安芸優樹は勇者である   作:三奈木イヴ

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やっとこの日が来た。前回のラスト間違えて拾壱と表記しましたが、正しくは12話です。大変失礼しました。今回は過去最高の1万文字超えです()


私を忘れないで

「来たわよ」

 

「夏凛ちゃん」

 

「それで風、アイツ以外は全員揃ったけど」

 

「本当だ。じゃあ、皆これ見て」

 

風は皆にアタッシュケースを差し出した。

 

「私たちのスマホ…?」

 

風がアタッシュケースを開くと、スマホには各人の名前が書かれた付箋が貼られていた。

 

「──バーテックスに生き残りがいて、戦いは延長戦に突入した……まとめるとそういうこと。だから皆にこれが返ってきた」

 

風が言うには、昨日の夕方、大赦から連絡があったそうだ。

バーテックスに生き残りが確認されたと。

 

「いつもいきなりでごめん…」

 

「先輩も昨日知った事じゃないですか、仕方ないですよ」

 

風の謝罪に東郷がフォローする。

 

「ま、そいつ倒せば終わりなんでしょ。私たちは敵の一斉攻撃だって殲滅したんだから。敵の一体や二体ドンと来いよ」

 

『勇者部五箇条 なせば大抵なんとかなる!!』

 

「その通りですよ!それに風先輩のごめんはもう聞きませんから!」

 

「ありがとう」

 

「そういえば、優樹君には知らせてないんですか?」

 

「うん、あいつは用事が済んだら連絡するように言ってあるから…その時にね」

 

優樹は家の用事で動いてるので今は不在だ。

そして優樹以外の面々がケースから携帯を取る。

 

「よーしバーテックスいつでも来なさい!!勇者部6人がお相手だー!!」

 

◆◇

 

「……ここに来るのもお盆以来だったなぁ」

 

目的の場所であるお寺の側を通り、墓地に足を踏み入れた。

──この墓地には、僕たち姉弟の父さんと母さんが眠っている。数年前──まだ僕が幼い時に、事故で両親を失った。そして今日は、その命日だ。 姉さんは仕事で忙しいので来れない時もあるのだが、僕は必ずこの日とお盆にはこの場所を訪れている。

 

「……あれ?」

 

父さん達のお墓の前に誰か立っている。

 

「先客…?」

 

姉さん……じゃないよな?どう見ても男性だし

おそるおそる近づくと、目の前の人物がこちらを振り返った。

 

「──優樹君」

 

「えっ……⁉︎ えっと……僕たちどこかでお会いしたことが……?」

 

目の前のおじさんは、僕の名前を呼んで、まるで知り合いを見るような目つきで僕を見ていた。

でも、僕はこの人を知らない……。

 

「──そうか……。いや、初めましてだね。私は花本という者です。あなたのご両親には──特にお父様には生前世話になってね」

 

「父さんに……。すると僕のことは父さん達から?」

 

「ええ、まだ赤ん坊だったあなたにも会ったことがありますよ」

 

「へえ…。そんな昔に…」

 

謎のおじさん──花本さんが僕の名前を知ってるのはそういうことだったのか……。ということは姉さんとも知り合いってことになるのか

 

「という事は、姉さんとも?」

 

「もちろん面識がありますよ。なんならお姉さんと私は同じ職場で働いてますから」

 

「そうなんですか⁉︎」

 

姉さんの職場関連の話はほとんど聞いたことなかったから、初めて知った…!花本さんは上司に当たる人だったのか…!

 

「ええ。私が安芸さんと働いてるのは、今は亡き先輩への恩返しみたいなものだと思っているので……」

 

花本さんは、何かを思い返すように空を見上げた。

 

「──それにしても……2年の間にとても大きくなって……」

 

「花本さん?」

 

「っ‼︎ は、はい」

 

ぶつぶつと何かを呟く花本さんに声をかけると、何か考え事をしていたのか、ハッとしたように返事をした。

 

「そういえば、姉さんは……」

 

「……すまない。あの子は今、重要な仕事があるから来れないんだ……。」

 

「そうですか……」

 

重要な仕事か……。それは仕方ないね……。でも…久しぶりに会いたかったな……。

 

