暗い、それこそ与幸吉が生きている地下室と比べてもなお暗い海の底で、二人の人物が向かい合って座っていた。
1人は血塗れで、1人は肌が爛れている。
濁った目を向け合い、先に口を開いたのは血塗れの男だった。
「はじめまして!!!」
「…………えぇ」
困惑。当然だが、初対面の人間に明るく接されると困惑してしまうことぐらい誰にでもあるだろう。それが血塗れの濁った目をした暫定自分の身体を今から乗っ取ろうとして居る人間ならなおさらに。
「俺は君の味方だ。今回は……君との共生を提案したい」
ファーストインプレッションとは程遠い理性的な声を皮切りに交渉が始まる。暗いだけの空間に二つの椅子が用意され、肌が爛れたままであるにも関わらず痛みや不自由がないことに違和感を覚えた幸吉は、仕方なく彼の命を繋ぐ棺桶から出て椅子に座った。
「…………共生、とは?」
「そのまま。羂索とのやりとりは覚えてるだろ? 君はアレに呪物を飲まされて、本来なら殺されるところだった。その……俺に乗っ取られる形で」
「理解している。そのへんの話は呪術の蔵書で見たからな。たしか……発狂して死ぬか肉体を乗っ取られるか檻になるかの三択だったな」
「選べるものじゃないんだけどな。今回はそのどれでもない。で、とりあえず共生、という形になった場合の君のメリットの話からしよう」
「……」
胡散臭い、とは正直思ってしまう幸吉だが、今までのたくさんの呪術界の闇に口を閉じてきた彼の精神がそれを表に出させない……などと平静を保っていられたのはここまでだった。
◆
「君の天与呪縛のメリットだけを残して引き受けられる」
その一言と共にメカ丸の表情は激変した。
もう凄い、騙そうとするのなら殺すって感じの勢いと共にコチラへと詰め寄る推し(さすがに包帯から覗く爛れた肌を見て原作通りだみたいな不謹慎なことは微塵も思わない)にタジタジしつつも、ギリギリ強キャラムーブを維持しつつ話を続ける。
てかそういやここは俺の生得領域だよ。めちゃくちゃ陰気だよな。まぁ呪術って時点でそんなもんなんだろうけど。
「…………どうやって?」
「受肉による肉体の変化がある。それで本来なら君の魂は封じられるが、その肯定を消す。つまり……肉体の主導権と俺の術式が君に渡って、俺は君に助言と頼み事と協力をする」
肉体はともかく顔が俺のものになりそうなのが申し訳ない所だ。真人になおしてもらったメカ丸の素顔くっそイケメンだもんな。アレが包帯と爛れた肌に隠れてたとか……勿体ない。
「本気か……? 縛りを結べるのか? それを信じる根拠は?」
信じがたい、という顔でメカ丸が並べ立ててくる。おうおうおう任せなさい任せなさい。お兄さんが完璧に説明してあげようじゃないか。
「縛りは具体的な話の後だな。ただ……天与呪縛故に、もしかすると呪縛が残る可能性がある」
「!」
またそれか、と失望したような表情を浮かべた彼に、俺から言える励ましなどない。彼は何度も希望と絶望を見てきたのだろうから。だが……俺はどうあっても彼の希望になってみせる。
「だから、もしそうなった場合は俺は君の身体を出ていく。できるだけ君の呪いを奪って出ていくつもりだが……そのへんは保証出来かねるな」
「……羂索とやらはお前が俺を望んだような言い方をしていた。なぜ、……なぜ俺にこんな話を?」
焦りで早足で話してしまった自覚はある。説明責任を果たさねばならないと深呼吸で思考を整えて、俺はメカ丸に俺の話をすることにした。
「なーんも話せない。これは俺側の天与呪縛だからな。話せないところまで含めて。だがメカ丸……アンタの身体をなんとか治そうと俺はここにいる。信じてくれ」
以上だ!!!!
だってなんも話せない!!!
いやブラフがどうとかそういうかっこいいやりとりしたかったよ俺も。けど駄目なんだよそもそも俺嘘つくのあんま得意じゃないから。羂索に呪物化される直前の会話は向こうの言葉ガン無視でこっちの用件だけ話したけど今回はそういう訳にもいかないし。
「………………」
あっけに取られたみたいな表情正直ちょっと面白いな。ニヤニヤ笑ってたら殴られた。なんでや。
「ニヤニヤ笑っていたからだ」
「なる……ほど……!」
天才かよ。
とりあえず話せることはこの6つ。
・君を助けに来た
・俺は君の味方で羂索は君の敵
・肉体をあげる。術式も。
・治せるかはやってみないと分からない
・治せなかった場合俺は消える
・こっちの事情は深くは話せないが俺は浅倉義徳。過去の人物でメカ丸の天与呪縛を消すために羂索と取り引きして呪物化した。
ごめんな。説明パートってめんどくさいんだよ。コレで納得してくれ。
で、コレが嘘じゃないって縛りを結んだことでメカ丸……幸吉と呼ぶべきかもしれない……は困惑に溢れつつも俺を一旦信用することにしたらしい。話がはやくてありがたい!!説明に1時間半かかった!!
