ギャルゲーの世界にモブとして転生したけど、メインヒロインルート潰さないと俺は死ぬらしい。 作:サラダよりは肉が好き
そして、オーバーラップ文庫様より、7月刊として書籍化される
拙作「とある男子高校生のラブコメ観察日記」もどうぞよろしくお願いいたします。
ラブコメシチュエーションを観察する、変な男子高校生の日記です。
Web版と書籍版では、若干設定や内容が異なりますが、パワーアップとボリュームアップの結果です。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
Web版→https://syosetu.org/novel/299644/
書影も公開しております。是非公式サイトにてご確認ください。
視点を変えて、少しだけ時間を巻き戻す。とんでもない程マヌケな死に方をした俺は……元々遊んだギャルゲーによく似た世界にモブキャラ“影谷信人”として転生した。
主人公である緋色悠が、メインヒロインである広井芽衣のルートに突入してしまうと、世界が崩壊し、転生した俺も死ぬ。これを防ぐと生き返らせてもらえるというので、ありとあらゆる手を使って妨害に勤しんできた。
……だが、キャラクター達との関わりによって、この世界がゲームではなく一つの別の現実なのだと知った。キャラクター達と友達になった。……好きな人もできた。
色々と衝撃的な事実もあったけど、結局のところメインヒロインルートに突入すると世界が崩壊するという事実は変わらないわけで……そして、俺が広井が好きという事実も、変わらないわけで。
……世界が滅びようと救われようと、俺という存在はこの世界から消え去る。だから、色んな筋を通さないと。
午後七時三十分。俺は、天童沙良とふたりきりになった。
「……よう」
「……来てくれたんだ、影谷君!」
眩しい笑顔で俺を迎えてくれる彼女は、とても可愛らしく思える。天童沙良……運動大好きなボクっ娘ヒロイン。勝負することも大好きで、この三ヶ月の間の中で俺とも沢山勝負をした。
……そして、“影谷信人が主人公だった世界”の記憶を取り戻してしまった。彼女の人生に影響を与えたかはわからないが、少なくとも、混乱は与えてしまったように思う。
「まぁ呼び出されたら来るだろ。……というか、元気だなぁ。食べ歩きして遊び倒して……俺、わりとヘトヘトだぜ?」
「体力無いなぁ影谷君は!……で、えーっと……うん」
急にもじもじし始めた天童。……流石に、俺でもわかる。呼び出された要件は、つまり……
「……あのね!影谷君!」
「……おう」
「最初は何か変な人だなって思ってたけど!……真剣にボクと向き合ってくれて!今までずっと、ずっと楽しくて!」
「……」
「変な夢のこともあったけど、君が信君じゃなくて、影谷君だって!わかってても……ボクのこの気持ちは、変わりませんでした!」
「…………そうか」
「好きです!……どうしようもなく、好きです!ボクと、付き合って、下さい!」
頭を下げて、俺に手を差し出す天童……勇気を振り絞ったのだろう。手は震えている。声だって途中から震えていた。……でも、俺の答えは決まっている。
「……ごめん、天童。その気持ちには応え、られない」
「…………だよ、ね。知ってたよ……ハハハ……ハハハ……」
……顔を上げた彼女は、泣いていた。笑顔のまま、泣いていた。
「……ねぇ、聞いてもいい?」
「……おう」
「影谷君が好きなのは……芽衣ちゃん、なんだよね?」
「……そうだ」
「……うん、知ってた」
……お互い何も言うことが出来ず、数十秒経った。……俺は、天童が“前の記憶を取り戻したから”、俺のことを好きになったのだと思っていた。……でも、それは勘違いで。天童は、影谷信人ではなく“俺”を見てくれていたのに、俺はそれに気が付けなかった。
「……俺、行くよ」
「……うん」
「さようならだ。天童」
「……え?」
……別れを告げる。……天童は、俺が“影谷信人”ではないことを知ってるから、何かに気が付くかもしれないが……。どの道、俺は消える。……これで、もう会うことはないだろう。
……苦しいなぁ、本当に。
☆
「……来たね、ワタシの運命」
「……おう」
午後七時四十分。今度は道標ミコトとふたりきりになった。
……道標ミコト。占いが趣味のミステリアス系ヒロイン。その占いで世界のバグに気が付いている節がある。桃色学園に転校してきたのも占いが関係している。
俺のことを“運命”と呼び、わかりやすいくらいに好意を示してくれている。……加えて、前のシナリオの記憶も取り戻しているようだ。
「……酷い顔だね。モテ男は辛いってやつかい?」
「からかうなよ……本当に辛いんだから」
……道標の様子はいつもと変わらない。その様子に、少しだけ安心を覚える。
「……端的に言うとだね、ワタシの運命。ワタシは……この先に君がやろうとしていることも知っているよ」
「……それはやっぱり」
「占いの力だね」
……こいつだけチートキャラなんじゃないか?