「……では、私はお先に」

 

「あっ、はい!」

 

「優樹君」

 

「はい?」

 

花本さんが僕の名前を呼んだ。そして微笑んでいた表情がキュッと締まった。

 

「この先何があっても、私とお姉さんは君の味方だからね」

 

「はい?えっと…ありがとうございます?」

 

言葉の意図がわからず、僕は困惑した。

そして僕の困惑を他所に花本さんは墓地を後にした。

 

「……僕も父さん達に挨拶しなきゃな」

 

お墓に持ってきた花を差し、線香に火をつけた。

 

父さん、母さん──向こうでも元気にしてますか?

 

父さん達へ挨拶をして、墓前に手を合わせ、最近のこと、勇者部でのことなど近況報告をした。それと、東郷さんのことも……。僕はどうすれば良かったのか…。どんな選択をすれば良いのか…。今の僕ではどうしようもない問題だった……。

 

「じゃあ、僕は行くよ」

 

またお盆休みに……。

次は姉さんも一緒に来れたら良いな……。

 

◆◇

 

「もしもし風先輩?」

 

『優樹、もう用事は大丈夫なの?』

 

「はい、なんで今からそちらへ行きますよ」

 

この後の予定は無かったので帰る予定だったけど、今朝方風先輩から用があるから部室に来てほしいと電話があったので、部室に向かうところだ。

 

『ごめん優樹……』

 

「気にしないでください。よっぽどの事なんでしょう?」

 

電話の向こうから聞こえた風先輩の声はどこか深刻そうだったので、何かあったのだろう。ならば仕方がないじゃないか。

 

『ええ…。じゃあ、部室で』

 

「はい」

 

ちょっと急ごうか。

時間的に皆も帰る前だろうし、早く行けば風先輩だけ取り残されるなんて事態は回避できるだろう……。

 

◆◇

 

「安芸優樹現着しました」

 

「……優樹」

 

部室に入ると、いたのは風先輩だけだった。

あれ?みんな帰っちゃった?

 

「風先輩、他の皆は?」

 

「夏凛は帰ったわ。友奈は東郷と樹は一人で依頼で出てるわ」

 

「それよりこれ」

 

風先輩は側に置かれてたアタッシュケースから、一つの端末を取り出して、僕の目の前に差し出した。

 

「──っ!!風先輩、まさか…⁉︎」

 

「……ええ。電源を入れてみて」

 

言われるがままに、携帯の電源を入れた──

 

「わっ…⁉︎ ちょっ‼︎」

 

電源を入れると同時に、見知ったカラスが──古烏が僕の頭をつついた

 

「古烏……!ってことはやっぱり……」

 

「バーテックスに生き残りが確認されたの。友奈達にはもう説明してあるわ。それと」

 

「新しい……精霊…⁉︎」

 

古烏に続いて猫又と大蝦蟇そして──夏凛の義輝くらいのサイズで赤髪の女の子っぽい精霊が出てきた。

 

「夏凛以外に新たな精霊が追加されたわ。これで戦力増強ってところかしらね?」

 

「なるほど……。っと、この子は……赤シャグマっていうのか」

 

赤シャグマ──確か座敷童子みたいなものだっけ?詳しくは知らないけど多分そんな感じだ。それにしても4体目か

大所帯だなぁ……。

 

「ねえ優樹、あんた東郷となんかあったの?」

 

!!? あまりにも唐突の質問だった。

 

「……何もないですよ」

 

僕は誤魔化そうと試みた。昨日の事を相談するという選択もあるけれど、アレをどう説明すれば良いんだ……ってなるんだよね……。本当にどうしようか

 

「優樹?」

 

「は、はい……てか近…」

 

風先輩が目の前に詰め寄ってきた。

 

「あたしの目を見て答えなさい。東郷と何かあったの?」

 

「……ありませんよ。それより風先輩顔近いっす……。」

 

僕は目を逸らした。

 

すると風先輩は怖いくらいの笑顔でこう言った。

 

「勇者部五箇条 悩んだら?」

 

「相談……ですね」

 

ダメかぁ……。風先輩珍しく強引だし、逃げようにも解決する事は無さそうだしな。それに勇者部五箇条出されたら逃げようがないねぇ……。でも、風先輩がこんなにも強引に来るのってそうそう見ない事だけど、どうしたんだろうか…?

