ギャルゲーの世界にモブとして転生したけど、メインヒロインルート潰さないと俺は死ぬらしい。 作:サラダよりは肉が好き
そして、オーバーラップ文庫様より、7月刊として書籍化される
拙作「とある男子高校生のラブコメ観察日記」もどうぞよろしくお願いいたします。
ラブコメシチュエーションを観察する、変な男子高校生の日記です。
Web版と書籍版では、若干設定や内容が異なりますが、パワーアップとボリュームアップの結果です。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
Web版→https://syosetu.org/novel/299644/
書影も公開しております。是非公式サイトにてご確認ください。
本来、特大の花火が撃ちあがる直前に告白が行われルートが確定する。これは全ルート共通事項だ。
俺は、妨害の第一段階として金城の力で花火の時間を前倒しにしてもらった。……目論見通り、予想にない出来事が起こったことによって、緋色と広井は目を見開いて驚いている。
……そうだ、この一瞬が欲しかった!
俺は花火が撃ちあがるのとほぼ同時に下駄を脱いで手の甲に装着し、広井の方へと駆け出し、所謂お姫様抱っこの状態で抱え、全力で逃走を始めた。
「え!?ちょっと!?なにをしているの影谷君!?」
「ははは!囚われのヒロインを救いたくば、追いついて見せるんだな主人公(ヒーロー)!」
「これは一体どういう……!あぁもう!」
もちろん、人ひとり抱えた状態の俺が、隠れマッチョの緋色とまともに追いかけっこしても勝てる筈はない。……だから、早めに夏祭り会場に来てルートを決めておいた。
曲がりくねった道や、物陰を利用したり。もちろん、それだけでは直ぐに追いつかれてしまうので……
「お嬢様のご命令です。ここで止まって貰いましょう」
「夜なのにサングラスかけたSPみたいな人が出て来たんだけど!?」
「任せたぜSPさん!金城の幸せの為に時間稼いでくれよな!」
「え、えぇ……?もう、どうなってるのよ……」
金城の協力を得てSPを配置してもらった。屈強なSP達ならば、いくら緋色でもどうしようもないだろう。このまま、目的地までダッシュだ……!
「はっ!!!」ドッ(SPが背負い投げされる音
「馬鹿な……!!ぐわっ」ドスン(SPが投げられる音
「は?????」
「待ってよ影谷君!」
「うるせぇ待たねぇよバーカバーカ!なんでSPより強いんだお前ェ!!!!」
「愛の力だよ!」
「うるせぇぇぇぇぇ!!!!!」
アテが外れた!なんであんな強いんだあいつ!身体能力が高くてマッチョだとはいえ、どうして本職より強いんだよォ!
もちろん配置されていたSPはひとりだけではなかった。その後もSP達が緋色を囲んで捕えようとしたり、もう普通に殴りかかるSPもいたりしたのだが誰一人として通用しなかった。あいつラブコメの主人公じゃなくてバトルものの主人公だろ……!
たまに追いつかれそうになる度に自分の手に装着した下駄を緋色に投げつけたりしたが、拳で砕かれた。怖いよぉ……。
……だが、確実に時間は稼げている。夏祭り会場の中でも、最も広さがあり空が見える場所……誰も居ない神社の境内へ、俺はたどり着いた。
「ぜぇ……はぁ……さすがにキッツ……」
「そのリアクション取られると、少し複雑なのだけれど……影谷君、これはどういうことか説明してくれるかしら?」
まだ緋色の影は見えない。……準備が出来るまで少しだけ、時間があるな。……少しくらい、見返りがあってもいいか。
俺は広井を下ろし、息を整えてから広井を見つめる。正直時間が無いと思っていたが……この世界で最後の俺のやりのこしたことを果たそう。
「どういうことか、か……うるせぇよ誰のせいだと思ってんだ」
最初は、目的が果たせれば良いと思ってた。緋色がメインヒロインルートに突入さえしなければ良いと思って、広井と付き合えたら簡単だと思っていたことも事実だ。
彼女の過ごして行く度に、ゲーム内では見られなかった魅力が次々に出て来て……何より、どんな行動をとっていても俺と向き合ってくれていた。……気が付けば、広井の存在は俺の中で大きなものになっていた。
ずっと心の片隅で広井のことを考えるようになっていた。彼女と結ばれれば幸せだろうと……。
「好きだ、広井」
「……………え?」
目を丸くして、思考停止する広井。……そんな顔も愛おしく思えてしまう。