「……じゃあ、俺を呼び出したのは」
「あぁ、それは普通に告白するためだよ」
「サラっと何言ってんだお前!?」
胆力もチートキャラだったらしい。
「……はぁ」
「少しは気分も紛れたかい?」
「紛れたというかそれどころじゃなくなったというか……」
……どこまで本気でやっているのかは定かではないが、彼女なりに気を使っての言動だったらしい。
道標ミコトには謎が多い。かつて彼女の口から聞いた話では……占いにより“影谷信人”が自分の運命的ななにかだという結果を得て、わざわざ転校してまで俺に絡みにきたらしい。最初から距離の詰め方は異常だった……前のシナリオの記憶を取り戻してからも、それは大きくは変わっていない。
「さて、告白の前に……どうしてワタシが君に惹かれたのかということから始めようかな」
「占いがどうとかじゃねぇのかよ」
「会いに行くきっかけは確かにそうだった。それに、最初に君に会った時……平凡だなと感じたものだよ」
「随分辛辣な感想だな……」
「占いに導かれるまま、占いで見たのと同じシチュエーションを再現するように転校までしてきたというのに、直接この目で見た君には特別オーラを感じなかったからね。……まぁ、そんな感想は吹き飛ぶことになるんだけど」
……俺、特別何かしただろうか。思い返すと、気絶したり気絶したり気絶したりしていただけな気もするが。
「それから君と過ごしていくにつれて……平凡だという印象は覆った。……ずっと必死に足掻いている人間だというものに変わっていったんだ」
「必死……?」
「だって君、皆と過ごしていて心の底から笑ったことって無いだろう?」
……図星だった。ハイテンションだったことはある。自分をごまかすように無理やりテンションを上げてごまかして……。
「そんな中でも、君は関わることをやめなかった。どんな状況でも、“人”を向き合うことをやめなかった。……ワタシのことも、受け止めてくれた」
「……俺にはそんなつもりなかったけどな」
「そうだね……そしてある日、この世界とは違う……別の世界の夢を見て……運命、というのはあながち間違いではないんじゃないか……と思ったりもしたね」
……前のシナリオの記憶ということなんだろう。天童も、そして金城も前のシナリオの記憶を持っている。
「でも、こうして君と対面するとそれは間違いだったと気が付いたよ」
「……どうしてだ?」
「だって……夢の中の君と、今の君はあまりにも違いすぎる。行動も、性格も。……君は、影谷信人ですらないんだね」
きっかけは占いであっても、道標自身の頭が良いからか……こうして、少しずつ真実へ近づいている感じがする。きっと、このまま話していたら隠し事はできないんだろう。……だが、全てを明かすことはできない。この世界の真実に関する記憶は……何か別のものに置き換わってしまうからだ。
「……君に対する感情は二つ。好意と興味だ。……改めて、自分の気持ちを整理して……それでも、一つの言葉に集約するのならば―――――君が好きだ。……ワタシと、運命を供に生きてくれないだろうか」
…………道標は、ゲーム内の推しだ。彼女のその利発さとミステリアスな魅力は俺の琴線を刺激するものだった。
