ギャルゲーの世界にモブとして転生したけど、メインヒロインルート潰さないと俺は死ぬらしい。 作:サラダよりは肉が好き
そして、オーバーラップ文庫様より、7月刊として書籍化される
拙作「とある男子高校生のラブコメ観察日記」もどうぞよろしくお願いいたします。
ラブコメシチュエーションを観察する、変な男子高校生の日記です。
Web版と書籍版では、若干設定や内容がことなりますが、パワーアップとボリュームアップの結果です。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
Web版→https://syosetu.org/novel/299644/
書影も公開しております。是非公式サイトにてご確認ください。
プールでのイベントで、俺は改めて世界の強制力を強く感じることとなった。
具体的に言えば……あまりにも緋色の主人公力が高すぎる事象が続いたのだ。
例えば、プールサイドでよろけてしまった広井を広井が支え、抱き合う形になってしまったり。
例えば、水上バレーにて。緋色が放ったスパイクが金城の胸に当たってしまい、水着がずれてしまうというムフフなハプニングが発生したり。
例えば、はしゃいで全速力で泳いでくる天童を緋色が受け止める形になってしまい、そのまま抱き着くような形になっていたり。
例えば、緋色の目の前で道標のドリンクがこぼれてしまい、道標がべたべたなってしまったり。
なんだこのラブコメ野郎は……ラブコメの主人公なんだよなぁ。
俺とてただ見ていただけではない。緋色と広井の距離が縮まらないように出来る限り一緒に行動していた。していた上でコレなのである。広井以外のイベントは放置してなお、十五分毎くらいのペースで色々イベントが起きるから処理しきれん……!
今までも、イベントの妨害は幾度となく行ってきたが……今回はその比じゃない……普通、に、疲労が……蓄積している……!
「ぜぇ……ぜぇ……」
「いつの間にか虫の息になってるよ影谷君……!」
「何をしたらそうなるのよ……」
妨害するにおいてとりあえず広井に密着することも考えたのだが……緋色の行動を阻害してしまえば早いのでは?と考えた結果、緋色の体力や身体能力について行こうとついて回ったのだ。……泳ぎでは、
「~♪」ザァァァ(かなりの速度で泳ぐ緋色
「がぼっけほっ……!」(追いつこうとするもほぼカエルの俺
水上バレーでは……
「よっ、ほっ」(華麗にレシーブなどをする緋色
「あべっ、ぐはっ!」(顔面にことごとくボールを食らう俺
といった具合で、順調にダメージを蓄積している。どうじで……。
緋色に肩を貸してもらいながら背もたれが広い椅子へと移動し、休憩する。結果的に女子から放すことに成功した。
「僕飲み物貰って来るから、ちょっとまっててね」
「ちょっ」
二秒で離れた。失敗だなクソァ!
身体を動かすこともできないので、そのまま倒れていることにした。こうして離れている状態そのもの自体は非常に不味いのだが……体力の配分を失敗した敗北者にはなすすべはない。
「……何やってるんだ俺」
「それはワタシも気になるところだね、ワタシの運命?」
「ヒュッ……とは流石にいかないぞ……どうしたんだ道標」
道標はいつも唐突に現れるから心臓に悪い……。
「ワタシは君を探していたんだよ。突然姿を消していたからね」
「……御覧の有様だ。遊びすぎて緋色に運ばれて今……情けなさすぎる」
「はは、否定はできないね」
そのまま俺の顔を覗き込む道標……顔が良いから目のやり場にはとてもこまるのだが、流石に慣れて来た。……気絶しなくなったというだけで、まともに見れるわけではないのだが。
「ふむ……こうして見てみると……別段優れた容姿をしているわけではないんだね、悪くも無いが」
「精神的に殺しに来たなら帰ってくれません?泣くから」
「泣きたいなら私の胸が空いているよ?」
「ンンンンン!!!!」
非常に魅力的な誘惑が飛んで来るのは心臓に悪いので本当にやめて欲しい。
……そういえば、道標は占いの結果“影谷信人”という存在に目をつけて転校してきたんだったな。……つまり、前のシナリオの記憶を取り戻したわけでは無いのに、俺にこうして接近してきている。
……それは不自然じゃないか?金城は前のシナリオの記憶を取り戻したから、“本物の影谷信人”を取り戻したいがために世界を崩壊させようとしている。天童は前のシナリオの記憶に引っ張られて俺に好意を抱いている……のだと思う。前のシナリオの記憶を取り戻していないのに、影谷信人という存在が強く興味を持たれるものだろうか?
「道標……最近変な夢とか見て無いか?」
「変な夢は見てないよ?君と過ごす素敵な夢は見たけどね。」
「やっぱり……ってンンンンンン?」
おい!見てるじゃないか!!!!!やっぱりかよ!!!!
「……ぐ、具体的には?」
「そうだねぇ……夢の中では、君とワタシは別の高校なんだ。それでも時間を合わせて色んな場所にデートへ行ったり、家に行ったり……」
……内容は、おおよそ天童が言っていたものと変わらないか。……“本物の影谷信人”と過ごした、道標ルートとも言うべき記憶。……なんだ、やっぱり前のシナリオの記憶ありきの好意なのだ。そうでもなければ、俺が好意を寄せられるわけではない。……そもそも、俺は影谷信人ではない。影谷信人の肉体に入った別人だ。……わかっているのに、どうしてこんなに空しい気持ちになるのだろう。
「……後、記憶は朧気だが……羽を見た気がするんだ」
「……羽?」
「あぁ、夏祭りの夜。月明かりに照らされた……黒い羽と、白い羽。夏祭りデートの最後で、花火を見るために神社へと行き、花火が撃ちあがり切ったその時。空から羽が落ちてきて……というところで、夢は終わったよ。……一体なんだったのか、良くわからないが」
……黒い羽と、白い羽。……悪魔と、天使か?前のシナリオでは、キャラクターとして登場していた……?