 

「えっと……ここまでしつこく来るのも珍しいですね……」

 

「そりゃあね、今日の東郷はどこかソワソワしてたからよ」

 

「へ、へぇ……ソワソワと……」

 

東郷さん…⁉︎ なんでそんな事に…⁉︎ いや待てまだ僕のせいとは限らないぞ……多分……!確かに昨日あんな事あったから僕は東郷さんに会うの気まずいとか思ってるかもしれないけれど東郷さんきっと他に何かあったんだ!きっとそうだよね……⁉︎

 

「そう。そんで気になったから優樹の話題振ってみたの。そしたらみるみるうちに東郷の顔が赤くなって、こりゃ何かあったなって思ったわけよ」

 

「……降参ですよ。そうですね……確かにいろいろありましたよ」

 

僕は両手を上げて降参の意を示した──けど

 

「ですが風先輩、具体的な事はちょっと……」

 

東郷さん自身が相談したりするのは構わないけど、僕があの事を言うのはなんか違う気がした。

 

「そう、まあ大方の予想はつくけどね」

 

風先輩が呆れた表情で言った。

 

「ごめんね優樹、無理やり聞こうとしちゃって」

 

「気にしないでくださいよ。僕も誤魔化そうとしてましたし…」

 

さっきのは風先輩なりの気づかいだと僕は思ってるしね。

 

「まあ……本当にダメそうなら改めて相談に乗ってくださいよ」

 

「わかったわ!そんときゃあたしに任せときなさい!」

 

笑顔で任せろと言う風先輩はとても眩しく感じた。

やっぱりどこか昔の姉さんにそっくりで頼もしくて僕が尊敬する犬吠埼風先輩だ。

 

僕もいつか……きちんと自分の気持ちを伝えられるようにならないとな…!

 

◆◇

 

長かった夏休みもあっという間に過ぎ、二学期になりました。

 

「バーテックス……来ないですね」

 

「そうねぇ」

 

大赦の予想通りならいつ来てもおかしくないはずだ。

どうしても気が張っちゃうな……

 

ガラッ

 

「結城友奈入りまーす」

 

「こんにちは」

 

友奈と東郷さんだ。夏休みの間に気まずさはある程度解消された。未だ答えは出せてないけれど、今のところは大丈夫なはず……。

 

「ウィーッス」

 

『ウィースです』

 

「やぁ。」

 

「すっかりそのキャラ定着しましたね」

 

「いや〜こんなに眼帯が似合うとはね」

 

夏休みの途中から始まった風先輩の挨拶は徐々に勇者部の中にも定着しているみたいだ。風先輩も言ってたけど眼帯とその挨拶合ってるよね。

 

そして──皆の体が治らないまま、秋になってしまった。

 

「わっ!赤シャグマ!鎌鼬!」

 

また勝手に出てきちゃって……まぁ、古烏みたいにつついたりしないから良いんだけど……。

 

「あーごめん、そいつ好奇心旺盛で犬神と違って言う事あまり聞かなくてさ」

 

風先輩の鎌鼬を皮切りに、皆が精霊を出現させた。

新しく増えたのは友奈の火車、東郷さんの川蛍、樹ちゃんの雲外鏡そして風先輩の鎌鼬と僕の赤シャグマだ。

 

「大赦が新たな精霊を使えるようアップデートしてくれたのは良いけど、ちょっとした百鬼夜行ね」

 

「もういっそ文化祭これで良いんじゃないですか?」

 

「良くないわ」

 

「それは良くないなぁ…」

 

友奈の言葉に僕と東郷さんがツッコミを入れた。

周りには牛鬼を始めとする全員の精霊が飛び交っている。風先輩の言う通り、まるで百鬼夜行だ。

 

「ったく…東郷みたいに精霊をちゃんと管理しなさいよね…」

 

『外道め』

 

夏凛の頭の上で木霊が跳ねている。

 

「ってきゃー!!何するのよ‼︎」

 

『諸行無常』

 

牛鬼また義輝齧ってるよ……!