だが、返事を聞く前に……ヒーローがヒロインを取り戻しにやってきた。
「はぁ……はぁ……追いついたよ影谷君!」
「はははは!良く来たなヒーロー!残念だが、お前の告白タイムはなぁい!」
「どういうことだ……!」
花火が撃ちあがり続ける中……俺達三人以外にも、人影が現れ始める。
「……あれ、ボクどうしてここに来たんだろう」
運動大好きボクっ娘ヒロイン、天童沙良。
「……占いで見た最後の光景は、こういうことだったのか」
占い大好きミステリアス系ヒロイン、道標ミコト。
「……集めましたよ、影谷さん」
天然系ゆるふわヒロイン、金城・アレクサンドラ・ネヴィラ
緋色、広井を含め今ここに、ゲーム内のメイン格の登場人物が揃った。
彼等だけではない、空から黒い羽が舞い、悪魔がその場に現れる。
『……オイ、そろそろ時間だぞ』
天童と道標は、悪魔の力を使ってここに集めてもらった。人がいないのも、悪魔の力によるものだ。
緋色や広井、天童は困惑していた。背中に羽が生えている人がきたとか、どうしてみんなが集まっているのだとか。俺に向かって質問を投げかけて来るが……それに答える時間はない。
「……時刻は午後八時十五分。“ルートが確定する前の特大の花火が撃ちあがる”」
「何を言ってるんだい影谷君……?」
……その時間が訪れる。瞬間……花火が輝く夜空に……文字通り“ヒビが入った”。
☆
「え!?これは一体どういうこと……!?」
緋色をはじめとした、事情を知らない奴らが混乱する。……俺も正直面を食らったが、そんなことをしている暇はない。
「……!?体が……勝手に……!?」
「私も……これは、どういうことかしら……!?」
緋色と広井が、何かに引っ張られるように、向かい合うように動き始める。世界が、“メインヒロインルート”に導かれようとしている。
「さぁ、感動の再会だぜ……!来い!“神!”そして、“天使”ィ!」
『天使だとォ……!?そんな……!?』
俺が天に向かって叫ぶと……空から光が差し込む。そこから現れたのは……俺がいつも夢で会っていた神。
合わせるように、白い羽をはためかせて現れたのは、この世界のキャラクター、天月茜と一体化した、天使だ。
『……まさか、本当に現界できるとはね』
「お久しぶりです、神。……それと、悪魔」
『……ばかな、あり得ねェ……どうしてお前らがここに……』
ルートが確定する直前……本来ならば、緋色がヒロインの誰かと結ばれるこの瞬間は、緋色とヒロインがふたりきりにならないと成立しない。
なのでまず、俺は全員をここに集めることにした。この行動により、世界はさらにバグを起こして不安定になる。世界が不安定になれば、本来現れることができない神がここに出て来ることが可能になる。これに関しては、神と天使にも確認を取った上での行動だ。端的に言えば、世界を滅茶苦茶にしてしまえば、神は制約の隙間を縫って現界できるかもしれない、という可能性レベルの話だったが、うまくいった。
ルートが確定しないように、神が緋色を、天使が広井を取り押さえる。……ここからが、本番だ。
「……悪魔、ごめんね。アタシのせいで……色々苦しめた」
『お前の為じゃねぇ……ただ、忘れられなかったんだ。……占い娘と影谷信人が結ばれそうになった時、世界が書き換わった』
道標の夢は、まさにその瞬間を映していたということか……。
『……オレは、お前を止めることができなかった。本来なら、世界に異常があった時に行動するのはオレの役割だったのに』
「アタシが好きでやったこと。……それに、あの時はあぁするしか無かったから」
『言い合うのはやめよう、天使、悪魔。……元はといえば、シナリオが書き換わる時に何もできなかった神……世界を護れなかった、私の責任だ』
『「それは本当にそう」』
超常の存在達が語らっているが、そんな時間は無い。本当に無い。
「最後の仕上げだ!皆の望みを叶える、最高のハッピーエンドを……“創り出せ”!超常の存在共!」
『……いいんだね、本当に』
「……本当に、ごめんね。結局最後まで、君を巻き込んでしまっている」
『……あァ、そういうことかよ。……まぁ、オレはお前が消えようがどうでも良いがなァ』
俺は、緋色を押さえている神。広井を押さえている天使の間に立つ。悪魔も俺を取り囲むような場所へ移動した。
「……かげ、たにくん?一体何をしようとしているのかしら……?」
「説明してよ!何もかもわからないじゃないか影谷君!」
