ギャルゲーの世界にモブとして転生したけど、メインヒロインルート潰さないと俺は死ぬらしい。   作:サラダよりは肉が好き

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ラブコメはまだまだ加速する……!

そして、オーバーラップ文庫様より、7月刊として書籍化される
拙作「とある男子高校生のラブコメ観察日記」もどうぞよろしくお願いいたします。
ラブコメシチュエーションを観察する、変な男子高校生の日記です。
Web版と書籍版では、若干設定や内容がことなりますが、パワーアップとボリュームアップの結果です。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
Web版→https://syosetu.org/novel/299644/


第17話 陸上少女は前のシナリオを知覚するらしい。

 ボクは天童沙良!運動が大好きな花の女子高生だよ!桃色学園の陸上部で活動してるんだ!

 毎日楽しいんだけど……高校一年生になってからは、特に楽しいことが沢山あって大変なんだよね!

 全てはそう……影谷信人君っていう、高校から学園に来た男子から始まった気がするなぁ……。

 影谷君はある日突然、ボクに勝負を仕掛けて来たんだよね。正直全く意味不明だったけど。

だって登校してたらいきなり声をかけられたんだよ?

 

「用があるんだけど……その前に俺と勝負だ!学校に先に着いたほうが勝ちな!」

 

 意味不明だよね!正直数秒はボーっとしていたんだけど……でも、ボクは嬉しい気持ちがあったんだ。ボクは陸上の世界だとちょっと名前が知られてて……なんというか、あんまりボクと真面目に勝負してくれる人っていなかったんだよね。相手が“どうせ負ける”って気持ちで戦ってくるというか、なんというかさ。

 だから、全力で追いかけた!影谷君はお世辞にも足が速いとは言えなかったけど……細かい道や建物南下を利用して器用にボクと距離を取ってたんだ!後から聞いたんだけど、ボクと勝負するために事前にルートを決めてたんだって!

 ……純粋な足の速さの勝負じゃないことはちょっとだけ残念だったけど、影谷君の本気が伝わってきて、とっても嬉しかった!

 追いかけっこの途中で緋色君と出会って、そのまま友達になった!それからは、影谷君、緋色君、芽衣ちゃん、ネヴィラちゃんと遊ぶことも増えて来て……ネヴィラちゃんは最近おうちのことが忙しくて学校に来てないんだけどね。

 緋色君の様子がおかしくなったりしたけど……本当に、高校生になってから楽しいことばっかり。こんな時間が続けば良いな……なんて思ってたのに。

 

「やぁワタシの運命。ワタシを差し置いて逢瀬とは……色に目が無いね君も」

 

 勝負するために影谷君を連れ出したある日、公園に現れた綺麗な人……道標ミコトちゃん。ミコトちゃんは、影谷君を“運命”だって言ってた。影谷君はなんだかおもしろい反応をしていて……ボクは、ミコトちゃんと影谷君の距離が近づくたびに……何故か、胸の奥が少しだけ痛いような気がしたんだ。

 ……影谷君が、芽衣ちゃんのことが好きなのは何となくわかってた。二人の距離が近づいた時も、なんとなく、胸に痛みが走るような気がして。

 最初は気のせいかと思ってたけど……違うんだ。ミコトちゃんが現れて、改めて自覚した。

 

――――きっと、ボクは影谷君が好き。

 

「……はぁ」

 

 好きな人には、好きな人がいる。そして好きな人を好きな人がいて……ややこしいなぁもう!