「……それで、夢があったからこうやって俺に絡んでくるのかよ」
「……難しいね。占いの結果、というのもあるし、夢というのもある。ひとつ言えることがあるとすれば……ワタシは自分の意志でしか人に近づかないってことくらいかな」
俺の頬をつつく道標。……いちいち行動が絵になる奴だ。
「だからそんな不貞腐れた顔をしないでくれよワタシの運命……うっかり食べてしまったらどうしてくれるんだい?」
「ちょっとそのスタンス本当に怖くなってきたんだけど!?」
思わず飛び起きてしまった。本当に心臓に悪い……どこまで本気にして良いものかもうわからないな。本気なわけはないんだろうけども。
「飲み物持ってきたよ影谷君……道標さんも休憩?」
「あぁ、そんなところだよ。……にしても緋色君。顔に見合わない肉体をしているね……頭だけ挿げ替えたのかい?」
「酷い言われようだ!?……ちゃんと鍛えてるだけだよ……ほら、筋肉ってあったらかっこいいじゃない?」
「……そこまでついていると魅力というより純粋なパワーを感じるけどね」
「そんなに!?」
「俺は羨ましいけどな……人それぞれってことか」
ゴリマッチョがモテモテなわけではないという話はあるが……中々難しいようだ。
「……そろそろ戻るか。ありがとな緋色」
「大丈夫?別に夏休みもあるんだし、今日無理して動かなくても良いとおもうけど……」
「……大丈夫だ」
……そうだよな、こいつらにとって夏祭りは当たり前に訪れるものなんだ。もしかしたら、俺は途中退場……どころか、世界そのものが無くなってしまうかもしれないが。そうならないために、頑張らないと。……自信を失っている場合じゃ、ないな。
☆
「……燃え尽きたぜ、真っ白によ」
「人間って精魂尽き果てるとこうなるのね……」
「本気で練習しまくったあと見たいだねー」
その後も必死に動いて色々と妨害工作に走り……帰る頃には、既に俺はこんな有様である。上手く行ったかと言われれば怪しいが、何もしないよりはマシであると信じるしかない。
「今日はありがとうございました~」
「こっちの台詞だよ金城さん……貸し切りプールなんて……」
「いいんですよ~。では、また学校で~」
駅で解散し、それぞれ帰路に着く。……結局、金城の周りで特に不自然なことは起こらなかった。悪魔も、見かけない。
……久しぶりに、一人の帰路だ。思えば、この世界に来てから一人になることが少ない。……転生前は、友達は居てもこうして遊ぶことは皆無といっていいくらいだったしな。
一人になると、本当に色々考えてしまう。……この世界に来て最初の頃は、ただただ必死だった。それから、この世界がゲームではないということを改めて認識して……向き合うことを決めた。
正直上手くはいっていない。……それはそうだ。人との関係で、うまくやろうって考える方がおかしいことだ。
素の俺になってしまったからこそ、不安だ。どう思われているのか、とか。相手を不快にしていないか、とか。
……考えれば考える程、心がマイナスになっていく。良くないことだとわかっていても、止められない。
転生前は、真剣に現実に向き合ったことなんてなかった。流されるように生きていて、趣味に生きていた。
……陽キャがどうとか陰キャがどうとか……それ以前に、その人との向き合うということが大事なわけで。
……今の俺は、それは出来ているのか……?
「わかんねぇなぁ……」
自販機で飲み物を買う。この暑さの中だとコンビニに行った方がまだマシだが……今は、店員とのやり取りですら億劫だった。
「……」
「何してるの?」
「人生に悩んでる途中」
「それは哲学かい?」
「さぁ……」
思わず後ろからかけられた声に反応してしまったが……一体だれだ?ここまで来れば、誰とも帰り道は被らないはずだが……
振り返ってみると、意外な人物がそこに居た。
「よっ」
「……天月さん」
ゲーム内における、主人公の友人キャラクターであり……コミュ力も高く、プレイヤーから人気もあったが……俺が生きている間には、終ぞそのルートが実装されなかった、面倒見が良い姉御系キャラクター。天月茜の姿が、そこにあった。
「天月さんって……影谷君、誰かのことを呼ぶとき、苗字+呼び捨てでしょ?なにかしこまってんのさ」
「……こう、なんか天月さんは天月さんなんだよ。姉御的な?」
「同級生なんですけど~?」
……俺が介入してからは、あまり関わる機会が無くなったな。緋色とは幼馴染で、中々に面白い動きをする人物なのだが、ことごとく俺が介入したせいで、出番を奪ってしまっていたのかもしれない。
イベントにおいて、ルートもフラグも存在しないキャラは割と簡単に処理されている。……転生した頃の俺は必至すぎて、そこら辺のことはあまり考えていなかった。
「天月さんは、買い物帰りか何かか?」
「違うんだなぁこれが。……ちょっと、心配になっちゃってね」
「……何が?」
そうすると、天月さんは俺に背を向けて、振り返る。
「……君の心がだよ、影谷君」
「……は?」
瞬間……天月さんの周りに白い羽が舞い……背中には、純白の羽が現れていた。
天使、登場。