一度、改めて今の状況をお伝えします」
そうして耳の尖った女性はピシッと姿勢を正して自己紹介を行った。
「私は
「キヴォトス…?」
「そして…あなたは恐らく、私たちがここに呼び出した先生のようですが」
「…先生?というか…『ようですが』?」
「あぁ…推測形でお話したのは、私も先生がここに来た経緯を詳しく知らないからです」
事情を詳しく知らないだって?
なんだそれは?こんなことをあまりに考えたくは無いのだが…少しふざけているのでは無いか?
でも彼女からの言葉からは謎の信憑性を感じる。
しかし、恐らく彼女は人違いをしている。
それを正すためにも僕は彼女に向かって
「ええと…そこまで話してもらって本当に申し訳ないが…どなたかと勘違いされているのでは?僕は先生じゃない。そもそもまだ高校二年生…つまり成人すらしていない」
そう言った。
すると彼女は、
「…………………………………は?」
と唖然とした表情を見せた。
「え!?いや…はい!?先生じゃない!?いや…でも…確かにこの資料にはあなたの写真が…!」
「写真?」
彼女は手に持っていた白いファイルに貼り付けられている履歴書のような紙を僕に見せてくれた。
確かにその紙には僕の本名、顔写真、電話番号、その他諸々の個人情報が記載されていた。
しかし、その中に何故か年齢は書かれていなかった。
「これ!あなたですよね!?」
「はい…どうやらそのようで…」
「なのに…子ども!?じゃあそのスーツは!?」
「え?スーツ?」
ここで彼女に言われて初めて気がついたのだが…僕が着ているのは社会人の大人が来ているような立派なスーツだった。
「…なんだこれ?」
「なぜあなたも分からないのですか!?」
「そんな事を聞かれても困る。本当に買った覚えがないんだ」
「〜〜〜〜〜ッッッ!!ああ!!もう!!」
するといきなり彼女に右腕をガシッと掴まれた。
力が入りすぎているのか、少々痛みを感じる。
「えっ!?どうしたんだ一体!?」
「とにかく着いてきてください!もうこの際あなたのような子どもでも構いません!自体は一刻を争うのです!!」
「は!?事態!?一刻を争う!?何の話だい!?」
「いいから着いてきてください!」
結局、僕は彼女の覇気に押されて半ば強制的にエレベーターに乗ることになった。
そして下の階に向かう途中に色々な説明を受けた。
ここ、キヴォトスは数千もの学園がそれぞれの自治区をもつ巨大な学園都市であること。
連邦生徒会長なる人が僕を先生に推薦したということ。
その他諸々の説明を受けた後、目的の階層に着いた。
エレベーターから出ると、多くの人たちが何やらざわついている様子。
パッと見ただけではあるが…そこにいる人たちは全員女性のようだ…。
キヴォトスでは男性はごく僅かなのだろうか?
「いた!やっと見つけたわ!代行!」
そんな大声がレセプションルームに響き渡った。
声の主は菫色の髪をツーサイドアップにした女子高校生だった。
そしてリンさんと同様、頭の上に輪っかが浮いている。
「うん…?隣にいるのは…男子生徒…?」
僕に気づいた女子生徒はリンさんに疑問を投げかけるが、返事を返す間もなく何人も生徒が集まってくる。
「首席行政官、お待ちしておりました」
「連邦生徒会長に逢いに来ました。風紀委員長が現在の状況について納得のいく説明を求めています」
「私もです。連邦生徒会長に会わせて下さい」
なんだ、全員連邦生徒会長さんに会いに来たのか。
と言うよりも…リンさんのことを『首席行政官』と言っていたな…。
もしかすると、彼女はかなり上の立場の人なのかもしれない。
「あぁ…面倒な人たちに捕まってしまいましたね…。こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、そしてその他暇を持て余している皆さん」
リンさんは集まって生徒たちに対して少々挑発的な言葉をなげかけた。
特に暇を持て余している、の部分は強調している始末だ。
これは相当ストレス溜まってるんだろうな。
心中お察しする。
「こんな暇そ……大事な方々がここを訪ねた理由は、よく分かっています。今学園都市に起きている混乱の責任を問うため…でしょう?」
「そこまで分かっているなら何とかしなさいよ!連坊生徒会でしょう!数千もの学園自治区が混乱に陥っているのよ!?この前なんかうちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!!」
「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱出したという情報もありました」
「スケバンのような不良たちが登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も最近急激に高くなっていて…治安の維持が難しくなってきています」
「戦車やヘリコプターなどの出処不明の武器の不法流通も2000%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障をきたしてしまいます」
……ちょっと待て。
学校に風力発電所だと?そんなものが設備されているのか?
