とある理想の異世界伝   作:爪先

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Xに投稿したものに加筆修正してお送りします。


あるいは素敵な転生日和

「普通の高校生だった俺が急に変な能力に目覚めて最強になりました」系の物語は数えきれないほどあるが、上里翔流としては実際に体験して色々酷い目にあっているわけだし、普通にやめてほしい。実際全然いいものじゃないよ、と声を大にして言いたい。今となっては一連の出来事を通して得たもの、会えた人とのことを肯定できるようになってきたものの、それはそれ、これはこれ、である。学園都市という誰もが特異な能力を持てるかもしれない場所があるのにも関わらず、こういった転生系の作品が流行っているのは、やはり能力といっても階級があるからか。才能が絡んでくる以上、下からのジャンプアップに憧れる人は多かろう。もっと地味なスキルだったら静かに過ごせていたかな。そんなことを考えながら上里は空を見上げる。

 

 

 

 

 

 

 で、この赤い空は何だ?

 

 

 

 

 

 

「あなたが勇者さま、ですよね?」

 

 草原に寝そべって空を見上げていた上里に話しかけてきたのは、上里くらいの年齢の女の子だった。しかし草原といっても草はみな赤く、空もまた赤い。遠く向こうに山々が見えるが、採石でもしていたのだろうか、岩肌が見えているほんの少しの部分を除いて赤に染まっていた。日本の紅葉シーズンでよく見るような、ほんのりオレンジがかった赤ではない。血液のような、人の血液のような赤。

 さながら地獄だ。

 「新たな天地」の時とは違い、服はちゃんと着ていたが、こんな景色と学生服ではなんだかミスマッチかもしれない。まあ何を着ていても馴染めそうにないが。上里は寝起きのようなフワフワとした浮遊感と、未知のものに接触したことによる恐怖心とを、一緒に感じた。

 

「へえー勇者さま結構かわいい顔してるんですねーえへへ」

 上里の顔面を舐めるように見回す彼女は金髪を腰あたりまで伸ばしていたが、目は日本人のように黒い。というかブラウンだ。しかし鼻は高いのでどうも違和感がある。身長は絵恋くらいかな?

 

「あの、ぼくは……どうしたの……?勇者?では、ないと思うけど……」

 なにせこっちは普通の高校生だ。転生ものというジャンルは知っていても、なにも自分がそうなるとは思っているはずがない。

 理解が追いつくこともないわけだ。

 しかしそんな上里への説明は、さらに上里を混乱させるものだった。

 

「いえいえあなたが、あなたこそが勇者なのですっ。司祭様の予言は見事に的中したのですよ!」

 

 

 

 司祭様?予言?

 

 そういえば言葉が通じることに少し驚きつつ(外国人っぽいひとが流暢な日本語を操るだけで違和感だ)、脳をフル回転させてなんとか事態を把握しようとする上里。彼女に先を話せとジェスチャーする。

 彼女は頷いて続けた。

「予言はこうでした。『この世界に最大にして最悪の呪いが降りかかる時、その勇者は立つ。そして寝そべり空を眺め、黄昏れるであろう』と。ね、あなたでしょこれ?」

「そんな予言があるかよ……」

 

 

 

 

 

 

 

「さっ、とにかく動きましょう!ここで止まっていても、事態は好転しませんよっ。自分の運命は自分で切り開くのですっ!」

 

 そんなことを言った金髪黒目少女と(どこへ行くかはよくわからないが)、とにかく歩く。よく見てみれば結構際どい衣装だ。前開きのブラウスの上に大きく胸元の開いた袖なしの胴衣、ふわりと揺れる無地のスカート。しかし可愛らしくだけ見えるのは彼女が幼女体型だからか。どこかの伝統衣装で似たようなものを見たような気がするが、思い出せない。

 

 上里としては早く説明が欲しいところで、いま異世界にいるという恐怖心からおよそ平静ではない。それとは真逆な横を歩くナビゲーターさんは、冒険にでも出掛ける時のワクワク感なのか、ちょっと楽しそうだ。そんな顔を見て、ふと気になった。

「そういえば、名前は?」

「えっ?私のですか?」

 彼女は少しびっくりしてこちらに顔を向ける。

「それ以外なにかあるのかい」

「いっ、いえ……。でも、他にもっと聞くことはなかったんですかなーと思いまして……」

 

 まあ、確かに。

 上里はここがどこかも、これからどこに行くのかも知らない。

 2回目の異世界とはいえ、慣れてしまったというわけではないだろう。

 