最初は、直接会う度に気絶していたきがする。段々慣れていくにつれて彼女そのものが見えて来て……なんてことはない。ただ、誰かに傍に居て欲しいだけの普通の少女だ。……だが、彼女は頭が良すぎた。……きっと、俺がなんて答えるか、何をしようとしているかをなんとなくわかって呼び出したんだろう。
「……ごめん。それは、できない」
「…………あぁ、それもわかっていたよ。占いではなく、ちゃんと確信でね」
沈黙の後、俺に背を向ける道標。……その声は、涙ぐんでいる気がして。
「……君が断る理由は、広井さんが好きだから……という以外にもあるんだろう?」
「……そうなる」
「やっぱりね……そして、それは……君との別れを、伴うものなんだね」
……察しが良いのか、何か気が付く根拠でもあったのか。得意の占いなのか……。
「……あぁ、だけど約束するよ。悪いようにはならない、必ず」
「……察することはできても、それを確信にまで持っていけない歯がゆさ……まさか、ワタシが味わうことになるとは思わなかったけど……ひとつだけ言わせてくれ」
————君の心配をしている者もいるということを忘れないで欲しい。
その言葉を背に受け、俺はその場を去った。
☆
時はさらに遡る。午後四時。俺は……皆と合流する前に、金城・アレクサンドラ・ネヴィラと邂逅していた。……俺の方から、呼び出したのだ。
「……一体どういうおつもりですか~?この数日、貴方は緋色君たちとつるむわけでもないく……“ひとりで遊び歩いてばかり”じゃありませんか~。……それに、何ですかその恰好。黒い甚平に、下駄なんて……似合ってませんよ?ふざけてるんですか~?」
「そう言うなよ……やってみたかったんだ。甚平で夏祭り歩き回るの」
……そう、俺は特別何かをしていたわけじゃない。“ある一日を除けば”、俺は俺のやりたいことをやっていただけだ。映画見に行ったり美味しいもの食べに行ったり……まぁ好き放題遊んでいた。
全く意味のないことではない。……というより、俺がこの日まで“俺”を保つのに必要だった。……どうやら、神に確認したところ、あのままイベントに関わり続けていたら“影谷信人”の魂に侵食されて完璧に壊れていたらしい。俺は自分の自我を残すために、イベントから離れていたということだ。ど
金城の反応を見るに、どうやら俺の置かれている状況に関してはわからないらしいな。これは一つ収穫だ。
「……お前と俺で話していても仕方ないからさ、悪魔出せよ。……居るんだろ?」
……真意を確かめるように、俺を見つめる金城。躊躇している間に、黒い羽が周囲を漂い始めた。
そうして現れたのは……空から現れる縞々パンツを見せつける悪魔……
『見せつけてねェよ!!!!見るなダボがァ!』
「なら空からの登場やめない?正直目の毒なんだよね。ギャップで」
「……それで、一体何を話そうというのですか?命乞い……なら聞きませんよ?」
あまりふざけていると悪魔に何をされるかわからないので、とっとと本題に入ることにした。
「……さて、端的に言うと……金城の“影谷信人”を取り戻したいっていう願いと、悪魔の“天使を取り戻したい”って願いを同時に叶える方法があるんだけど、乗る?」
瞬間、悪魔の右腕が俺の頬を掠める。金城は、何がなんだかわからないという顔で悪魔を見ていて、俺はブルッブルに震えていた。コンクリの床砕くような奴の一撃だぞ!?怖いわ!
