バンビーズみんなのバスターでバインバインしたかっただけなのに   作:カナダ次元

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『舞台は整った』


THE STAGE IS SET

.

 

 

 

 

 

飢えも 渇きも

 

癒えぬがまま

 

俺達は舞台の輝きを

 

影から見つめ続ける

 

 

 

 

 

BLEACHアニメ千年血戦篇  第○○話「THE STAGE IS SET」

予告ポエムより

(イラスト:リルトット・ランパード)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その少女は――リルトット・ランパードの名前を得る前から、そしてL2(エルツー)と言う忌み名を持つ事になった前から――ずっと影の中で生きていた。

 

 「光ある所には影がある」と言う格言があるが、瀞霊廷の影の中に造られた「影の領域(シャッテン・ベライヒ)」は名は体を表すかの如く影多き土地。「見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)」なる絶対的な支配者によって統治されているとは言え、滅却師も所詮は人であり人とは業深き生き物。その影の闇に潜む陰の者も当然存在していた。

 

 盗賊、殺し屋、闇商人。絶対数こそは少なかったものの彼らはこの千年間、姿かたちを変えつつ絶えずこの土地に存在していた。

 

 原因はやはり「影の領域(シャッテン・ベライヒ)」が閉鎖空間であったことだろう。瀞霊廷は広く、相対的に領土もそれ相応に広かったとはいえここは閉ざされた世界。この土地で生まれ育った者はその領域から離れる事は出来なかった。よしんば星十字騎士団に就職が叶ったとしてもその皇帝さえも縛る活動限界によって外での活動は極端に制限されていた。その鬱憤が、そのやるせなさが、人を陰の道へと誘った。

 

 そんな場所に生まれてしまった彼女はおそらく盗賊一族の出だった。おそらくと銘打ってるのは物心があった頃から彼女は陰の者達が支配していた領域でずっと孤児、いわばストリートチルドレンと言うモノをやっていたからだ。自分の親の顔なんぞとっくに記憶に残ってなかったが、その手にあった盗みの技術。それだけが彼女にかつてそれを教えた親が存在してた事を教えてくれた。

 

 生活は厳しいを通り越して困難を極めた。陰の者たちは「見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)」を相当に警戒し深く潜っていたので彼らからの助けは期待できなかった。治安に目を光らせていた星十字騎士団も精鋭ぞろいで彼らの目を掻い潜ることは相当に難儀した。彼らが定期的に行う孤児狩りにも良い噂は聞かない。彼女の知る限り、彼らに捕まった孤児は一度たりとも帰って来た事はなかったのだ。

 

 飢えと渇きは常に付きまとった。何回死にかけたかわからない。それでも彼女は必死に生にしがみついた。こんなところで死んでたまるか。その想いだけが彼女を突き動かした。幸運にも彼女は聡明で、その頭脳と盗みの技術は存分に役にたった。影に隠れ星十字騎士団を観察する事で滅却師の技さえも盗むことができた。彼女はこの影の中で生きてゆく術を見つける事ができたのだ。

 

 だがその安心が油断を招いてしまったのだろう。その後すぐ行われた孤児狩りで彼女は驚くほどあっさりと騎士団に捕まり――

 

 あの地獄へと放り込まれたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寒ッ!!寒い寒い寒い!何ンだココ!一体ドコにいるんだよ俺ェ!?」

 

「見ての通りの氷の世界さ、ナックルヴァール」

「ここはニードヘッグ」

「俺が作り出せる王の舞台(ジェネレイド・ステージ)、その一つだ」

 

「はあああああ!?言ってる意味が分かんないんですけどぉぉぉ!?」

「ていうか、え?ジェラルドさん!?リジェさん!?そのマントの下は意外とナイスボディなニキータさん!?なんでだれもいないのおおおお!?」

「助けてくれええええ!このままじゃ俺この鬼畜ロリに殺さちまうよおおおお!!」

 

「下手な芝居はよすんだな」

「テメェの『致死量(ザ・デスディーリング)』。これぐらいの寒さならとっくに免疫獲得済みのはずだ」

 

「・・・・・・・・・」

 

 ワタワタと情けなく喚いていたその男は彼女の言葉にピタリと動きを止め、深いため息をつきながら髪をかきあげた。

 