 食欲も湧かないまま、ボクはベッドに倒れ込んだ。

 ……出会いは本当に奇妙だったし、こんな風に想い始めたのは、割と最近だと思う。

 影谷君は本当に変な人だけど……ボクが無理矢理勝負を持ちかけても、何度でも付き合ってくれた。

 

「ほう……?俺に格ゲーで勝負を挑むか……それなら受けてたとう!俺の弱下Bキック戦法が火を噴くぜ!」

 

「初心者にやるには陰湿だよ影谷君……!」

 

 ゲームでは結局勝てなくて、

 

「百メートルで勝負だと……!?万が一にでも俺に勝ち目がないのでかくれんぼとかにしません?」

 

「あまりにもかっこ悪い理由ね影谷君……」

 

 足が速くないのは知ってたから、かくれんぼしたりもしたなぁ……結局見つけられなかったんだっけ。

 他にも色々勝負した。部活もあるからそんなに回数は多く無かったかもしれないけど……いつの間にか、勝負で白黒つけるよりも、皆と……影谷君と過ごす時間が大切になってた。

 

「……ふむ、最近タイムが良いな天童。……ライバルらしいライバルもいないから、気が落ちているかとも思ったが……」

 

「ははは!確かにそれは寂しいけど……でも、楽しいことがあるので!」

 

 顧問の先生からもわかるくらい、前のボクは精神的に落ち込んでたらしい。でも、影谷君のおかげで部活の調子も良くなって……。

 

「……好きだなぁ。影谷君……」

 

 枕に顔をうずめて、足をじたばたさせる。……落ち着かない、落ち着かないけど……今日は一杯走ったから、疲れ……たな。

 こうして、ボクは眠りについて……夢を見る。そして……この気持ちを自覚したことを、後悔することになった。

 

 

「……」

 

「僕の家の前で待ち構えていたかと思えば、どうして僕の背中に隠れて様子をうかがってるのさ影谷君……」

 

「あまりにも不審者ね……」

 

 道標の襲撃(?)があって翌日。緋色、広井、俺のメンバーで……俺は緋色の背中に隠れて登校していた。……結局あの後、道標は引っ越しの荷解きが終わっていないからと帰宅。解散の流れになり、皆も帰宅。

 ……道標が俺に好意……いや、興味か?ともかく距離を詰めてこようとするのは、結構問題でもある。広井の手前、あんまり誤解されるような状況にはなって欲しくない。……正直、俺が鋼の意志を持って道標を拒絶すれば良い話といえばそうなのだが……無理やりな手段を取ろうとも思えない。そんな人を邪険にするような男を広井が好くとも思えないしな。

 ひとまず対処療法として、道標を見ても気絶しないようにすること。……仕方ないじゃない推しなんだもの!あなたも自分の推しが目の前に現れてみなさいよ!死ぬぞ!!!

 

「まるで小動物のように隠れて……可愛いね、ワタシの運命?」

 

「ヒュッ」

 

「影谷君が道標さんに耳元で囁かれて気絶した!?」

 

「……おはよう。道標さん。でも影谷君で遊ぶのはやめて頂戴。後が面倒だわ」

 

「ごめんごめん……反応が面白くてつい、ね?」

 

 ハッ!(覚醒)……一瞬意識が飛んでいた。突然背後から現れるなんて卑怯だぞ道標ミコト……!クソ!顔が良くて面と向かって何も言えねぇッ!

 

「……引っ越しの荷解きは終わったのかよ」

 

「全然?荷物が多くてね……できれば君に手伝ってほしいんだが」

 

「行きます……じゃないわ。……皆で行きます」

 

 思わず即答しかけたが、何とか踏みとどまる。危ない危ない……。

 

「僕らが行くことは確定なんだね……広井さんはどうする?」

 

「……行くわ。手伝いが男子二人だけなのは良くないでしょう。……天童さんにも頼みましょうか」

 

 なんて会話をしながら、教室へ到着。授業を受ける。……昼休みに天童が現れなかったのは珍しい出来事だった。大抵何かしら勝負を持ち掛けてくるのだが。そもそも、俺の登校に合わせて待ち伏せするような奴だ。朝練が無い日は必ずと言っていい程俺に襲撃をしかけてくるのだが、それも無かった。

 会えないまま放課後を迎えたので、とりあえず皆で天童のクラスに顔を出してみることに。……が、「ちょっと部活前に屋上の空気吸ってくるね」なんて言って、教室からいなくなったらしい。

 放課後に用事があるらしい緋色と広井は離脱。道標も職員室に用事があったとかで離脱し……俺一人で、屋上まで向かった。メッセージも送ったのだが、既読にすらならない。直接会いにいくしかないだろう。