一日中風が吹いている風都でもそんなものは設備されていないぞ?
スケバンのような不良たちが生徒を襲う?
襲うってなんだ?そして治安が悪くなるレベルまでそれが頻発しているのか?
あと最後の戦車やヘリコプターとは?
と言うよりも…武器の不法流出だと?
風都ではガイアメモリが流通していたが…流石に銃器の流出は聞いたことはない。
本当にどうなっているんだ、キヴォトスは…?
「というか!この緊急時に連邦生徒会長はなにをしているの!?何週間も姿を見せないし…今すぐ会わせて!」
「…連邦生徒会長は…現在行方不明です」
「「「「!?」」」」
リンさんの言葉に四人の女子生徒たちは酷く驚いた様子を見せる。
これまでの言葉を聞くに、どうやら連邦生徒会長さんは僕が思っているよりもずっともっとすごい方なのだろう。
「結論から申し上げますと…『サンクトゥムタワー』の最終管理者が居なくなった為に今の連邦生徒会は行政制御権を失っている状態なんです。認証を迂回できる方法を探していましたが…先程までそのような方法は見つかりませんでした」
「先程まで?ということは、今は見つかっているのですか?」
「はい。ここにいる先生こそが、フィクサーになってくれる………はずなんです」
リンさんの言葉を聞いた四人の女子生徒たちは僕の方へと目を向けた。
その目からは、驚愕が見て取れる。
「ちょっと待って!この男子生徒が先生!?」
「キヴォトスの外から来た人だとお見受けしますが…」
「はい、こちらの方はこれからキヴォトスの先生として働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した方です」
「行方不明になった連邦生徒会長が指名した人!?しかもそれが成人すらしていない男子生徒!?益々こんがらがってきたじゃないの…」
まずい。僕が全く発言しないから僕を先生にするという前提で話が進んできてしまっている。
…足掻いてしまっても仕方がないか、もうどうにでもなれだ。
軽く自己紹介でもしておこう。
「あ〜えと…初めまして。僕は須藤 白夜という者だ。齢は17。よろしく」
「あ、こんにちは先生…私はミレニアムサイエンススクールの…って!今は挨拶なんてどうでも良くて…!!」
「…そのうるさい方々は忘れていただいても結構ですよ」
「誰がうるさいですって!?わ!私は
「トリニティ総合学園・正義実現委員会所属、
「同じくトリニティ総合学園・自警団所属の
「ゲヘナ学園風紀委員会所属の
「あぁ、よろしく」
「…先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の顧問担当としてこちらに来ることになりました。そしてその部活の名前は…連邦捜査部『シャーレ』です」
また不可解なワードが聞こえてきた。
もう正直、頭がパンクしそうだ。
こういう時、大人だったら冷静に対処しているのだろうか。
兄さんや姉さんのような人ならば、どうするのだろうか。
「これは単なる部活ではなく、言わば一種の超法的措置機関。連邦捜査のためにキヴォトスに存在する全ての学園の生徒たちを制限なく加入することすら可能です。加えて、各学園の自治区で制限なしに戦闘活動を行うことが出来ます」
「…とてつもなく要約してしまうが…『キヴォトスにおいて割と好き勝手できる組織』という解釈で構わないかい?」
「今はその程度の解釈で構いません。あとからゆっくり理解して貰いますので」
「そうか…ところで連邦生徒会長さんはなぜそれだけの権限を持った機関を設立しようと思ったんだ?」
「それは私たちにも分かりません。ですが、今は置いておきましょう。まずはシャーレの部室に向かいます。ここから約30kmほど離れた外郭地区にあります。今はほとんど何もない建物ではありますが…連邦生徒会長の命令でそこの地下に『とある物』を持ち込んでいます。まずはそこにお連れします。モモカ?シャーレの部室に直行するためのヘリが必要なんだけど…」