 

◆◇

 

「ふぅ…ようやっと端末に戻ったわね」

 

「大変でしたね……」

 

ようやく全員が戻って部室には静寂が戻ったのだが──改めて考えると、精霊が増えた人と増えてない人がいる。夏凛には義輝のみだった……。増えた人の共通点は──

 

『敵…いつくるのかな

ドキドキ』

 

「そうだね樹ちゃん」

 

それでなんだっけ……忘れちゃったな。

 

「こればっかりはわからないから、あたしたちは劇の練習始めよっか」

 

「私の勘では来週辺りが危ないわね」

 

「実は敵の襲来は気のせい〜だったらいいんだけどね」

 

もしそうなれば、もう戦わなくて済むんだけどねぇ……。このまま平穏な日々を過ごせれば……。

 

「あの諸葛孔明だって負け戦はあるのよ?弦法も筆の誤り 神樹様と予知のミスくらい──」

 

ピロロンピロロン

 

「!!」

 

『樹海化警報』

 

「ええ!?」

 

「……噂をすればってやつかなぁ」

 

「風先輩…?」

 

「ちょっ、あたしのせい!?」

 

「風が変な事いうから神樹様がツッコんだのよ」

 

「あんただって勘外してるじゃない!」

 

「……来ちゃったわね」

 

「上等!殲滅してやるわ!」

 

この戦いが終われば……今度こそ終わりなんだ。絶対に勝つぞ!

 

◆◇

 

「敵は一体 あと数分で森を抜けます!」

 

東郷さんの報告に僕たちは息を呑んだ。

 

「一体だけなら…」

 

「今回の敵で延長戦も終わり ゲームセットにしましょう」

 

「またアレやろうか!」

 

前回の戦いと同じく風先輩の号令で円陣を組んだ。

 

「本当好きねぇこういうの」

 

「先輩が体育会系だから」

 

「まあ良いんじゃない?」

 

「さあ!敵さんきっちり昇天させてあげましょう!勇者部ファイト!!」

 

「オー!!」

 

◆◇

 

「アイツは……前に僕が砕いたはずじゃ⁉︎」

 

前方から迫り来るのは、双子座のバーテックス──確かにパイルバンカーで倒したはずだ

 

「元々2体居たってことじゃないかしら?」

 

「双子ってこと?」

 

「まあ良いか。もう一度倒せば良いだけだ!」

 

「そうね!止めるわよ!」

 

僕は濃くなった右腕のオーラをパイルバンカーに変化させた。右腕を肩まで覆う籠手と杭──だけど……

 

また、体のどこかが動かなくなったら──もしも精霊が増えた人とそうでない人の違いが満開にあるのだとしたら……。

 

僕は飛び出せなかった。否、皆もだった。

 

「そうよね……やらないと」

 

風先輩……。いや…!ここで僕が動かなくてどうする!行くぞ!

 

「うおっしゃー!!」

 

「よーし!!」

 

僕が叫ぶと同時に友奈が叫んだ

 

「優樹君……友奈ちゃん……?」

 

「ヤツを封印すれば終わりなんだ!」

 

「うん!そうですよね風先輩」

 

「う、うん」

 

「じゃあとっとと終わらせて文化祭の劇の話しましょう!優樹君!」

 

「おうよ!」

 

僕と友奈が同時に地面を踏み込んで飛び出した。

 

「友奈!優樹!」

 

「行くよ優樹君!」

 

「おう!」

 

「「せやぁ!!」」

 

僕の右腕のパイルバンカーと友奈の左腕の籠手がジェミニバーテックスに突き刺さった!!

 

「わぁお……地面が陥没してらぁ……」

 

「やったね優樹君!」

 

あの時みたいに一撃で砕くことは出来なかったけど、動きは止めれた──ッ!!

 

「風先輩!」

 

すぐさま立ち上がり神樹様の元へ走り出そうとしたバーテックスは、風先輩が投げた小刀によって地面に縫い付けられた。

 

「──二人ともありがとう」

 

「他に敵影無し──あいつを倒せば、延長戦も終わり」

 

ドンッ!

