安芸優樹は勇者である   作:三奈木イヴ

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私の体調不良が重なってしまいまして……現在はほぼ完治しましたが……お待たせしました。次回は、私が最も書きたかった回であります。ただ仕事の都合でどうなるか……。


恋の苦しみ

「私は……あなたの事が──」

 

「あなたの事が好きなの」

 

東郷さんの言葉に、僕は思わず目を見開いた。

 

ここまで言われてわからないほど、僕も鈍くはない……けど……けど……!

 

「東……郷さん」

 

東郷さんに抱きしめられたまま、僕は──

 

「あれ……東郷……さん?優樹君…?」

 

!?

 

「友奈ちゃん…」

 

「友奈…」

 

しまった……起こしてしまったか…?

 

「優樹君──あっ…」

 

友奈が起きたことにより東郷さんの腕が緩んだ。その瞬間、僕は椅子に座る東郷さんに怪我をさせないよう気をつけながら東郷さんから離れた。

 

「ごめん友奈、起こしちゃったかな?」

 

「ううん…大丈夫だよ。ただ目が覚めちゃって…」

 

「そっか、なら良かった…。じゃあ、僕は外の風に当たってくるから、東郷さんをお願いね」

 

「あっ、優樹く──」

 

僕は一度気持ちを整理するために部屋を後にした。

 

「友奈ちゃん…その、見てた?」

 

「東郷さんが優樹君をぎゅってしてたこと?」

 

「友奈ちゃん…」

 

「東郷さん、ちょっと相談に乗ってもらっても良い?」

 

「ええ…でも、友奈ちゃんが相談って珍しいね」

 

「うん……じゃあ、ね──」

 

◆◇

 

「フゥ……」

 

日の出もまだの肌寒い砂浜に佇みながら、僕はため息をひとつついた。

 

「僕が好き……か。」

 

先の東郷さんの言葉を反芻した。

 

「東郷さん……」

 

僕はどうすれば……

 

どうすればいいんだ……

 

僕は多分、恋をした経験というものは無かったと思う。

 

もしかしたら、失った記憶の中にあったのかもしれない…。

 

もしかしたら、事故とは関係なく僕が覚えてないだけで誰かに恋をしたことがあるのかもしれない。

 

風先輩の勧誘で勇者部に入部して、皆と過ごして、ドキッとしたりした事は時々あった。

 

例えば風先輩のスキンシップの数々──いくら恋をした覚えが無いとはいえ、僕だって男だ。どことは言わないが当たってたりしてドキっとする事もあるしでちょっと恥ずかしい。

 

他には、東郷さんだ。風先輩のようなボディタッチ等は無くさっきの事を抜きにしても、東郷さんはとても魅力的な人だ…。最初こそ苦手意識はあったものの、優しいし美人だし料理上手だしでクラスでも人気な彼女だ。でも、僕はあくまで同じ勇者として戦う仲間であり、大好きな友達だと思っている。

 

でも、彼女にとっての僕はどう映っていたのだろうか。

 

僕のことを好きと言ってくれたのだから、そうなんだろうけど、本当に僕なんかで良いのだろうか……?

こんな年がら年中筋トレばっかの僕なんかで……。

 

確かに僕はみんなの事が好きだ。でもそれは勇者部の仲間として友達としてであって、多分恋をしているという意味では無いのだろう……。

 

「こんな事……誰かに相談なんて出来るはずが無いな……。」

 

勇者部五箇条 悩んだら相談──か。でも、こればかりは……今の僕じゃ答えが出ないな…。

 

「……戻ろう」

 

頭は十分冷えただろう。僕は旅館の方へ足を向けた。

 

◆◇

 

「それで友奈ちゃん、相談って?」

 

後ろで私の髪をとかす友奈ちゃんに尋ねた。

 

「うん…実はね、最近優樹君と東郷さんの距離が近い気がしてモヤっとしてたんだ。」

 

「……」

 

友奈ちゃん…

 

「でも、東郷さんも優樹君も私の大切な親友だから、どうやってこの気持ちを抑えようって思ったんだ」

 

「友奈ちゃん……そんな事を考えさせちゃってたのね…」

 

大切な親友の友奈ちゃんが……優樹君にやきもち妬いてたってことかな。

 