リンさんは通信機らしきものを起動し、ホログラムを映し出す。
映ったのは桃色の髪を持つ女の子だった。
そしてサラッと言ってたけどヘリを所持しているようだな。
もう突っ込むのはやめておこう。疲れるだけだ。
『あ〜…シャーレの部室ね?別にいいけど…そこ今凄いことになってるよ?』
「凄いこと?」
『矯正局を脱獄した生徒たちが騒ぎを起こしてる。現在進行形で戦場と化してるよ』
「…………え?」
『連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に周りを焼け野原にしてるみたいなの。どっかからは分からないけど…巡航戦車まで手に入れてる。シャーレの建物を占拠するつもり。まるでそこに何か大事なものが隠されているかのようにね』
「……………………………」
モモカという女子が言葉を発する度にリンさんの機嫌がどんどん下がっていくことがわかる。
額に青い筋が浮かび上がっているレベルだ。
正直、美人なだけに恐怖を覚える。
『…ま、とっくの昔から荒れた場所なんだから別にいいんじゃない?大したことじゃ………あ、デリバリー来た。また連絡するね!』
その言葉が終わるとモモカさんはホログラムを切った。
ここまでのやり取りで分かったが、彼女はかなり自由奔放な性格なのだろう。
そして状況を聞いたリンさんはプルプルと体を震わせている。
「………深呼吸でもするかい?」
「………ご心配には及びません」
「…本当に?強がらなくても構わないよ?」
「べ…別に強がっている訳では………あ」
すると彼女はにぃと笑みを浮かべた。
彼女の視線の先には、先程やってきた四人の女子生徒がいる。
「…?」
「え?代行?何?急に私たちの方を見て…」
彼女たちもいきなり向けられた視線にたじろいでいる。
するとリンさんは笑顔のまま僕の方に向き直った。
…何となく彼女の考えがわかってしまった。
「問題が発生してしまいましたが…直ぐに向かいましょう」
「…さっき不良生徒たちが騒動を起こしてるって…」
「大丈夫です。ちょうどここに心強い暇そうな方々がいるので」
「「「「…え!?」」」」
やっぱりか。
彼女たちを巻き添えにするつもりだ。
この人考えることが結構悪どいな…さっき詰め寄られたこと根にもっているのだろう。
「えぇ…?私たちも行くの?」
「まぁ…大体察しはついていましたが…はぁ…」
「…まさか戦闘行為になるだなんて…」
「…ここまでは想定できていませんでした…」
正直彼女たちが可愛そ…………………
………ちょっと待てよ?
「では早速…」
「待った」
「え?どうかしましたか?先生?」
「…僕も行くのかい?」
「当たり前じゃないですか」
「…不良生徒たちが騒動を起こしている場所に?この少人数で?恐らく銃撃戦が勃発するのに?巡航戦車まであるのにも関わらず?」
「…?はい、そうですが…」
「あ、そういえば先生はキヴォトスの外から来たんですよね?」
「え?あぁ…そうだが…」
「でしたら絶対に前に出すぎないようにしてくださいね。外の人間が銃弾をモロに受けてしまえば、絶命は免れませんから」
なるほど。
多分今日が僕の命日だな。
書く時間くれないかなぁ、遺書の。
結局抵抗する間もなく現場に到着してしまった。
ちなみにヘリでの移動はリスクが少々高いということなので、陸路を選択した。
これならヘリよりも隠密に行動することが出来る。
現在は僕、ユウカさん、ハスミさん、チナツさん、スズミさんの五人は大きな車の陰に隠れている。
そしてその向こう側では…
「オラオラァ!!テメーらもっと暴れやがれぇ!!」
「その程度で連邦生徒会の野郎どもに一泡吹かせるつもりかぁ!?」
本物の戦場が存在していた。
マシンガン、ライフル、ショットガンなどの銃火器の音や爆発音で鼓膜が支配される。
そしてそれ以上に怖いことが…時々流れ弾が僕らの方向へと向かってくることだ。
確実に、死が近づいてきている。