「あー、いやだいやだ。やっぱりあんたらにはバレてたか」

「ユノワールちゃんの『開錠(ジ・アンロック)』を利用して丸裸ってか?ズルイよな~、あの能力。ホント、致命的だぜ」

 

「テメェのも大概だがな」

 

 リルトットはその男の一見吞気な行動に対してガードを決して緩めなかった。視線を外さずに背中のポーチを押す。上へと飛び出た弓矢を手でキャッチし、目の前の男へと照準を合わせた。

 

「構えな。それぐらいは待ってやる」

 

「どうしてもやんなきゃいけない?」

 

「一応は親衛隊だろうがテメェは。俺らはユーハバッハに弓引いてんだぞ」

 

「カンベンしてくれよ~。俺らはさっきまで零番隊や突撃急襲部隊(ウーバーファルアルメー)と戦りあってたンだぜ?連戦に続く連戦なんてこっちから願い下げだ。むしろカフェオレでも飲んで一息つきたい気分だね!」

 

「・・・いいからさっさと構えろ」

 

 彼女が見せたその僅かな苛立ちをその男が見逃すはずもなく。

 

「なァリルトット。なにをそんなに焦ってるんだ?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「アンタはむしろ俺と同じタイプだと思ってたんだがな。マジで今のアンタは全然オシャレじゃねェぞ?」

 

 リルトットは答えない。

 

 それに気にした様子を見せずにアスキンは自らの推理を淡々と述べていく。

 

「あんたらがやろうとしてる事はわかってるつもりだぜ?蒼都とドリスが死んで、バンビと雨竜も陛下へと楯突いた今、陛下に残された後継者はただ一人。現状、あんたらの勝ち負け関係なくどっちへと転んでも()()に損はなくなった」

「つまりはすべてはユノワールちゃんのためってワケだ。だろ?」

 

 リルトットはまだ答えない。

 

「だがそれだけならばアンタは俺をこの、あー、なんだったっけ?王の舞台(ジェネレイド・ステージ)とやらで俺を隔離できた時点で目的は達成できたはずだ。俺の性格は熟知してるだろ?本当に時間稼ぎが目的ならば俺はそれにつき合うのはやぶさかじゃないってのは分かってたはずだ」

「だが蓋を開けてみたらどうよ?アンタはどう見ても俺を叩き潰したくてしょうがないって顔をしてるぜ?」

 

 ふざけた男だ、とリルトットは思った。無表情を貫いているはずなのに内心の僅かな動揺さえもこの男の前ではすべてお見通しという事なのか。

 

「解せねェな。俺、アンタになんかしたっけ?」

 

「自分の胸に聞いてみるんだな」

 

 ようやく口を開いた彼女に対してその男はまるでその返事を予想してなかったのか、純粋に驚いた表情をさらけ出した。

 

「あー、まさか、ひょっとするとひょっとして?もしかしてでもなくアレの事を言ってるの?」

 

「・・・・・・・・・」

 

 沈黙を肯定ととらえたのか、アスキンは深いため息を吐いた。

 

「ハァー、マジかよ・・・」

「いや、なんとなくは解るけどさ。でもまーじーでソレで恨まれているの、俺?それが理由?」

「まさか嫉妬されてるとは思わないでしょー・・・」

「てかよ、リルトット。アンタ・・・」

 

「?」

 

「意外とカワイイところあるじゃねーの。そんなカンジでグレミィを落としたのか?」

 

 矢を離す。

 

「おおっとォ!今のは図星ってかァ!?アンタが作り出したこの世界みたいにもうちょっとクールになろうぜ、クールに!」

 

 当然かわされてしまうが、外したことよりもそもそも挑発に乗ってしまった事を彼女は恥じた。静かな怒りが彼女の中に蓄積する。

 

「おしゃべりはここまでだ。いい加減俺と戦え、アスキン・ナックルヴァール」

 

「ったく、しょうがねぇな・・・」

「・・・でも、ま。そうだな。いい機会だ」

 

 男はするりと、手首のブレスレットに収納してた自らの得物である弓をようやく抜く。

 

「いいぜ!来いよリルトット・ランパード!」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「お望み通り、ここらで白黒つけようじゃないか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)」に所属してた「与える者」、つまりはユーハバッハを含む皇帝候補者たちにはある特徴があった。