「えへへ、こういうのやきもちっていうのかな?」

 

「友奈ちゃん…」

 

やっぱり友奈ちゃんも優樹君の事が……

 

「ねえ、友奈ちゃん……もしかして優樹君のこと──」

 

「ただいま…」

 

「優樹君…⁉︎」

 

「おかえりなさい優樹君」

 

この反応は、やっぱり……私だけじゃないみたい。友奈ちゃんも優樹君に惹かれちゃったんだ。

 

今は声が出ないけど、樹ちゃんもきっとそうだ。夏凛ちゃんは……よくわからない。でも、もしも優樹君が私以外を選ぶのなら、私はそれを受け入れるつもりだ。例えそれが、友奈ちゃんでも……

 

「優樹君、外寒くなかった?」

 

「うーん…日の出前だからね…ちょっと」

 

「そうなんだ、私と東郷さんはこのまま起きてるけど、優樹君はどうする?」

 

「うーん…まだ時間はあるし僕はもう少し休む事にするよ」

 

「そっか。おやすみなさい」

 

「その…優樹君…」

 

「東郷さん……あとで良いかな…」

 

「ええ……。」

 

優樹君がどんな答えを出しても……私はそれを受け入れるわ。

 

だから……

 

「待ってるわ。優樹君」

 

私は彼を見送った。

 

◆◇

 

「──海が騒がしいわね…」

 

徐にポーズを取りながら、風先輩が言った。

 

「どうされましたか?風先輩」

 

「ところでそのポーズは?」

 

僕と東郷さんが尋ねると、風先輩は言った。

 

「私たちはまだやるべき事があるでしょう!」

 

やるべき事…?何かあったっけ?

 

「なんだっけ?花火?」

 

夏凛が

 

『ナンパされてないとか言いそう』

 

樹ちゃん……

 

「ちゃうわ!まあ…それも引っかかるけど…」

 

「一応勇者部の合宿なのよ!少しは内容のある話をしないと文化祭とか文化祭とか文化祭とか」

 

大事な事なので3回言われた……。ナンパの事はまあ……なんとも……。

 

『でも確かにお姉ちゃんの言う通り』

 

「劇をやるって話でしたよね!中身を詰めていかないと」

 

「帰りの車の中で予定や配役の話し合いね」

 

「楽しくなりそうだね!」

 

「バーテックスを倒してもアタシたちの日常が被害受けてちゃ世話ないわ!しっかりと日常のスケジュール守って完全勝利といきましょう!」

 

「まあ賛成してあげてもいいわ」

 

『帰るまでが合宿です』

 

「よーし文化祭!絶対に成功させよう!」

 

「おう!」

 

ひとまずは切り替えていこう。東郷さんの事もあるけれど、今は文化祭の事だ。

 

「あっ、そうだ。風先輩、僕明日の部活は休みます。」

 

僕は思い出したように大事な事を風先輩に告げた。

 

「そう、なんか用事?」

 

「ええ。例の件で」

 

「……ああ、了解」

 

「優樹が休むなんて珍しいわね」

 

「まあ、ちょっとね。」

 

「ふーん」

 

◆◇

 

「……さて、行こうか」

 

僕は答えを出すために走り出した。

 

「……」

 

僕は……

 

今の僕では……

 

……東郷さん

 

更に速度が上がった。

この調子ならあと5分ほどで着くだろう。

 

僕はこれから──答えを出す。

 

今の僕の答えを──

 

「……やぁ。東郷さん」

 

「こんばんは、優樹君」

 

目的地に──東郷家の庭に──彼女は居た。

 

「ごめんね、こんな時間に」

 

時刻は夜の19時 本来なら僕はここに居てはいけないのだが、今回は特別だ。

 

「ううん、こちらこそ…無理を言ってごめんなさい」

 

「それこそ気にしないで。……それであの時の返事をしたくて」

 

「……ええ」

 

刹那、空気が重くなった。

 

「優樹君……その前に、もう少しお話ししない?」

 

「……わかった」

 

東郷さんが、ゆっくりと語り始めた。

 

「実はね、私が優樹君の事を好きになったのは……初めての戦いの後──あの電話からだったの」

 