 

東郷さんの狙撃銃の一撃が双子座の首を破壊した。

 

「ナイス東郷!封印するわよ!」

 

「殲滅!」

 

「!」

 

「出た、御霊──って!」

 

「何この数⁉︎」

 

封印の儀を開始して御霊が出現したのだが、コイツの特徴は無数の御霊が出てくるようだった!

 

「まさか…これ全部を⁉︎」

 

「僕がやります!」

 

満開ゲージを貯めるのは危険かもしれない…。だが、誰かが犠牲にならなければならないのなら……僕が背負う…!

 

「これで最後だ‼︎」

 

無数の御霊を潰す武器──大槌よりさらに面を大きく!!

 

「大楯!!」

 

僕は大槌より大きな盾をイメージした。

 

「コイツで……押し潰す!!」

 

「優樹!やめなさい!部長命令よ!」

 

側で風先輩が叫んでいる。しかし…

 

「皆の負担は僕が背負います!」

 

「優樹君どいて!はあああああ!!!」

 

「勇者キ──ック!!」

 

盾で御霊を潰そうとした刹那、友奈と火車による炎を纏ったキックが無数の御霊を燃やし尽くした‼︎

 

「友奈…!」

 

「やったね……うんっ、なせばなんとかなるっ!」

 

「ッ……‼︎」

 

友奈の満開ゲージは──増えていた

 

「……」

 

「あっ……ごめんね、新しい力を試してみたくてつい先走っちゃった…!」

 

「友奈、体は大丈夫?」

 

「うん、平気だよ!元気そのものだよっ!」

 

どうやら体に変化は無いらしい。だけど……これ以上ゲージを貯めたら……またああなってしまうのではないか──いやしかし、戦いはこれで終わりなんだ……。

 

「終わったんだね」

 

「うん!帰ろう、私たちの日常に!」

 

「友奈ちゃん」

 

「友奈……」

 

樹海化が解けた。これで僕たちは──

 

◆◇

 

「はあ……これで本当に終わったのね」

 

『お疲れ様です!』

 

「いーやまだよ。友奈、今夜ウチに泊まりなさい。そこでみっちりお説教を──」

 

「あれ、友奈は?」

 

「東郷と優樹もいないじゃない…⁉︎」

 

「東郷ー?友奈、優樹ー!?」

 

◆◇

 

「どうなってるの……!?」

 

「ここは…?」

 

「学校の屋上じゃ……ないよね」

 

樹海化が解けてどこか別の場所に──って、みんなは?

 

「みんなはどこに……それよりここって」

 

「大橋……」

 

僕の疑問に東郷さんが答えてくれた。

 

「でもなんで……」

 

大橋は2年前に大破したというのを病院のニュースで聞いた事はあったけど……ここまでとは……。

 

「あれ?電波が入ってない?」

 

「えっ?」

 

友奈に続いて僕と東郷さんも端末のロックを解こうと試みた。

 

「僕もだ…」

 

「私の改造版でもダメみたい」

 

「……ずっと呼んでたよーわっしー、あっきー」

 

「──やっと会えたな──須美、優樹」

 

「「「!?」」」

 

どこからか、二つの知らない声が聞こえた

声のする方に──向こうか…!

 

「──!!」

 

目の前の光景に、僕は声を失った。

 

大きな2台のベッドとそこに横たわる同年代であろう二人の少女がいた──左の少女は右目を始めとして服の外から見える全身が包帯に巻かれていた。見える範囲で包帯が無いのは、左目くらいか……?そしてもう一人の少女は、両目と左腕と右足が包帯で巻かれていた。

 

「どうしたの優樹く──⁉︎」

 

「友奈、東郷さん……」

 

僕たちが呆然としていると、片目が覆われていない少女が言葉を紡いだ。

 

「ようやく呼び出しに成功したよ……〜わっしー、あっきー ──会いたかった〜」

 

わっしー……?それにあっきー?

 

「わっしー……?鷲?」

 

「園子、二人はそこに居るのか?」

 

「うん……二人ともいるよーそれと、そのお友達も」

 

「へえ……。」

 

両目を覆われてる少女は……友奈に気付いてないようだった。

 

「……ていうか、なんでこんなところにベッドが…⁉︎」

 

「二人が戦っているのを感じて、ずっと呼んでたんだよー」

 

僕たちのことを……?