「うるせぇ、誰のせいだと思ってんだ。……まぁ大丈夫だ。お前達には何も起こらねぇよ」
……元々、今のこの世界は……天使を楔として保たれている。それでも、メインヒロインルートに突入すると崩壊するという欠陥を生み出してしまった。
それならば、楔を増やしてやればいい。天使でけではなく、神と悪魔もこの世界の楔としてやれば、安定するんじゃないかと思ったのだ。思い付きだったが、神と天使の回答としては、“やってみる価値はある”とのことだった。なら、やろう。
「……時間がねぇ、……俺が“僕”になる前に……早く……!」
……世界が不安定になればなるほど、魂は侵食される。僕の意志とは関係なく、俺は消えていく。俺を保つために今日まで遊び倒したりしてきたけど、世界が崩壊しかけているこの瞬間、僕は半分以上影谷信人になってしまっている。
僕の魂が完全に侵食してしまった場合……俺は、元の世界にすら帰れなくなる。だから、ここまでの一連の行動は賭けだった。途中で俺が僕になってしまえば全てが終わり。……それでも、俺は耐えきった。耐えきることが、できた。
「待ってください!……影谷、君。影谷君なんですよね!?」
「……え、信、君?」
「……君は」
「……ネヴィラさん。沙良、ミコトさん……ごめんね、何かをいう時間も、もう無い。……大丈夫。記憶は無くなると思うけど、僕は君達と一緒だよ……やれ、神」
『……君をこの世界に呼んでしまったのは、申し訳なく思う。でも君でよかった。……だれよりも、この世界を愛していた君で、本当に』
俺に手をかざす神。……ふわふわとした感覚と共に、意識が遠のいて行く。
「……え、影谷君から、何かが……」
「もう何がなんだかわけわからないよー!」
「……影谷、さん」
「…………さようなら、ワタシの運命」
最後に、俺として見た光景は……涙を流して俺を見る、広井の顔だった。
☆
「……えーっと」
『……うーんと』
「……お前が、影谷信人?」
『君が、■■■■……だね』
夏祭り前の、ある日の夢。俺は“本物の影谷信人”と夢の中で邂逅した。多分、俺の魂が影谷信人に侵食されたが故に起こった奇跡のようなものだったんだと思う。
「……お前に会えたら、一言モノを申したかったんだよ」
『え?何?』
「クソモテモテ男じゃねぇかこのハーレム野郎!!!!!!死ね!!!!!」
『暴言が直接的だなぁ……』
だってさぁ!金城も天童も道標も!全員影谷信人の好意ありきだったんだぞ!!!悔しすぎる……元々主人公だったからという理由があっても、悔しすぎる!
「……まぁ、いいや。お前には、俺がやろうとしていることを話したいと思ってたし」
『大丈夫、全部君の中から見ていたから……一歩間違えば、君が死んでしまうのに、本気かい?』
「残念ながらな……いやだなぁ……死にたくねぇなぁ……」
『……君が生き残るだけなら、緋色君が告白するタイミングで妨害すれば良いだけなのに、いいの?』
「……仕方ねぇだろ。全部の望みを叶えるには……まぁ、恋愛関係は個人の努力になるけど、“世界を創り直す”しか方法ないんだから」
神、天使、悪魔を楔として、“崩壊しない安定した世界”を創り出す。それぞれの役割を全うしながらになるから大変にはなるだろうが……。そのためには、まず世界をより不安定にしなければならない。
『……恐怖していても、君は人の為に動けるんだね』
「人の為?何ねぼけたこと言ってやがる」
『……?』
「俺、ゲームだったらバッドよりトゥルーより……ハッピーエンドが好きなんだよ。それだけだ。俺が見たいからやるだけなんだよ」
『……そうか。君はそういう人なんだね』
「ちょっとやめろ、国語の教科書に載ってるような不吉な表現を使うな、不安になる」
『えぇ……まぁ、うん。大丈夫。きっと上手くいく』
「フラグに聞こえるからやめてくれない?」
『じゃあ何を言えばいいのさ……あぁ、そうだ』
「なんだよ……」
『……きっと、いいことがあると思うよ。あっちに帰ったあとにもね』
……何を言っているのか、この時は理解できなかったし、夢から醒めてしまったのだ。
☆
……暗闇から、意識が浮上する。最初に目に入ったのは……知らない天井……ではない。俺が知っている天井だ。……何年も見て来た、何ならシミの数まで覚えている、天井。
「いつまで寝てるの!朝ご飯できてるわよ!」
……生まれてからずっと聞いている母の声。それを聞いてようやく、元の世界へ帰ってきたのだと、自覚した。
次回。最終回。