「──もしかして、あの時の…?」

 

初めての戦いで乙女座を封印した日の夜に来た、東郷さんの相談 あの時の僕はなんで言ったんだっけ──

 

「あの時の優樹君は、私が勇者になれなくても、私を守り抜くって言ってくれたわ」

 

「──!」

 

そうだった…!相談に乗って、東郷さんの心配を和らげる為に言った一言だったけど……まさかそれが……

 

「あの一言で私は救われたの。あれをきっかけに、私は貴方に惹かれていたの……。」

 

「東郷さん……」

 

そんな事が……。なのに僕は……僕は……。

 

「優樹君」

 

「……はい」

 

「私は──東郷美森は、安芸優樹君の事が好き。何にも代え難いくらい好きなの……。」

 

そのまま東郷さんは言葉を続けた。

 

「でも、優樹君がその気でないのなら…私はそれでも良い……他の誰かの事が君の事を好きで君がその子の事が好きなら──私はそれで良いの……!」

 

東郷さんの目には、涙が浮かんでいた。

 

「貴方が幸せなら、例え私でなくとも……」

 

「東……郷さん……」

 

東郷さんは僕のことをここまで言ってくれた。

 

でも僕はどうだ?

 

みんなが好き──それは友達として仲間としてという意味だ。

 

こんな中途半端な気持ちで答えて良いのか?

 

いや……そんな事したら、僕はもう僕でいられる気がしない……。

 

そんなの僕の憧れた筋肉じゃない……。

 

「東郷さん」

 

僕は、溢れそうになる涙を堪え、東郷さんの目を見て応えた。

 

「……ごめん。今の僕では、東郷さんの想いに応えることが出来ない……。」

 

「……えぇ」

 

「……ごめん」

 

「謝らないで………それが、今の優樹君の答えなんでしょ?」

 

涙を流したまま、東郷さんは言った。

 

「……うん。もしもいつか……僕が東郷さんの想いに応えられるかもしれない。でも、もしかしたらその時は来ないかもしれない…。」

 

僕は最低だ。

 

これじゃ筋肉しか取り柄のない最低な男だ。

 

「うん……。うん……。それでも、私は貴方を待つわ……。それでも駄目なら……諦めるわ……。」

 

「……東郷さん」

 

君は……なんでそこまで僕のことを……。

 

「優樹君…」

 

重くなった空気が徐々に和らいだ気がした。

 

そして涙で頬を濡らした東郷さんが微笑んだ。

 

「胸を貸してもらえないかしら……」

 

「……ああ」

 

僕は東郷さんの元へ近寄り、片膝をついた。

 

「うぅっ……うぅ……」

 

東郷さんは──僕の胸の中で声を押し殺して泣いた。

 

僕は……東郷さんの後ろ髪を撫でる事しかできなかった。

 

……これが今の僕に出来る贖罪だ。

 

今はこうして、受け止めることしかできない……。

 

もしかしたら、東郷さん以外の誰かを選ぶのかもしれない。

 

だが、東郷さんが言ったような日は本当に来るのだろうか……。

 

だとしたら僕は──

 

◆◇

 

「……ごめんなさい優樹君」

 

「い、いや……」

 

お互いに顔を赤らめたまま、僕たちは話を始めた。

 

「話を聞いてくれてありがとう。」

 

「僕の方こそだ。」

 

「……明後日から部活に顔出すのが気まずいな…」

 

「え、ええ……。でも、きっと楽しいわよ。」

 

「そうだね。じゃあ、僕は……」

 

「うん。おやすみなさい。また明後日」

 

「うん、おやすみ東郷さん」

 

僕は自宅への帰路を歩き出した。

 

走るつもりだったけど、あんな事があった直後でそんな気も起きなかった。

 

それに明日は──両親の墓参りだしね。




東郷ルートは分岐すると東郷さんが優樹君に依存するかクソ真面目なルートになります()
それと優樹君のヒロインレースは東郷さんがトップを走っているのが現状でまだ他のヒロインにもチャンスはあります。
【次回予告】
先客…? 私は花本という者です。 何この数⁉︎ これで最後だ‼︎ ──会いたかった〜 ──やっと会えたな■■、■■

其の拾弍 私を忘れないで
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