ギャルゲーの世界にモブとして転生したけど、メインヒロインルート潰さないと俺は死ぬらしい。 作:サラダよりは肉が好き
そして、オーバーラップ文庫様より、7月刊として書籍化される
拙作「とある男子高校生のラブコメ観察日記」もどうぞよろしくお願いいたします。
ラブコメシチュエーションを観察する、変な男子高校生の日記です。
Web版と書籍版では、若干設定や内容がことなりますが、パワーアップとボリュームアップの結果です。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
Web版→https://syosetu.org/novel/299644/
「どうしよう神えもん……」
『誰が神えもんか……ある意味男の夢ではあるけどね、今の状況』
……天童が前のシナリオの記憶を得た夜。俺は夢の中で神に相談をもちかけていた。だって……あんなことされるなんて思わんやんけ!
『道標ちゃんに天童ちゃん……美少女に好意を持たれているのに何が不満なのさ……って、普通なら言えるんだけどねぇ……』
「……」
……俺は、広井が好きだ。その気持ちにブレは無い。……無い、筈なのだが。どうにも、明らかに好意的な感情を持っている人に出くわした経験が無さ過ぎて……混乱状態である。
『……まぁうん。ある意味幸せ?な悩みを壊しちゃうようで悪いんだけどさ……多分、彼女たちは……』
「言うな……わかってる。わかってるよ。彼女たちが好意をもっているのは、前のシナリオ……“影谷信人が主人公のシナリオ”の、各々のルートの記憶を持ってるからなんだろ」
……これの影響力は、とても強いと考えている。なぜならば、あのゆるふわ天然キャラであるはずの金城・アレクサンドラ・ネヴィラが陰湿な策を立てるようになるほどだ。……それほどまでに、彼女たちの中にある“本物の影谷信人”との記憶は根強いものなのだろう。
『そうだね……道標ちゃんはまだその片鱗程度だけど、何がきっかけで豹変するかわからない。気は抜いちゃだめだよ。その上でメインヒロインルートを阻止しなきゃ』
「……そうだな。……最悪の場合、俺が広井と結ばれなくたっていい……ゲーム通りのメインヒロインルートを止めれさえすれば、それで……」
……惹かれてしまわなければ、もっと非常な手段を取れたのだろうか。……可能かどうかはさておくとして、例えば広井をどこかに監禁するなりしてしまえば、少なくともゲーム通りの展開は避けられる。
そんな中でも、日常を送りながらルートを阻止するという選択をした俺は、愚か者なのだろうか。……彼らが血の通う人であると知り……俺自身が、彼等を友人だと思っているからこそ、非人道的な手段はとりたくない。……そして、広井も、天童も、金城も、道標も、緋色も……皆がそろって居て欲しい。
『自分勝手な自分を見直したといっても、やっぱり君はエゴイストだね』
「……何が言いたい」
『全てを手に入れようなんてことは、傲慢の極みってことさ。……神的には嫌いじゃないけど』
……人の本質っていうのは、変わらないものらしい。そう考えると、中々に苦い気持ちにはなるが……。
『色々言っても、結局神には大した干渉はできない。……六月も終わる。引き続き、よろしく頼むよ』
「……あぁ、七月に入ると、強制的なイベントも増える。……色々できるのは、今月だけだからな」
段々意識が浮上していく。……何があろうと、乗り切らないとな。
☆
決意を新たに家を出て登校ルートに乗ると……そこには、天童が居た。
「あ!影谷くーん!」
と、いつものように駆け寄ってくる天童。……昨日あんなことをしておいて、随分普通だが……それならば、俺にとっても都合が良い。
「おう、おはよう天ど「おはよ♪」うひぃあ!?」
きゅ、急に耳元で……今までこんなことしたことないだろお前……!
「かーわい♪じゃあいこー!」
何事も無かったかのように先を歩き始める天童……なんだコイツ、なんだコイツゥ……!
その後ほどなくして、
「やぁワタシの運命……それと天童さん」
「おはよーミコトちゃん!」
ど う し て
どうしてもこうしても無いのだが、よりにもよってなんでこの二人が合流してしまうのか。……隙を見て逃げ出すしか……!