 

「……えっと、優樹君と東郷さんの知り合い…?」

 

友奈が僕たちに尋ねてきた。でも……

 

「いや、僕は知らない……」

 

「……私も、初対面だわ」

 

僕と東郷さんが答えると、目の前の少女達は、そうだったと言わんばかりに笑った。

 

「……あ〜はは……」

 

「わっしーっていうのはね、私たちの大切なお友達の名前なんだ〜あっきーっていうのもね」

 

「ああ、あたしは須美と優樹って呼んでたんだけどな。いつもその二人のこと考えててさ、つい口に出ちゃったんだ。ごめんな」

 

「その…どうやって私たちを呼んだんですか?」

 

友奈の問いには、片目の少女が答えた。

 

「その祠」

 

少女は祠を見た。

 

「これ…ウチの学校の屋上にもある…!」

 

「バーテックスとの戦いが終わった後なら、その祠使って呼べると思ってね〜」

 

!! バーテックスを知ってる…!?

 

「ちなみにアタシもバーテックスの事は知ってるぞ〜なんせアタシ達は先代勇者ってヤツだからな〜」

 

両目を覆った少女が言った──っ!?

 

「先代勇者……⁉︎」

 

勇者は僕たちだけじゃなかったって事⁉︎ それに本当に先代だとしても……なんでこんな……!

 

「そういえば、名前聞いてなかったな。アタシの名前は三ノ輪銀」

 

「私は乃木園子っていうんだよ〜」

 

片目の少女が乃木園子で……両目の少女が三ノ輪銀……やっぱり聞いたことがない名前だ……。

 

「讃州中学の結城友奈です」

 

「友奈ちゃん」

 

「友奈…だね」

 

「東郷美森です」

 

「僕は安芸優樹っていいます」

 

「美森ちゃんに優樹君……」

 

乃木さんが…

 

「美森と優樹……ね」

 

三ノ輪さんが…

 

僕は違和感を感じた気がしたが、その違和感には気づく事はなかった。

 

「そういえば、先代勇者ってことは……あなた達もバーテックスと…?」

 

「うん…私とミノさんも勇者として戦ってたんだ〜3人のお友達と一緒に、えいえいおーってね」

 

「そうだなぁ…」

 

僕は先代勇者の事を聞いてみた。すると、乃木さんと三ノ輪さんが勇者だったと教えてくれた。

 

「じゃあ…その身体は……」

 

「ああ……今はこんなだけど、バーテックスのせいじゃないぞ?こう見えてアタシと園子、結構強かったんだからな」

 

じゃあ……一体何が……。僕はその一言を口に出す事はできなかった。

 

何故?わからないけど、出せなかった……。

 

沈黙が広がった。そして沈黙を破るように、乃木さんが僕たちに問うた。

 

「え〜と……あっ、そうだそうだ」

 

「友奈ちゃんは満開したんだよね?わーって咲いてわーって強くなるヤツ」

 

満開……

 

「私もしました…」

 

「僕も……」

 

「そっか……」

 

「そうか……園子、辛ければアタシが言おうか?」

 

三ノ輪さんの問いに、乃木さんが目を瞑って答えた。

 

「ううん、私から言うよ。 ……咲き誇った花は、そのあとどうなると思う?」

 

「はっ…?」

 

僕はその言葉の意図がわからなかった。

 

「満開の後に散花という隠された機能があるんだよ」

 

「散花……花が散るの散花……⁉︎」

 

なっ…⁉︎

 

乃木さんはそのまま言葉を続けた。

 

「満開の後──体のどこか不自由になったはずだよ」

 

「──⁉︎」

 

「‼︎」

 

「それが散花 神の力をふるった満開の代償」

 

「花がひとつ咲けばひとつ散る ふたつ咲けばふたつ散る」

 

「その代わりに──勇者は決して死ぬことはないんだよ〜」

 

「な……んだよ……それ……」

 

めまいがした。今にも倒れそうだ……。満開をすれば体が動かなくなる……⁉︎その代わり死ぬことはない……

 

