担い手さんがいく!   作:ラスキル

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どんどん行くぞー


第四話 青年

最初の出会いは何の思い入れもなかった。

 

あの日、一人の青年と出会った。

彼はアタランテを見上げ、言葉を口にする。

 

『噂で聞いたあなたの姿を一目見たくて』

 

軟弱で、気弱。男か女かも判断しかねる半端者。それが私が彼に抱いた最初の印象だった。

彼は言った、私に挑まないと。

少し意外だった。彼も私を手に入れようとする・・・いや、正確にはこの国の王の後継になろうと画策する愚かな男共と同様だと考えていたからだ。

 

「ふんっ。挑戦者でないのであれば即刻この国を去るといい」

 

だが、それだけだ。挑戦者ではない、名も知らぬ青年。

明日になればその顔も声も忘れてしまう・・・はずだった。

 

二度目の出会いは最悪だった。

 

確か獲物を探していた時だと思う。珍しく見つけることが出来ず、今日の夕飯は諦めてしまおうと考えていた。

何時間か森をさまよった頃だった、二頭の鹿が此方に駆けてくるのを見つけた。

 

一頭は何の変哲もない小鹿、だがもう一頭は別格だった。

黒く鮮やかなその美しい毛並み、雄々しいその角。

思わず見惚れてしまうと同時に、”何としても仕留めたい”、私の狩人魂に火が付いた、付いてしまった。

慎重に矢をつがえ、先ずは小鹿を狙う。放たれた矢は確かに小鹿の頭を貫いた。

 

”次はお前だ”と狙いをつけた瞬間、———凄まじい速さで”それ”は駆けだした。

私も足の速さには自信があるものの、森の中では鹿の方が一枚上手。こちらは木から木へ飛び移るに対し、あちらは縦横無尽に地を駆けている。何とか仕留めようと何本か矢を放つものの、右へ左へ避けられる。

だが、私にも狩人としての意地がある。あちらの回避地点を予測し矢を放つ。急所をとらえることはできないものの、着実に傷を与えていく。

 

おそらく血を流すぎたのであろう、確実に距離は縮まる。ここまでくれば確実に仕留められる、そう確信し脳天めがけて矢を放とうとした瞬間、

 

「なっ———」

 

有り得ない光景が目に映り、息を呑んだまま唖然としてしまった。

確かに直前まで鹿の姿だったのだ。それが今はどうであろうか。

それは、一瞬にして姿を変化させ、黒き大鷹となり大空へと羽ばたいているのだ。

 

それを見上げる私の頭には一つの昔話が浮かんでいた。

 

昔、狩人の仲間から聞いた話だ。

 

曰くそれは何にでも姿を変えられる。それは黒い怪物である。それを仕留めた者は英雄となる。

所詮、酒の席で聞いた話だ。酔っ払いの冗談だと聞き流していたが、今なら信じることが出来る。

 

「(手を動かせ、これは絶好のチャンスだ!!)」

 

止まっていた思考を動かし、空を飛び逃げようとする怪物に再び狙いを定める。

 

怪物は判断を二つ誤った。

一つは大鷹なのではなく、もっと小さな物になればよかったのだ。それならば幾ら狩の名手であろうとも見逃していただろう。

もう一つは、わざわざ視界の悪い森から出てきたことだ。これなら、障害物を利用して矢を避けられることもない。

 

狙いを両翼定め、矢を放つ。

 

"———!?"

 

突然襲ってきた痛みに驚いたのだろう。ここからでも、その慌てようが手に取るように分かる。

 

止めと言わんばかりに、怪物に向け矢を放ち続ける。慢心はしない、今度こそ確実に仕留させて貰う。

最初はなんとか避けようとしたようだが、次々に矢が突き刺さっていく。

 

「その傷では羽ばたくのも難しかろう——————堕ちろ」

 

その言葉とともに放たれた矢が心臓部を貫いた。

それが最後の決め手となった、力尽きたように、地へ向かって怪物は堕ちていく。

 

「~~~~~ッ!!」

 

手に力を込め、喜びを噛み締める。達成感で体が打ち震えてしまう。

私が!この手で!あの怪物を仕留めたのだ!この興奮を抑えられるものか!!

 

アルテミス様にいい報告ができそうだ。父にも報告してあげようか、もしかしたら・・・などとくだらない考えが浮かぶが、いかんいかんと冷静になる。

まだ、死体を確認していない。これで逃げられてでもすれば滑稽にもほどがある。怪物堕ちたほうへ足を向ける。

 

「だが...あれの正体はどのような物なのであろうな」

 

すさまじく醜悪なものに違いない。かつてのアルゴー船の旅で遭遇したハルピュイアを思い出す。当時はあれほど醜悪なものに出会ったことはなく、暫く夢にまで出てきたほどだった。

 

「......」

 

思い出すだけで気分が悪くなってきた。

やはりやめておこうかと足を止めそうになる。が、仕留めた責任は自分にあるのだ。致し方なし。

 

