ギャルゲーの世界にモブとして転生したけど、メインヒロインルート潰さないと俺は死ぬらしい。 作:サラダよりは肉が好き
そして、オーバーラップ文庫様より、7月刊として書籍化される
拙作「とある男子高校生のラブコメ観察日記」もどうぞよろしくお願いいたします。
ラブコメシチュエーションを観察する、変な男子高校生の日記です。
Web版と書籍版では、若干設定や内容が異なりますが、パワーアップとボリュームアップの結果です。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
Web版→https://syosetu.org/novel/299644/
書影も公開しております。是非公式サイトにてご確認ください。
「すみませーん!ふわふわパンケーキとキャラメルマキアートくださーい!影谷君はどうする?」
「……コーヒーで」
天月さんに連れられて、俺はカフェへと足を運んでいた。……あの時、背に見えた羽は見間違いなどではない……まるで、というより見たまんま天使の様相をしていた天月さんは、一瞬でその羽を引っ込めて、俺の手を取りここまで連れてきたのだ。
パンケーキが来て食べ終わるまでは他愛もない話……に対して、俺が上の空な相槌をうつだけだ。
「……もう色々気になって、それ以外考えられないって様子だね」
「当たり前だ……妙だなとは思ってたけど、まさか天使が身近に居たなんて思わないだろ」
「確かに!まぁアタシもバレないように目立たないようにしてたから無理もないって!どんまいどんまい!」
無邪気な笑顔でそう言い放つ天月さん。……バレないように立ち回っていたにも関わらず、どうして俺にコンタクトをとってきたんだろう。
「さてさて、おなかもいっぱいになったし……本題に戻ろうかな」
「……本題?」
「言ったでしょ?君の心が心配なの。……無理、してない?」
……俺の心が、心配……?ますますわからなくなってしまった。どうして天月さんが俺の心配なんかするんだろう。あまり話したこともないし、関わりはほぼ無いと言っていい。……一度だけイベントフラグ検証のために利用させてもらった気もするが……。
「別に。……俺の心配より、世界の心配しとけよ。滅びるかの瀬戸際なんだぞ」
「といっても、とても大丈夫そうには見えないから声をかけたんだよねー……今、酷い顔してるし、ね」
……何が酷い顔だ。面が良くないのは元々だし、肉体的には疲れているが……行動に支障はない。いいや、出しちゃいけないんだ。
「……それより、色々聞きたいことがある」
「だろうね。神が話せないことを、アタシは話せるし」
「本当か!?なら……!」
「でも、ダメ。……今の影谷君には……ううん。今の■■君には、何も話せない」
……今、何か言ったのか?俺のことを、呼んだのか?……ノイズがかかったかのように聞き取れない。
「……」
「……聞こえなかった?……やっぱりね。……心が侵食されてきてる」
「侵食……?」
「うん、侵食。……元々君はこの世界では異物。本来なら転生すらできないのに、世界がバグでおかしくなっていることを利用して、貴方魂は無理やり“影谷信人”に宿らされた」
「…………」
「つまり、今の貴方は身も心も“本物の影谷信人”に変化しつつあるの。……元々あんなにハイテンションだったのに、最近はテンションを上げるだけでも疲れるでしょ?」
……侵食?変化……?そんなことになってたのか?……確かに、転生してからはテンションを馬鹿みたいに上げて行動してた。……でもそれは、理不尽な現状から目を背けるためのもので……。
「本来の影谷信人君は、思慮深く誰かを思いやる精神をもった優しい男の子……だけど、自分に自信がないから自己評価はとても低い。誰かの為には頑張れるけど、自分の為には頑張れない……そんな男の子だった」
「……」
「それに比べて本来のアナタは……自分の好きなことにはとことん本気を出すけれど、それ以外のことにはどうにも熱中できない……それが、人間関係であってもね。自分の刺激を優先するような、そんな男の子」
……客観的評価を聞くと、相当最低野郎だな、俺。でも現代人なんてみんなそんなものじゃないか。自分が第一で、他人のことは二の次……“俺だってそうされてきた”。人間なんて、そういうものだと、思っていた。いたのに……。
「でも貴方は変わった。緋色たちと……ゲームのキャラじゃなくて、人として彼等と関わることを選んで……足掻いて、もがいて。それ自体はとっても素敵だと思う。……でも、それが良くない形で作用してしまった」
「……なぁ、侵食とか変化とか言ってるけど……もしかして、もしかしてだ」
――――俺の中に、“本物の影谷信人”は、居るのか?
「……うん、居る。この世界に転生した時から、ずっと」
☆
鼻歌を歌いながら、私……金城・アレクサンドラ・ネヴィラは、紅茶を嗜む。……高揚する気分を落ち着けるための紅茶だけど、全然心は落ち着きそうにない。
「~♪」
『随分ご機嫌だなァ……』
「ご機嫌にもなりますよ~♪……今日の彼の様子を見ていればね?」
……そう、今の機嫌はとても良い。だって私の愛しい人……“本物の影谷信人君”が、少しずつ、目覚めてきているのだから。
偽の影谷君……影谷さんは、気が付かない内にその精神性を、本物の影谷信人君に侵食されている。シナリオが変わり、世界が作り変えられようとも、影谷信人という人間が居るならその魂はそこにある……!