「じゃあ……乃木さんも三ノ輪さんも……散花で……?」

 

「ああ。今じゃ何にも見えないな」

 

「私はぼーっとするのが得意だからまだ良かったかな…?」

 

「動けないのは辛いからな。現にアタシはこんなだから結構しんどかったよ」

 

「……痛むんですか?」

 

「痛みは無いよ、敵にやられたものじゃないから 満開をし続けてこうなっちゃったけど、敵はちゃんと撃退したよ」

 

「アタシも同じだ。園子が居たからなんとか片腕と片足は動くしな」

 

そう言って三ノ輪さんは右腕を振ってみせた。

 

そんなの……あんまりじゃないか……。満開の代償で全身が動かなくなったり……両目から光が消えたりするって──っ!?

 

「じゃあ……僕たちは……」

 

認めたく無い……否定したい……。そんな考えより先に言葉が出た。

 

「満開のせいでこうなって……」

 

「優樹君……」

 

「なんでだよ……なんで……僕たちが……」

 

僕の言葉は、乃木さんの言葉でかき消された。

 

「いつの時代だって神様にみそめられて供物となったのは無垢な少女だから」

 

「穢れなき身だからこそ、大いなる力を宿せる」

 

「その代償に神様に体の一部を供物として捧げる。それが勇者システム」

 

「私たちが……供物」

 

乃木さんの語った真実に、僕は戦慄した。

 

「じゃあ……なんで優樹君も──」

 

「優樹は特別だ。本来なら選ばれないはずの存在だった」

 

「そんな……」

 

神樹様は何故……僕を選んだのだろうか……。

そんな疑問はすぐに消え去った。

 

「大人たちは神樹様の力を宿すことができないからね〜私たちがやるしかないとはいえ、酷い話だよね」

 

「園子……まあ、そうだな。アタシも真実を知った時は、怒ったもんさ」

 

「それじゃあ…私たちはこれから体の機能を失い続けて……」

 

「東郷さん……」

 

僕と友奈が東郷さんの手を握った。

 

「でも12体のバーテックスは全て倒したんだから」

 

「そうだよ、もう戦わなくて良いんだ……!」

 

「友奈ちゃん…優樹君…」

 

「倒したのはすごいよね〜私たちの時は追い返すので精一杯だったから」

 

「そうだな、あの時は本当にヤバい時もあったから……」

 

「あの……もう戦わなくて良いんですよね…?」

 

僕は一縷の望みを問うた。

 

「……そうだといいね」

 

「失った部分はこのままなんですか…?皆は…治らないんですか…?」

 

友奈……

 

友奈の質問に返ってきたのは、希望を打ち砕かれる一言だった。

 

「治りたいよね……」

 

「私もミノさんも治りたいよ……歩いて友達を抱きしめに行きたいよ……」

 

「アタシも……大切な人達をこの目に焼き付けたいんだ……。そして、アタシの好きな人にもう一度会いたいんだ……。」

 

「ね、ねぇ…友奈ちゃん、優樹君…!」

 

「東郷さん──ッ⁉︎」

 

東郷さんの声に僕は辺りを見た。そしてそこに居たのは、同じ服装と同じ仮面を付けた集団だった。

 

「──大赦の人たち……?」

 

「──っ‼︎」

 

僕は二人を庇うように腕を伸ばした──しかしその行動は杞憂に終わった。

 

「彼らを傷つけたら許さないよ」

 

「3人に手を出してみろ?怒るぞ?」

 

乃木さんと三ノ輪さんが大赦の人達に言うと、仮面の集団は一斉に跪いた。

 

「アタシ達が呼んだ大切なお客様だからな。あれだけ言ったのに会わせてくれないから、園子に呼んでもらったよ」

 

「私たちは今や半分神様みたいなものだからね。崇められちゃってるんだ〜」

 

その言葉に嘘は無かった。仮面の集団はまるで神様を前にしたような姿だったから──

 

「安心してね。3人とも元の街に丁重に送ってもらうから」

 

「ああ、アタシ達が唯一信用してる人が運転するからな。安心してくれ」

 

安心なんて言われても……僕たちにはわからなかった……。

 