 

 それは、自らが冠する聖文字と「隣り合った」者との親和性が極めて高いということ。

 

 ユーハバッハ()ハッシュヴァルト()は片方が半身ということもあり、追随を許さない程の硬い主従関係を結んだ。

 

 キルゲ()もただの一弟子である蒼都()を他の弟子と比べものにならないほどに世話を焼き、バズビー()もその彼とは悪友同士みたいな関係で仲も悪くなかった。

 

 本来ならそれぞれ水と油みたいな相性を持ったロバート()ドリスコール()も、打算で結ばれた関係同士ながらうまく付き合っていった。そして男はただただその野生にも似た勘のみでミニーニャ()を求めた。彼女自身は親和性を通り越して嫌悪感が優ったが。

 

 そしてユノワール()。彼女は誰もが制御下に置けないと判断した最強の滅却師であるグレミィ()を自身の支配下に置いた。そして家族の絆があったとはいえ、本来子供嫌いである筈のキャンディス()を妹が大好きな世話焼きな姉御へと変えてしまった。

 

 このように、それぞれが専門部隊の統括隊長に成った「与える者」たちは全員文字が隣り合った者を自身の統括副官に選んだ。

 

 ―――ただ一組の例外、「バンビエッタ・バスターバイン()」と「リルトット・ランパード()」を除いて。

 

「そう、本来ならこの俺、アスキン・ナックルヴァール()バンビエッタ・バスターバイン()の統括副官になるはずだった」

「一応エス・ノト()もその候補だったんだぜ。知ってるか?バンビの奴、あんたらが大嫌いなペペの居る部隊に所属してるのに一次侵攻でエス・ノトを助けたことがあったって。隣り合った聖文字との親和性はそれほどのモンってことだ」

「だがエス・ノトはあんたら以外の聖章騎士(ヴェルトリッヒ)の中では最も新入り。統括副官にするのにはその経験不足は否めなかった」

「だからこそ陛下はバンビへと提案したんだろうぜ、俺を統括副官にどうかってな」

「当時の俺はフリーでありながらも一応古株の部類には入ってたし、未熟なあんたらのサポートに回る人材としては最も適任だった。俺もやぶさかではなかったしな。キツイ所が少々残ってるとはいえ、バンビの奴はイイ女に育ったし。あんたらとは結構上手くやれたと思うぜ?」

「だが結局は断られちまった。『アタシの統括副官になるべき人はただ一人。リルトットだ』ってな」

 

 知っている。

 

 あの時、バンビが皇帝候補者に指名されたほぼ直後。ユーハバッハに呼び出されたあの時。どうしても気になって彼女に内緒で後をつけた。王座の間で行われた彼ら三人のその会話をリルトットは影から聞いていたのだ。

 

「まっ、お陰様で立場が浮いてしまった俺はそのあと親衛隊に拾われたから結果オーライだったけどよ」

「しかし驚きだぜ。バンビの性格からしてこんなことがあったって絶対あんたらに打ち明けねーだろ?まさかアンタにその会話を聞かれてたとは思わなかったな」

「――――って」

「もう聞こえちゃいねェか」

 

「・・・・・・ぺらぺらと、独り言・・・喋ってんじゃ・・・ねーよ」

 

「・・・マジか」

「アンタにゃ霊子・酸素・窒素のハイブリッド毒入りボール(ギフト・バル)をブチ込んだんだぞ。その状態で死んでねェのかよ」

 

「そう簡単に・・・死んでたまるかよ!!」

「舞台に上がれ!!」

 

「!!」

 

 

 

王の舞台(ジェネレイド・ステージ)

 

死の王(ヘル)!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新たにL2(エルツー)と名乗る事になった少女は、こんな地獄でも人は意外と生きていけるモンだとある意味感心していた。

 

 彼女がここ、「愛の孤児院(リーベ・ヴァイゼンハウス)」を地獄と感じてしまうのはその落差にある。ここに最初に連れてこられた時は噂の事もあって油断なく回りをよく観察しながら全方位を警戒してた。しかし孤児院の職員が彼女を含む集められた孤児たち相手にまっとうに接して来ることがわかるとその警戒は徐々に薄れていき、三か月ほど経つとこんな自分でさえも将来「見えざる帝国(ヴァンデンライヒ)」の役に立てるのだと胸の内に僅かながら誇りすら芽生えて来た。その直後に行われた交流戦でその幻想は粉々に打ち砕かれたが。天国から地獄とはまさにこの事。