そうでなければ、私がこうして前の記憶を持っているのだって説明がつかない……。この話を悪魔に聞いた時、心に希望が溢れた。……取り戻すことが出来る方法もあるというのだから!
「……悪魔さん。“契約”は違えませんよね?」
『当たり前だ。……お前は、世界を崩壊させてバグを広げ……“本物の影谷信人”の記憶を取り戻させる。オレは世界を崩壊させて“この世界に現界”し、同じく現界させた神を殺して成り代わる……』
「それならばいいんです。……間違っているのがこの世界なら、作り直さなければいけません~」
『……あァ。そうだな。……俺が神になったら、前のシナリオの世界に戻してやるよ』
神様というのは何でもできる代わりに、一度世界を創ってしまった後は不干渉が基本だそうだ。
今のこの世界は、イレギュラーによって無理やり書き換わってしまった世界……世界そのものが無くなったわけじゃないがために、今の神は本来の役割に徹することしかできない。
狂ったなら作り直せば良い……とはならず、世界が壊れてしまえば、世界に存在するすべての生物は死に絶えてしまう……だからこその、“転生者”という抜け穴を使ったのだ。
自分以外の、メタ的な視点を持つ協力者……喉から手が出る程欲しいソレを、世界が不安定なことを利用して作り上げた。それが偽の影谷さん。
「本当は悪魔さんが色々やってくれれば楽なんですけどね~」
『ぬかせ。お前こそ、金の力で解決してしまえば楽だろうによォ!』
「私が動かせる金額なんてたかがしれてますし~」
……今日、偽の影谷さんに会って確信した。揺らいでいる。覚悟や決意を固めたつもりであろうとも、彼は今自分に向き合うのに精一杯……!
……正直、記憶を取り戻した天童さんと道標さんがこちらにつかなかったのは面倒だけど、彼女たちが偽の影谷さんにアプローチを仕掛けてくれるなら好都合で……それに、肝心の広井さんは“前の世界の記憶”を取り戻していないようだ。
「……哀れですねぇ、“影谷さん”。貴方が想う人は、貴方に恋をしていない……ふふふ、はははは!」
前の世界の記憶を取り戻す絶対条件を、私は悪魔から聞いている。それは……
―――――影谷信人に、恋をすること。
☆
天月さんは、大まかに“影谷信人の侵食”について話し始めた。どうやら、世界が不安定になればなる程、俺の魂は影谷信人のものになっていくらしい。
……つまり、俺が無茶苦茶な行動をしてきたことは、自分を蝕む結果になっていたってことだ。でも……
「……」
「……仮にね、“本物の影谷信人”が復活した場合でも、この世界は崩壊してしまう」
「!?……どうして……?」
「“主人公が二人になってしまうから”。……今、貴方は主人公に近い影響力を持っているけど、完全じゃない。この世界の中心は間違いなく緋色君。……その大前提が、ひっくり返ってしまったら、世界は矛盾を起こして、崩壊してしまう。……だから、“いっそのこと全て明け渡してしまえば良い”なんて考えないでね」
「……お見通しかよ」
……じゃあ、どうしろっていうんだ。結局この状態のまま、メインヒロインルートを妨害し続けるしかないのは変わらないじゃないか。……ただ、苦しいだけじゃないのか。
「……正直、申し訳ないと思ってる。神が貴方を転生させたことも、過酷な状況下に置いてしまっていることも」
「……謝られたって、仕方ねぇだろ。結局、何とかしないと俺が死ぬってことには変わりないんだしさ……」
「うん、そうだよね……でも、アタシのせいでもあるんだ。こうなってしまったのは……」
「……どういうことだ」
「……ねぇ、おかしいと思わない?“どうしてアタシは天使なのに、キャラクターとして存在している”んだと思う?」
……神は俺の夢の中にしか出てこないし、悪魔が行った事象は全て無かったことにされてきた。それなのに、天使と名乗る天月さんだけはキャラクターとして存在している。……不自然だ。
「……世界が書き換わる時、アタシは、世界が消えてしまわないように、世界と一体化した」
「……は?」
「ほら、穴の開いたコップに水を入れてもずっと出てきちゃうじゃん?アタシがその穴を塞いでるの。今もね」
……世界と一体化した。ってことは、世界とは違う次元に存在している神や悪魔とは違うってことか?