そう思うと上手く呼吸ができない。手も震えてきた。背中には変な汗がにじみ出ていることがよくわかる。
「………」
「…先生?大丈夫ですか…?」
「これが君には大丈夫そうに見えるのかい…?」
「…無理もありません。今まで銃撃戦とは縁のない場所で生きてきたのですから…」
「本当にそうだよ…。本当になんでこんなことに…!なんで僕が…!!」
向ける相手もいないにも関わらず僕は悪態をつき始めた。
今日は厄日だ。そうに違いない。
いきなり風都とは違う謎の場所に転移して、そこが風都にも負けず劣らずの治安の悪さで、頭の上に謎の輪っかをつけている得体の知れない人たちに会って、いきなり銃撃戦に巻き込まれて。
悲劇だ。散々だ。あんまりだ。一体僕が何をしたって言うんだ。
大人だってこの状況を打破できるわけが無い。
出来たらその人は
助けて、兄さん。
助けて、姉さん。
助けて、仮面ライダー。
「…心中お察ししますが…今は前に進むしかありません。先程言った通りに行きましょう。ユウカさんと私が前衛を、ハスミさんとチナツさんが後衛を担当して前進します。白夜先生はご自身の安全を第一にしてください」
「あぁ……うん………」
スズミさんの指示に従い、壊れた車などの陰に隠れながら前進。
しかし、それも長くは続かない。
「これより接敵します!」
「!」
前衛にいるユウカの声が聞こえる。
次の瞬間、先程とは比べ物にならないほどの銃声が耳に入ってきた。
「〜〜〜〜〜ッ!??!」
あまりの音の大きさ、数に身がすくむ。
相も変わらず頭が恐怖で埋め尽くされる。
音の中には味方がいるということはわかっているのだが、目の前で銃火器が用いられているという現実があまりにも衝撃的すぎてそんなのは気休めにもならない。
しかしどうやら状況自体は良いものらしく、チラチラと遮蔽物の陰に隠れながら前に目を向けると不良たちが全員倒れていた。
「ふぅ…ひとまずは倒せましたね。先生、怪我はありませんか?」
「ないよ……というより、今更ではあるんだけれども…発砲して良かったのかい?
『キヴォトス人の体はヘイローにより、先生が暮らしている世界の人間よりもずっと丈夫なんです』
「ヘイロー?」
『私たちの頭の上にある輪の名称です』
リンさんの声を通信機越しに聴きながら目の前にいる四人の頭の上にある輪を見つめた。
これヘイローって言うのか。
これがあることで人間とは思えないほどの耐久力を得ているのか…全くもって分からない。
『今はそれより、先生。今回の騒動の発端となる人物が判明しました。
話を聞くにかなり物騒な人物だ。
停学になった理由は知らないが、矯正局という所にいたのならば連邦生徒会への怨恨の一つや二つ抱えていてもおかしくはない。
風都にも似たような動機で起こった事件を報道でいくつも見た事がある。
こういう所は僕の元いた世界もキヴォトスも変わらないのか。
そんなことを考えていた矢先、
「………うん?」
ふと近くにある建物の屋上を見てみると、一人の少女が視界に入った。
黒い制服を身にまとい、お祭りによくあるような狐のお面を被った少女。
「あの子…まさか」
「え?………!!孤坂 ワカモ!!」
ハスミさんが名を叫ぶと同時に、ワカモさんは僕たちに向けて発砲。
僕はスズミさんに思いっきり突き飛ばされたので近くにあった車を遮蔽物にすることで銃弾から身を守ることに成功した。
というか、まさか騒ぎの元凶にこんなにも早く接敵するとは思わなかった。
「…?孤坂 ワカモ…撤退しました」
「え?」
確かに前を見てみると、彼女の姿が消えていた。
これは僕たちには敵わないと判断したのか、それとも僕たちは始末するに値しないというのか。
どちらにせよ戦闘が避けられるならば儲け物だ。
「いなくなったのなら好都合だ。今のうちに早く前進…」
「先生!危ない!」
ユウカさんが僕に対して叫んでいる。
次の瞬間、激しい衝撃が僕たちを襲った。
同時に砂煙が巻き起こる。
何が起こったのか全くわからなかった。
