担い手さんがいく!   作:ラスキル

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その夢は遥か昔、青年がみた世界の終わり。その始まりだった。


第三話 汝は馬鹿

夢だ。

またあの悪夢をみている。

 

ある日、巨大な流星が落ちてきた。

流星は、陸地の海岸にも、惨たらしい被害を残してた。いまだに赤く燃えている破片、海辺のあちこちで燻っている木や樹皮の残骸。視界を遮る煙のせいではっきりとは確認できないものの、近くに生き物の気配は感じられない。

 

ワタシはふらつきながら二、三歩進んで波打ち際から遠ざかった。どこを探しても、誰も見つからない。がっくりとへたり込んで大きく咳き込み、苦しそうに肩で息をした。

それでも、諦めきれず煙を透かして辺りを見渡し、家族達の姿を探そうとした。でも、何の役にも立たなかった。今も燃えている島が遠くに見える。かつては、あの島がワタシの居場所だったのだ。今や、島の大部分を占めていた緑豊かな密林もめちゃくちゃに破壊されて、もはや見る影もなくなった。

風に乗って、生き物が焼ける匂いが伝わってくる。

 

「みんな・・・みんな・・・」

 

望みを持ち続けたいけれど、実際にはそれも難しかった。今まで馴染んできたものを全て失ってしまったのだ。

 

そうしているうちにワタシは見つけてしまう。満月を背に、海から浮かび上がってくる“白い巨人”を。

その災厄は、ソラから落ちてきたのだ。

 

大きな手を伸ばし、いまなお、燃えている島を掴む。驚いたことに、島がまるで巨人に吸い込まれるように取り込まれてしまった。それはまるで、実った果実を収穫するようだった。

巨人は満足そうに体を震わせると、水平線にいるワタシを見た。いや、正確にはこの陸地を見つけたのだ。

 

『——————』

 

巨人は獲物を見つけた獣のように笑う。

どうしようもない恐怖に駆られ、ワタシは駆け出す。背後からは、巨人の大きな手が迫ってきて———

 

 

悪夢は、いつもここで終わる。

 

◇◇◇

 

「っ・・・!!」

 

目を覚ます。気を失っていたみたいだ。もう辺りも随分と暗くなっている。

 

「・・・誰か」

 

返事はない、外で焚火が燃え盛る音のみが辺りに響き渡る。ここは誰かの天幕の中らしい。ご丁寧に手当までしてくれている。

肉体の調子を確認する。傷は大体治っている、これなら明日にでも動けそうではある。

 

「っとっと...血、流しすぎちゃったかな」

 

立上がろうとするがどうも身体がふらつく。歩き出そうとするが足がもつれてしまう。

 

「やばっ・・・転ぶっ!———ぐえっ」

 

転ぶ瞬間に後ろから服をつかまれる。間一髪で転ばずに済んだ。

 

「はぁ、なにをしているのだ汝は...」

 

後ろを振り返ると、呆れと心配が入り混じった表情でこちらを見るアタランテがいた。

 

「え!、あ、その...ありがとうございます?」

 

突然のこと過ぎて頭が追い付かない、”なぜここに彼女が?“や”また会えた、嬉しい!”といった感情が頭を飛び交う。

 

「全く...怪我人なのだから大人しくしていろ。」

 

無理矢理に寝かされ触診を受ける。彼女の手が優しく体に触れる。ちょっとだけくすぐったい。

 

「はわわわっわ」

 

情けない声を上げてしまう。だって仕方がない。こんな経験今までなかったんだ。触診の間、彼女の顔をじっと見つめてしまっていた。

 

「ふむ、傷は治っているのか・・・いったい何者なのだ汝は、あのように姿を変えたり、ただの人間ではあるまい?」

 

警戒に満ちた視線が注がれる。浮ついた気持ちがさあーっと冷えていく。返答次第ではただじゃすまなそうである。彼女の手が弓を握る。

 

(困ったな...どう誤魔化そうか。実は・・・いや、ダメだダメだ)

 