 

 たしかに食欲による飢えと渇きは孤児院に保護された故に無くなったかもしれない。だが彼女は生に対して果てしなく貪欲だった。こんなところで死んでたまるか。彼女はどれだけ食べ物やお菓子を食べようが、その生への強い思いへの飢えと渇きは癒える事は無かった。

 

 ここで生き残るのには力がいる。しかし交流戦の形式上、力を持ちすぎると目立ってしまい相手から最優先で排除するべき敵として狙われてしまう。ならばどうするか。

 

 答えは簡単だ。目立ってる奴を目立たせればいい。そしてソイツが生き残れるように影から援護すればいいのだ。幸い自分の班にはB2(ビーツー)という、落ちこぼれの癖に派手に強くて目立つヤツが居る。ソイツを焚きつけて自分の弾除けになってもらえばいい。影に生きていた彼女からすればこれ以上ない回答だった。

 

 だが彼女一人だけでは無理だ。仲間が必要になる。

 

 そしてその当てはすぐに見つかった。

 

 死体と遊ぶ、薄気味悪い女少年。だがその秘めたる実力は自分にも引けを取らないG2(ジーツー)

 

 全方位に嚙みつく厄介な少女。だがその目には決してあきらめない強い意志を持つC2(シーツー)

 

 死んだ目を宿した無表情な幼女。だが可憐なる見た目に反して容赦なく敵を殴り殺すM2(エムツー)

 

 自分が判断した、一定以上の実力があり、協力すればこの地獄を生き残れそうなメンバーである。

 

 彼ら彼女らの説得はそう難しくなかった。一番交渉が難儀するだろうと予想したC2(シーツー)も二度目の交流戦を経て渋々ながらもこちらからの提案に傾いた。見栄だけではここを生き残れないことを理解してしまったのだろう。こうして彼女ら4人はB2(ビーツー)を祭り上げ、自分たちに都合のいい弾除けになってもらう事に成功した。タイミング的にも丁度良かった。三度目の交流戦の後、彼女らの班は自分達以外は全滅してしまったのだから。

 

 そしてそれから一年間。危ない場面も多々あったが彼女達は生き延びる事が出来た。傲慢でリーダー気どりのB2(ビーツー)を相手するのは大変ではあったがこの程度はストリートで生きていた時と比べれば何のその。所詮B2(ビーツー)は利用しているだけ。いざとなれば切り捨てればいい。他の3人と比べるべきでもない。なんせ共闘するうちに他の3人の存在は段々と自分の中では大切になってきたのだから。自分は意外と情に厚い人物だったのかと自分でも驚いた。決してその心の内を彼女達には明かさなかったが。

 

 そんな中にやって来たのがU3(ユースリー)だった。

 

 警戒した。ものすごく。せっかくここまで上手くいっていたのだ。外部的なナニカが入ってきて今まで築いて来た生存戦略が壊れてしまうのを、彼女はなによりも恐れた。

 

 そしてその警戒は正しかった。U3(ユースリー)が合流して初めての交流戦、B2(ビーツー)のヤツが余計な見栄を張り死にかけた。それを見たU3(ユースリー)は自分達とB2(ビーツー)の関係を修復しようと様々なアプローチを試みた。やめろ。ヤメロ。このままでいい。せっかく今まで上手くいってたのに、俺の生存戦略の邪魔をするな。

 

 だがそれは叶わなかった。

 

 U3(ユースリー)は自分達と根本的に「なにか」が違った。自分達とB2(ビーツー)の仲を取り持つその姿。自分は今まで影に生きていたのに、U3(ユースリー)のその必死さはまるで幼い頃に一度だけ見た事がある舞台の輝きに見えた。眩しかった。自分がとても直視できないほどに。ただただ影から見つめ続ける事しか出来なかった。

 

 気が付くとB2(ビーツー)と他の3人はU3(ユースリー)によって懐柔されていた。

 