『……テメェ、何を知ってる』
「全部。天使と神から大体ことは聞いたんだよ」
「……悪魔。あなたの目的は神に成り代わることでは、なかったんですか?」
……悪魔は自身の目的をそんな風に話していたのか。ある意味間違ってはいないな。悪魔の真の目的は、世界を崩壊させ、神に成り代わってその力でこの世界に楔として繋ぎ止められている天使を救出することだったのだから。
あの後、もう一度天使に会いに行き色々と聞き出した。……神に色々確認しても、世界のルールがどうのこうので詳しく話を聞けなかった部分もあったからだ。天使もその例に漏れないが、天月茜と一体化してこの世界の存在に近くなっている分、話せることが多いらしかった。
『……ケッ。アイツと直接話したのかよ。……クソ』
「神と悪魔は、天使と接触できないんだよな?超常の存在が、この世界の者に強く干渉できないように……天月茜と一体化している天使とも接触できない」
「……話が見えてきました。つまり悪魔は……天使を助けるために世界を崩壊させ、神に成り代わりたいということなんですね」
『……あぁ、そうだよ!世界のシナリオが入れ替わりさえしなければ、アイツが自分の身を犠牲にすることもなかったのによォ……!なんなんだ、影谷信人……いや、影谷の中に居る奴の世界は……!そこでシナリオが入れ替わったせいで、こっちの世界は無茶苦茶になっちまったんだ……!』
「俺はそれに対して何も言えないけどな。俺がシナリオ弄ったわけじゃないし。文句はメーカーに言ってくれ」
「……それで?貴方は今、私と悪魔の両方の願いを叶える方法がある、と言いました。……ということは、仮にこのままメインヒロインルートに突入しても私たちの願いは叶わないということですか?」
「察しが良くて大変助かるな。……そうだよ。天使と神の話を総合すると、どうやらメインヒロインルートに突入した場合、世界は崩壊し……俺の中に宿る“影谷信人”の魂と、俺自身の魂は消滅する」
「……それは、神の力があればなんとかなることでは?」
「ならないな。“壊れた”ものは直せても“消滅”してしまったものは、神にだってどうすることもできない。……ついでに天使も帰ってこない。アイツも、一つの肉体に二つの魂が同居している状態だ。例外なく消滅してしまう」
『なッ……!』
やはり神と天使と悪魔の間では情報の齟齬があるらしかった。元々、神は世界を管理し、天使が世界を観察し、悪魔は世界に異常があった時のカウンター装置としての役割があったらしい。それ故、それぞれが持つ権能は微妙に異なり……物事に対する認識にもズレがあったというのだ。本当に色々確認しておいてよかったと常々思う。
「……それでは、無駄だったというのですか?私たちがやって来たことは、全部……!」
金城が俯いて拳を握りしめる。……無理もない。金城は“本物の影谷信人”に対する想いが一番強い。……取り戻すために、非情ともとれる手段を取って来たというのに……それが無駄だったかもしれないと突きつけられれば、精神的なダメージは大きい。
「……だから言っただろ、両方の願いを叶える手段があるって。……そのために、ふたりには、俺の願いを聞いてほしいんだよ」
『……信用、できるかよ。神の手先の言うことなんかよォ……!』
どうしようもなくなった時、何を信じるか……それは、己か他に信頼している何かになる。俺はこの二人の信用を勝ち取れるほどの時間を積み重ねてきていない。
だから、この二人には少しだけ背中を押してもらう程度のことしか頼むつもりはないのだ。
「……たったひとつ、たったひとつだけやってくれれば、後は何とかなるんだよ」
「……それは?」
「簡単な話だ。……金城グループと悪魔の力を使えば、超簡単なことだよ」
☆
「広井さん」
「広井」
「……なにかしら」
「……僕と」
「……俺と」
……ルートを確定させる言葉が放たれるその瞬間――――
ドン!!!!!
時刻は午後七時五十分……特大の花火が、予定よりも早く撃ちあがった。
影谷信人、最後の妨害が始まる。