「なんとなく、君とは長い付き合いになりそうだな、と思ったからなんだけど。だめだったかな?」

 上里は彼女の顔を正面から見据えて言う。

「え、いや……そんなことないですっ。私はトラオリ。パジャ村のトラオリです。どうぞよろしくです」

 多少戸惑いながらも、トラオリはその小さな手を、おそらく握手だろう、右手をこちらに伸ばしてきた。

「そうか。いい名前だ。ぼくは上里翔流。よろしく」

 異世界にも握手なんてあるとは。恥ずかしがってるトラオリの手はあったかい。上里はこっちに来て初めて、本当に久しぶりに人肌の温もりを感じた。

 

 

 2人が歩くのは意外にも整備された街道だった。もちろん、空は赤いし草木も赤いのだけれど。道沿いに店なども無く、同じような風景が続く。

「で、これからどこに向かうのかな。例の予言をした司祭には、直接会えるのかな」

「あ、いえ……あの方は今忙しく働いておられますので。行っても会えないと思います。ですから、まず勇者さまにはこの辺りで一番大きな街で、装備を整えてもらおうと思いまして。なんてったって、これから魔王を倒していただくのですからっ」

 

 魔王、と来たか。名前としては「魔神」と通ずるものはあるけれど、似たようなものなのだろうか。この世界では超能力は。魔術とやらは。存在しているのか?

「まあ詳しいことは街に着いて、ゆったりとしてから話しましょう。私より詳しい方もいますし」

 (というか説明って正直めんどくさいんですよね〜)という声が聞こえた気がしたが一応考えないことにした。上里としては元の世界に帰る方法を、すぐにでも知りたかったが我慢することにしよう。彼女が知っていたとしても、いま帰してくれる訳がなかった。

 

 しかし本当に道が続いているだけで、どこにも街なんてものは見えないし、人もいない。街はすぐ近くなのだろうか。

「その街というのは、あとどのくらいで着くのかな」

 トラオリは「うーん」と人差し指を顎にあててしばらく考え、

「あと1週間くらいですかね」

 と笑顔で答えた。

「は?」

 てっきりすぐ到着するものだと思っていた。

 

 

 

 

 しばらく無言で歩いたのち。

「この道、ぼくたちの他に誰ともすれ違わないな。どうして?」

 なんとここから一週間は共に旅をするわけだし、このままコミュニケーションをとらずに過ごすわけにもいかない。正直異世界の子だし、話が合うとは思えなかったため、この世界のことについて話してもらうことにしよう。

「魔王の勢力が強まるにつれて、人類は大きな街にこもるようになりましたからねえ。行商人には辛い世の中ですよ。まだこの辺りはいいですが、この先の街道は、もしかしたら荒れ放題かもです」

 さっきは説明を嫌がったが、別に会話が嫌いというわけではないらしい。ただ単に難しい話をしたくないだけなのだらう。彼女の雰囲気からして、逆に会話をしたくてうずうずしていたようにも思えた。

「トラオリはよくこの辺を歩くの?」

「いえ、めったに住んでいる街からは出ませんので。というか出られない、のほうが正しいですね。そんな状態ですから、みんな勇者さまのことを、心待ちにしているんですよっ」

 

 

 金髪美少女トラオリさんと並んで歩く異世界道中、まだ始まったばかりだが上里はもう疲れていた。肉体的疲労はそこまででもないが、カルチャーショックとでもいうのか、異世界の洗礼というのか、そういったものに心を慣らす作業はやはり重労働だ。午前中(たぶん)から歩き始めてもう夕方になっている頃だが、元から空が赤かったため、あまり夕方という感じがしない。

 ずっとこうなのかと思ってトラオリに聞いてみると、

「あ、この空ですか?ずっと血のような赤ですよっ。偉大なる神が世界を創ってから、ずっとです」

 とのことだった。このまま夜を迎えても不気味すぎて寝られる気がしない。どこかにアイマスクないかな?

 

 

 トラオリは意外にも健脚で、こんなにも身長差があるのに上里が置いていかれるような始末だった。なんとか歩調を合わせつつ、上里は気になったことを聞く。

「これ、衣食住はどうするの?ぼくはこの服しかないし、食料も勿論ないけど」

 さっきの昼食はトラオリが持ってきたと言う、上里が知っているクッキーのような食べ物を頂いたが、他に食材を持っているようには見えないし、というか1週間も旅ができる用意はされていないように思える。

 このままでは元の世界に戻るのはおろか次の街へも辿り着けない。

 心配の募る上里だったが、ところがトラオリは平気な顔して、

「いや、そこらへんは大丈夫ですよ勇者さま」

「……そろそろ勇者さまはやめない?自己紹介したでしょ」

「じゃあ上里さま。大丈夫です。私、家事できますからっ!!」

「いや家事とかの問題じゃないだろ!?!?」

 

 思わずツッコミも激しくなる上里。

 上条当麻かよ。

 

 

 

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