 もう、駄目だ。自分が少数派になってしまった以上、こうなったら表面上自分も和解したように見せかけるしかない。自分の名前?知った事か。U3(ユースリー)・・・いや、今はユノワールだったか。今に見てろよユノワール、こっからはこっちが逆に利用して―――

 

 彼女のその浅はかな考え方は彼女達の最後の交流戦となったあの試合で音を立てて崩れ落ちた。 

 

 ユノワールの頭がはじけ飛んだのだ。

 

 彼女の脳はその光景を必死に拒もうとする。だが彼女の無駄に聡明たるその知性は認識してしまうのだ。ユノワールは死んでしまったと。そして同時に理解する。思っていた以上に自分もユノワールに丸め込まれてしまったのだと。次にやってきたのは激しい後悔。なんでなんでなんで。なんで・・・俺はもっと早く・・・俺の「家族」と・・・一緒に―――

 

 リルトット・ランパードと名付けられた彼女の心臓に大穴が空いたのは、その直後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成程な」

「ああ、オマエは正しかったよリルトット・ランパード」

「俺の『致死量(ザ・デスディーリング)』の攻略法。それは俺が免疫を習得する前に俺を即死させることだ」

「だからオマエがこの霊圧濃度を極限までに高めたこの叫谷に俺をぶち込んだのはイイ判断だった。大抵の魂なら致命的だろうよ。作り出した本人であるオマエ以外はな」

「だがな。お前が作り出す叫谷はオマエの霊圧をベースにして作られるんだろ?だからオマエが例えどんな環境の叫谷を作り出そうとしても俺はその環境に瞬時に適応できる。要するにオマエのこの能力は俺との相性が最悪なのさ」

 

「・・・・・・ちっ」

 

 男の前にいる少女はすでに満身創痍だった。男の弓により腹に何本もの矢を受け、もはや辛うじて立っているだけの存在だった。

 

「・・・てめぇを・・・」

「殺せなくて残念だぜ・・・・・・」

 

 音もなく、その少女はついに倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銀架城(ジルバーン)の中にはユーハバッハがいる王座の間以外でひときわに霊圧が濃い区画がある。通常時はユーハバッハの特殊な結界によって厳重に封印されてるその地下施設だが、現在その封印は解かれ、特別に閲覧の許可を得たその少女は躊躇なく檻へと近づいて行く。

 

「グレミィ・トゥミューだな?」

 

「そうだけど、君は?」

 

「リルトット・ランパード。今日はオマエに取引を持ってきた」

 

「へぇ。まさか君みたいな年端もいかない女の子に取引を持ち掛けられるとは思わなかったな。ぼくの事が怖くないの?」

 

「これっぽちもねーな」

 

 彼女は一度、家族を失ったのだ。もう一度その輝きを失う事。これ以上怖いものなどこの世にあるものか。

 

「で?聞く気はあるのか?ばけもん」

 

「いきなり罵倒とはご挨拶だね。いいよ、少しは興味が出て来た。いってごらん」

 

「統括隊長や部隊成立についての経緯は聞いてるな?陛下の後継者候補について」

 

「そうみたいだね。ぼくはキョーミ無いけど」

 

「俺の妹がソレに指名された。オメーにはその統括副官をやってもらいたい」

 

「・・・・・・なんて?」

 

「ばけもんの癖に耳が遠いのか?俺の妹の副官になってもらって、彼女を守ってくれって言ってるんだよ」

 

「・・・正気?ぼくは最強の滅却師だよ?キミがばけもんと呼ぶような存在にキミの大事な妹を任せようとしてるワケ?」

 

「だから取引っていってるんだろーが。見返りやるから、俺らにこき使われろって言ってんだ」

 

「見返りがなんであれどう想像してもぼくに損しか無いように聞こえるんだけど?これ以上の話は無駄だね。さっさと帰ってくれないかな」

 

 埒が明かないと見た彼女はあの老人の亡霊から伝えられた切り札を早々に切る。

 

「・・・・・・お前は最強なんかじゃないって言ったら、どうする?」

 

「どうするもなにも、どうせ陛下の事言ってるんでしょ?そんな挑発で―――」

 

「俺の妹がそうだ」

 

「―――へぇ?」

 

