育成ストーリーと少し違いがありますが大差ないので見逃してください
こんなやり取りあったらいいなで作りました
…今日もダメか
深夜3時。先頭民族も屋上で天体観測する者も寝息を立ているような時間。
自分にやかましく突っかかってくるルームメイトも今は静かに寝息を立てている。
そんな中で1人ウオッカはゆっくりと重い頭と身体をベッドから起こした。
外はまだ風が冷たく、薄手のシャツでは眠るのには少し肌寒い。
しかし長袖や厚手の寝巻きではどうにも身体が暑くなり寝苦しい。
余計なことを考えまいと目を閉じ、深い呼吸を繰り返して落ち着こうにも何時になっても妙に頭と目はさえたまま。
落ちつく体勢を整えようと寝返りを繰り返せば余計に意識は落ち着かない。
ここ最近はそんな寝苦しい夜を送ることが増えていた。
そんな状況を改善しようといくつもの策を試してみた。
風呂に長く入る、ストレッチ、デジタルデトックス、etc、etc…
何をしても寝つきは良くならない。最近は相棒であるトレーナーにも心配するような声をかけられた。
「勝てばちったあましになるのかね」
そんなことをひとりごちながら窓を開ける。
さっきまで雨が降っていたのだろうか。曇り空の外からいつもより湿った、まとわりつくような風が顔にあたる。
いつもならすぐに窓を閉じてしまうが、寝不足で火照った頭にはちょうど良い冷気だった。
日本ダービーからもうすぐ1年になろうか。ウオッカは以前より自分自身について考えることが多くなった。
ウマ娘を辞めてもいいとまで思えた日本ダービーの興奮。その勢いのまま乗り込んだヨーロッパへの海外挑戦、からの負傷。
日本に戻ってからもいまいち波に乗り切れないまま1着は遠のく。
今度はドバイに挑戦するも最後にかわされ4着。あれは堪えた。
「前ならあそこでグーッと行けてたのかな…でもそうなるためには中盤、序盤もか。もうちょっとなあ~」
毎晩そんなことばかり考えてしまう。そこから気付けば朝になっている。
反省は大事だ。相棒とレースの振り返りは欠かさずしたし、今の練習メニューもそこから得た課題を克服しつつ自分の持ち味である直線の爆発力・切れ味を活かすためのものになっている。
でも今自分がしているのは反省ではなく後悔。無駄なことを考えているのは分かっている。
でもこの気持ちの整理をつけるにはどうすればいい。
堂々巡りな思考を重ねてまた時間が過ぎていく。
前はこんなに悩むことはなかった。負けたとしてもスパッと気持ちに整理をつけ、切り替えができた。
「…外にでも出てみっか?」
悩みと眠気でぐるぐる回る頭の中にでてきたその考えは、いつもなら一瞬で消え失せる思いつきであった。
しかしこの時ウオッカにとっては、この状況を打破するための一手として最善と思えたのだ。
そうと決まれば即行動。疲れた脳みそは単純だ。
上着を羽織り、ルームメイトや周囲を起こさぬよう忍び足で外に出る。
─ ─ ─ ─ ─ ─
「おお~…なんかイイな」
何時も見慣れた光景は、闇とわずかな街灯によって異なる雰囲気になっていた。
「新鮮で、澄んでいて、オレしかいない、か」
時間が止まったようでも、ざわめく木々の葉や遠くで聞こえるエンジン音から確かに時間が流れている…。
首元を通り過ぎる冷気を感じながら、さっきよりもクリアになった頭でそんな詩的表現、謎にカッコイイんじゃね?なんてことを考えつつあてもなくぶらつく。
自分の何が原因でこうなっているのか。
怪我が治りきっていない? いいや検査でもタイムでも問題はない
作戦を実行できなかった? いいや自分の形に持ち込むことはできていた
宝塚でも、有馬記念でも、ドバイでも多くの人が自分に期待をしてくれていた。
それにこたえることができていない心苦しさはある。
こんな状況は何時まで続くのか、なにか分かれば一気に解決する…
そんな根拠もない期待を抱えつつまた思考がドロドロと深みにはまっていく。
ふいに白い光が視界の端から近づいてきた。
「なぁにしてんの?」
「あ、げぇ…」
相棒だった。トレセン学園に通うウマ娘にとってトゥインクルシリーズを共に歩む重要なパートナーであるトレーナー。入学してひたすらにレースを挑む自分を新人ながらも的確な指導によって説得し、レースに対する考えを改めさせてくれたトレーナーその人が今自分に声をかけてきた。