 そして、屋上まで階段を上り……外への扉を開ける。天道は、そこにいた。立ったまま空を見上げていたが、俺が屋上に来たことに気が付いて、そっちを見る。そして、

 

「……のぶ、君?」

 

「……は?」

 

 自分の事を呼ばれたと理解するまで数秒を要した。……そして、その後、天童が寂しそうな表情をしたのをみて、猛烈に嫌な予感がしたのだ。

 

 

「……」

 

「……」

 

 天童と、屋上のベンチに腰掛ける。数分、お互いに沈黙していた。……何から話せば良いものか、何なのか。……天童のこの変わりようと、俺のことをあだ名のようなもので呼んだこと……俺の中で、ひとつの仮説が立っていた。それが正しければ、天童がこうしてしおらしくなっていることは、理解ができる。

 

「……なぁ、天童」

 

「……何?」

 

「……何か、夢でもみたのか?」

 

 天童が、こちらを向く。驚きの表情だ。……やがて、何かを覚悟……いや、諦めたような表情になり、少しずつ語り始める。

 

「……なんで、とかは聞かないよ。影谷君、その様子だと何か知ってるんでしょ」

 

「……何を知ってるか、は言えないけどな」

 

「……じゃあ、聞いてくれる?正直、受け止めきれないというか、そんな感じでさ……ははは……」

 

 力なく笑う。……普段が元気なだけに、その様子はひどく痛々しい。

 

「……昨日ね、夢をみたの。……その中だとね、影谷君とボクは……恋人同士だったんだ」

 

「……」

 

 予想が、当たってしまった。天童が見た夢とは恐らく……金城とおなじく“影谷信人が主人公だったシナリオ”の夢だ。……追体験してしまったのだろう。“本物の影谷信人”と、自分自身が過ごした時間を。

 

「最初の出会いはね、無茶な練習をして脚を挫いたボクを、影谷君……信君が見つけてくれるところから始まったんだ。……陸上で誰も真面目に勝負してくれなくなって、自分のタイムを更新することだけが全てになっていって……自主練して、捻挫した。……そこに居合わせた信君が、手当してくれた」

 

「……」

 

「その頃のボク、荒れてたみたいでさ。結構酷いこと言ったんだ「君には関係ないから、善人ぶらないで」なんてことも言ったりしちゃったんだ……たはは、本当に酷いね」

 

「……精神的に参ってる時なんて、そんなもんだろ」

 

「ありがと。……そこから、自主練に使ってた公園で時々会うようになって、学園の生徒って気が付いてからは、廊下でたまに会ったら挨拶する程度になって……どんなに苦しいと思った時でも、信君はただ優しく話を聞いてくれてたんだ。……嬉しかった。本当に」

 

 ……金城もこぼしていたが、本物の影谷信人、聖人すぎないだろうか?……緋色の性格は、ある程度影谷信人がベースになっているのかもしれないな。

 

「……ある日、信君が他の女子と楽しそうにしているところを見て、胸が苦しくなって……焦って、信君に詰め寄って……感情が溢れ出して……ボクにやさしくしてくれる人なんて、いないと思ってたから」

 

「……そうか」

 

「……そのまま、最低の告白をしたんだ。「ボクに優しくするなら、ボクだけを見て欲しい」……って。……信君は、そんなボクを抱きしめてくれた」

 

「本当に聖人すぎるな信君……」

 

「……その後、こう言った「こうするのは、同情でもなんでもなく、君の事が好きだからだ。先に言わせてごめん」……って。……すべてが、救われた気がしたんだ。そのまま抱き着いて、泣きじゃくって……」

 

「……そこから、楽しかった。いろんな場所に行って、いろんなことをして……そして、夏祭りの日を迎えて……目が覚めた」

 

 ……大まかなイベントは変わらないのだろうか。金城も同じようなことを言っていたな。

 

