ギャルゲーの世界にモブとして転生したけど、メインヒロインルート潰さないと俺は死ぬらしい。 作:サラダよりは肉が好き
そして、オーバーラップ文庫様より、7月刊として書籍化される
拙作「とある男子高校生のラブコメ観察日記」もどうぞよろしくお願いいたします。
ラブコメシチュエーションを観察する、変な男子高校生の日記です。
Web版と書籍版では、若干設定や内容が異なりますが、パワーアップとボリュームアップの結果です。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
Web版→https://syosetu.org/novel/299644/
書影も公開しております。是非公式サイトにてご確認ください。
七月下旬。もう七月が終わろうとする瀬戸際に、この街では大規模な夏祭りが開催される。屋台が立ち並び、様々な催し物も行われ、神社に関連する舞踊なんかもある。
そして、祭りの終わりを締めくくるのは……約四十分ほど打ち上げられる花火だ。夜空に花が咲き誇るそれはこの街の名物として広く知られている。
そんな見事な花火には、ロマンチックなジンクスもあるわけで……一番大きい花火を好きな人と見ると両想いになれる、なんてものがある。
……僕、緋色悠は正直このジンクスにあやかろうとしている。今日この日、僕は意中の人である広井芽衣さんに、一世一代の告白をする予定だ。
今日は、元々いつものメンバーと集まって夏祭りを回る約束をしている。僕に広井さん。金城さんに天童さん。道標さんに……影谷君。
ここのところ、影谷君は皆が集まって遊んでいるところに来ることは無かった。個人では会っていた人も居たみたいだけど……夏祭りに入ってからは、SNSのやり取りで以外は見かけなくなってしまったのだ。
だから、今日も来るかは不安だったんだけど……ちゃんと来る、という返事があって安心した。……彼もまた、広井さんに惹かれている。僕に向かって“負けないぞ”とまで言い放った彼が夏祭りを逃すことなんてありえないし、して欲しくない。
……単純に、夏祭りという思い出を一緒に過ごしたいという思いもある。影谷君は、どんなことがあろうと友達だ。……どちらかが広井さんと結ばれたら、この集まりだって無くなってしまうかもしれない。最後の思い出になるのなら、楽しみたい。
今までのことを含めて思い返していたら……広井さんが現れた。……白をベースとした、淡い藍色の花があしらわれた浴衣を着こなしていた。アップスタイルに纏められた髪と、彼女自身がもつ清廉な雰囲気に、僕は思わず呼吸を忘れてしまっていた。
「……緋色君。早いのね。待ち合わせまではまだ三十分以上あるはずなのだけれど」
「……」
「……緋色君?大丈夫かしら……顔が赤いわよ?」
「っ!あ、あぁうん!大丈夫大丈夫……その、落ち着かなくて早くきちゃったんだよね!」
返事も思わず遅れてしまった。……でも、無理だ。こんな綺麗な広井さんの前で平静を保てる自信はない……!
「そう?なら、いいけれど……緋色君の浴衣、似合ってるわね」
「そ、そうかな!?……広井さんこそ、その……綺麗だよ」
「……ありがとう。これ、姉なのよ。変じゃないならよかったわ」
そう言って、少し顔を逸らす広井さんはいじらしくて。手を伸ばそうとする自分の気持ちを抑えることがやっとだった。
「あ!もう皆居るー!おーい!」
「あらあら~……もしかして、お邪魔でしたか~?」
「結構いい雰囲気だったのは間違いないね」
天童さんに、金城さん。そして道標さんも待ち合わせ場所へ。……皆浴衣を着こなしていた。
天道さんは、緑を基調に、向日葵がデザインされた浴衣。本人の明るいイメージにぴったりで快活な印象だ。
金城さんは、白を基調にした浴衣で、所々富士の花がデザインされていて、クールさが表れている。
道標さんは、水色の浴衣に赤い金魚と黒い金魚がデザインされていた。赤い金魚は幸福を呼び込み、黒い人魚は邪気を吸い込むって話らしいし、彼女のミステリアスな雰囲気にぴったりな浴衣だ。
「そ、そんなことないよ!……あとは、影谷君だけだね」
「……えぇ」
「……そうですね~」
「……来るかなー」
「……大丈夫。占いによれば、だけど」
……一分くらい、誰も話さなかった。そもそも待ち合わせまでだいぶ時間はあるわけだし、焦る必要はないはずだ。
……でも、彼は最近苦しそうだった。そう見えていただけかもしれない。僕の思い込みかもしれない。……でも、いつもの彼はそこにいなかったように思える。
「よう!そこのギャルゲー御一行みたいな面子が揃った集団!」