こんな時間に出会うなんて微塵も思わなかった。
今までの思考は吹っ飛び、深夜に外出しているという行為に対する気まずさが頭を支配する。
「えーと、そのぉ、月がきれいですね?」
「はい?」
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
グラウンド近くのベンチに座るとトレーナーは温かい缶コーヒーを渡してきた。
微糖でも一口飲めば身体がほぐれていくようだった。
なぜこの時間に学園に居るのかと聞くと、「散歩」だという。
「…」
「…」
トレーナーが隣に座るが、どちらも口は重いまま時間だけが過ぎていく。
ウオッカは耐えきれずぽつりぽつりと理由を話すことにした。
「実はかくかくしかじかで…」
「うまうまうみゃうみゃというわけか…出会ったのが他の人だったらどうするつもりだったのさ」
何も考えてなかったなんて言えない。ただ頭をスッキリさせたかっただけなのだから。
「そりゃあその…えへへ」
「そうやって誤魔化そうと…全く、こっちから声をかけようかかなり迷ったさ」
「…」
バレていた。
「相棒になってからもうすぐ2年経つんだよ? ある程度察しはつく」
このまま全部を吐き出していいのだろうか。
確かに自分と相棒はパートナーとして勝利を手にし、苦楽を分かち合ってきた。
でもこれはオレ自身の問題だ。
迷惑をかけることにならないか、突き放されたりはしないか、あるいは─────
「ウオッカ」
「ひゃい!?」
「今は“ウオッカ”じゃなくてもいい。1人の大人として目の前の1人のウマ娘の悩みを解決したいだけだ」
「毎日明るくしていても…なんか引っかかってた」
「そんな時は初心を思い出すんだ。“常識破りのダービーウマ娘”じゃない。どうして君はレースで走りたいと思った?」
「オレが走る理由……」
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
────────────父ちゃん!あれ!あれスゲー!すげーよ!カッケー!
そうだ…オレが走る理由……
───────おお!そうか!来てよかっただろダービー!
こんな簡単だったのか
────うん!オレも……
そうだ。オレは……
「カッコいいウマ娘になりたいんだ」
思い返せば本当に簡単だった。
ダービーを目指していた時はそのまま行けばカッコいいウマ娘になれると思った。
優勝して辿り着いた場所にはまだまだ先があった。その先があることに期待しかなかった。
けれど少しつまづいた。
つまづいたものをもとに戻すためにカッコよさを置いて行ってしまっていた。
置いていったものはいつの間にか自分自身の奥底に埋もれてしまった。
けど…やっと見つけた。これがオレなんだ。
“ウオッカ”が走るために必要なもの。
─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─ ─
「分かったよトレーナー。オレはカッコいいウマ娘になる。それがブレちゃならない芯だ」
「カッコよさってのは」
「それはまだわかんねえ。けど、これは、これだけはもう見失わない」
そう、まだわからない。しかしわからないからこそ目指す甲斐がある。
トレーナーはそう言ったウオッカの顔をしばらく見つめていた。
何も言わず見つめるトレーナー、ふっと息を吐くと少し柔らかい笑みを浮かべ
「…大丈夫そうだね。話してくれて本当に良かった。」
「その理想の走りを実現させるためにこれからもよろしくね。相棒」
「おおよ!任せとけって!相棒!」
周囲が徐々に白んでくる。グラウンドが光と朝露によって輝きを増していく。
その光景は2人のこれからの道を照らすような美しく、希望に満ちたものであった。
その後たづなさん、フジキセキ寮長に2人一緒に懇々と説教をもらった。
しかし、その日からの彼女の寝顔は憑き物が落ちたような晴れ晴れとしたものであったそうである。
彼女が目指す「カッコいい」とは何なのか
その答えを彼女が見つけるのはもう少し先……