ギャルゲーの世界にモブとして転生したけど、メインヒロインルート潰さないと俺は死ぬらしい。 作:サラダよりは肉が好き
……結論として、俺は元居た世界に無事に帰ってくる事が出来た。
目覚めた時、時系列はテーブルの角に頭をぶつけて死んだあの日の朝だった。二の舞になるまいと、部屋から出るときは慎重に慎重を重ね、無事に部屋から出てトイレに行くことが出来た時は感動に打ちひしがれたものだ。
そのまま、一日を過ごした。母に会った時涙が込み上げて来そうになったが、こらえて何時のように振舞った。
……あの数か月は夢だったのではないかとも思ったが、それはあるものによって否定されることとなる。
俺が転生したゲーム……そのパッケージが大幅に変わっていたのだ。パッケージの先頭を飾るのは、自称普通の高校生主人公“緋色悠”……そして、本当に普通の高校生主人公“影谷信人”だったのだ。
彼等の周りをヒロインたちが囲むようなパッケージになって居た時は自分の目を疑った。パッケージ裏を確認してみると、主人公をどちらか選ぶ形式になっていた。それぞれにルートが用意されており、緋色と影谷、二人の主人公のルートを完結させると見ることができる特別ルートがあるらしい。
ひとまず、まずは両方の主人公の全ルートをプレイしてみた。……そこにあったのは、俺が知っている、主人公とヒロインたちの日常だ。
変わる前のゲームより、心理的な描写やストーリーが具体的になっていた。見ようによっては細かすぎる部分もあったかもしれないが……リアリティ、という意味では雲泥の差だ。前のゲームがギャルゲーとするならば、このゲームは群像劇というか……ゲームの質そのものが変化していて、驚いてばかりだ。
……だが、描写されているものは、俺があの世界で体験した、彼等の心情を文字化したものだったように思う。
……緋色と影谷では、それぞれストーリーが異なる。描写される、心理的に見えて来る部分が微妙に違っていて……両方クリアすると、本質が見えて来る仕組みだ。
広井が、自分の夢と親の希望との確執に苦しんでいたこと。
金城が、恵まれた境遇故の孤独を抱えていたこと。
天童が、勝負好きな反面、ただ自分の横に居てくれる存在を望んでいたこと。
道標が、他人とは違う自分を、誰かに受け入れて欲しかったこと。
俺が感じたそれと同じ……なんならそれより鮮明に感じられた。……俺はあの世界で、直接あいつらと出会っていても、何も知らなかったのだなと思わされる。
両方の主人公でヒロインのルートを全て攻略した後、解放された特別ルートを……俺はプレイすることができなかった。
……それぞれのルートを見れば見る程……なぜ俺は、あの世界にいないんだという感情に襲われるからだ。
特別ルート見てしまえば、俺が居ないほうが全て上手くいっていたかもしれない現実を見せつけられる気がした。客観的にそんなことはないと思おうとしても、主観の力は恐ろしいもので、俺の思考はそればかりに埋め尽くされる。……この日以来、俺はギャルゲー全般をやめた。
春休みの残りは……一人暮らしに向けての準備と、聖地巡礼に費やされた。ここでいう聖地とは、要するに創作物のモデルとなった現実の場所にあたる。……あのゲームのモデルになったとされる場所に足を運んでみた。そこにあったのは、外観と街並みが似ているだけの場所だ。もしかしたら、彼等の誰かか、もしかしたら神か天使か悪魔と話でもできるかとおもったが、現実は甘くない。
……俺は、ゲームによく似た世界に転生して、数か月の間だけだけど……多分、青春をしていたんだと思う。友達ができて、好きな人ができて……馬鹿ばかりやって、そんな時間が、とても楽しかった。
本来の世界の俺の高校生活は……ただ流されて、受動的に楽しめる娯楽を享受して、それを語れる仲間とインドアで話すものだった。……それでも、まぁまぁ楽しかったが……必死には、なったことはなかったなぁ。
反面、あの世界の俺は文字通り命がけで、本気だった。……あの熱を、俺は一生忘れることはないだろう。彼らに、人と向き合うことを、教わった。
……珍しく、友人たちを誘って遊びに行ったりもしたか。ボウリング、カラオケ……結構楽しかった。アニメやゲーム以外の話も、じっくりした気がする。
……結局、心の殻を創っていたのは自分の方で、少し破ってみれば違う世界は簡単に広がっているのだと、大げさに感じた。
……そして、少しずつ気力を取り戻し、大学の初登校の日を迎えた。……気力を取り戻し
たはいいが、心のどこかにぽっかりと穴が開いているきがする。……そりゃそうか。あんな刺激的な日々を過ごした経験があれば、今は平和そのものだ。物足りなく感じても仕方ない。
高校の頃とは比べ物にならない程の大きさと規模を持つ敷地を目の前にして、圧倒されそうになる。……だが、せっかく良いところに合格したのだ。踏み出すだけ、踏み出してみようか。