「興味が出たか?取引に応じてくれれば彼女に会わせてやる。テメェならすぐに俺の言ってる意味がわかるだろうよ」

 

「・・・・・・念のために聞くけど、ソレに応じた場合の見返りってナニ?」

 

「俺だ」

 

「うん?」

 

「俺をテメェにやる。好きにするんだな」

 

「・・・・・・・・・」

 

 心底呆れたような表情を見せるその男に対して少女は直立不動で彼からの返事を待った。自分の身なんぞ惜しくはない。彼女の家族さえ守れればこの身に降りかかる理不尽なんぞ影である彼女にとって大した問題ではないのだ。

 

 そう。彼女は影。バンビエッタを「王」とする彼女は「王の影」。その「王」の至上の使命が彼女達の妹を守る事である以上、「王の影」であるリルトットもそれに殉じるだけだ。

 

「・・・・・・いいね、どうやらぼくも少しはキミタチに興味が持てそうだよ」

 

「・・・なら」

 

「いいだろう。ただしキミ自身に関してはとりあえずは保留で。キミは幼すぎるし、好きにしてもいいって言っても今の所具体的になにすればいいのかが想像出来ないからね。時間はあるし、ゆっくりと考えるとするよ」

 

「・・・・・・感謝する」

 

「いいって事だよ。長い付き合いになるって事だけは想像できるからね」

 

 目の前の檻が捻じ曲がる。その中からその男は一歩を踏み出し、久しぶりの自由を懐かしそうに噛みしめる。

 

「これからもよろしくね?リル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 たしかに目の前の少女は倒れた。

 

 だが動かなくなったその存在を男は目を細めながら見つめ続けていた。

 

「・・・オマエの能力は相性が最悪」

「だがオマエはそれを承知の上で俺に挑んだ」

「―――だからこそ!!」

 

 死の空間に突如として鳴り響く甲高い金属音。

 

「オマエは自分の能力さえもブラフとして使ったってことだ!!」

 

 それは後ろから無音で迫っていたリルトット・ランパードが握るナイフをアスキン・ナックルヴァールが自身の弓で弾いた音だった。男は刃物を弾いた勢いでそのまま後ろへと後退する。そこで彼はこの戦いにおいてリルトット・ランパードを()()()見た。

 

 普段の姿とは大きくかけ離れた彼女が着用しているのは袖の広いローブのような白い上着。縁には赤いラインと青い飾りが施され、内側には茶色や金色の装飾が施された、まるで神聖なる儀式で神官が着るような衣装だった。

 

「ようやく出て来たか。なかなかオシャレな格好じゃないの。嫌いじゃないぜ?そのセンス」

「だがな?確かに霊圧を介さない物理的な攻撃は俺に致命的だが、ナイフは流石に猟奇的すぎてどうかと思うぜ」

「鬼畜ロリの汚名はまだまだ返上できねェみてぇだな?」

 

「誰が鬼畜ロリだ、誰が」

「・・・・・・」

「・・・まさか、『王の影(ジェネレイド・トークン)』を見破られるとはな」

「どうしてわかった?」

 

「アンタの影さ」

「氷の世界の真っ白さで隠そうとしてたようだが、俺自身の影が存在してる以上、他全部の影が無いのは流石にオカシイと思ってね。すぐにニセモノと疑ったってワケよ」

「さてと。色々と面白いモンを見せてもらったが、流石にここらで頭打ちだろ?」

「ああ、一応言っとくが完聖体を解放しようとしても無駄だ。もうアンタの霊圧は免疫獲得したし、そのナイフ一本で戦おうとしても俺は距離を取って矢を撃ち続ければいい」

 

 その弓をリルトットに向けて構えるアスキン。

 

「出来ればそのまま動かずに俺の矢で射抜かれてくれ。腕には自信はあるからな。痛みもなく逝かせてやるぜ?」

 

「そうか」

 

 リルトットはそう一言だけ呟くとナイフを握ってない右手の手のひらを上へと向けた。突如としてその上に浮かび上がる紅白に光る円形のシンボル。中心の球体から放射状に伸びる6つの突起と、それらを繋ぐ円。上部には太陽のような形状があり、下部にはリング状の光の台座が配置されていた。

 

「・・・・・・なんだ、それは?」

 