あまりにも一瞬の出来事だからか、状況がうまく読み込めない。
だが僕たちを襲った衝撃の正体は砂煙が晴れると同時に理解できた。
「ははは…確かにあるとは聞いてはいたけど…」
目の前の光景に乾いた笑いが出てくる…いや、もうこれしか出てこない。
激しい衝撃を起こした元凶は、巡航戦車だった。
衝撃の正体は、あれの砲撃というわけか。
ここで衝撃の割に傷がついていないことに気づく。
ユウカさんがギリギリでシールドを張ってくれたようだ。
「あれは…!クルセイダー1型…!私の学園の制式戦車と同じ型です!」
「不法に流通されたものに違いないわ!PMCに流れたものを不良たちが買い入れたのかも!」
「えと…つまり?」
「ガラクタってことです!あれならどれだけ壊しても構いません!」
あの戦車、ガラクタ扱いされているのか…。
正直、戦車の型とか故障しているのかなんて全くもって分からない。
ミリタリーマニアならばこういうのは一瞬で理解できるのだろうか。
「あれをどうにかすれば部室は目前…!」
「でも…数が…!」
見れば戦車は二台あった。
「確かに数は聞いてなかったけれども!二台は流石にこの人数じゃキツい…!!」
「一台だけならまだしも…!」
「………」
今更だが、彼女たちは、怖くないのだろうか。
最低でも戦車を目の前にしても臆してはいない。
これがキヴォトスの日常茶飯事と言われれば押し黙るしかないが、どこか恥ずかしさを感じる。
………なにか手伝えることは無いだろうか…。
そう考えて自分の服を手でまさぐってみる。
すると、何かに触れた。
内ポケットの中に、何かがある。
「…あ…まさか………」
心当たりが、たった一つだけある。
スーツのボタンを外し、内ポケットの中にあるものを掴む。
「…これ……なんで……」
入っていたのは、『N』と書かれた金色のガイアメモリだった。
兄さんが亡くなって数ヶ月後、風都で大事件が起こった。
風都タワーがとあるテロ組織*6にジャックされたのだ。
当時僕は風都の外に旅行で出かけていたのでテレビのニュースでその事を知った。
結果としてその事件は仮面ライダーたちによって何とか解決された。
僕が旅行から帰ってきたのはその二日後のこと。
家に帰ると机の上に『N』と書かれた金色のガイアメモリ*7が置かれていたのだ。
ふと見ると机の近くの窓ガラスが一枚割れていた。
焦りと不安を覚えながらも、冷静に捨てようとしたのだが安易に捨てては僕がガイアメモリを購入したと疑われてしまうかもしれない。
なので処理を後回しにしていたのだ。
ガイアメモリは所持しているだけでも犯罪…悪いことだ。
でもこのメモリとの出会いはどこか…運命のようなものを感じた。
「先生!!早く隠れて……?先生…?」
「………」
ここで使うかどうか躊躇してしまうのは自分の悪い癖だ。
でもこのメモリを使って生き延びることが…彼女たちの力になれるなら…。
「…こうなったら…もうヤケだ…!やるだけやってやる…!!」
ボタンを押し、音声が聞こえると共にメモリが勝手に宙へと浮かび上がる。
瞬間、お腹の辺りがムズムズとした感覚に襲われた。
スーツをまくり上げて、自分のお腹…正確にはヘソより少し上の位置を見る。
そこにはUSBメモリを刺す部分のような紋様が浮かび上がっていた。
浮かび上がったメモリは、お腹部分に現れた謎の紋様へと吸い込まれていく。
瞬間、自身の体に変化が現れた。
腕や足は青い鎧のようなものへと変貌していき、右手には剣が出現する。
「…これで正真正銘…怪物の仲間入りか」
そう自嘲気味に呟きながらも、目の前の不良たちに剣を向けながら立ち上がる。
今この時が、僕が怪物として覚醒した瞬間だった。
調子に乗ってかなり長めに書いてしまった…。
次回から短く感じてしまうかもしれない。(焦り)
感想やご意見・指摘などお待ちしております。
間違ったところがあったらできる限り早く直します。
不定期更新ですが読んでくれたら幸いです!