「あっUFO!」ダッ(間髪入れずに路地裏に逃げ込む
「え!?……って引っかかるわけないってばっ!」ダダッ!(天童に秒で捕まる
「かわいらしい逃げ方をするねワタシの運命?あと、UFO程度じゃワタシは驚かないよ。ワタシの気を引きたかったら史上最強の生物くらい連れてきたまえ」
「驚くベクトルがおかしいって……だぁ!放せッ!」
ジタバタしてみるも、運動部である天童の拘束を解くことはできなかった……あれ、少しずつ強くなっているような……天童さん!?首に顔を埋めて匂いを嗅がないで!
「……朝から、楽しそうね。影谷君」
「ひ、広井!丁度いい所に!た、助けてくれ!普通に逃げられない!」
「……力負けするって恥ずかしくないのかしら。……先に行くわね」
「そ、そんな!」
広井はそのまま怒った様子でスタスタ行ってしまった……俺広井になにかしたっけ……実は嫉妬……?そんなまさか……!
結局そのまま抱きかかえられる形で登校してしまった。途中に出くわした緋色には「シュールな光景だね、勝負に負けたの?」とか呑気に言われるし、すっかり忘れていたゲーム内の緋色の友人キャラ天月茜さんには「へぇ……成程ねぇ……」なんて言われ、男子連中には嫉妬の目を向けられながら教室まで送り届けられてしまった。天童はクラスが違うので戻って行った……何だったんだあの時間は!
「お疲れ影谷君。……で、何の勝負してたの?新手のプロレス?」
「ちがわい!……逃げようとしたら、捕まって逃げられなかっただけだ」
「本当にただ捕まっていただけなのね……まぁ私には関係ないけど」
「おやおや、ワタシの運命に随分冷たいね広井さん。何か理由でも?」
別に、何もないわと言った後に本に視線を落とす広井……ま、不味い……何か知らんがとても不味い気がする……!
「あ、あのさ広井」
と、話しかけようとした時チャイムが鳴り、担任が教室へとやってくる。……くっ、タイミングが悪い……!
「えー、皆さんにお知らせがあります。……そろそろ夏休みが近いですが、その前に中間テストです。補修者出すなよ、面倒だから」
なんてお知らせがあり、クラス内のテンションは二分化された。夏休みという希望にはしゃぐ者。テストに絶望する者……俺は、どちらでもなくただ焦りを募らせる。
夏休み突入からほどなくして、夏祭り……ルート確定のターニングポイントが訪れる。……最早、ゲーム前提での“好感度”なんて指標にすらならない。世界がバグりゲームのようには行かないとはいえ、ある程度の流れは存在する。
夏祭りはその流れで最も重要だし、恐らく無くなることもない。……前のシナリオの記憶がある金城と天童からも、“夏祭り”というワードを聞いたからだ。これだけは、絶対に避けられない。
そして、それまでに金城が介入してこないとは考えられない。……今は教室にすら姿を現さないが、気を抜くことは、できない。
「……緋色」
「急にどうしたの影谷君」
「……負けないぞ」
「……本当に、どうしたのさ影谷君。……負けたくないのは、僕もなんだけどね」
二人で広井を見ながら、宣言する。広井本人はただ、担任の話を黙って聞いていた。
☆
七月に入った。夏真っ盛りと言う感じで、制服も夏ものに切り替わっている。夏祭りまで時間も無い中……七月に入ってすぐの休日。
「やぁワタシの運命と愉快な仲間達……今日は集まってくれて感謝するよ」
「愉快な仲間達って扱いなんだね僕たち……困ってるならお互い様。助けるのは当然だよ」
「……まぁ、約束してしまったものね」
「やるぞー!」
「そういえばそんなのもあったな……色々あって忘れてたぜ」
道標の新居に集まって、荷解きを手伝うことになった。メンバーは御覧の通り、俺、緋色、広井、天童である。
ちなみに道標の新居は一軒家で二階建てだ。一人暮らしするらしいが、無駄に豪華である。……俺だけだったら間違いなく死んでるな。荷物の量も相当あるし。
「家電とかの必需品は業者で何とかなったのだが、流石にプライベートな部分や、こまごましているものの整理が追い付かなくてね。お願いするよ」
「じゃあ早速……道標さん。この段ボールはどこに運べばいいかな?」
「あぁそれはワタシの運命の衣類だから、二階の部屋に頼むよ」
「あぁ影谷君の……って、え?」
「知らない!そんな話俺知らないッ!!!!」
「すごーい!入ってる服合わせて見たら影谷君にぴったり!」
「……影谷君。最低ね」
最初からやらかしてくれるなこの最推しが……!他にも、俺のコップやら箸やら出てきたが丁重にお断りするやり取りが続いたりした。……その度に、広井の目が冷たいものになっているような気がしたのは気のせいだと思いたい。
だが、こういうのに慣れている自分もいる。道標と邂逅してから数日は、耳元でささやかれるだけで気絶する日々が続いたが……今は気絶しなくなった。……意識は少し危ないが。美人だって三日で慣れるという話もあるのだ。流石にそう何度も気絶はしない!