あまり悩むとかえって怪しまれる。だから、嘘をつくことにする。

 

「・・・人間だよ、ちょっとだけ魔術が使えるね」

 

「魔術...?私もあまり詳しいわけではないが汝のそれは「ぎゅるるる」・・・腹が空いているのか?」

 

「そういえば今日はまだ何も食べてなかったな、あははは・・・」

 

青年は顔を赤らめ答える。アタランテは"はぁ..."と呆れた表情で外へ何かを取りに行く。

アタランテが居なくなった後、青年は顔を伏せ笑みを消す。

 

「(・・・本当のことを話せば、ワタシを殺すのだろうか)」

 

どうやら外で肉を焼いていたらしい。焼きたての鹿肉を持ってきてくれた。

 

「私の今日の獲物を分けてやる、それを食べて精をつけろ」

 

その鹿は、先ほどまで共に駆けていた子鹿なのだろう。

小鹿の姿を思い浮かべ"ごめんね"と心の中で謝る。これを食べれば少しは回復できるだろう。

 

「ありがとう、傷の手当から何もかも・・・」

 

「気にするな、一応こちらにも責任はある。しかし、私はてっきり汝が“黒き怪物"だと思ったのだが・・・

 

「黒き怪物?」

 

一瞬ドキッとする。詳しく聞くとこの辺りに古くから伝わる昔話のようだ。

"それは突然現れました。それは何にでも化けます。それは夜のように真っ黒です。それは次々と神様を食べていきます、ニタニタと笑いながら。ああ恐ろしい、恐ろしい。でも心配しないで、英雄がきっと来てくれます。彼らはいつだって私たちを助けてくれるのですから。"

大昔から伝わる話だそうで、多くの男たちは”自分が怪物を倒して英雄になってみせる”と酒の席で豪語するのだとか。...酔っ払いに退治されるのは流石に勘弁だな。

 

「最初は勘のいい鹿だと思っていたのだが、次々と矢を躱すのでな、つい滾ってしまった。更に大鷹に化けるのだからこれはまさかと思ったのだがな」

 

こちらをジッと観察するような目で見てくる。何だろうと首をかしげると、ふふっ、と少し小馬鹿にしたように

 

「汝のマヌケ面を見ていると・・・ふっ、どうやら私の杞憂だったようだ」

 

むっ、間抜け面・・・?確かに会話出来ることが嬉しくてにやけた顔になっているのは否定しない。

青年は思わず苦笑する。

 

「君ってその、案外ハッキリ言うタイプなんだね、あははは・・・」

 

そんな会話を続けているうちに肉を食べ終わってしまった。

あまり長居をするのも申し訳ない。だいぶ体も動くようになってきた。青年は立ち上がり背伸びをした。

 

「ありがとう、だいぶ元気も出たしそろそろ自分の天幕に戻るよ」

 

「そうか・・・もう一度忠告するが用が済んだのならこの国を去れ。次にもし森で撃たれても文句は言えんぞ」

 

「あーうん、考えておくよ」

 

”じゃあね”と手を振るが彼女はこちらに一瞥をくれただけで中に戻ってしまった。

でも進歩はあった。なにせ会話もできた上に一緒にご飯まで食べれたんだから。自分の天幕に向かう足は思いのほか軽かった。

 

◇◇◇

 

次の日、腕一杯に果物を持ちながらアタランテのもとに向かう。森の動物たちに美味しい果実が実る場所を聞き、一人で食べるのも勿体ないしせっかくだしお裾分けというわけである。勿論、彼女と話したい建前ではあるのだが。ちょうど今日の勝負から帰ってきたアタランテを見つける。

 

「あ、おー-い!」

 

ワタシはつい嬉しくなり、手を振って彼女に声をかける。

アタランテは一瞬驚いた顔をするが、こちらを見ると呆れた表情で”はあ”とため息をつき

 

「汝は・・・馬鹿なのか?」

 

「ええっ?!」

 

そうしてワタシは恋を知った。




感想とか評価とか
久しぶりすぎてアタランテの口調がちゃんとできてるか分からん
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