 アスキンは一気に警戒を引き上げた。そのシンボルから発される霊圧は今までのとは質が違う。未知の現象を前に彼は油断なく弓を構え続けた。

 

「これは『影の王(レイヴァーテイン)』さ」

「最後の技だ。お前の言った通り、俺はこれ以上は持ち合わせていねェ」

 

「オイオイオイ。さっきのを聞いてなかったのか?オマエの霊圧は把握してるんだ。今更どんな叫谷を作り出そうが――」

 

「なあナックルヴァール。俺達は今()()()()()?」

 

「あ?」

 

「叫谷ってのは元々黒腔(ガルガンタ)に存在する断界の周囲に抜け落ちた魂魄のたまり場だ」

「だが俺の『王の舞台(ジェネレイド・ステージ)』で作り出した叫谷はちょっと勝手が違ってな、尸魂界の中に存在している。俺はいわば無理やり尸魂界の空間を拡張して、その隙間に新しい舞台(ステージ)を作ってるに過ぎない」

「さて問題だ。叫谷とは世界の隙間に存在してるいわばシャボン玉みたいな脆い存在。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「――――――――!!!」

 

 最悪の可能性を一瞬にして把握したアスキン・ナックルヴァールは躊躇なく矢を放つ。それは一寸の誤差なく少女の華奢な体に命中し、容赦なく突き破る。だが少女は小さな笑みを浮かべながら右手の光を握りつぶした。

 

「遅ェよ」

 

 

 

 

 

『 閉じろ 』

 

永の王(オルムガンド)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?名前の意味ですか?」

 

「えーっと、えーっと、ちょっと待ってくださいね。確かこの辺に・・・」

 

「あったあった!えーっとですね、リルトットってのは古い英語で"小さな救世主"って意味があるんです!」

 

「イタイイタイイタイ!ほっぺをつねらないで!もしかして小さいは余計でした?」

 

「え?違う?救世主って柄じゃないって?いやー、そんな事は無いと思うな」

 

「だって私が合流する前はみんなを引っ張ってたんでしょう?」

 

「リルが居なければみんな死んでたかもしれないじゃないですか」

 

「だからこそ私はこの名前がリルに一番ふさわしいと思ったんですね」

 

「それに――――」

 

「私にとって、貴女はいつでも頼れる私の優しい姉ですから!」

 

「これからも、よろしくね!」

 

「リルトット姉さん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ご清覧、ありがとうございました。これにてリルトット回は終了です。

 遊戯王知らない人にとって今回の話はちょいとばかり訳が分からないと思うので以下にて解説を。


 遊戯王簡易解説、その1:ジェネレイド【 Generaider 】

 2019年8月3日に発売されたデッキビルドパック「ミスティック・ファイターズ」でカテゴリ化された「ジェネレイド」と名のついたカード群。「王」と書いて「ジェネレイド」と読む、北欧神話をモチーフとしたテーマ。
 
 フィールド魔法である「王の舞台(ジェネレイド・ステージ)」で状況に応じた様々な効果を持った「(ジェネレイド)」を相手ターンに呼び出すことを基本戦術とし、同時に何体も呼び出せるジェネレイド・トークンをコストにその効果を発動する。環境トップを取るほどのパワーは無かったが、他の様々なテーマと組み合わせる事が出来る柔軟性があり現代でも根強いファンがいる。作者もその一人です。ジェネレイドダイソンスフィアワンキルは芸術。

 エースはなんでも無効にできる「(とどろき)(ジェネレイド) ハール」と現代遊戯王においても最強格の除去能力を持つ「影の(ジェネレイド) レイヴァーテイン」。両者とも決まれば強い能力を持ったカードですが、現代遊戯王はそこまでもっていくのが大変であるので・・・

 今作品では「王の舞台(ジェネレイド・ステージ)」で呼び出せる「(ジェネレイド)」をリルトットが作り出せる様々な叫谷で表現。ジェネレイド・トークンはリルトットの影無き分身を作り出せる能力としました。ちなみにリルトットが着ていた衣装は「王の影(ジェネレイド・シャドウ) ロプトル」と同一のものです。リルトットが能力を発動してる間勝手に着てしまうって設定で。


 次回は『Z』となります。

 ではまた。
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