そうして、俺は大学の門をくぐり抜けて―――――――
☆
以下。特別ルートクリア後の、隠しコマンド入力によって見れる隠しデータ抜粋抜粋。
『やぁ、まずはここまでたどり着いてくれてありがとう。……神は、神だよ』
『意味不明な自己紹介やめてよね……あ、天使でーす』
『……なんでオレまで』
『不貞腐れた悪魔は置いておいて……本当に、お疲れ様。このゲームはどうだったかな?』
『あなたがプレイして来た全てのルートは、可能性の一部』
『……安定した世界が辿る、分岐点とその先だァ』
『……そのすべてが、君が足掻いた(プレイした)結果だ。……何ことを言っているのか、という顔をしているね』
『ようするに!君(プレイヤー)が居たからこそ、世界が紡がれたってこと!主人公という存在を通して、君が遊んでくれたから、ルートは観測されて、安定した!』
『……うざってぇ言い回しだなァ』
『そう言わないでくれよ。……これが届いているかも、賭けなんだから。』
『もしかしたらここまで見てくれないかも……?』
『ハッ!そりゃそうだろ!結局アイツは、ただのビビりのコミュ障なんだからなァ!』
『届いてなくてもいいさ。もう、世界への干渉は済んでいるからね』
『まぁ、アタシ達が会えないのは寂しいけど……うん、彼は必死に生きて、最高の形で世界を安定させてくれたんだもん。これくらいのご褒美は無いとね?』
『……ケッ』
『……時に君。あの世界は、君たちの世界のシナリオが書き換わったから、色々と大惨事を招くことになったわけだけど』
『それなら、ちょーっとくらい、こっちの世界から君たちの世界に干渉できても良いと思わない?』
『……どう転ぶかは、知らねェし責任持たねぇが……オレ達からの、せめてもの礼だァ』
『……君の世界で、この世界の登場人物にあたる人たちに、魂の記憶から繋がる夢を見せる。……彼らがその夢を、どう解釈するかはわからないけどね』
『見た目だって違うけど……きっと、君を見つけてくれるはずだよ』
『……って話をすると、じゃあ影谷信人に入っていたお前は何者なんだ……って話になるがァ……お前はこの世界で言うところの影谷信人じゃねェ。この世界におけるお前はな、とっくに死んでるんだよ』
『……だから、不安定な存在になっていた影谷信人という器に、入れるしかなかったんだ。……最後まで、言えなくてごめんね。こちらの世界の君が死んでいるなんて、どう伝えれば良いかわからなかったんだよ』
『……本当に、君には業を背負わせたね』
『……しみったれた話はこの辺にしておくかァ、時間もねェ』
『……そうだね。うけ取ってくれ。これが神たちが創り出せる、最高のハッピーエンドだ!』
☆
「……ねぇ、そこの……一見地味だけど、振り切れると何をやらかすかわからない感じの君」
「……え、それって俺のこと?」
「……あ、うん。多分————」
……大学の門をくぐった一秒後、すぐに誰かに声をかけられた。……見覚えは無い。全く見覚えは、無いはずなのに……どうして、どうして…………俺が、あの世界に来て初めて声をかけた彼と、被ってしまうのだろう。
「……なぁ、俺達って、会ったことないか?」
「無い……筈なんだけどね、参ったな……」
「参ったのはこっちの方だっての……変な感じだ」
「…………」
「……えっと、口開けてポカンとしてるけど、どうしたの?」
「……「うるせぇ、誰のせいだと思ってんだ」……は!?」
後ろを振り返ると……これまた、見覚えの無い女性が立っていた。顔立ちは整っている。こんな美人と知り合いなら、忘れるはずはないのだが……。どうしてだろう。見覚えが無いのに、ずっと一緒に過ごして来たかのような、妙な感覚に襲われる。
「……どうしてかしら。なぜか、あなたの言うことがわかった気がしたのよ」
「……いや、いやいやいや、有り得ないって。だって、ゲームはゲームでちゃんと存在してたじゃんか……お前たちが、こっちに来てるなんてありえないって。あの世界で、俺が唯一異物で、異物の俺はあるべき場所へ戻ってきたのであって……」
「難しいことを考えるのはよしたまえよ……フゥ―」
「ヒュッ」
突然、耳に息を吹きかけられて一瞬硬直する……俺の横に居たのは、また見覚えのないはずなのに、知っている気がする女性で…。
「ぉーい……おーい!」
混乱を落ち着かせる暇もなく、誰かが校舎の方から物凄い勢いで走ってくる。……彼女からも、同じ雰囲気を感じて。
「……あらあら~。今年の新入生は賑やかですね~?」
「……そうだね、うん。本当に……よかった。揃って」
どこから現れたのか、腕を組んだ男女がこちらの様子をうかがっているのが見えた。
……状況が、整理しきれない。何がどうなって、こうなってるんだ?……俺には、わかる。ずっと過ごしてきたから。青春とも言える短い時間を、全力で一緒に過ごして来たから。……見た目が違うとしても、こいつらが、あの世界のこいつらなんだって!