「……俺に都合が良すぎる。それと……」
「?」
「……………なんでもない。なんて呼べば良い?」
「なんでも良……いや!良くない!!!良くないよ!!!」
皆はア◯アンマンを見たことがあるか!?
俺あれのAIが戦闘補助してくれるやつめちゃくちゃ好きだったんだよな。まぁ俺は戦闘補助AIじゃないけど多分傀儡操作とかは手伝えると思うしこれから相棒としてやっていくなら(彼はそこまでは思っていないだろうけど)やっぱかっこいい名前が必要だ!! ちな俺にネーミングセンスはない!
「浅倉義徳……よしのり……あさくら……YA……」
「アーーーー、ちなみに俺はメカ丸で頼む」
「おーけー、俺はね〜」
分かる分かるみたいな顔された。そういえばメカ丸ってロボットアニメから取ったんだよな。補助AIの魅力はメカ丸にも伝わるのか……!!!
「…………そうだな。いや、そうだ」
「どうかしたか?」
一緒に考えてくれていたらしいメカ丸が思いついたらしい。めっちゃ良い人だ。
「俺は幸吉を名乗る。お前が究極メカ丸というのはどうだ?」
おぉ……おぉ……?
それ俺が傀儡そのものにならないか??という疑問はともかく、行くぞメカ丸!とは言われたい。超言われたい。これ……採用だな。最高。
さっきまで幸吉のことをメカ丸とか呼んでいた手前混乱するかもしれないが、必要なやり取りだったんだ。俺がメカ丸で推しが幸吉。これで行くからよろしく頼む。
「それ採用で。これから……いや、上手くいったらになるが……よろしくな」
「あぁ。信じるぞ」
「任せてくれ」
話が横道に逸れすぎた。恐らく生得領域内のことは羂索には伝わっていないはずだし、俺が一旦アレの応対をするという取り決めを終えた後……生得領域から現実へと意識を戻した。
◆
つい先程まで話していた男……浅倉義徳改めメカ丸が羂索とやらに話をつけに戻って数分。
用件が全て終われば幸吉と代わるとのことだが……そもそもなぜ自分は彼を信じることにしたのだろうか?という疑問が残っている。
「…………やはり」
十年以上もの期間を人間など信じるものではないと考え続けて生きてきたが、ここ半年以内の出来事は自分にとって思っていたよりもさらに大きかったらしい。
まだ確定ではない。希望に浸されすぎては後が怖い。
だが、彼のこともまた信じてみたいと思ったのだ。
幸吉は目を閉じて、三輪霞の横に並んで歩く自分の姿を想像した。
メカ丸の元の肉体がベースになるというのは不安なものだが、それがたとえ醜い化け物のような外見をしていてもなんの文句もないのは間違いない。辛く苦しい生活から解放され、普通に生きていけるのかもしれないのだ。
「本当に?」
期待に胸が高鳴る。
不安で胸が押しつぶされそうになる。
一分が無限の時間にも感じられる。
瞼の裏に京都校の仲間たちの笑顔が浮かび、最後にメカ丸の顔が浮かんだ。
彼は幸吉の天与呪縛を解けなければそのまま彼が消えると言った。
恐らく幸吉の迷惑にならないようにとかそんなことを考えていたのだろうことが、半年間とびきり優しい女の子と共に過ごしてきた幸吉にはその配慮が透けて見えていた。
「呪物となった存在は受肉体から引き離されると死ぬ。……それぐらいは俺も知っているぞ」
……その優しさを見たからこそ彼を信じることにした部分もあるのだが。
手をぐっと握り、開いた。
痛みはない。
「そもそも天与呪縛の解呪などなくともお前に死んでほしいとは思わん」
これからの彼との生活を想像し、これからの愛しい女の子との生活を想像し、これからの大切な仲間たちとの人生を想像し、幸吉はギュッと自分の身体を抱き締めた。
コレ以降の更新は今月中に頑張ります以外に言えることはないです!!!
よろしくお願いします!!!