アタランテは今日も競争を続ける。いや、正しくは続けさせられているというべきか。彼女の父、アルカディア王スコイネウスに。
そもそも事の始まりは王がアタランテを捨てたことから始まった。
”あるところに一人の王様がいました。王様の父は武勇と知略に優れており人々からは英雄だと讃えられていました。
そんな父の姿を見ながら育ったので”いつか自分も父のように”と、ひたすら剣を振るい勉学に励み、努力を続けます。
ですが人生、そう上手くはいかないものです。
彼は平凡でした、いたって平凡な男でした。いくら努力しようと上には上がいるのです。
己の父とは違い自分には何も才能がないことを悟り、嘆きました。そして男はただの”王”になったのです。
王様を見る目はいつも同情や哀れみ、蔑みといった物。それもそうでしょう、彼の持つものといったら王としての地位しかないのですもの。
ただ利用する、自分の利益だけ求める。彼の周りはそんな人間しかいなかったのです。
そこで王は跡継ぎを求めました。自分ができなかった功績を息子が成し遂げ人々から”英雄”と認められれば、きっと自分を見る目は変わるはずです。
近隣諸国の名のある王から嫁を貰い、すぐに子を授かりました。しかし、産まれたのは望んでいた男児ではなく女児。
王様は嘆きました、そして産まれた子を山に捨ててしまったのです。妻は泣き喚きましたがどうでもいいです。欲しいのは男、自分の後継なのですから。
それからも王様は子作りに励みました。何人もの妻を貰いましたが、一向に子供を授からないのです。困りました、王様はもう歳で、子を残すには限界が近づいています。
「何故だ!何故、私ばかりこのような事に!」
女神の神殿で王様は嘆きます。もはや神に縋るしか方法はないのです。そうやって嘆き続けたある日、一つのお告げがありました。
"貴方の娘を探しなさい"
生きている筈がない、何故なら自分が山に捨てたのだから。しかし、万が一ということもあります。王様は兵士に命じ探させました。
娘はすぐに見つかりました。彼女は山に捨てられた後、女神アルテミスに見つけられ、女神が送った雌熊に育ててもらい、立派な狩人になっていました。
ですが王様にとってはそんな事よりも、もっと重要なことがありました。
彼女は数々の武勲を立てており、まさに英雄と呼ぶにふさわしい存在になっていたのです。
その事を聞いた王様はすぐに彼女を連れてくるよう命じました。一度自分を捨てた父の下に娘が帰ってくるものかと、心配はありましたが意外にも娘はすぐに王様の国に訪れました。
娘の名は"アタランテ"
親の愛を知らず、熊に育てられた者
アタランテは笑顔で王様の所に来ました。きっと父に会えるのが嬉しかったのでしょう。それはまるで愛情に飢えた子供のよう
王様も笑顔で向かい入れます。でも、娘に対する愛など微塵もありません。あったのはただ一つ
「"コイツに産ませればいい"」
英雄にはアタランテが成ってくれました。後は後継だけです。
娘がこれまで歩んできた人生を楽しそうに語っています。数々の冒険譚、それを聞き流しながらニコニコと王様は微笑んでいます。話し終えたとみるや、アタランテに一つの提案をします。
「お前を王女として迎え入れたい」
娘は嬉しそうにしています。だって家族と暮らせるのです。喜ばないはずがありません。しかし、王様の言葉は続きます。
「そこでお前に、婿を取ってもらいたい。」
娘の笑顔が消えました。必死に”自分は女神アルテミスを信奉しており純潔を貫いている”と訴えてきます。だから何なんでしょう?子は親に従うべきです。
「アタランテ...私の、父の頼みをどうか叶えてはくれぬか?」
優しく、諭すかのように説得します。しばらく娘は駄々をこねていましたが諦めたのか一つの条件の元それを了承しました。
”ならば、私に走りで勝つことを条件にしててもらいたい”
少し面倒だと思いましたが、まあここが妥協だろうと考えそれを了承しました。
しかし王様は知りませんでした、アタランテが俊足の狩人として名を馳せていることを"
◇◇◇
今日の競争も終わる、誰一人ゴールには辿り着けず、死体の山が積み重なる。