カラン。と下駄の音が鳴ったかと思えば、不躾にそんな声をかけられる。彼は、建物の影から現れた。下駄を履いているからか、歩き方はぎこちなかったけど……いつものような、どこか変な視点を持った言葉選びで、いつもの調子で、黒い甚平を着ている。
「……あん?何シケた面揃えてんだよ。……え?俺が来たから?そうだったら泣いちゃうんだけど」
「そんなわけないじゃん影谷君!……寧ろ逆だよ。最近来なかったからなにかあったのかと思って」
「確かに色々あったことは間違いないが……え、そんなに俺待ちわびられてたの……?ちょっと嬉しい」
「……何バカを言ってるのよ。いくわよ、全員揃ったならここに居る意味もないでしょう」
「……うん!行こ行こ!それにしても影谷君、かっちょいいね!」
「…………来てくれて良かったです~」
「そんな姿も愛おしいね、ワタシの運命?」
……そうして、僕たちは動き出す。……この時は、まだ思っても居なかったんだ。
――――夏祭りが、この世界で最後に皆と過ごす時間になるだなんて。
☆
待ち合わせをしたのは午後の六時頃。結構早めに集まったから、夏祭りもその分満喫しようって話になった。……花火は午後八時からだ。
まずは食べ物から。アメリカンドックにフランクフルト、チョコバナナにたこ焼き、焼きそばにかき氷……お祭りと言えば、みたいな食べ物を食べ尽くしたかもしれない。皆でシェアして食べたから、食べきれないってことは無かった。影谷君はアイスとかき氷を組み合わせてアイスかき氷~とかやっていた。美味しそうだったし、美味しかった。
食べた後は遊ぶ系の出店を回ろうという話になった。金魚すくいに射的。輪投げにくじ引き……。
勝負できるものはみんなで勝負しようという流れになって、六人で勝負することになった。発案は天童さんだ。
金魚すくいでは、意外なことに道標さんの独壇場となった。「今日の風水的に……ここに構えていれば良いかな」と、ポイを置いた位置に金魚が集まってくるっていう奇妙な事態になった。アレは最早怪奇現象かもしれない。
射的では金城さんが強かった。……全部ぬいぐるみの脳天を百パーセント撃ち抜くのは怖かった。
輪投げは広井さんの繊細なタッチが光った。投げられた輪が、綺麗な放物線を描いて狙ったところに入っていく。広井さんは料理も巧いし、元々器用なんだろうなぁ……。
僕は、この輪に混じって遊んでいることが凄い楽しかった。……皆と出会えて、本当に良かったと感じる。
……この時間が、僕の手によって壊れてしまうんじゃないかと思うと、仄暗い感情が芽生えてくる。この時間が続けばいいのにって。
……でも、壊してでも……僕は広井さんと結ばれたいと思ってしまった。夏祭りの時間だけでも、彼女に対する気持ちが大きくなっていくのを自覚する。
それは、君も同じなんだろう影谷君。君が広井さんを見る目は、やはり他の人を見ている時とは違う。
楽しい時間はあっという間に過ぎていって……。時刻は午後七時三十分。人によっては、もう花火の場所取りを始めている頃だ。
……実は、影谷君を含め皆には事前に話していた。この時間になったら、僕と影谷君。そして広井さんと三人だけにして欲しいって。
……OKを貰えたのは金城さんだけだったんだけどね。他の皆から帰ってきた答えは“自分が影谷君に告白するつもりだから、それはできない”だった。……モテモテだなぁ、彼……。
……だけど、どうしてだろう。影谷君は、きっと来る。彼は自分を曲げる人じゃない。
……午後七時四十分、僕は一足先に、広井さんと彼を呼び出した場所に着いた。
……午後七時四十五分……広井さんが、来た。会話はない。影谷君が来るまでは、何も言うべきではないと思ったから。
……午後七時五十分。花火が始まる十分前。彼は来た。
……とても、傷ついた顔をしていた。疲れ切った顔をしていた。……これ以上無いってくらい、辛い想いをしたのだと思う。……彼女たちの告白を、断って来たんだろう。
それでも、彼は覚悟を決めてここに来たんだ。……それほどに、広井さんを好きだってこと……だよね。
「……影谷君」
「…………来たぜ」
「…………えぇ、そうね」
……花火までは、残り十分。何かを語るには短い時間で。大事な一言を言うには、十分すぎる時間。
「………あー、なんだ。その……」
「………うん、そうだよね」
「……これって、そういうこと……なのよね」
言葉にならない言葉しか出てこないけど……長々と言うよりは、想いを端的に伝えた方が良いと思うから。
「広井さん」
「広井」
「……なにかしら」
「……僕と」
「……俺と」
……僕は、今の優しい世界が壊れるかもしれない言葉を―――――――
影は、一体なにをしていたのだろうか。