「なんやかんやして、世界消失!っていうのは免れたんだけど……天使であるアタシは、こうして天月茜という存在を楔にして、なんとか生きてるってわけ。だから、貴方が今苦しんでいるのはある意味アタシのせいってこと……あはは……ごめんなさい」
……話がデカすぎて、ついていけない。
「力はだいぶ弱くなったけど、全部失ったわけじゃないからこうして関わるのは良くないんだけど……」
「……あまりに俺が不甲斐ないから、こうして出て来たってことか」
「違う違う!」
慌てて否定する天月さん……いや、天使。……何が違うというのか。話を聞いて分かったことと言えば、結局俺は世界を存続させるための駒で、今まさにダメになろうとしている最中であるということくらいだ。
「ねぇ、今、苦しい?」
「………………見てわかんだろ。苦しいよ。全部投げ捨てて、逃げ出したいよ」
……あぁ、だめだ。一度言葉にすると……止まらなくなってしまう。それはダメだ。ダメなのに……。
「死んだのは自業自得って言えばそうだ。でも急に世界の命運を託されて、俺なりにやってみたけど結局ダメで、やり方も考えも変えて、ずっとやってきた、やってきたんだよ。……その挙句に分不相応な恋までして、振り向かせることも、出来てない。……異物は、何をやっても異物でしかないんだ。緋色が広井と結ばれる世界が正しくて、俺はそれを崩そうとしても……何も勝てない、何も出来てない!俺の事を好いてくれてる人だって、“俺”を好いてくれてるわけじゃない!“本物の影谷信人”が好きなだけだ!金城も天童も道標も!……俺は要らないじゃないか、この世界に、要らないじゃないかよ!!!!!!」
……気が付けば、ため込んだものを吐き出してしまっていた。……転生って言われて、ワクワクすることばかりじゃないってことはわかってた。……本当に拒否をするなら、あの場で死んでしまえばよかったのに、そうしなかった。……だけど、これは苦しい。苦しいよ。独りで居る方がずっと楽だった。こんなことなら、友達なんていらなかった、恋なんて知りたくなかった。……何も、欲するべきじゃなかった。
「……辛い運命を、背負わせてしまったね」
「……」
「……でも、“滅びてしまえばいい”とは、言わないんだね」
「………………」
……言えるわけがない。
初めてなんだ。ここまで人と向き合おうと思ったのは。
初めてなんだ。人を好きになったのは。
初めてなんだ。自分が死んでも誰かに生きていて欲しいなんて思ったのは。
大変だったけど……“生きていてよかった”と、そう思ったのは、初めてなんだ。
だから頑張ったけど、どうにもならないかもしれなくて、そこに自分のエゴが紛れ込むのが苦しくて、でも捨てきれなくて。
……全部割り切って生きている人たちは凄いと思う。俺はひとりでバカみたいに考えていっぱいいっぱいになってしまうというのに。
「……一応言っておくと、貴方の推測は正しい。メインヒロインルートにさえ入らなければ、緋色君が誰かとくっつける必要はない。……たったこれだけのことが、とても難しいんだけどね」
「……」
「……本当は、もっと早く、こうして貴方の苦しみを受け止めてあげればよかった。……神は他人の心なんてわからないし、悪魔は想いこんだら曲げないから」
「……」
「……力が限られたアタシがしてあげられることは、今この瞬間話をすることと……ちょっとだけ、貴方の魂を安定させてあげることだけ」
……天使が、俺の頭に手を置く。そのまま、ぽんぽんと……子どもをあやすように、俺の頭を撫で始める。
……ほんの少しだけ、心の靄が晴れた気がした。
「……結局貴方の言う通り、貴方に頑張ってもらうしかない。でも、どんな結末であれ、アタシは貴方を責めることはないよ」
「…………どうだか」
「ひねくれてるなぁーもー!……疲れた時は、少し休みなよ~?」
天使は、そのまま俺の分まで会計を済ませて出て行った。
……どいつもこいつも勝手だ。人の気もしらないで、好き勝手言って……。
……勝手だけど、天使は責任を感じていたんだろう。……世界との一体化がどんな意味を持つのかまでは定かじゃないが……それしか手段がなくて、神も悪魔もそれを望んでいなかったことは、なんとなくわかる。
「……影谷信人。お前は……どうしたい」
……返ってくるはずのない問い。……影谷信人は、どんな気持ちなんだろう。俺を侵食してまで出てくるというのだ。……相応の何かがあるんだろうけど。
…………俺は、どうしたいんだろう。世界とかどうとか以前に、まずそれを考えてみよう。
まず、死にたくない。あたりまえだが、元々巻き込まれ事故のような状態なのだ。そんなんで死んでたまるか。
そして、広井と結ばれたい。……可能かどうかはさておいて、俺は間違いなく広井に惹かれている。
あとは……。
「……なら、道はひとつか」
……苦しいし、辛いし、逃げ出したい。……どうせそれができないなら、好き勝手やってやろう。……俺は、元々そんなどうしようもない人間なのだ。なら、それらしくやろう。
この日の夜、俺は神にいくつか質問をした。返ってきた答えは予想通りのものだったが……知りたかったことは、大体知れた。後は下準備だけだ。
—————そして、俺は夏祭りの日まで、皆との集まりに顔を出すことは無かった。
心は成長したままに、行動は原点へと還る。