日に日に参加者の人数は増えている。だが、アタランテに勝てる人間がいるとはとても思えない。そう確信できるほど彼女は足が速いのだ。
今日はまだ夕食を食べていないので誘ってみようとメラニオンは足早にアタランテの天幕へと向かっていく。最近はアタランテのとこに行くことが日課になっている。
天幕へ向かう途中の道、前から二人の人間が歩いてきた。
一人は煌びやかな衣服を着ている男性、噂に聞くスコイネウス王だ。もう一人は、小間使いの女性だろうか?全身を隠すように布で覆ってるのでよく分からない。
メラニオンは顔を伏せ、敬意を払うためその場に膝をついた。
「おや、君は。もしかしてアタランテの所へ行くのかね?」
王に声をかけられる。
「・・・はい。そうです」
そうか、そうかと頷く、その男は貼り付けた様な笑みを浮かべその目は生気がない。
「あれは私の娘でね。全く、あのような条件を付けよって。親としては早く相手を見つけて欲しいのだがね」
嘘である、顔を見ずとも分かる。最初からこの男は娘のことなど考えてすらない。
メラニオンは己の心が燃えていることに気づいた。しかし、冷静に言葉を返す。
「そうですか、でも彼女は結婚を望んではいないのでは?何せ無理難題を条件にするくらいですから」
「いやいや、私がどうしてもと頼んだら快く婿を取ることに快諾してくれたよ」
それならば、条件を付けるはずがないだろうに。
笑いながら答えるその人間を前にメラニオンは今にも燃え上がりそうな感覚を覚える。
「それにだよ、君?子が親に従うのは当たり前だと思わないかね?」
「・・・わたしの親は、従わせようとはしませんでしたから、なんとも」
「君だって娘に惚れているのではないかね?もし君が望むのであれば私が協力してもいいのだよ?そうだ、娘と食事の席を設けてあげよう。私の城にくるか?そうすれば———」
ああ、やっぱり気に食わない。その顔が、その声が、いつか見たあの醜悪なものと重なる。メラニオンは立ち上がり、王の顔を凝視した。
王には生気がない。何かに妄信するように、その濁った眼には青年の姿は映っていないのである。今話したことは、確かに王自身の言葉であろう。だがそれとは別に違和感がある。
そう、まるで———操り人形だ。
メラニオンは苛立ちを表すように地面を“ダンッ”と足で踏み締めた。
すると、周囲の地面が薔薇のように鋭く変動し、王と従者の喉元に迫った。青年のこれは魔術ではない。自身が持つデタラメとも言える力で自然を思うがままに変動させたのだ。
この行動は自分の考えを証明するため。間違いであれば罰は甘んじて受ける覚悟であった。
王は微動だにしない。”自分の喉に刃が向けられているにもかかわらずだ”青年を見もしない、まるで糸の切れた人形のように。
であれば、と、側の小間使いに視線を向ける。小間使いの女性は叫び声を上げるわけでもなく、くつくつく、と笑いながら纏ったローブを脱いだ。
『まさか気づかれるなんてね。ただの人間に見破れるはずないのだけれど』
「さあ?独特の匂いがした気がしたんだ。神様特有の傲慢さの匂いが、ね」
女が正体を現す。
それを見れば同じ神々でさえも我を忘れ、求婚に走るであろう。
名をアフロディーテ。美と愛の女神、それが青年の前に姿を現した。
『その態度、本来なら八つ裂きにしてあげるところだけど今日は許してあげる。今は機嫌がいいの』
「何が目的?あなた方には手は出してない。この数千年ね、でしょう?」
『話してあげてもいいけど、急いだほうがいいんじゃない?ほら、彼女ちょっと体調悪いみたいだから』
メラニオンの視線がアタランテの方へ向いてしまう。その一瞬をつかれ、振り返ると二人の姿は消えていた。
『”もし話がしたいなら、私の神殿にいらっしゃいな。いつでも待っているわ”』
そう言葉を残して。
...ここで考えていてもしょうがない。アタランテのもとに急ごう。
メラニオンは夜に駆けて行った
神々との因縁・・・おいおいってことで
今作のメラニオンは、前作のようにギルガメッシュ達と関わりを持っていません。まあ途中で設定を変えるかもしれませんが・・・