「……今、影谷君を見て確信した。あの記憶は、ただの夢なんかじゃないって。……あの時感じた記憶が、感情が、全部ボクの中に残ってるんだもん……!」

 

 ……天童の両目から、涙がこぼれる。……突然記憶があふれ出して、感情も一緒にぶち込まれて……混乱するだろう、不安だろう。……この世界のバグのせいなのだろうが、本当にろくでもない。

 

「……天童」

 

「……影谷君は、信君じゃないんだもんね?あの時ボクを抱きしめてくれた、信君は……今は、いないんでしょ……?」

 

 涙声になりながら、天童が俺に問う。……誠実に、答えるしかないだろう。俺が本物の影谷信人のふりをしたって、天童を傷つけるだけなのだから。

 

「……あぁ。俺は“信君”じゃない。“影谷信人”のような、何かだよ」

 

「……そっか、……そっかぁ」

 

 ……俺は、天童が泣き止むまで待った。抱きしめることは、できない。俺はただ、横にいることだけしかできなくて。ただ、その時間が辛かった。申し訳なさが、胸にいっぱい溢れていた。

 

「……ごめんね、ありがと」

 

「……別に、大丈夫だ」

 

「……“影谷君”」

 

「……なんだ」

 

「……影谷君は、優しいね」

 

「優しくなんかない。俺は……本当に自分勝手な奴だよ」

 

「……そこは、似てるんだ」

 

 ……少しだけ、笑った天童は、そのまま立ち上がる。

 

「……今日は、帰る」

 

「送ってくよ」

 

「……ううん。いいよ。気持ちを整理したいんだ」

 

 ……本当は、ここで頷いてあげたい。そっとしておいてあげたいが……こうなった天童に金城が接触する可能性もある。俺、金城に続く、メタ的な視点を手に入れてしまっているから。

 

「……流石に、そんな顔をした奴一人にできねぇだろ」

 

「……うん」

 

 そのまま、言葉はないまま帰路につく。何回か口を開きかけたが、声が出なかった。……俺は“影谷信人が主人公のシナリオ”の記憶はないけど、天童には、その記憶が強く残ってるんだもんな。天童ルートともいうべき、青春の記憶が……。

 

「……ここ、ボクんち」

 

「……そうか」

 

「……ねぇ、影谷君」

 

「……なんだ、天童」

 

「……芽衣ちゃんのこと、好き?」

 

「……!?」

 

 思わず取り乱す。唐突になんだ!?……気が付いていたのか?広井に惹かれていたことに……。普段の動きがアホの子の部分が多いから、気が付かれているなんて思ってもいなかったんだが……。

 

「やっぱり、そうなんだね……あーあ、こっちだと、振られちゃうのかな……」

 

「振られ……?何言ってんだ……?」

 

「……にぶちん」

 

 天童に、デコピンされる。……一体今度はどうしたっていうんだよ。

 

「……うん、うん。まだ気持ちは整理つかないけど、楽になった。ありがと、影谷君」

 

「……お、おう?」

 

 ……ひとまず、落ち着いたなら良いか。

 

「あ、影谷君あそこ」

 

「あん?なんだ?」

 

 天童が唐突に指を指したので、そちらの方向を向く。……何だ、一体何もないじゃないかと、天童の方に向き直った瞬間。

 

――――――頬に、柔らかい感触を感じた。

 

 天童の顔は、俺の顔のすぐそばにあって。天童の顔は、気恥ずかしいような、寂しいような……そんな憂いを帯びた表情が、色っぽく映った。

 

「………」

 

「……やっぱり、そうだね。……ボクは、ボクなんだ」

 

 何かを納得したかのように頷いて、そのまま家のドアを開けて、中に入ろうとする天童。

 そして、最後に振り向いて、

 

「……ボク、頑張ってみるよ。……諦めるには、早そうだし、ね」

 

 そうして家の中に引っ込んでしまった。……数分、放心状態で動けなかった。……その間覚えているのは、俺の顔が、とんでもなく熱を帯びていたということだけだった。

 

 




天童さんがアップを始めました。影谷君は大変になりました。ドンマイ。
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