「……そうだ。夢を見たんだよ」
「あなたも?私も夢をみたわ。……こことは違う世界で、高校二年生の時間を、友人達と過ごす夢を」
「思いっきり楽しい時には、絶対一人の男の子がいるんだよねー!」
「……丁度、反応がこんな風に可愛い……運命とも言うべき人が」
「…………ある意味、宿敵だった気もしますが~」
「……色々、迷惑をかけてしまった気がするなぁ」
……なんでだろうなぁ……どうしてだろうなぁ……でも、あのゲームがこの世にあって、こいつらがここに居るってことは……俺の、俺のやって来たことは無駄なんかじゃなくて。
もしかしたら、世界の崩壊なんていうトンデモ案件も無いまま、自然とこいつらと過ごせるかもしれなくて。
……いいのかなぁ……夢を見て、踏み出してもいいのかなぁ……っ!
「……なぁ、急に、こんなことを言うのはおかしいと思うけどさ」
……涙にまみれて、ロクに前も見えない。だけど、これは……あの時、彼女にしか言えなかったことで。……本当は、俺が本当に望んでいたことのひとつで。……自分が安心したいがための、弱い心が生み出した言葉だけど、それでも、この奇跡を言葉として、自分から切り出したいから……!
「俺と、友達になってくれ……!」
皆の顔は涙で見えなかったけど……色々混じった肯定の声が、聞こえた気がした。
完結。最後まで、ありがとうございました。
――――――――――――――
以下、あとがき。
初めましての人は初めまして。ご存知の方はこんにちは。サラダよりも肉が好き、と申します。
この作品は、前作「とある男子高校生のラブコメ観察日記」を書き終えたテンションで、ノリと勢いによって錬成された産物です。
執筆している期間中に、「とある男子高校生のラブコメ観察日記」の書籍化が決まったりして、なんやかんやと更新をストップしていましたが……前作の宣伝も兼ねて、短期間ハイペースで更新し、完結するにいたりました。
技術が足りないとか、話の作り方が甘いとか、そう感じる方もいらっしゃることは重々承知しておりますが、一話ずつ更新する度に、読んで下さる方がいるのだと思うと嬉しく、筆は止まりませんでした。本当にありがとうございます!
本作の原点は「ギャルゲー世界に放り込まれる作品は多くても、メインヒロインルートを意図的に妨害する話ってあんまみかけなくね?」というところからスタートしています。無自覚に、とかは結構あるんですけど、放っておいたら幸せになるはずの空間に水を差すのは、まぁないよなぁ、と(下種の発想)。
それだとただ嫌な奴になってしまうので、主人公なりの事情や葛藤があったりするのですが……ここら辺の葛藤は、作者のかつての悩みから来ているわけでして。
別に他人の恋路を邪魔していたわけではありませんが、誰かが仲良くしているところに入っていくのは、実はとても勇気が要ることだと思います。私自身もそうして遠慮がちになって切れた縁も多いです。
主人公は、内向的な生活をしていたにも関わらず、そういう役割を押し付けられ、コミュニケーションをとらざる負えなくなりました。しかも所謂陽キャ(主人公目線)に絡まないといけないのだから、内心は穏やかではありません。テンションを上げて乗り切っても、襲い掛かる罪悪感、劣等感。自分が異物である自覚。
気にしているのは自分だけだったりするのですが、これがどうにも苦しいものですよね。そういう意味で、主人公は周りに恵まれたおかげで立ち直ることができました。
人は独りでは生きていけません。一人でも生きてはいけるだろうけど、やはり人が居てこそ、自分という存在を形成している節があります。
ぶっ飛んだギャグと、そんな少しの歯がゆさが伝わってくれればいいなぁと思いつつ、私は好き勝手書く人間なので、どんな結果になったかは定かではありませんが。
なんせこの作品もプロットもなにも組んでないしね!!!!良く勢いだけでこんなに書いたモンだ、ハハッ(オイ)。
さて、長々とお話しましたが……読んでくださった方々、本当にありがとうございました。感想とかあったら嬉しいけど、高望みはしません。私は、いつまでも書き続けていますので、もしどこかで見かけることがあれば、何卒宜しくお願いいたします。
今後とも、お手すきの際にどうぞよしなに。
-----サラダよりも肉が好き。
そして、オーバーラップ文庫様より、7月刊として書籍化される
拙作「とある男子高校生のラブコメ観察日記」もどうぞよろしくお願いいたします。
ラブコメシチュエーションを観察する、変な男子高校生の日記です。
Web版と書籍版では、若干設定や内容が異なりますが、パワーアップとボリュームアップの結果です。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
Web版→https://syosetu.org/novel/299644/
書影も公開しております。是非公式サイトにてご確認ください。