「確かこの辺りに・・・む?これは血の跡か——————ッ!?」

 

 

それを見て、さっきまの興奮は一気に冷めた。

そこにいたのは、怪物でもなく、醜悪なものでもなく

 

「どうして、どうして汝がいる!?・・・まさか」

 

あの青年だった。

 

「(これがあの怪物の正体だとでも?!)」

 

思考が追い付かない、様々な疑問で頭が割れそうになる。

 

”ぐっ———ごぷっ”

 

血を吐く青年の姿を見て我に返る

 

「っ!今はそんなことより手当てをしなければ!!」

 

そうだ、事情は後で聞けばよい。このままでは後味があまりにも悪い、青年を肩で担ぎ、自分の天幕へと急ぐ。幸いそう遠くない。

青年の髪が、夜の森に靡いた。

 

 ◇◇◇

 

 

「やばっ、こ、転———ぐえっ」

 

怪我人のくせに動こうとして転びそうになっている馬鹿の襟首を掴んで引き戻してやる。

 

「はあ———なにをしているのだ汝は・・・」

 

「えっ!、あ、その、ありがとうございます?」

 

はあ、と心の中でため息をついてしまう

 

「(いったい何者なのだコイツは)」

 

 

あの後、青年に対し応急処置を施したものの、独学で学んだ知識のみで行ったので、このままでは今夜が山場かどうかの状況に陥った。

 

「くっ、アスクレピオスの処置をもう少し見ておくべきだったか」

 

が、その心配も杞憂に終わった。

突然、青年の身体が光りだす

 

「・・・これは、なんだ?」

 

以前、王女メディアが魔術を使う際に見たことがあった。魔術師にとっての疑似神経だとか、魔力の変換機だとかを使うなどと説明を受けた気がする。話を聞いてもあまり理解はできなかったが。

おそらくだが、自分の魔力を傷の治療にまわしているということだろう。事実、傷が少しずつ修復されていってる。しかし、メディアが魔術を使う際にこのような光はあっただろうか?

 

光も落ち着き、青年の様子を見る。顔色も大分よくなっている。しばらくは様子を見ておくのが一番だろう。

 

「そういえば、小鹿も仕留めていたな・・・今のうちに取りに行ってこようか」

 

・・・そうして、帰って早々これだ

 

「全く、怪我人なのだから大人しくしていろ。」

 

無理矢理に寝かし傷の具合を確認する

 

「はわわわっわ」

 

驚いたり、照れたり、騒がしい奴だ。

とはいえ、傷もすっかり塞がっている。とても人間とは思えないほどの回復力。

 

「いったい何者なのだ汝は、あのように姿を変えたり、ただの人間ではあるまい?」

 

どうしても疑問がぬぐい切れず、問いかけてしまう。

あまり聞かれたくないことなのだろう、あんなに騒がしかった顔も血の気が引いたように青ざめている。

暫く悩んでいるそぶりを見せていたが、観念したのか、静かに口を開いた。

 

「・・・人間だよ、ちょっとだけ魔術が使えるね」

 

嘘だ・・・は言い切れない。随分とあっけらかんと答えたようだが、その目は真剣だ。

 

「私はあまり魔術に関して詳しいわけではない。だが、汝のそれは...」

 

"ぎゅるるる"

 

響き渡る、腹の音。

・・・この状況で?

 

「腹が空いているのか?」

 

「そういえば今日はまだ何も食べてなかったな、あははは」

 

その一言を聞き、何だか馬鹿らしくなってしまった。

外で焼いていた、小鹿の肉を差し出してやる。

 

「私の今日の獲物を分けてやる、それを食べて精をつけろ。」

 

そう言って手渡すと、少しぎょっと顔をゆがめたが、直ぐにガツガツと肉を食べ始めた。

少しだけ、”黒い怪物”の話題を出したものの、

 

「え~~酔っ払いに退治されるのはちょっとなあ」

 

などと、冗談めいた答えを返された。結局、コイツの正体は分からないままだが、まあいいだろう。

暫く、観察するようにその様子を眺めていると、不思議に思ったのだろう。首を傾げ何か言いたそうにしている。

 

「汝の間抜け面を見ていると...ふっ、どうやら私の杞憂だったようだ」

 

それが少し面白くて、意地の悪い答えをしてしまう。

 

「君ってその、案外ハッキリ言うタイプなんだね、あははは」

 

そうしているうちに、食べ終わったようだ。

 

「ありがとう、だいぶ元気も出たしそろそろ自分の天幕に戻るよ」

 

・・・なぜもう動けるのだ。やはり人間ではないのでは?

 

「そうか・・・もう一度忠告するが用が済んだのならこの国を去れ。次にもし森で撃たれても文句は言えんぞ」

 

「あーうん、考えておくよ。じゃあね」

 

手を振り、帰っていく。こちらが手を振りかえすことはしなかった。

今度こそ、もう会うことはない。

ない・・・はずだったのに!




三回目の出会いに続くってね。
ところで、なんの担い手なんでしょうね
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