ガッ(道標が躓く音
ダッダン!(道標がその勢いで俺に接近し、結果的に壁ドンの構図になってしまう音
「ヒュッ」
「影谷君がいつもの如く気絶した!?」
「もう定番になってきたねー」
「初心だな、ワタシの運命は……ふふ」
「……何やってるのよ。荷解き終わらないでしょう。手を動かしてくれるかしら」
その後もハプニングと気絶を繰り返しながら……夕方頃には全ての荷解きが終わった。
ほ、本当に疲れた……。
ひとまずは落ちつき、俺はそとの風を浴びるために二階のベランダに出る。
「……はぁ」
「溜息なんてしてどうしたんだいワタシの運命」
「ヒュ……ってそう何度も気絶しないぞ馬鹿め!」
「一体なにと戦っているのだろうね……」
道標が突然後ろから声をかけてきた。……いろんな意味で心臓に悪いからやめて欲しい。
「……なぁ、道標」
「ミコトでいいよ」
「道標。……どうして、そこまで俺にこだわるんだ」
「ミコトでいいよ。……前に言わなかったかい?」
「占いがどうとかってやつだろ?……お前が占いに絶対の自信があるのはわかる。だけどここまで俺に執着できるもんなのか?」
「……そうだねぇ」
俺の横に並び、夕暮れを眺めながら道標は語り出す。
「……正直、最初は興味本位だったよ。恋愛的なものがあったのかと思えば、怪しい」
「まぁだよな……」
「……だがね、こんな奇妙なワタシをなんだかんだ言いながらも、煙たがらずに共に在ってくれた」
……お前、まさか。
「自分が変だって自覚はあったのか……!」
「ははは、泣くよ?……ワタシは人と感性が違う。だから、中々に集団というものに馴染めなくてね、小さい頃は、寂しい想いも随分としたんだ」
……ゲームの道標ミコトの情報は、俺も知っている。占いが趣味といいながら、その精度は軽く趣味の範疇を超えている。本人の独特の感性から行われる占いと、それに対する絶対の自信は……周囲の人々を遠ざけていった。こうして孤高に君臨する占い変人が出来上がる。
……こうして考えてみると、広井しかり、天童しかり、道標しかり、そして金城も……己の孤独と戦っていたのかもしれない。それが緋色という主人公の手によって救われるのが、ゲームとしての流れ。……そして、それは前のシナリオ主人公、“本物の影谷信人”の手でも、同じことが行われていたのだろうな。
「そんなワタシを、君を含む彼等は受け入れてくれている。……結構、今が楽しいんだよ、ワタシは」
「……そうかよ」
「……何より、ね。君は流すでもなく“受け止めて”くれるからね。……君の横は、きっと誰にとっても心地いい」
……俺の肩に頭を乗せて来る道標。いつものような強引な感じではなく、そっと行われた行動に、俺はどうすることも出来なかった。
緋色が俺を呼ぶ声が聞こえるまでの数分、俺たちはそのままだった。その後は特に何が起きるわけでもなく、皆でファミレスで外食した。お礼だと言って、代金は道標が出してくれた。
……彼らが、ゲームのキャラではなく人間だと感じる度に、俺はひどく締め付けられる想いを感じる。俺が、俺だけがこの世界で異物なのだと、強く感じるのだ。
そんな苦しみを嘲笑うかのように、翌日……とうとう、金城が学校に登校してきたのだった。
夏、それは恋の季節——————