「悲しませてごめんね、大赦の人達もこのシステムを隠すのはひとつの思いやりだと思うんよ〜」

 

「……でも私はそういうの」

 

「ちゃんと言ってほしかった……」

 

「アタシもだ……。もしわかってれば……もっと友達と遊んでなぁ……」

 

「だから……伝えておきたくて……」

 

そう言った乃木さんの左目からは……涙が溢れていた。

 

「園子……」

 

「……」

 

東郷さんが車椅子を動かして、乃木さんの元へ寄った。

 

「そのリボン…似合ってるね……」

 

「このリボンは……とても大切なもの……それだけは覚えてるの」

 

「ごめんなさい……私……思い出せなくて……」

 

「仕方がないよ〜……」

 

乃木さんと東郷さんが泣いている……。僕は……僕にも思い出せない

 

「なあ、優樹……」

 

「は、はい……」

 

「アタシ、何にも見えないからさ……こっちに来てくれないか?」

 

三ノ輪さんに促され、僕は駆け寄った。

 

「来ましたよ…。」

 

「そうか……。アタシの事知らないみたいだけどさ、アタシの知ってる優樹ってヤツは、こんな風に優しいやつだったんだ」

 

「うん……。」

 

いつの間にか、僕も泣いていた。こんなのいつぶりだっけ……。そんなことも思い出せないんだ……。

 

「ごめん……きっと三ノ輪さんの事を知ってるんだと思う……だけど……思い出せないんだ」

 

「ああ……。しょうがないよな。だけどな、生きてればいつか思い出せる日が来るよ……。」

 

三ノ輪さんはそう言いながら右腕を伸ばした。

 

「握ってくれよ…」

 

「はい…。」

 

僕は、両手で三ノ輪さんの右手を握った。 僕と同い年なのに小さな手だ……。この手で……バーテックスと戦い続けてたんだな……。

 

涙は止まる事なく、溢れ続ける。

 

「……優樹……好きだ」

 

「……えっ?」

 

三ノ輪さんの小さな声は、僕の耳には届かなかった。

 

「ごめん、なんでもない」

 

「……方法は!このシステムを変える方法は無いんですか!?」

 

友奈が声を上げ、乃木さんがそれに答えた

 

「神樹様の力を使えるのは勇者のみ」

 

「そして勇者になれるのは極々一部」

 

「私たちだけなんだよ…」

 

他にはいなかった。僕たちしかいなかったのか……

 

「──返してあげて。彼らの街に」

 

「いつでも待ってるよ」

 

「大丈夫、こうして会った以上大赦もあなた達のことをあやふやにしないから」

 

「優樹……またね」

 

「……」

 

「安芸先生、ちゃんと話をしてあげてね」

 

「っ…⁉︎」

 

乃木さんの言葉を聞いた神官の人が、前に出た。

 

「……はい」

 

その声は……

 

「姉さん⁉︎」

 

「えっ…?」

 

「お姉さん…?」

 

「行きましょう」

 

安芸と呼ばれた神官が僕たちを車へと案内した。

 

◆◇

 

「……姉さん……なの?」

 

「……」

 

運転手の神官は何も言わなかった。

 

「優樹君……」

 

「……」

 

「東郷さん、私と優樹君はずっと一緒にいるから」

 

「なんとかする方法、必ず見つけるから」

 

「優樹……強くなったのね」

 

「──!」

 

「……安芸優樹君、東郷美森さん……訪れる日があれば言ってください。迎えに行きます」

 

「は、はい…」

 

「……」

 

今日は帰るしかないけど……。必ず話を聞くからね。姉さん……。

 

 

 

僕は一つの決意を固めた




先代勇者乃木園子及び三ノ輪銀について
園子は銀がいたことにより、本編ほど満開は行っていないが、手足や心臓は散花してるため、大赦奉納 銀は右腕と左足が生き残ってるが両目や心臓を散花してるため大赦奉納である。

大赦神官の花本については次回のあとがきにて掲載

【次回予告】
サイカイを果たした──少年と少女
シンジツを知った──僕と私
イカリを爆発させる──姉

安芸優樹は勇者である 結城友奈の章 其の拾参 秘められた思い

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